拳と拳が交錯する。
成島と龍星。同時の踏み込みから、打撃を繰り出す。直突き、釘打ち、鉤突き、前蹴り、横蹴り、上段、下段……
しかし当たらない。打ち出される攻撃の数々を、お互いが、軽々とかわしてみせる。
「へぇ……」
驚きを表情の奥に押し留め、成島が言う。
「なかなかやるじゃん、龍星くん」
「いえいえ、成島さんこそ」
息も切らさず、龍星が言葉を返す。
「まだ若いのに大したものじゃないですか」
(あんた、俺と歳変わらないだろ……)
そう内心で呟きながら、成島は舌を巻いていた。
目には自信がある。「起こり」のある打撃であれば、食らうことはない。それは成島の自信であり、確信だった。
だが、こいつはどうだ。
涼しい顔で自分に相対するこの男、長岡龍星は隻眼である。皮の眼帯で左目を覆っている。片目はもちろん、戦いの場で大きな不利となる。
(もちろん、ムテバのオッサンみたいな変なのもいるが……)
成島はさきほどから、龍星の左側……つまり見えない方に位置取りして戦っていた。にもかかわらず、こちらの攻撃をすべてかわしている。見えているも同然、ということか。
「成島さん、準備運動はもういいでしょう」
龍星は言う。
「本気で戦ってくださいよ……拳願会の超新星(スーパー・ノヴァ)筆頭という、その実力を俺に見せてください」
「抜かせ……」
だが言い終えるより先に、龍星が動く。
(右!? いや、左だ……!)
反応して拳を上げる。だがその姿が掻き消える。
左もフェイント……そう思った瞬間には懐に入りこまれている。
とっさに出した膝も、かわされた。この位置では相手の動きが見えない。しくじった……
逆突きが、成島の脇腹にめり込む。
「あぐっ」
全身を貫く激痛。息ができない。必死に後ろへ飛んで距離を取る。だが足に力が入らない。成島は膝をついた。
追撃は無かった。龍星は平然とした表情で、成島を見下ろしている。
「俺の一発を食らって失神しないんですね。それだけでも大したものです」
(くそったれ……)
浅い息を吐いて、なんとか成島は回復に努める。危ないところだった。実際のところ、とっさに「不壊」で受けていなければ、内臓をやられて終わっていただろう。
二虎流金剛ノ型、不壊……全身の筋肉を引き締め、硬化させる技。だがそれを貫通して、龍星の打撃は響いてきた。
強い。間違いなく。この男は。
(受けに回ったら、やられる……)
ゆっくりと体を起こす。だが攻めるにも距離が遠い。隙を見つけなければ、かわされて終わりだ。どうする……
その迷いを、龍星は見逃さなかった。
踏み込んでくる。咄嗟に構える。蹴りが、地面を穿つ。
(なにっ)
砂利を含んだ土塊が、こちらに飛んでくる。目眩ましだ……そう分かっていても、対処が遅れた。咄嗟にそれを払い除けるころには、懐に踏み込まれている。
ローキック。まともに貰った。足の感覚がなくなる。
「あぐっ」
前かがみになったところに、アッパーが飛んでくる。かろうじて避ける。だが追撃がくる。二撃、三撃、四撃……
足が動かない。機動力が絶たれた。成島は必死に繰り出される拳をガードした。それを突き抜け、嵐のような連打が成島の胴体に叩き込まれる。
(くそったれ! 「不壊」が間に合わねえっ……)
血の味。打たれる事に光が散る。夜空の星のように。意識が遠くなる……
成島の上体が沈んだ。
「これで、終わりですよっ」
龍星の声。
そして次の瞬間。
「はうっ」
苦痛の呻きを上げたのは、龍星だった。
意識を失ったかのように沈んだ成島の体は、地面すれすれで弾かれたように伸び上がり、突き上げる拳を龍星の胴体にめり込ませていた。
臥王流、地伏龍━━
低い姿勢から相手にカウンターを放つその技は、成島が、朋輩の臥王龍鬼から得たものである。
龍星の動きが止まった。そこを、成島は見逃さなかった。
(ここしかねえッッ)
拳を全力で握る。「不壊」の要領で締められたその拳は、さながら鉄のごとき硬度を得る。
二虎流金剛ノ型、鉄心━━
成島のバックボーンにある近代フルコンタクト空手、それは素手で人を殴ることに最適化された武術である。踏み込んでからの、逆突き━━そこに鉄心を乗せて、
一撃を、全力で龍星の胸元にぶちこんでいた。