かぐや様は告らせたい 〜天才転校生はメイドの心を暴きたい〜 作:ハヤオ
1話
1. 編入初日
——春。
秀知院学園の桜並木は、淡い花びらを空に舞わせていた。
政財界や文化の名家が子弟を送り込む、日本屈指の名門校。
そこに一人の少年が、新たな一歩を踏み出そうとしている。
「今日からこのクラスに編入することになった、朝倉蓮です。よろしくお願いします」
落ち着いた声と丁寧な一礼。
背筋はまっすぐで、視線は揺るがない。
それでいて柔らかい微笑みを浮かべるその姿は、初対面の相手に好印象を与えるに十分だった。
「朝倉くんは、海外の学校から戻ってきたそうだ。学業成績は非常に優秀で——」
担任が紹介文を読み上げると、教室に微かなざわめきが走る。
「…朝倉って、あの世界ディベート選手権の?」
「数学オリンピックにも出てた人だよな…?」
耳に入るささやきを、蓮は無表情のまま受け流す。
彼にとって、注目されることは珍しいことではない。
むしろ、そうした視線の中でこそ冷静さを保てる性質だった。
案内された席は窓際、前には淡いピンク髪の少女が座っている。
彼女は振り返ると、ぱっと笑顔を咲かせた。
「よろしくね! 私、藤原千花っていうの!」
「よろしく、藤原さん」
「わぁ〜! 落ち着いてるけど優しそう! ねぇ、趣味とかは?」
「まあ、色々…そのうち話します」
蓮は柔らかく笑って答える。
それだけで藤原は「この人、いい人!」と勝手に結論づけたようだった。
2. 四宮かぐやの視線
教室の後方、窓際の席から四宮かぐやはじっと蓮を見ていた。
(……面白い)
第一印象はそれだった。
ただの優等生なら珍しくない秀知院で、蓮は妙な存在感を放っている。
物腰は柔らかいが、立ち振る舞いには隙がない。
会話の中にも、さりげなく相手を探る視線を差し込んでいる。
(あの目…本当の意味で人を観察している目だわ)
かぐやは、自分と同じ種類の人間を見たときの直感を覚えていた。
昼休み、藤原から蓮の経歴を聞き出すと、即座に計画を立てる。
「千花、生徒会室に彼を連れてきてくれないかしら?」
「え? どうして?」
「……新しい人材の発掘よ」
3. 生徒会室への招待
昼休みが終わりかけた頃、藤原が蓮の席にやってきた。
「ねぇ蓮くん、生徒会室に行かない? 会長が会ってみたいって!」
「生徒会長が?」
蓮は少しだけ眉を上げる。
「まあ…行ってみようか」
藤原に案内され、生徒会室の扉を開けると、二人の人物が待っていた。
一人は白銀御行、生徒会長。
もう一人は、副会長の四宮かぐや。
「ようこそ、朝倉くん」
白銀は立ち上がり、蓮と握手を交わす。
「会長の白銀御行だ。君の噂は聞いている」
「恐縮です。朝倉蓮です」
握手した瞬間、白銀は相手の落ち着きと視線の深さに一瞬だけ警戒心を抱く。
(……ただの転校生じゃないな)