「ここは?」
目を覚ました彼女は周囲を見渡すと自分が個室にいることを理解する。腰まで伸びた長い銀髪はミステリアスを象徴するように輝いている
「確か黒川あかねが魔術書らしきモノを持っていたのを見つけて、処分しようと…」
星野アクアが旅立ってから黒川あかねはオカルトに傾倒してしまい、怪しげなモノを集めるようになってしまった。大半はガラクタや偽物であったが極僅かに神秘を帯びている品もあったが取るに足らない存在だった。そんな彼女が魔術書を群馬県で開かれたフリーマーケットで購入したことを耳にしていたので、ツクヨミは現実から目を背く黒川に注意しようと彼女の部屋に向かった。
「あの魔術書は偽物だったが、本棚のやつは」
彼女は本物を所持していた。しかし当人は偽物だと思っていた。ツクヨミは魔術書を処分しようと寝静まった頃に布団から抜け出して本棚から取り出した瞬間に眩い光に包まれた。
「あら目覚めたんだ!」
「お前は?」
そこには自分がいた!正しくは昔の自分だった。少女特有のあどけない表情に白磁を思わせるような白い肌と紅い目が蠱惑的に見えてしまう
「ここまで運ぶの大変だったの」
「ここはどこだ?」
目の前にいる自分自身に問い掛けると返ってきたのは
「あなたの知ってる日本よ!」
「そんなことを聞いてるつもりじゃ…」
「あら?アナタならそう言うでしょ?星野兄妹に語ったように、真実を知っているようなそぶりで実は何も知らない」
やられて初めて気づいた。自分がどれだけストレスの与えるようなことをしてきたのか、それを自分自身に教えられてしまうとは、彼の口が悪くなるのも当然の帰結だと思った
「お前が小さいってことは過去か」
「正解!でもちょっと違う」
「何が違うんだ」
「これを見て」
差し出されたスマホを見るとYouTubeが起動していて画面の中ではB小町の星野アイが歌い踊っている。過去のライブ映像だと思うが違和感に気付く
「なんで星野アイが”東京ドーム”でライブをやっている?彼女は」
「アナタのいた世界ではライブ当日に死んだ、それは双子たちの心に闇を作らせてしまった」
「アナタ?世界ってことは、ここは‼」
「星野アイが生きている世界、いわばパラレルワールドみたいなもの」
自身の口から真実を伝えられた彼女は両手で髪の毛を強く掻きながら、脳内で情報の整理に務めていた
「あの魔術書にそんな力が」
「あるわけないでしょ」
「えっ?」
少女は魔術書を手に取ってページを捲るが全て白紙である
「何故文字が無い?」
「本ではなく文字に神秘が宿っていたの、でも無秩序だから意味を成さない」
「じゃあどうやって?」
「黒川あかねの部屋に何があった?」
彼女は腕を組んで顎に手を当てて黒川の部屋を思い出していた。民族人形や占星術に作者不明の絵画などオカルトに関わり集め出した珍品ばかりだった。それ以外に目立ったモノはなかったはず。眉間に皺が寄ると
「私なのに頭が悪いね」
「なめんな、今答えをだしているし」
額に怒りのマークを製造しているが何も浮かばない、目の前にいる自分はニヤニヤと笑いながら、おちょくるような仕草をしている
「ギブアップよ!」
「負けを認めるのね?」
「負けてないし、そもそも勝負じゃないし!」
語気を強め睨みつける
「あの部屋はパズルだった」
「パズル?」
「部屋に置かれたオカルトは神秘が薄くて1つだと意味を持たない、置かれた場所や向きはそれぞれの持つ力に意味を持たせた」
「それだと常に発動しないか?」
彼女の問い掛けに少女は人差し指を口に付けて”静かにしろ”とアピールする
「温度、湿度、星の位置や龍脈などの要素が加わり、これを持ったアナタが中心点にいた。多分アナタ自身も発動に必要なピースだったと思う」
「ってことは?」
「帰還は不可能」
クスクスと笑いながら彼女を見つめる自分に腹が立つ
「だからアナタはここで自由に生きて」
「ふざけたことを、この世界に私は存在していない!どうやって」
