役者にはイメージが付き纏う。戦隊モノで悪役を演じた俳優は常に悪い印象がクローズアップされてしまい後の仕事でも同じ役柄のオファーしか来なくなった。また声優にも同じ傾向があり初代猫型ロボットを演じた女性は
「◯◯のようにお願いします」
と言われることに辟易してしまったのと、自分の演じる猫型ロボットのイメージを守る為に他の仕事を全て断った
ミヤコが病院にやって来ると周囲を見渡しアクアを探していた。彼女が事務所で有馬の今後やアイドル事業について思案しているとスマホに着信が入った
「苺プロの副社長さんですか?私…」
アクアの番号なのに聞こえてくるのは、女性の声だがミヤコは相手が分かった
「MEMちょさん?どうしてアクアの携帯を?」
「アクたんが、殴られて今、救急車の…」
MEMちょから運ばれる病院の場所を聞いたミヤコはルビーと有馬に留守番を頼み、アイの現場に同行している夫のLINEに連絡を入れて事務所を飛び出した
「アクア‼」
椅子に座る彼は顔に赤い痕が残っているが目立つような怪我もなく意識もハッキリし、隣で氷嚢を当てるMEMちょは長時間触っていたのか手のひらが白くなっている。彼女はミヤコに気付いて頭を下げると詳細を語った
「この紫髪の男がアクアを殴ったのね?」
「こいつ多分『今日あま』のドラマに出てた奴だと思う」
スマホに録画された映像は手振れで揺れていたが紫髪の男が彼のことを蹴っている様子が映し出されて、不知火フリルが壺を頭部に叩きつける瞬間も記録されていた
「SNSも結構荒れてるね、ほら見て」
・ララライの星野アクアが男に殴られた
・不知火フリルとMEMちょがいたよね
・馬鹿だろコイツ‼
・この犯人って『今日あま』に出てた鳴嶋メルトじゃないか?
・こいつのSNSの裏垢と学校特定したぞ
・貼れ!罪人に人権なんて必要ない
SNSは現場の写真が貼られ自称目撃者による事件詳細が記されている。的外れなコメントもチラホラ存在しているが鳴嶋メルトが星野アクアを殴り飛ばしたことで全部一致している
「でも何でアクアを?初対面でしょ?」
「それは鳴嶋メルトにしか分からない、ただあの顔は怨恨に近い」
彼の言葉を聞いたミヤコとMEMちょはもう1度スマホの映像を見て、犯人の顔が鬼のように赤く怒り狂っているように感じた
「顔の怪我は治ります痕も残らないでしょう。帰宅しても構いません」
医師のいる部屋に案内された3人は診断結果を聞いてホッとした。役者は顔が命であり傷や怪我で痕が残るのは致命的である
「しかし胸を蹴られたことで肋骨にヒビが入っている可能性があります。頭部へのダメージはありませんでしたが最低でも今日明日は誰かと一緒に居てください」
「分かりました。ありがとうございます先生」
部屋を出た3人は再び椅子に腰掛けて今後のことを話していると
「すいません星野アクアさんでしょうか?」
警察手帳をかざした2人組が現れ自己紹介をした。彼らは警察官でありアクアの被害事件について参考人として事情聴取を行いたいとのことで、パトカー先導でミヤコが運転する車に乗った2人は警察署へ向かった
紫髪の男こと鳴嶋メルトの人生はそれなりに充実していた。美男美女が揃う芸能界でもイケメンと呼べる容姿は世の女性たちを魅了し本人も自覚していた。しかし所属する事務所との相違があり自分のやりたいことが出来ない屈折な思いが募り、主役を演じた『今日あま』では熱の無い適当な演技を披露し、作品も星1の低評価祭りだった。これだけなら”実写化失敗ドラマの主役”の烙印を押されるだけだったが
「アイツのせいで…オレは!」
ドラマの最終回が放送された後に、劇団ララライの公式チャンネルでララライ版の『今日あま』が公開され高評価の嵐と称賛するコメントに溢れていた。また原作者である吉祥寺の投稿した感想文は、ドラマ版を演じた自分たちを否定するように見えてしまった。
掲示板やSNSには自分たちの演技を酷評する視聴者に溢れ、祭りのように騒いでいる。どこにも自身を擁護するコメントはなくYouTubeでは比較動画が投稿され、同役を演じた星野アクアの一挙手一投足はプロフェッショナルと呼べるものだった。そして同時に自身の矮小差を実感してしまう
「えっ!白紙になった?」
マネージャーの言葉に彼は目を白黒させる
「元々バラシになる可能性が高かったし仕方がないね、それよりも目の下の隈はどうしたの?」
「ちょっと寝不足で」
「そう?今日はもう帰っていいよ」
確かに寝不足だが原因は、SNSに投稿されている自分へのコメントに目を通してしまったことである。罵詈雑言の嵐で酷いのは
・鳴嶋メルトって作られたイケメンだよね。昔の写真と見比べているけど顔を弄ってない?
