ー『メイショウ食品』の飛躍ー
群馬県に拠点を置くメイショウ食品は地域では有名だが全国区では無名の中小企業だった。地元のスーパーや飲食店に卸し、大きく儲けることもなく細々と経営をしていたが1本の動画が切っ掛けで会社中の電話が鳴り響く騒動に発展している。事の発端は話題の男の子『星野アクア』君が投稿した野菜料理の食べ比べの動画で2歳を過ぎた子供が、ここで作られたほうれん草のソテーに高評価を与えていた。子供の野菜嫌いに頭を悩ませる女性は多く動画を見た彼女たちは藁にも縋るつもりで、ここに問い合わせたのである。フル稼働で社員たちは今日も残業らしい
・アクア君のおかげで娘の食わず嫌いが治りました
・今度は私に「あ〜ん」をさせてください
・Youtubeって無料なんですか?
・アクア君オラが村に来てくんろ、別嬪さん揃え待ってござんす
「再生数が1週間で106万回にチャンネル登録者数が53万人を突破するとはアクア様々ね」
「コメント欄もポジティブな文言が並んでいるが、チラホラ悪い言葉も並んでいる」
チャンネルを開設し1本目に投稿した動画には数多くコメントが寄せられていたが
・アクア君を食いものにするな
・大手に喧嘩を売って何様のつもり
・私ならもっと面白い動画を作ることが出来る
などネガティブと悪意がこもった文面も散見している
「全人類から肯定されるとは思っていないわ、全体の2割程度なら少ない方よ」
「まぁアクアは目立つからな、しばらくはこの路線かな?」
「しかしアクアの言葉1つで売り上げまで動かしてしまうなんて、とんでもない影響力ね」
「ミヤコ分かっていると思うが」
「えぇ守らないといけないわ悪い大人から」
背もたれに体重を預け夫に淹れてもらった紅茶を飲みながら今後のことを思案する。アクアの宣伝効果は想像以上に大きく株価まで変動してしまう。当然これを狙ってくる輩も多数存在してくるはずだ!彼の歩む道に黒いモノは存在してはならない。なら私たちに出来ることは決まっている
「そういえばアクアは?」
「今日はアイと散歩だよ」
「確かシッターさんが随伴してくれるんだっけ?」
「黒川さんなら事務所の前まで来てくれたよ!しかし政府も変わった事業に力を入れるんだね。俺がガキの頃はこんなこと無かったな」
「アクアもルビー以外の女の子を知る大切な時期なの」
「野菜嫌いだった娘がアクア君のお陰でピーマンを食べれるようになって、今までの苦労がなんだったの?という感じでして」
「うちのアクアは凄いでしょ?」
ドヤ顔するアイにショートヘアーの女性は苦笑いをしてしまう。彼女は国が指定する幼児教育機関に籍を置く人間で『新米ママ達と共に子供を育てていきましょう』という育児プランニングである。本来ならベテランの方が適任と思われるが年上の立場で意見を押し付けてしまう可能性がある為、同年代の子供を持ちママさん達も切磋琢磨しましょうという考えである
「手を繋いでもいいかな?アクア君」
「いいよ」
母親達の目と鼻の先でアイの息子のアクアと黒川の娘である『あかね』は手を繋いで歩いていた。ママさん同士の交流もあるがアクアの意識付けの意味合いも込められている。とどのつまり女の子に対して猜疑心を持たない為の交流である。女性による男への犯罪が多く報道される世の中では『女性=悪い人』と子供の頃から刷り込まれてしまうと壁が出来てしまい、伴侶を持たない将来を選択してしまう恐れがあるからだ!遺伝子提供があるので最悪は回避出来るが、国としては妻を娶ってほしいと思っている(出来れば複数)
簡単に言ってしまえば
『アクア君、女の子は怖くないから仲良くなりましょうね!』である
「あかねもYouTubeで子猫や子犬の育成動画にハマってしまって、”私も猫飼いたい”って毎日のように口にするもんだから大変で」