自分がいた世界ではないということは戸籍は存在しない、それどころか今からどうやって暮らせば?雨風を凌げる場所は?財布や銀行口座だって無い、生きる為には食べなければならない自給自足の生活をしなければならないのか?どっかの芸人のように銛を片手に海に入るのか?フィクションだったらスルーされることだが現実は甘く…
「必要な手続きは済ませてあるし、当座の資金も用意した」
「ふぇっ?」
「そんなマヌケな表情も出来るんだ」
カメラを起動しシャッターを押す
「アナタと違って有能なの、裸一貫で捨てるような真似はしない」
少女は1冊の手帳を渡す。それは生徒手帳であった
「黒川あかねと同じ高校の1年だから来週の月曜日から転校生として登校出来る。ここに住み続けてちょうだい」
「お前はどうするんだ?」
怪訝な表情で問いかけると
「私はこれの最期を見届ける義務がある」
「これはカミキヒカル?」
スマホのディスプレイに映し出されたのは、巨大な虫に生きたまま食べられるカミキヒカルが叫びながら命乞いをしていた。
「
「カミキヒカルが死んでいる。いったい」
「自分で調べればいいわ、私はこれ以上この世界に対して干渉する気はないから」
次第に目の前の自分が薄くなって消えそうになっていく、そして最後に
「転移によって、アナタの力はもう何も無いから普通の人間として生きてね”
「ちょっと待っ!」
ツクヨミの言葉に何も言わずに少女は完全に消え去ってしまい、部屋に取り残されてしまった。なお冒頭から彼女は全裸であり肌寒さを感じ、タンスやクローゼットを開けると向こうで着ていた服が用意されていたが
「下着が無い!」
パンツやブラジャーが1組も無かった。黒のミニスカワンピを着用した天音ツクヨミがこの世界に来て初めて行ったことはノーパン・ノーブラで衣料品店に向かい自分に合う下着を購入することであった。なお外は強風で店まで4つの歩道橋とガラス張りの屋外廊下を渡らなければならず、悶え苦戦する様子は読者の想像にお任せする
「アクたん、お待たせ!」
美容院から出てきたYoutuberのMEMちょは待ち合わせ場所で座っているアクアに声を掛けると、彼は読んでいた文庫本を閉じて立ち上がって向かってくる
「次はショッピングだっけ?」
「うんっ!その後は予約しているスタジオで動画も撮影するから、それよりも言うことがあるでしょ?」
自身の髪の毛に触れてアピールをする
「セミロングの時は子供っぽく見えたけど、ショートは年相応に魅力的に見えるよ」
その言葉に彼女の心臓の鼓動は、一気に早くなり精神を乱し始める。トキメキではなく焦りによるものだ
「(年相応って、まさかサバを読んでいるのバレているんじゃ?いや普通に褒めているだけだよね?)」
アクアは単純に褒めているだけで何も考えていない、MEMちょが勝手に焦ってドギマギしているだけである。何故この2人がデートのように待ち合わせているのか?端的に言えば彼女のチャンネルに投稿する動画の撮影である
「にしてもデート風じゃなくても、よかったんじゃ?」
「ダメだよアクたん、青年に成長したアクたんの姿を見たいファンは大勢いるんだよ」
「そんなもんか」
なお今回の撮影をルビーに伝えたら
「フリルちゃんがMEMちょのファンだからサインを貰ってきて」
と頼まれたが断り”本人の口から直接頼め”と返している
2人で大型ショッピングモールに到着すると各店舗を周り、MEMちょは収録で扱う小道具や日曜日、アクアも殺風景な部屋に飾る雑貨やララライの面々に配るお菓子(煎餅など)を購入し、彼女が服飾店の試着室から出て来てポーズをとる
「どう似合ってる?」
「あぁとっても」
イメージカラーの黄色を意識した、オフショルニットカーディガンに合わせたスカート姿のMEMちょを褒めて彼女の顔を赤くさせた
「でも明るい黄色より黒系が混ざった深い色の方が、メリハリも出て来るわ」
突如2人間に割って入るように口を挟んできた黒髪ロングヘアの女性は、MEMちょを舐めまわすような視線を向けている。カメラを持っていたアクアは彼女を止めようと声を掛けようとするが
「不知火フリルです。MEMちょさんファンです!」
”野生の不知火フリルがあらわれた!”
