げんしん☆もんすたー   作:ちぃの

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雪山なんてイベントが起こりそうな場所で碌なイベントを作れなかった作者に代わって、思い付く方はイベントを勝手に妄想してください。(懇願)


雪山注意? 白亜の錬金術師!

ディルックのジムから1日も歩くと、フィンドニール山の麓を越えた辺りから風が冷たくなり、幾分と寒くなっていた。

 

「…やっぱりここからが厳しそうだな。」

 

足元はまだ安定しているが、岩肌に雪の結晶が落ちてきている。

僕は歩幅を落とし周囲を見回した。

 

「ん、あそこ。」

 

少し先、岩壁がえぐれたようになった場所がある。

風を避けるには十分だ。

 

「一旦休もう。もうすぐ吹雪が来るかもしれない。」

 

空がそう言うと、パイモンが素直に頷いた。

 

「うん!さっきから寒いしな!」

「えっ?」

 

蛍が振り返って首を傾げる。

 

「え?まだまだ行けるでしょ!」

「うーん…今までと違って、今は1人で迷ったりしたら死ぬかも知れないくらい危ないはず。」

 

「…分かってるよ。」

 

再び振り返った蛍の顔は、どこか強張っていた。

 

「お兄ちゃんの言ってる事は間違ってないと思う。」

「……。」

 

蛍はそう言いながら、視線を逸らす。

 

「でもさ。」

「……?」

「ここで止まってたら、また同じじゃん。」

 

蛍は、粉雪の降り出した雪山を見上げる。

 

「この一週間で、色々あったでしょ。」

「……だからこそだ。」

 

静かに蛍にそう返す。

 

「無理をしなくていい場所と、そうじゃない場所がある。」

「うん、分かってる。」

 

蛍は頷くいた。

 

「でもね、私はここまで来て止まるわけには行かないってこと。」

「おい、待て待て!?」

「大丈夫。吹雪くらい経験した事はあるけど、来てからでも全然…」

 

相変わらずの調子の蛍に僕が折れかけた、その瞬間。

 

大地を揺らすような、低い音が山の奥から響いた。

 

「今の何?」

「……動くな!」

 

雪面が、ずるりと崩れた。

蛍の足元が沈み込む。

 

「蛍!」

「うわっ!?」

 

咄嗟に手を伸ばすが間一髪届かず、蛍の影は視界の下へと呑み込まれていく。

 

「……くそっ!」

 

視界が晴れた時には冷たい風だけが残っていて、世界は驚くほど静かだった。

 

「おーい!」

 

返事はない。

胸の奥が、ひやりと冷えた。

 

気付けばパイモンもいなくなっている。

 

「落ち着け。」

 

そう自分に言い聞かせた。

雪に埋もれた地形は見た目だけじゃ判断できない。

むやみに動けば、二次崩落を起こして僕も落ちかねない。

 

寒そうだったから、さっきポケモン達は皆ボールに戻していたが、もう一度一つのボールを取り出す。

 

「ディグダ!」

 

ボールを投げると、地面からディグダがひょいと顔を出した。

 

「近くだけでいい。この下はどうなってる?」

 

ディグダは小さく鳴いて、地面に潜る。

 

しばらくして、出て来たディグダが少し離れた場所で顔を出す。

その向こうの岩壁の根元に、雪の付き方が不自然な箇所があった。

 

「……洞窟か。」

 

風が、内側へ吸い込まれている。

 

「よく見つけた。」

 

撫でられたディグダは少し誇らしげに鳴いた。

 

……だんだん雪が強まってきていたが、少なくともここに逃げ込める。

 

蛍たちも、どこかの洞窟に落ちている可能性が高い。

 

「行こう。」

 

誰にともなく言って足を踏み入れる。

外よりも静かで、寒さも幾分ましだった。

寒すぎたならロコンに無理を言って温めてもらうつもりだったが、その必要も無い様だ。

 

「……探しに行くから。」

 

蛍に向けて言ったのか、それとも自分自身に言い聞かせたのかは分からなかった。

 

 

洞窟の中は、思ったよりも広かった。

 

天井は高く、奥へ行くほど空間が分岐している。

淡く光る植物が生えていたり、天井の氷からうっすらと外の光が入っていて完全な闇ではない。

 