・私もそう思った!人口的じゃない特に目元が
・姫川大輝は男前で星野アクアはイケメンだよね。誰かさんと違って(笑)
トイレに駆け込んで吐き出していた。せり上がってくる胃液が口内を刺激し更に吐しゃ物を便器の中にぶちまける
「またバラシですか?」
「バラシというより先方が断ってきたって感じね」
「何て言ってきたんですか?」
「聞かない方がいいよ」
マネージャーは渋い顔をして”聞くな”とアピールしているが、彼は頭を下げて頼み込むと、深いため息を吐いて
「お前を使うぐらいなら自宅から犬を連れて来た方がマシだ!」
頭を金槌で叩かれたような感覚だった。自分が犬以下の存在にまで成り下がってしまったことに
「『今日あま』の失敗がここまで尾を引くなんて、鏑木さんも詰め腹を切らされてしまったし」
「鏑木プロデューサーが?」
「ララライが動画を出さなければ大きな問題にならなかったのに、原作者の吉祥寺先生も向こう側を肯定したのも痛かったね」
その後もスケジュール帳に書かれた仕事の予定は消えていった。暇になり街に繰り出すと周囲の人たちが自分のことを指さして笑っているのでは?と思うようになり、学校でもクラスメイト態度がよそよそしくなり距離が離れていくように感じた
でもこれは自分が不甲斐ないモノを見せたのが原因だが、誰かに責任を擦り付けたい気持ちもあった。ルーチンワークになってしまったエゴサーチの為にSNSを開くと、近くのショッピングモールで星野アクアがYouTuberのMEMちょと買い物をしている投稿が目に入り、そして何も考えずに向かってしまう
「あれは不知火フリル?」
プリクラの筐体から3人が出てきた。アイツの隣にはMEMちょの他に女優の不知火フリルがいて楽しそうに笑っているのが見えてしまい”プッツン”してしまった。
気付いた時には取り押さえられ床と唇が接していた。そのままパトカーに乗せられ警察署に連行された
取調室から出て来たアクアは廊下の椅子に座る2人声を掛けた
「アクたん、ごめんなさい」
「なぜMEMちょが謝る?」
「だって私が今日動画を撮るなんて言わなけれ…」
全ての言葉を言い終える前にアクアは彼女の口を閉じさせ
「今回のことでMEMちょが責任を負うことは1つも無い、いわばハプニングだ!」
「でも」
「1番悪いのは加害者の鳴嶋メルトで俺達は被害者にすぎない、借りていたスタジオの代金も向こうの事務所に請求すればいい」
口が閉じるのを確認したミヤコが
「MEMちょさん、今日の動画が使えなくなったら苺プロに連絡してください」
「はい、ありがとうございます」
MEMちょは署員が呼んだタクシーで帰宅しアクアたちも帰ろうとした矢先、彼のスマホが鳴動する。ディスプレイには黒川あかねと記されていた
「もしもし、あかねか?」
『ああああああっアクア君大丈夫なの?殴られたってSNSにぃ』
気が動転しているのか、慌ただしい口調で彼女が問い合わせてきたので優しい口調を心掛けるように、ゆっくりと
「大丈夫だ、こうやって電話に出ているのが何よりの証拠だ」
『良かった~本当に』
「あかね、1つ頼み事がある」
『何?なんでも言って』
「金田一さんには俺から伝えるが、ララライの皆に今回のことを、あかねの口から伝えてほしい」
『えっいいけど、でも何で?』
彼女が疑問で返してきたのでアクアは
「俺はあかねを信用している。真実を曲げることなくありのままを伝えてくれるって」
