「ふうっ」
稽古場から帰宅したアクアは湯船に浸かり1日の疲れを洗い流していた。人に見られて演じるという視点で見ればYouTubeと舞台演劇は似ているが中身は全くの別物であった。台本通りに台詞を口にするのではなく相手の目を見て呼吸を合わせ1+1の答えを∞(無限大)にしていく、そして終わった時の達成感は気持ちよく心で汗をかくという表現を身に染みて実感した
「アクア~湯加減どう?」
「ちょうどいい」
「ここに着換え置いておくから」
壁の向こう側に母のアイが彼の下着類を洗濯機の上に乗せる。風呂上がりのアクアは開放感も相まって無防備な姿でいることが多く上半身が真っ裸なことが多く、ルビーに隠し撮りされ商売の道具にされかけた。着換えを持ってきたアイに感謝の言葉を述べて湯船から上がり髪の毛を洗っているとドアの開く音がした。
「もうちょっと丁寧に洗いなさい!綺麗な髪なんだから」
「アイッ!ちょっとなんで?」
後ろに座った母は細い指で息子の頭皮を優しく揉み込むように丁寧に洗っていく、そして時折り少し大きくなった胸の先端が背中に当たり彼を興奮させてしまうが、雄の象徴はなんとか耐えることに成功した
「親子なんだから一緒に入るのは当たり前でしょ?赤ちゃんの時だってルビーとミヤコさんの4人で入っていたじゃ~ん」
「それは赤ちゃんの頃でしょ?あと数年すれば中学生に」
「裸の付き合いは必要なの親子のスキンシップは大切なことなんだから」
頭髪を洗い終えるとアイはボディーソープとスポンジを手に取ってモコモコと泡立たせて息子の体に塗りたくる。
「背中も届かないところがあるでしょ?動かないで」
「前は自分でやるから貸して!」
スポンジを奪い取ろうとするが身長はまだ母親の方が高いうえにパワーでも負けている。善戦むなしく息子は全身をくまなく泡だらけにされてしまい2人で抱き合う形でシャワーを浴びて、アイの胸に背中を預ける形で湯船に入った
「どうだった初めての演技は?」
「疲れたけど楽しかった」
「それなら黒川ちゃんに感謝しないといけないね」
「うん」
アクアの肩から手を伸ばし某芸能人のネジネジマフラーのように腕を絡ませるアイは日々成長している息子の感触を肌で味わいながら
「ねぇところであの赤髪の女の子は誰なの?」
1番聞かれたくない質問が投げかけられた。
「初仕事の時に潜り込んでいた女の子‼?」
「すまないアクアから黙っていてほしいって言われて」
事務所でルビーの持っている携帯保存されているアクアの写真を消去(使えそうなやつは別途保存)していたミヤコは壱護の告白に血圧をあげるが、すぐに怒りは静まった
「その女の子が今日偶然にも『あじさい』と合同稽古する劇団に所属していたってことね」
「運命と言えば最高だけど、修羅場だったな」
初演劇が終わり両劇団の面々が拍手でアクアのことを称えてくれた。確かに彼は素人だが人生経験は誰よりも豊富である。今はまだ経験で補うことが出来ているが、やはり基礎を習得したいアクアであった
「なんでアクア君に抱き着いたの!?」
「アドリブなんだし問題無いでしょ!抱き合うのも2回目で、しかも息ピッタリで合わせることが出来たし案外アクアと私の相性が最高なのかもね」
別の場所では一触即発の龍と虎の睨み合いが始まっていた。黒川あかねの視点で見ると長年築きあげてきたモノを横から奪いさろうとする泥棒猫にしか見えない、満足そうにアクアの残り香を満喫する有馬はニヤニヤと上から勝ち誇った顔を披露する。そして行動力の化身たちは
「先生、次は私にやらせてください!」
「いえ、ウチがやります」
「どきたまえ!僕が彼のフィアンセにふさわしい」
彼女がやったようにアドリブと称して彼に抱きついてしまおう。偶然を装って色んな所を触ってしまおう。これは演技なのだから問題無いはずだ!
