『言葉は剣よりも強し』
意味としては『ペンは剣よりも強し』と同義である。言葉とは力であり応援すれば心強くなり必要以上の力を発揮するが、簡単に傷つけることも可能で金属探知機にも反応しない無敵の刃である。何気ない1つの言葉がいつの間にか人を傷つけ苦しめる
「おめでとうツクヨミ、お前の望みは叶えられた」
その言葉を耳にした直後に彼女の目の前で、星野アクアが下に落ちていった。彼の最期の顔が網膜に焼き付いて離れない。自分はなんて愚かなことを口にしてしまったのか
「冗談なんだ、本気のつもりじゃ」
誰に向けての言葉なのか?もう星野アクアは、もう居ない自分が追い詰めてしまった。ツクヨミは泣き叫び謝罪の言葉を口にするが聞く者は落ちていってしまった
「私はただ…、ただ…」
言葉を紡ぐことが出来ない。彼女は自分がアクアより優位であることを誇示したかった。星野ルビーに彼の正体や雨宮吾郎が死んでいることを伝える気などなかった。ただ単に彼が慌てふためく顔を拝みたかった。口にしたように冗談のつもりだった
「私は疫病神なのか?」
ツクヨミは自問する。
・星野アイは生存しカミキやリョースケなどの外敵が存在しない世界で暮らす3人。その家庭を壊したのは誰だ?
・ララライに所属し年相応に姫川大輝や黒川あかねと切磋琢磨する関係を壊したのは誰だ?
・勉学に励む彼の未来を潰したのは誰だ?
「全部……私…だ、私が追い込んで」
地面にへたり込むツクヨミは自身の愚かさを呪った。普通に転校生として星野アクアと接し学園生活を楽しめば、面白半分で彼のことを遊んでやろうと思ってしまった過去の自分を殺したい。だが時計の針は決して戻ることはない。向こうの世界で彼の葬儀は悲惨だった。有馬かなは目覚めない彼の頬を叩くと泣き叫び、妹の心に深い闇を残した。同じことが起きるだろう違うのは母親の星野アイがいることだ
「賽の河原……石」
仏教において、子が親よりも早逝するのは罪であり賽の河原で石積みの試練を行い転生を待つ、無論積まれた石は鬼が崩しに来るので達成することはない、また転生出来たとしても人であるか怪しい
「まだ…死んだわけじゃ!」
それは僅かな望みだった。もしかしたらまだ生きているかも?でもその後の人生は?中途半端に生還したことで生き地獄を味わう人や五体満足を恨む日々が続いたら?誰が彼の面倒をみる?元を辿れば自分が追い詰めてしまった。彼の関係者に丸投げして自分は何知らぬ顔で生きていていいのか?
「行かないと」
ツクヨミは立ち上がり力の入らない足で鍵の掛かった出入口へ向かう。もう騒ぎになっているだろう。屋上から人が飛び降りたのだから多分110番や119番通報もされているはずだ、彼女はドアを開けると
「あの世にか?」
目の前には今さっき落ちた星野アクアが、ツクヨミを恨みを込めて睨みつけるような視線で彼女の目を見つめていた
「はっ!…ははあはふぇ、うふぁはははっはうふるふぁえ……ああふ‼」
突然のことで思考がバグり彼女の言語機能が故障する。腰が抜けて尻餅をついてしまい数日前に購入した黒のパンツが大胆にも見えるが隠す余裕なんて微塵もなかった。彼は足を引きずるようにゆっくりと近づく
「ごっごめん……なっなななさささいいぃ、ごめんな…さい!」
涙目にながら許しを請う
「なぜ謝る?お前が望んだことだろ?」
「違う‼こんなこと私は…」
ツクヨミは尻餅をついたまま後退りをするが端の鉄柵に背中が当たってしまい下がることが出来なくなるが、それに気付かず下がろうとしている
「違わないだろ?」
「もう言いません!人を傷つけることなんて言いません、私が愚かでした!だからもう……もう」
全ての穴から液体を漏らし頭を下げて額を床に擦りつける
「なぜその言葉を俺に向けなかった?俺の夢は終わり家族が悲しむ…なんでそれに気付くことが出来なかった?そうやって向こうでも俺やルビーを追い込んでいて、苦しむ様子を楽しんでいたんだろ?」
1つ1つの言葉が刃となって彼女を襲う。自分が今までやってきたことを身に受け双子たちの心情をようやく理解することが出来た。ただ怪しげに何も答えずに煙に巻いて反応を楽しんでいた自分が愚かな存在だったことに
「ゆるし…て、ゆる」
自分で作った水溜りの上で謝る彼女に
「フンッ!最初からそう言えばよかったのに、ルビーとは違ったベクトルで馬鹿だな」
「えっ?」
突然の軽口にポカンと口が開いてしまう
「ん?どうした?」
「なんで落ちたはずなのに…」
星野アクアの体をよく見ると汚れているところなんて1つもなく五体満足でピンピンしている。しかし彼は自分の目の前で落ちていったはずなのになんで怪我の1つもしていないのか?
