拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

7 / 19
第七話 拳獣リカルドVS若槻武士(1)

 

 速い。

 重い。

 そして硬い。

(こいつは……!)

 若槻武士は瞠目した。今まで味わったことのない打撃。

 リカルドの動きはシンプルだった。前に出て殴る。そしてシンプルゆえに隙も少ない。

 若槻はその丸太のように太い腕で、繰り出される打撃をすべてガードしていた。だがそのガード越しに、拳の衝撃が響いてくる。大砲で打ち出された鉄の砲弾……頭をよぎったのはそれだった。人間の拳のそれとは思えない。

「さすがですね」

 リカルドは息も切らさず言う。

「ボクの打撃を受けてビクともしない。こんなことは初めてです」

(抜かせ……)

 内心で毒づいた。見れば、両腕の各所が青紫色に変色していた。たとえ俺でも、こんなものを受け続けては、体が持たない。

「あなたほどじゃありませんが、ボクも150キロあるんですよ」

 こちらの胸中を読んだかのように、リカルドが言う。

「いつまでも耐えられるとは、思わないほうがいいですよ」

 そのとおりだった。守勢に回るべきではない。攻めなくては……

 じり、と前に出る。だがリカルドは付き合わない。するすると後ろに下がる。体格からは信じられない身軽さだ。

(殴り合う気はない、というわけだな)

 単純なスピードで言えば、こちらより上だ。まず動きを止める必要がある……狙うのは、足か、腹だ。

 向こうもそれは承知のうえだ。それゆえに距離を取る。だが、場所の利は若槻のほうにあった。

 ゆっくりと間合いを詰める。リカルドの顔から余裕が消えた。横目で背後を確認している。

 さほど広くもない工場の中だ。追い続ければ、いつかは壁際に追い詰められる。ましてや、若槻のプレッシャーの前では……

 進む。

 リカルドの足が止まる。

(ここ!)

 踏み込む。そして向かい打たれた。

 強烈なカウンターが、顔面に飛んできた。目の前が真っ暗になる。血がしぶく。

「なにっ」

 それでも若槻は、前に出た。

 一発もらうことは想定内だった。一発ならなんとでもなる、という自信もあった。若槻武士の超人体質……それは全身の筋力のみならず、耐久力にこそ発揮される。それはリカルドの想定を超えていた。

「ぬんっ」

 顔面への突き。だがそれはフェイント。リカルドが上体をそらしたところに、下段蹴りを打ち込む。動きが止まる。更に踏み込む。肝臓への鈎突き。

「ぐうっ」

 リカルドはうめく。だが若槻は瞠目していた。

(硬い!)

 脚は鉄の柱のよう、胴は岩の塊のようだ。体だけでなく、骨も異常に硬いのだ。人間ではなく、サイボーグと戦っているのか。一瞬そう疑った。それでも。

(鉄だろうがなんだろうが……蹴り砕く!)

 連続で下段を打ち込んだ。衝撃、反動で足先から脳にまでしびれがくる。それでも止めない、止まらない。4発、5発、6発……

「はうっ」

 リカルドの顔色が白くなった。確実に効いている。それでも、まだ目は死んでいない。

「調子に……乗らないでくださいよっ」

 反撃が来た。弾丸のように早い打撃……避けきれない。また顔に貰った。血の花が咲く。鼻骨が折れたかもしれない……栓が壊れたかのように、鼻から大量の血が出た。口を塞いでうまく息ができない。だが、若槻は止まらない。

 上段順突きが、リカルドの顔に突き刺さる。吹き飛んだ。たたらを踏んで壁に身を寄りかからせる。さらに追撃する。かろうじてリカルドは避ける。拳が壁にめり込み、コンクリートの壁が爆ぜた。陥没する。リカルドが身をかがめる。ボディ。みぞおちに食らった。息が詰まる。

 だが、若槻は止まらない。

 リカルドが呆然とした表情になる。

(馬鹿な、ボクの打撃が通用しないのか……)

 通用しないわけじゃないぞ、畜生。こんな打撃を貰ったのは本当に久しぶりだ。

 それでも。

 150キロと言ったか……俺より40キロも軽いやつに、負けるわけには、いかないだろうがっ。

「しゃあっ」

 正拳突き……空手の基本、オーソドックスな、なんの変哲もない突き。

 それでも、若槻の超人的な膂力があれば。

 それは必殺技だった。

「はうっ」

 胸元に、完璧にヒットした。リカルドは文字通り吹っ飛ばされ……数メートルは宙を飛んだのち、壁に叩きつけられた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。