彼女はMEMちょの手を取って瞳をまじまじと見つめている。瞬きなどせずに網膜に焼き付けるように推しの艶姿を脳内に保存しパスワードも『MEMちょ大好き』と設定した
「MEMちょさんが、お兄さんと収録を行うことをルビーさんから聞いてサインを頼んだのですが”自分の口で頼め”と言ったので探して来ちゃいました」
「でもどうやって?」
目の前でハァハァしているファンに押し倒されそうになりながら尋ねると
「SNSで2人のことが撮られていたので、背景と投稿時間を見てここに来ると推理しました!」
凄まじい行動力と金田一耕助の孫並みの推理力である。アクアにも頭を下げ収録を邪魔したことを謝り、ララライの動画の感想を述べ褒めていた
「MEMちょのことが好きなら、2人でアレを撮ってきたら?」
服の会計を済ませると、アクアの人差し指はプリクラの筐体に向けられていた。彼女はスタジオ撮影に参加しようとしていたがフリルはこの後に別の仕事がある。推しと別れることを涙を流して悲しんでいたが、彼の提案に顔を輝かせて即行で化粧を直してきた
「もっと顔を近づけてもいいですか?」
「これ以上だとキスみたいになるでしょ」
「私は構いません」
断言するフリルの表情は真剣であり!撮られたシールを取り出し、うっとりとした顔を見せる彼女は若手人気女優ではなく推しに憧れるファンそのものだった。今度はアクアを入れての撮影となりフレームを選んだ後にスタンプやペンで落書きを加え、楽しい時間を満喫していた。
「突然の乱入を受け入れていただき本当にありがとうございました」
「これはこれで動画映え出来るので」
「投稿されたスグに高評価を押しますので」
「不甲斐ない妹だけど仲良く頼むよ」
「仲の良いクラスメイトですから」
全部が終わりフリルと別れようした矢先…
突如、大声で名前を呼ばれ振り返ると
”バゴッッッン”
紫髪の男に顔面を殴られアクアは吹き飛ばされた。突然のことで受け身をとることが出来ず、床の上を滑るように転がってしまい、持っていた紙袋が宙を舞う
「お前のせいで俺は!…オレは」
「ガフッ」
倒れている彼に近づき胸に向かってサッカー選手がシュートを打つように何度も蹴り上げる。その光景にMEMちょは腰を抜かしてしまい床にへたり込んでしまう。さっきまで3人で笑っていたのに彼が襲われている。でも怖くて動くことが出来ない
「くたばれ!」
加害者の男が渾身の一撃を加えようとした瞬間
「ちょっと」
「ああぁん、なん!…ガハッ………………………」
フリルが後ろから高級そうな壺で、彼の頭部に叩き込み粉々にさせながら地面に倒し運動靴で顔面を踏みぬいた
「MEMちょさん110番と119番!」
「えっと、あっとっちょっと」
彼女の声で正気を戻したMEMちょは言われた通りに通報し、フリルは近くにいる人に冷やすモノを頼んだのかアクアの近くに駆け寄り殴られたところに当てていた。加害者は男性店員や警備員に取り押さえられ地面に向かって熱烈なキスシーンを見せつけている
「ありがとう助けてくれて」
「大事なクラスメイトのお兄さんですから」
「仕事あるんだろ?あとはこっちで何とかするから」
「でも…」
「不知火フリルを待っている人がいる。期待に応えるのが女優だろ?」
アクアの言葉を聞いた彼女はMEMちょを手招きして呼んで、近づいてもらうと名刺を出して裏側に自身の電話番号を記入した
「もし動画がお蔵入りなったら電話して、ギャラなんていならいロハで何本でも出るわ」
「えっとその」
「お兄さんのことを頼みました」
そう言って不知火フリルは現場から去っていった。駆け付けた警察官は紫髪の男を捕えパトカーに乗せて連行し、2人は救急車に乗り込んで病院へ向かった
天音ツクヨミの立ち位置は考えてあります。CV竹達さんの演じたキャラのファンアートような感じで動かすつもりです(ツクヨミ作中内へ転移しろ)
彼女を作品内に登場させるのが難産でしたがインデックス4巻のネタを使いました。
小さい方のツクヨミは彼女の上位存在であり複数の世界を俯瞰して見ていますが今後作中内でキャラクターたちに干渉することはありません。今回で出番終了です(多分)
筆者の1作目でツクヨミを「無敵要塞ザイガス」にして動かすつもりでしたが、力量不足で消化不良となってしまったので今作ではリベンジを兼ねてます。
また新作を1本考えてますが投稿は先になりそうですが、1つ未確定なネタバレですが吉祥寺先生がヒロインの可能性になると思います
感想を書いていただき誠にありがとうございます。これからも頑張っていきます。