「下を見てみな」
彼の手を取り立ち上がり鉄柵のしたを覗くと出っ張りのようなモノが飛び出している
「ベランダ?」
「あぁ、ここから教室の窓の外にあるベランダに着地して校舎の中から戻ってきた」
種明かしをされたツクヨミは再び腰が抜けてしまい復活するのに30分近く時間を要し、その後に2人で校門の外に出たが
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」
「いつまで謝るつもりだ?」
彼女の性格が屋上に行く前と変貌してしまいアクアの制服の裾を握って彼を逃さないようにしている。しかも常に謝罪の言葉を口にして会話にならない
「確かにやりすぎたが」
「何も悪いことはしません。心を入れ替えます。だから…」
アクアとしても軽いお灸を据えるつもりだったが相当なショックを与えてしまったことに反省する。とは言ってもツクヨミが真実を暴露しそうになったら強硬手段をとるつもりだったが
「叶えたい夢があるから当分死ぬつもりはない!」
発した言葉にツクヨミは項垂れながらも頷き返事をしてくれた。バス停が近づき彼女と別れようとすると小指を差し出し
「約束」
「何の?」
「夢を叶えるって!私も約束するもう二度と人を傷つけることはしない、そして妹に真実は決して話さない約束をする」
その小指にアクアもため息を吐きつつ自分の指をだして絡ませあった。彼の視線が不意に下からツクヨミの目に移り、別れの挨拶をして去って行った。
「(なんでアイツはノーブラだったんだ?)」
彼女がそのことに気付くまで1時間を切っていた
「それにしてもアクアちゃんも大変だったね」
ハサミと櫛を手際よく操る美容師のスキンヘッドの男は、目の前に座る彼に話し掛けながらも寸分の狂いなくカットを続けている
「しかしメルト君だっけ?謝るのは自己満足じゃないんだよね」
「えぇ動画のコメント欄が大炎上してました」
水曜日にララライへ復帰すると団員の殆どから”大丈夫か?”と心配されアクアは礼の言葉を述べた。姫川はドラマの撮影で不在だったので、彼が着用していた特攻服を身に纏い木刀を持って化野の前に立つと
「俺のことを『ドライもん』で呼んでいるんだな?」
「えっと、あの~その~、ごめんなさい」
彼の威圧感にたじろいでしまい化野はミニスカートを穿いたまま土下座をしながら謝り、彼女の後ろにいた野郎共はヒップを眺めながら苺を鑑賞していた。
「アクア君、今度の公演で姫川さんと一緒にその服で」
「いや着ないから」
化野のパンツ鑑賞会が終わり、ボコボコに殴られた野郎共が辞世の句を詠んでいたが金田一が来ないのでグループを作って喋っていた。日常に関することや次回公演に向けて意気込む面々だったが
「おい、星野これって」
「どうしたんですか?」
近くにいた団員がスマホの画面をアクアに見せるとYouTubeが開かれていた。画面の下側には『LIVE』の文字があり生放送というのが分かる。しかし画面に映っているのが
「これって鳴嶋?」
「だよな、個人チャンネル?登録者の数が少ないのは出来たばっかなのか?」
そこにはMEMちょと撮影をしている時に、アクアを殴ってきた鳴嶋メルトが画面中央に座っていた。最後に見たときから頬はゲッソリし肌にツヤもなく髪の毛はボサボサである
「生配信で謝罪をするのか?」