『アクア君…』
「もし姫川さんに頼んだら、言い忘れるか余計なことを口にして皆を不安にさせる可能性が高いだろ?」
『確かにそうだね。分かった任せて』
彼は彼女のことを信用・信頼・尊敬している。前世の雨宮吾郎時代によるものだが、目標に向かって切磋琢磨する女性に対して好印象を持ちミヤコや吉祥寺に対しても敬意を持っている。逆にアイのように子供がそのまま成長した人を毛嫌いする傾向がある
「少し早いけど、おやすみ」
『また学校でね』
電話切るとミヤコがニヤニヤを笑って近づいてきた
「黒川さんには優しいのね」
「礼儀正しい人には相応の態度になるだけ、ミヤコさんマンションまで」
「ダメッ!先生も言ったでしょ誰かと一緒に居なさいって」
「ってことは?」
「アイとルビーは泣き叫ぶかもね。それに向こうの事務所から誰かくるかもしれないわ、近くにいた方が楽でしょ?」
アクアは降参するように両手を上げて車に乗り込んで母と妹がいる自宅に戻った。帰りの道中にアビ子へLINEし、自分でご飯を用意してくださいと返信するのであった
「星野アクアがララライで芸能活動をしている?」
ツクヨミ(ノーパン)は昨日コンビニですれ違った彼のことを調べていた
「母親の生存で人生がここまで変化するのか?それにカミキとリョースケも星野アイが亡くなった日に、この世から去るとは皮肉だな」
おにぎりのエビマヨを頬張りながら自身が存在した世界との乖離について推察する
「『今日あま』に出演せずにララライ版か、そもそも何故あいつが劇団に所属している?苺プロで家族とやっていけば問題なんて…まぁいずれ接触してみるか」
ノーパン女は知らないその接触が2日後に訪れることを。ノーパン女は知らない当日に大事なことを忘れるなんて
翌日、鳴嶋メルトの両親及び事務所の代表者が苺プロへ謝罪に訪れた。対応は斉藤夫婦が行いアクアは自宅待機となっている。やはりと言うべきか母と妹は過剰なまでに心配し、お風呂にも突撃しようとしてきた。アイとしては今回の事件でアクアが役者の道を止めてしまうのではないのか?と危惧し2人で話し合おうとするがルビーが乱入してしまい水に流れてしまった。
「ねぇ、この役者の演技はどう見える?」
「視線が泳いでいるのは、カメラの外にあるカンペを見たのを誤魔化そうとしている。それに小刻みに動いているのは自信が無くて緊張している証拠だ」
「心情まで探れるの?」
アイが雑誌のインタビューで家を空けてしまい、ルビーと2人だけになる予定だったが有馬がやってきて彼女が持ってきた映像作品を見ながら時間を潰している。作品に対する感想よりも監督や脚本家に対する批評や出演者へのダメ出しがメインとなっている
「大丈夫なの?」
「殴られたことか?」
「だってYouTubeに吹っ飛ばされた映像が」
事件現場にいた一般人がスマホで撮影した映像が複数アップロードされていた。どれも一晩で10万再生を超えコメント欄も加害者のメルトに対して厳しい文言が書かれている
「みんなが騒ぎすぎるんだ!なぁ有馬は共演してたけどアイツって頭に血がのぼるタイプか?」
アクアの問い掛けに彼女は首を横に振る
「だって収録も『やってる感』が強くて、鏑木さんが顔だけで決めたんだって思って」
「ララライでも酷評の嵐だったからな」
「ねぇ何でアクアはいつ劇団に入ったの?」
隣に座る有馬は身を乗り出して、彼のメディア露出が少なくなった期間について興味深々だった
