拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

6 / 19
第六話 長岡龍星VS成島光我(1)

 

 拳と拳が交錯する。

 成島と龍星。同時の踏み込みから、打撃を繰り出す。直突き、釘打ち、鉤突き、前蹴り、横蹴り、上段、下段……

 しかし当たらない。打ち出される攻撃の数々を、お互いが、軽々とかわしてみせる。

「へぇ……」

 驚きを表情の奥に押し留め、成島が言う。

「なかなかやるじゃん、龍星くん」

「いえいえ、成島さんこそ」

 息も切らさず、龍星が言葉を返す。

「まだ若いのに大したものじゃないですか」

(あんた、俺と歳変わらないだろ……)

 そう内心で呟きながら、成島は舌を巻いていた。

 目には自信がある。「起こり」のある打撃であれば、食らうことはない。それは成島の自信であり、確信だった。

 だが、こいつはどうだ。

 涼しい顔で自分に相対するこの男、長岡龍星は隻眼である。皮の眼帯で左目を覆っている。片目はもちろん、戦いの場で大きな不利となる。

(もちろん、ムテバのオッサンみたいな変なのもいるが……)

 成島はさきほどから、龍星の左側……つまり見えない方に位置取りして戦っていた。にもかかわらず、こちらの攻撃をすべてかわしている。見えているも同然、ということか。

「成島さん、準備運動はもういいでしょう」

 龍星は言う。

「本気で戦ってくださいよ……拳願会の超新星(スーパー・ノヴァ)筆頭という、その実力を俺に見せてください」

「抜かせ……」

 だが言い終えるより先に、龍星が動く。

(右!? いや、左だ……!)

 反応して拳を上げる。だがその姿が掻き消える。

 左もフェイント……そう思った瞬間には懐に入りこまれている。 

 とっさに出した膝も、かわされた。この位置では相手の動きが見えない。しくじった……

 逆突きが、成島の脇腹にめり込む。

「あぐっ」

 全身を貫く激痛。息ができない。必死に後ろへ飛んで距離を取る。だが足に力が入らない。成島は膝をついた。

 追撃は無かった。龍星は平然とした表情で、成島を見下ろしている。

「俺の一発を食らって失神しないんですね。それだけでも大したものです」

(くそったれ……)

 浅い息を吐いて、なんとか成島は回復に努める。危ないところだった。実際のところ、とっさに「不壊」で受けていなければ、内臓をやられて終わっていただろう。

 二虎流金剛ノ型、不壊……全身の筋肉を引き締め、硬化させる技。だがそれを貫通して、龍星の打撃は響いてきた。

 強い。間違いなく。この男は。

(受けに回ったら、やられる……)

 ゆっくりと体を起こす。だが攻めるにも距離が遠い。隙を見つけなければ、かわされて終わりだ。どうする……

 

 その迷いを、龍星は見逃さなかった。

 

 踏み込んでくる。咄嗟に構える。蹴りが、地面を穿つ。

(なにっ)

 砂利を含んだ土塊が、こちらに飛んでくる。目眩ましだ……そう分かっていても、対処が遅れた。咄嗟にそれを払い除けるころには、懐に踏み込まれている。

 ローキック。まともに貰った。足の感覚がなくなる。

「あぐっ」

 前かがみになったところに、アッパーが飛んでくる。かろうじて避ける。だが追撃がくる。二撃、三撃、四撃……

 足が動かない。機動力が絶たれた。成島は必死に繰り出される拳をガードした。それを突き抜け、嵐のような連打が成島の胴体に叩き込まれる。

(くそったれ! 「不壊」が間に合わねえっ……)

 血の味。打たれる事に光が散る。夜空の星のように。意識が遠くなる……

 成島の上体が沈んだ。

「これで、終わりですよっ」

 龍星の声。

 そして次の瞬間。

「はうっ」

 苦痛の呻きを上げたのは、龍星だった。

 意識を失ったかのように沈んだ成島の体は、地面すれすれで弾かれたように伸び上がり、突き上げる拳を龍星の胴体にめり込ませていた。

 

 臥王流、地伏龍━━

 低い姿勢から相手にカウンターを放つその技は、成島が、朋輩の臥王龍鬼から得たものである。

 

 龍星の動きが止まった。そこを、成島は見逃さなかった。

(ここしかねえッッ)

 拳を全力で握る。「不壊」の要領で締められたその拳は、さながら鉄のごとき硬度を得る。

 二虎流金剛ノ型、鉄心━━

 成島のバックボーンにある近代フルコンタクト空手、それは素手で人を殴ることに最適化された武術である。踏み込んでからの、逆突き━━そこに鉄心を乗せて、

 一撃を、全力で龍星の胸元にぶちこんでいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。