「蛍もパイモンも居ないからよくわからないけど、結構いるな。」

 

辺りをポケモンが横切る。

氷山みたいな形の氷を被ったやつ、鼻がハートマークのコウモリっぽいの、背中に氷のトゲのある柔らかそうな白いやつ……

 

見えるだけでもかなりのポケモンがいるらしい。

 

ディグダは地面から顔を出したまま、周囲を警戒していた。

 

「無理に潜らなくていい。今は迷わないことを優先しよう。」

 

潜れるディグダは頼もしいだろうが、この洞窟は縦にも横にも広すぎる。

 

 

洞窟内を歩く事数十分……

 

 

もう自分がどこに居るのかもわからなくなってきていた。

 

「大丈夫。」

 

誰に言ったのか分からない言葉。

大丈夫だ。きっとすぐに見つかる。

 

突然足元で、ディグダが止まった。

 

「疲れたのか?」

 

声を掛けると、ディグダは少しだけ間を置いて鳴いた。

 

さっきからディグダは何度も地面に潜っていたが、だんだん潜っている時間が長くなっている気がする。

 

「いや、無理しなくていい。僕一人でも探せる。」

 

早足で洞窟を進む。

 

二人に何が起きているかはわからない。嫌な想像が頭をよぎる。

 

僕は視野が狭まっていたのか、足元にある出っ張りに気づかず躓いてしまった。

足元を見ると、こちらを睨みながら支えてくれているディグダが居る。

 

……そうか。

 

「僕が、焦りすぎって言いたいんだな。」

 

静かに鳴いて返すディグダ。

否定する気配は無い。

 

「止めてくれてありが……え!?」

 

突然、何が起きるのかを僕が理解する前に、ディグダは地面に半分潜ったまま動かなくなった。

 

ディグダの影が光に包まれて揺れる。

一つだった影が重なり…増えていく。

 

 

地面を押し広げるような音が聞こえ……。

 

「ディグダ……いや……」

 

眩しい光が消え去ると、そこにいたのは一匹ではなかった。

 

三つの視線が、同じ方向を見る。

 

 

「ダグトリオ。」

 

無理はやっぱり一人で背負う物じゃない。

 

「……よし、行こう!」

 

 

 

ダグトリオに着いて洞窟の上層へ進んで行く。

 

 

「こっちか。」

 

最後の岩壁を抜けると、視界が一気に開けた。

 

雪原の中に、不釣り合いなほど整然とした建物が建っている。

それは白を基調にしている割に吹雪の中でもはっきりと輪郭を保っていた。

 

その扉に手を掛けると、扉は静かに開いた。

 

中に一歩足を踏み入れた瞬間、外とは別の暖かい空気に包まれる。

寒さが嘘みたいに引いていく。

 

「……あれ?」

 

奥のテーブルに、見覚えのある金髪が座っていた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

声と同時に、椅子が引かれる音。

 

「無事だったんだ!」

 

その一言で、胸の奥に溜まっていたものが一気にほどけた。

 

「良かったぞ。ちゃんと生きてたな!」

 

宙に浮いたパイモンが勢いよく飛んでくる。

 

「どれだけ心配したと思ってる?」

「結構……?」

「…もっとだ。」

 

テーブルの上には、湯気の立つカップが二つ。

二人は呑気にココアを飲んでいたらしい。

もっと言ってやりたかったが、元気で良かった。

 

暖炉のそばで蛍のポケモン達もくつろいでいるようだ。

僕も、進化したダグトリオと皆を出しておく。

 

 

「……状況は分かった。」

 

そうしていると静かな声が横から差し込んだ。

 

白衣を羽織った青年が書類を片手に現れる。

金色の瞳がこちらを一瞥する。

 

「かなり体力を使ったようだし、、まずは座って。」

 

アルベドは淡々と続ける。

 

「温かい飲み物がある。ココア、ハーブティー、それともコーヒーがいい?」

「……じゃあ、ココアで。」

 

アルベドはそれだけ聞くとカップを取りに向かった。

 

すぐに出て来た暖かいカップを両手で包むと、指先の感覚が少しずつ戻ってくる。

 

「本当に助かった。」

 

そう言うと、アルベドは軽く首を振った。

 

「偶然だよ。僕はいつもの様にここで作業をしていただけだ。」

 