「私のところも同じような感じでルビーも”飼いたい”って駄々をこねちゃって、拗ねるとアクアの所にいって猫耳カチューシャを装着させては逃げられちゃって」
「ルビーちゃんってもしかしてアクア君の双子の?」
「えぇ、アクアのお姉ちゃん」
黒川あかねの母は彼に姉がいるから娘に対して壁を作らずに友好的に接してくれているんだと思った。この話が来た時は不安でいっぱいだったがアクア君が偏見を持たずに生きているのは僥倖である。娘と親しくなり心を許せる関係になれば最高であると
「宮崎の病院で産んだんだけど退院するまでに3回も誘拐未遂にあって!」
「誘拐未遂?」
「それで予定よりも早く退院してね……黒川さんどうしたんですか?固まって」
「いえ……なんでも(誘拐未遂されているのに壁を作らないって、どれだけ懐が大きいの?)」
そんな彼女の疑問をよそにアイの口は止まることはなく
「投稿した動画でアクアも有名になって、色んなところからオファーが来ちゃって事務所がてんやわんやの大騒ぎで」
「この先はどんなことをする予定で?」
「しばらくはアクアの好きなことを動画にしようかなって、それに幼稚園やその先も決めないといけないし」
アイの言うように既に多くの幼稚園から「来てください!」とラブコールを受けている。今後のことを考えれば、殻に閉じこもるような場所ではなくアクアやルビーにとって良い刺激と成長を促すところへ送り出したい。斉藤夫婦も1つずつ精査し検討を重ねている
「アクア君、知ってるあそこには動物がいるの」
「どこのこと?」
黒川あかねが指さす先には武士沢小児科医の文字が掲げられている
「(小児科に動物?まさかこの子って人を経済動物と思って)」
「最初の3文字は分からないけど、その次の3つが『こ』『じ』『か』って言うの!だからあそこには鹿さんの子供がいるの」
その言葉を聞いた瞬間アクアは新喜劇のように”ドテッ”とコケそうになった
「あれは『こ』『じ』『か』じゃなくて『しょうにか』って読むの」
「『しょうにか』って何?」
首を傾げて頭にクエスチョンマークを浮かべる彼女を見ながら、アクアは少し苦笑いをする
「あかねが熱を出したり喉が痛くなったら行く病院、子供のことを見てくれるお医者さんがいるところだ」
「病院って注射するところでしょ?」
彼女は刺されそうな部分を反対側の手で隠してしまうが、アクアは人差し指を注射の針に見立てて腕をツンツンする
「大丈夫、痛いことなんてされないから俺よりお姉さんなら我慢できるでしょ?」
それは自身が雨宮先生だった頃に嫌がる彼女を諭すように優しく温かく、同じ目線で語り掛けるように黒川あかねに恐怖心を抱かせないつもりで両手を握る
「ねぇ注射を頑張ることが出来たらえらい?」
「もちろん偉いよ!」
「じゃあその時はご褒美ちょうだい‼」
キラキラした目で彼のことを見つめる彼女の圧に押されて頷いてしまう。後年アクアは安易に応えていけないと思うが知る由もない
「アクアそろそろ帰る…って、あらら?かなり親密な仲になったわね」
「あかね仲良くなれた?」
母親からの問いかけに娘は満面の笑みで応え、アクアの屋外運動は終わりを迎えた。帰り際に彼女から携帯電話の番号が書かれた紙を渡され「絶対に捨てないでね」と釘を刺されてしまった(アクアの方は事務所の番号が書かれた名刺に裏側に直筆サイン付きを渡した)
「あかねちゃんはどうだった?」
「個性的というか独特かな」
事務所の近くを手を繋いで歩きながらアイは息子の顔を覗き込むと
「この世界には色んな人がいるの、でもね決して悪い人ばかりじゃないしアクアのことを心から愛してくれる人もいる」
「アイやミヤコさんみたいに?」
「ルビーも混ぜてあげなさい!」