「中学に入る直前、小6まで仕事三昧だったから世間に印象を忘れさせる為に絞った」
「じゃあ五反田監督の映画に出たのは?」
「中3のやつか?監督にはデビュー作で恩があったし、拘束時間が短い役だったから勉強に影響しないと思って受けた」
「あと何で陽東じゃぁ…」
立て続けに質問してくる彼女にアクアは辟易していると、ルビーがコンビニから帰ってきた。じゃんけんで負けた人が昼ご飯を買ってくる勝負で負けたのだ!3人で食卓を囲んでいると
「お兄ちゃん、劇団に10代で事務所に入って居ない女の子っている?」
「片手で数えるぐらいにはいるが」
ルビーはテーブルに両手をついて頭を下げ
「お願いします!紹介してください」
「はぁ?いったい何で?」
「実は…」
妹の口から語られたのは事務所のアイドルプロジェクトについてである。現状はルビーだけしか居ないのでデビューが出来ない、クラスメイトのグラビアアイドルをスカウトしようとしたが、有馬とミヤコのツープラトンである『クロスボンバー』によって阻止された
「劇団員なら歌とダンスは出来るだろうし、フリーなら問題無いし」
「ルビー、お前はそれでいいのか?」
「えっ?」
箸を置いてペットボトルのお茶を飲むアクアは妹を見つめ
「アイドルはお前の夢だろ?夢を妥協して何が面白い?」
「それは、そうだけど」
「本気で取り組まないと、あっという間にファンがソッポを向く」
「ごめんなさい」
早まる妹を諭し彼は隣に座る有馬を見つめる
「何よ?私の顔を見て」
「有馬って歌っていたよな?」
彼女は頷き更に
「生放送も出てたよな?」
「いったい何よ?アンタと生でやったことあるでしょ」
額に怒りマークを作り彼が昔のことを忘れていたことに対して強く拳を握るが
「有馬、アイドルやらないか?」
「は…い?私がアイドル?いや…えぇ」
突然のことで困惑する元天才子役は状況が飲み込めない、何で自分がアイドルにスカウトされるの?しかもアクアから
「私がやりたいのは女優なのよ、アイドルなんて」
「今の地位は?今後の見込みは?あと10年で返済出来る?」
波状攻撃のようにアクアの口から放たれる現実に彼女は椅子から落ちて、床に突っ伏してしまう。小さな涙声で”ぢゃんどがえじまず~”と聞こえてくる
「お兄ちゃん言い過ぎだよ」
「やり過ぎた」
彼は椅子から降りて有馬と同じ目線になるように屈むと
「鮫島先生も言ってただろ『今まで違うことに挑戦すれば役者として復活するかも』って、アイドルで今までのイメージを払拭させて、女優として再スタートを切る為の準備だと思えばいい」
「でも、私なんて」
卑屈になる彼女にルビーが近づき
「先輩が昔歌ってた『転機予報』や『ヒミツの恋』は好きな曲です!」
「そんなマイナーなやつを聴いてくれていたなんて」
「じゃあこうしましょう。私は先輩を利用してアイドルになります。そして先輩はアイドルを利用して女優復帰を目指してください」
妹の言葉を受けた有馬の瞳に太陽の輝きが宿る
「妥協や泣き言は許さないわ、互いの夢の為に精一杯やりましょう」
2人は手を取り合って、有馬はアイドルに加入した。
次ぐらいでアクアとツクヨミを会わせたい
シマカンはもう少し先ですね出すのは、彼にはどこかの校長のようになってもらいますか、明日は菊花賞なのでR18版を執筆しながら予想します
感想を書いていただき誠にありがとうございます。