「だめよ!あなた達の魂胆はお見通しなんだから、アクア君下がっていいわよ」
稽古は再開されたが彼女たちのテンションは明らかに落ちてしまい、形容するなら顔が濡れたアンパンマン並みに弱々しいモノになってしまうのは言うまでもなかった。この場にいる勝者を1人除いては
「今日はお終い、お迎えが来るまで自由よ」
先生の号令によって約2時間の稽古が終わり自由時間となった。劇団を託児施設のように預ける親も一定数存在するので、広い部屋があって遊べる友達がいる空間は子供にとっても心地良いものである。しかし今日は違った
「星野君本当に初心者なの?凄かったよ」
「ねぇ一緒に写真撮って」
「戸崎のここ空いてますよ!」
既に斉藤夫婦がスタンバイしているので帰ろうとするアクアを彼女たちは逃さなかった。『あじさい』の面々は次も会えるから余裕の表情だが、合同稽古でやってきた他劇団は次いつ会えるのか分からない。連絡先を渡そうとしたり2ショットを希望するが
「アクア君行こうか」
「あぁそうだな!」
あかねに促され立ち上がると、彼女はいつもの手繋ぎではなく互いの指を絡め合わせる恋人繋ぎを全員に見せつけるようにしてきた”あなた達にアクア君を見せるのはここまで”と言わんばかり冷笑を浮かべいる。『あじさい』に所属する女の子たちも苦笑いを浮かべてしまう、黒川を排斥すれば追随してアクアも劇団から去ってしまう可能性がある。彼女に手を出してしまえば輝くコインは遠くへ投げ込まれてしまい二度と手にすることは出来ない。星野アクアを守っている黒川あかねは星野アクアに守られている。
「待ちなさい!」
しかしこの展開を良しとしない赤髪の有馬かなが出入口で立ちはだかる。ここを通りたければ私を倒していきなさいという表情で2人を見つめていた
「何の用?私たちは帰るんだけど」
「もう少し居てもいいんじゃない?それに何で一緒なの?家は違うでしょ」
有馬の質問にアクアが前に出て答えようとするが、それよりも早く
「家族ぐるみの付き合いをしてるの、だから私がアクア君の家に帰っても問題無いよ」
「その言い方だと」
「ねぇアクア君、帰ってから2人だけでエチュードをやりましょう。別に『チュー』でもいいよ、お互いの頬や唇に生クリームをつけて舐めあうの」
腕を引き寄せて体を密着させて目の前にいる門番に見せつけるように、勝ち誇った顔を披露する。所詮泥棒猫は雑種の野良猫にすぎない、抱きついてマーキングをしおうが私の匂いで上書きをするだけである
「くっついてないで離れなさいよ!」
「ちょっと危ないでしょっ」
2人の仲を裂こうと有馬が腕に手を掛けて”フンッ‼”と鼻息荒く力を入れようとするが黒川もアクアを離さないようにしがみつくがバランスが悪くなってしまい軍配が有馬の方に上がってしまうが3人は勢い余って倒れてしまった。アクアは単独で尻餅をついたが大きな怪我はなく問題無かったが
「あらあら」
「熱烈だね」
2人は抱き合う形で合わさっていた。キス・チュー・接吻・口づけ・ヴェーゼなど様々な表現が存在するが互いの唇が重なっていた。下になっていた有馬が突き飛ばして脱出し自身の唇を腕でゴシゴシと拭い、黒川は泣きながらアクアに抱き着いていた
「初めてのキスはアクア君に捧げるつもりだったのに」
「あんた私のファーストキスを奪ってんじゃないわよ!」
アクアは取り敢えず近くにあったミネラルウォーターのボトルを持って彼女の口元に近づけて、うがいをさせた
「立てるか?」
「うん」
彼はまだテンションが回復しない彼女の手を取って出入口に向かうと、壱護を呼んで帰る旨を伝えた。なお有馬は所属する劇団の先生にこっぴどく叱られ最初に見た時よりも小さくなっている
「ファーストキスはアクア君にあげるはずだったのに」
「最初ってそんなに大切なことなの?」
「えっ?だって」
「俺は最初よりも思い出を大切にする。記憶に残らなければ意味がない」
「でも1番最初は残るでしょ?」
後部座席でアクアに詰め寄ろうとするがシートベルトが許してくれない
「じゃあ今回みたいに悪い結果をいつまでも引きずるのは正しいこと?」
「それは…」
「なら楽しい思い出で上書きをしていけば良いと思う。悪夢なんて目が覚めてしまえば忘れてしまう常に最高の出来事に思いをはせて歩いていけば幸せは向こうからやってくる」
アクアはまだ落ち込んでいる黒川の目を見る
「”明日はもっと楽しくなるよね”アイの好きな言葉だし俺も好んでいる」
どこからか「ハム太郎さぁ~~ん」という声が聞こえてきそうだが、その言葉を聞いた黒川は目元に溜まっていた涙を拭いて
「ありがとうアクア君励ましてくれて、初めてのキスはあげれなかったけど高校生になったら別の初めてを…」
「運転手さん、このまま警察署行きましょう」
「了解!全速力で行きますので掴まっててください」
冗談に笑う車内の面々は朗らかな気持ちとなり事務所に着くと黒川と壱護を降ろしアイが乗り込もうとするが
「アクア君!」
「ん?」
彼の頬にあかねが軽く唇を触れさせる
「これは前払いだから」
そう言って彼女は母親に連れられ去って行った。アクアはキスされた頬を手で摩りながら隣で鬼のような形相になっているアイをどうやって静めようか思案するのであった。
「へぇ~有馬ちゃんって言うんだあの赤髪、そしてアクアの裸を見て抱き着いたんだ」
「色々混ざっているから」
湯船で息子を後ろから抱きしめるアイは嫉妬心に駆られ今からでも彼女を襲いに行こうと考えていたが、すぐに止めてしまった
「アクア今日は一緒に寝るよ!」
「え~」
「大丈夫ルビーも一緒だから、熱い夜にしましょう」
そう言って息子を抱き上げながら外に出て行く母親であった
「あっ連絡先を聞くの忘れてた!」
どこかの家で赤髪の少女の叫びが木霊する
とりあえずアクアの初演劇編は終わって次は動画投稿をやって、原作キャラの誰かを出そうかと思います。明日はトウシンマカオを買うつもりです
感想を書いていただき誠にありがとうございます。執筆意欲に繋がります。誤字脱字の指摘ありがとうございます。