「え〜昨日馬乗りしてきたのに?」
「それも愛ゆえの行動だと思いなさい」
若干頬を膨らませる仕草をするが元の表情に戻る。アイはアクアを抱き上げると彼の耳を心臓に近づけ
「ここの鼓動が鳴り続けるかぎり人は自由に生きていいの、アクアも好きな人を見つけて家庭を持ってパパになって、おじいちゃんになるの。最後に目を閉じるときに笑っていられるぐらい楽しい人生を送りなさい」
「見つかるかな?」
「それともママと結婚する?」
「いや〜きついでしょ」
「こらッ!そんなことを言う口はママので塞いじゃうぞ」
母親からのキス口撃(誤字にあらず)をピーカーブースタイルで躱しながら2人は事務所に戻り、壱護の本体であるグラサンを装着して遊んでいたルビーを引き取って自宅に戻ろうとした矢先
「星野さん、マンションの出入口で揉めているみたいですね」
彼女はアイや斉藤夫婦が住むマンションと契約を結んでいる送迎業の女性である。守秘義務の他に文庫本1冊ほどの厚さに及ぶ規則に準じなければならないが、毎日フルコースの料理を食べて店員にチップを渡しても財布の厚みが殆ど減らないレベルの収入を得ている。狭き門を突破したエリート中のエリートである
「またあれね」
「もしものことが起きる可能性がありますので待ちましょう!警備員が追い払ってくれるはずです。最悪の場合は裏口ゲートから入りましょう」
普通なら野次馬根性で車から降りて情報を収集するのが人の性だが彼女はボディーガードも兼ねている。霊長類最強ほどではないがボクシングの某3兄弟をインファイトでKO出来る実力は持っている。なおアクア君からもらったアメ玉を大切に保管しているのは秘密である
「ですから星野アクア君に会わせてください‼」
「彼はここには住んでいません」
「いいえ彼ならきっとここにいると思います。だから…」
警備員と言い争っている女性の姿はみすぼらしく足元に座り込んでいる子供たちも遠目から分かるレベルで汚れている。本来この地域にとって似つかわしくない存在であることは間違いない
「アクア君もこの子たちを見れば、きっと気に入ると」
「臭い口を閉じろ、これ以上居座るのなら…」
警備員が続きの言葉を口にしようとした瞬間、レシーバーから連絡を受けた別の警備員が耳打ちすると表情が変わった
「あんたヤバいことに手を出したね!」
「…うそ、もう」
「番号を照会したら盗難届けが出されていたよ、それに写真の偽造込みとは」
女性の顔がみるみる青くなっていく、事態を察したのか子供を置いて逃げ出そうとするが逃げ場は駆けつけていた警察官たちに包囲されていた。観念したのか四つん這いになり泣き出してしまい子供たちとパトカーに乗せられた。
「お勤めご苦労様です」
運転手が警備員に労いの言葉を伝えるとドアを開けて3人をエントランスへ促した。アイたちは理由を聞くことはしない、よくある風景にリアクションを取る必要なんて無いのだから
警察官に連れて行かれた面々は1発逆転を狙ってきた!母親は我が子がアクアのお眼鏡に適えば婚姻を結ぶことが出来れば生活が安定する。シンデレラを狙って一か八かのギャンブルに手を出したが博徒の神は微笑むことはなく彼女たちに暗い未来をプレゼントした。もう二度と日の目を浴びることも親子で暮らすこともなく
黒川あかねちゃんとの出会いとなります。原作とは違い五反田監督の映画に出てませんし有馬ちゃんとの絡みをどうするか?悩みます
小児科を「こじか」と読むのは某雑誌に掲載されていた夜営業の小児科医療漫画からです。現在進行形で悩んでいるのが黒川家に父親を入れるか入れないかで迷ってます。これはアンケートにします。理由としては男が少ない世界なのに原作の男性陣を普通に出していいのか?鏑木Pは似たようなことをする女性に置き換えます。