赤髪の少女こと有馬かなはニヤニヤしていた。携帯の画面に映る肩を寄せ合っての2ショット写真とマグネットローダーで保護した直筆サイン入りのブロマイドカードは自分しか持っていない宝物である。誰かに自慢したいが盗まれる可能性もあるので見せびらかしてはいない。
「今度はいつ会えるかな~」
まだ1回しか逢えていないが彼女の心は遠距離恋愛で彼氏を待ち望む女の子そのものである。子供服の撮影以降アクアは目立った活動はしていないが、母親の情報網だと複数の企業が京プロに出入りしていると聞きつけ近々に大きなアクションが起きるのでは予測されている。
「共演することが出来たら、手を繋いでもいいし!肩を寄せてくれたんだから抱き着いてもいいよね?そこまで嫌ってなかったし」
この世界やはりというべきか女性を嫌う男も一定数存在する。原因としては犯罪レベルの過激なアプローチがマスコミによって大々的に報道されることが多々あり、親族以外と接触を控える人たちもいる。産まれてから3回も誘拐未遂されているアクアだが良識を持って話の通じる女性なら嫌悪せず対応する
「第一印象は悪かったかもしれないけど記憶に残ることが大切だもん」
女性大多数社会において自身のことを覚えてもらうことが第一歩である。例え出会い方がマイナスでもそこから加点させて印象を逆転させれば問題無い、彼女の愛読していた少女漫画にも最悪な出会い方をした2人が段々と親しくなり最後は誰もいなくなった荒廃した地球の教会で参列者無しの結婚式をあげるハッピーエンドで終わっている
今後のことを妄想(既に子供3人で庭付き一戸建て犬小屋完備)している有馬はSNSのアプリを立ち上げるとタイムラインが荒れていることに気づいた。投稿コメントの多くに『アクア君が出てる』という文字が並んでいたのでテレビを点けてチャンネルを回すが愛しの彼はどこにも映っていない。
「デマ情報か」
オールドメディアが1番と考える彼女にとってYoutubeという選択肢は頭に無かった。それが原因で流行の波に遅れてしまい地団駄を踏むのはしばらく経った後である
さてカレンダーの日付けを少し戻して動画撮影当日の京プロは前日から準備で大慌てだった!とはいえ主役のアクアは緊張するどころか今日紹介する商品のパッケージに書かれている成分表を見ながら心の中で悪態をついていた
「(あきらかに砂糖の量が多いし、保存を利かせる為に防腐剤もてんこ盛りって幼児に食わせるのはマズイだろ)」
もしこれが災害地域に配る非常食なら貴重な甘味と長期保存が出来る点では優秀だが、日常的に子供の口に入れるモノとして考えるとよろしくはない。
「アクア準備OK?」
「いつでも大丈夫」
子育てをする若い主婦をアピールするために撮影用のエプロンを纏ったアイは彼の返事を聞くと自身の頬を軽く叩いて気合いを入れた。彼女はミヤコにサインを出すと5秒前からカウントされ壱護は撮影ボタンを押した
「初めまして星野アクアです!」
「母親のアイで~す」
共にカメラ映りを意識した表情と挨拶をして頭を下げると、普段の2人を知っている斉藤夫婦は噴き出しそうになるが堪えた
「今日はこのYouTubeで初めて動画を投稿します。色々至らない点があると思いますがよろしくお願いします」
アクアは簡単な自己紹介を済ませるとカメラに向かって数秒間ニッコリと笑い編集点を作った。無論画面の先にいる視聴者に向けてのサービスも込めている
「今回アクアにやってもらうのはテイスティングです‼」
彼女の目の前には各食品メーカーから送られてきたパッケージが並んでいた。今回の企画の選定が1番の難題であり、当初はルビーやアイのリクエストだった子供服の良し悪しを比べるつもりだったが『NO』を突きつけたのは壱護だった。
「子供服だと家庭の事情で買える・買えないという可能性もある。それにアクアのファッションショーになって企画の軸がブレてしまう」
この一言で子供服の着比べの企画は頓挫したが、あれこれ意見を出し合い紆余曲折を経て『食べ比べ』に収まった。きっかけはルビーの偏食でありプレート料理を出すと必ず野菜の部分を残してしまうのを見たアイが「子供の野菜嫌いを克服する食べ物はどう?」と提案したところ2人は、その手があった!?という顔をしていた
実のところ副次的な効果を狙っている面もある。アクアは2歳を少し過ぎたばかりの子供であり、そんな彼が動画内で野菜を食べるシーンを世間に見せつければ子育てをしている親たちも「アクア君は凄いね~もう野菜をパクパク食べれるんだ」という目で見てくる。子供にとって野菜を食べるということは大人への一歩を踏むと同義である。きっかけはどうであれ苦手を克服する可能性を秘めている