「ってか捕まったんじゃないの?」
スマホの画面を見つめる団員たちが各々の持論で検討しながら自身の考えを口にしていると、メルトが深々とお辞儀をする
「ご存知だと思いますが俺はこの前、苺プロの星野アクアさんを殴り蹴り飛ばしました。理由はなく衝動的な感情であの人に敵意を向けてしまった俺が至らなかったことです。事務所の社長が向こうに謝りましたが反省の態度を今から見せます」
机の上に置かれたバリカンの電源ボタンを押し、起動させるとメルトはそれを自身の頭部に当てて滑らせるように毛を刈っていく、チャット欄に集まった面々やララライの団員たちは驚き言葉を失う
「これが俺のケジメです!」
ところどころ歪な坊主頭となってしまった彼は再び頭を下げて、集まった視聴者たちに別れの挨拶をして生配信は終了した。
「今どきこんなことをしても」
「あぁ、好転することは無い」
年長者たちが口にしたようにメルトの生配信は炎上した。壱護が向こうの事務所に問い合わせると、事務所側も寝耳に水であり彼のスタンドプレーということが判明した。世間では
『自分だけ楽になろうとしている』
『パフォーマンス乙』
と言った否定的なコメントが多数を占めるが
『謝ったんだから許すべき!』
『これで禊を済ませた』
など少なからず擁護する文言もあったが否定派の攻撃を受けて意気消沈してしまった。
「坊主にして反省の態度を見せることは悪いことじゃないわ、私だって…毛がねぇや」
「YouTubeで生配信にしたのがまずかった」
「どうしてもパフォーマンスに見えてしまうからね!心の奥底で大衆を味方にしようって考えていたんじゃないの?」
「それは本人にしか分かりません」
椅子から立ち上がったアクアは鏡の前で髪形を確認し、支払いと共に美容師に感謝の言葉を口にして店から去っていった。見習いが床に散らばった髪の毛を回収すると、周囲をキョロキョロしながら袋に入れて裏口に出ると
「頼まれたブツです」
「ありがとう!これが報酬だ」
潜んでいた男に袋に入った髪の毛を渡し現金を受け取った見習いは、中身を確認すると汚い笑みをこぼしながら店内に戻った。
散髪を終えた翌日、アクアは局の控え室で台本を読んでいた。今回のトーク番組は若手のタレントやモデルが集まり、サイコロで選ばれた人が面白い話しを披露する内容である
「(ルビー関連のネタで話した方がいいかもな、今後の宣伝にもなる)」
メモ帳に書いたことを脳内で構成していたら、ドアを叩く音が聞こえたので開けてみると桃髪桃眼の女性が立っていた。胸がデカい
「どちら様?」
「寿みなみと言います。共演者さんたちに挨拶回りをしてはります」
「これはご丁寧に」
互いに礼をすると彼女の胸が揺れるのが分かり、衣服の下にあるブラジャーが見えてしまった
「あの~1つ確認なんどすがルビーちゃんの…?」
「ルビーちゃん?あぁ陽東のクラスメイトの?すいません妹が粗相を」
アクアは先日の引き抜きに関することを謝罪し頭を下げた。彼女は慌てるような素振りで”アワアワ”していたが、気にしていないことやアイドルに興味があることを口にして部屋から出ていった。そして同時刻に別の収録スタジオにて
「君、有馬かなだよね?」
とある映画監督に声を掛けられていた。
日曜日にもう1話更新出来るかな?しかしツクヨミの口調が分からないなどうしよう?