「じゃあアイマスクを着けてね」
渡されたアイマスクは某格付けチェックで使われるモノと同じで、目の部分にはM16を愛用し第1話ではブリーフ姿で逃亡するスナイパーのイラストだった
「まずはこれから行くよ」
アイはアニメキャラの描かれたパッケージをカメラに向けて中身を皿の上に盛り付けたのは、大手メーカーから販売されているニンジンのグラッセで、フォークを刺してアクアの口に運んでいく
「アクアどう?美味しい」
「甘いというか甘すぎる。これニンジン?」
その質問に母親は正解と答えると
「なんか砂糖の塊を食べてる感じがする」
「じゃあ私も」
息子の真意を確かめる為にアイもグラッセを口の中に入れると、顔をしかめる
「甘いね、しかも表面がザラザラしてる」
「口の中がネバネバする。ミヤコさんお茶ください!」
渡された緑茶を飲み切り次の食品に切り替えた。本来こういったテイスティングはランクや順位付けをするものだが敢えてやらなかった。
その後も子供向けに作られた野菜料理を口に運ばれ次々と感想を述べていくが大体は辛口の評価である。映像を見ている面々からは『大企業の商品にケチをつけているのでは?』と思われてしまうが終始アイマスクを装着しているのでメーカーなんて分からない。それに美味しいと感じたモノは大企業や小さいメーカーでも褒めている
「(子供向けに作ってあるからどれも甘味料をふんだんに使うって、商品開発をした人たちは試食したんだよな?)」
彼の思っていることはある程度的中していた。試食はしているが大人たちの舌で確認しているので「子供の好きな味ってこれぐらいでいいよね?」という感覚である。大企業ほど今までこうやって作ってきたんだからこれからもこれでいいよね?の精神が根強く残っている
「これで最後ね」
「あ~~~ん」
大きく口を開けて運ばれたほうれん草のソテーは、青草特有の苦味がなく噛めば噛むほど旨味が口内に溢れ出て来る。アクアもこれに鰹節をふりかけたら最高の組み合わせになると感じている
「これどこの?今まで家でも食べたことないよね?」
「美味しかったの?」
「うん、鰹節とおろし生姜が欲しい」
「あまり見ないメーカーだね。ねぇアクア群馬県って四国だっけ?」
「アイ、群馬は北関東だよ」
「じゃあ西関東ってあるの?」
母親の知識の薄さに息子は冷や汗を流すが、ここは編集して切るよりも世間にアイの魅力を伝えるアピールになると思うはずだ
「本日紹介した商品は概要欄にリンクがありますので興味のある方はクリックしてください。ご視聴ありがとうございました!良かったらチャンネル登録、高評価をお願いします!」
締めの挨拶をして2人で頭を下げて、ようやく撮影が終了した。
「2人ともお疲れ様って言いたいけど、今から編集作業をするわ当然付き合ってもらうわよ」
ミヤコの言葉にアイは今にも泣きそうな表情をしていたが、アクアはスマホを操作してさっき食べたソテーを追加注文した。
「リアクションも薄いし3番目と6番目のやつはダイジェスト版にした方がいいよな?あとは食べているときは画面の右上に商品のテロップを入れるか」
「フォントも全部一緒にするんじゃなくてアイを赤にしてアクアを青にしましょう。文字は少し小さくてもいいわ」
「ねぇこれ背景で場所が特定されることってないよね?」
ミヤコとアクアはパソコンの前に座っている壱護に向かって意見を出していた。アイは机の上に残った食品をルビーに近づけるが開かず口を真一文字にしているのを無理やり食べさせたがゴミ箱へ直行してしまった
「ねぇアクアのコメントって少しキツくない?クレームのように聞こえるけど」
「いやこのままでいく、企業に忖度しても面白くない」
「そう?ならいいけど」
結局3人の編集作業は夜遅くまで続き完成したときには22時を回っていた
「それで何時に投稿するの?」
「明日は日曜日だし昼の12時で良いだろ、晩御飯のおかずに迷っている人たちには丁度いい時間だと思うし」
はたして今回投稿した動画が世間にどう受けるのか分からないが、とりあえず数日分の野菜を摂取したアクアは肉を食べたいと思うのであった。
1から文章を考えて執筆するって難しいです。特に推しの子は子供の成長期に関する部分がバッサリ斬られているので妄想で補っています。誤字脱字をやらかしますが訂正していただきありがとうございます。
暑い日々が続きますが倒れないようにしましょう
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