相変わらず淡々としている。

 

蛍とパイモンは向かいの席で、ようやく落ち着いた様子だった。

さっきまでの緊張が嘘みたいに、ココアを啜っている。

 

アルベドが視線をこちらに戻す。

 

「目的は変わらずジム挑戦だね?」

 

一瞬、蛍の方を見る。

蛍は小さく頷いた。

 

「うん。ここまで来たし。」

「僕も同じく。」

 

それを聞いてアルベドはほんのわずかに口元を緩めた。

 

「なら、話は早い。」

 

彼は席を立ち、壁際の大きな窓へと歩いて行きカーテンを引いた。

 

「ちょうどいい。」

 

外は、いつの間にか静まり返っていた。

吹雪は止んで分厚かった雲が裂けるように退いている。

 

「すごい。」

「さっきまで地獄みたいな天気だったのにな!」

 

パイモンが呆然と呟く。

 

「こんな風に晴れている時間はそう長くない。」

 

アルベドは振り返らずに続けた。

 

「勝負をしたいなら、今外に来てくれ。」

 

アルベドは白衣の袖を整え、改めてこちらを向き直る。

 

「準備は勿論いいよ。」

 

すぐに臨戦態勢になる蛍。

 

「問題ない。」

 

僕はそう答えながら仲間を確認した。

一度皆をボールに戻す。

 

そして、僕達がアルベドに続いて研究所から先に外へ出ると…

冷たい空気が一瞬だけ流れ込むが、さっきまでと比べて多少は穏やかだった。

 

外は白い雪原が広がっている。

雲は高く引き裂かれ、澄んだ空が顔を出していた。

 

「本当に晴れてるぞ!」

 

パイモンがくるりと宙を回る。

 

足元の雪を踏みしめながら、アルベドは淡々と言った。

 

「ここでいい。」

 

アルベドが立ち止まった場所はただ開けた雪原の真ん中だった。

雪に埋もれているだけかもしれないが、何の装飾もない。

 

「知っているとは思うけど、君達はこのジム最初の挑戦者だ。」

「うん。」

 

蛍は迷いなく答え、僕も頷く。

 

アルベドは一度だけ目を閉じてからポケットに手を伸ばした。

 

「慣れてはいないけど、モンド最後のジムリーダーとしてこちらも全力で応えよう。」

 

白衣の裾が風に揺れる。

このリーグにおいてチャンピオンの次に強い相手は、静かにボールを構えた。

 

その瞬間、空気が変わった。

さっきまでの会話の延長線がぴたりと断ち切れる。

 

 

僕は、黙ってボールを取り出し蛍と目を合わせる。

 

「良いよ。お兄ちゃんから行って。」

「分かった。行ってくる。」

 

 

 

僕は、そのままアルベドを正面に見据える。

 

会話も無しに、二つのボールが構えられた。

 

 

 

ジムリーダーの アルベドが しょうぶをしかけてきた!

 

 

 

「オムスター!」

「ダグトリオ!」

 

折角だから、ここはダグトリオから行く。

 

 

重い甲殻が、雪を踏みしめた。

オムスターは捉えようのない視線をこちらに向ける。

 

対するダグトリオは三つの頭を揃えて低く唸った。

 

アルベドは一切構えを変えず、淡々と告げる。

 

「バブルこうせん。」

 

僕は一度息を吐いて指示を出す。

 

「ダグトリオ、こうそくいどう!」

 

三つの影がぶれて輪郭が曖昧になる。

まずは速度で勝っているようだ。

 

「がんせきふうじ。」

 

オムスターの触手が地面を打つ。

岩が弾け進路を塞ぐように降って来た。

 

 

こっちの方が断然速いが、それでも間に合わない。

 

「そのままの速度で、あなをほる!」

 

一瞬で、ダグトリオの姿が消えた。

雪原が静まり返る。

 

 

アルベドは慌てない。

 

「げんしのちから。」

 

オムスターの近くの地面から熱が滲み出す。

 

「出てきてじしん!」

 

雪が盛り上がり影が弾ける。

顔を出したダグトリオからいきなりに衝撃が放たれた。

 

 

「……なみのり。」

 

しかし、アルベドは一歩も動かず落ち着いて言う。

 

オムスターが、衝撃波を超えてダグトリオに衝突した。

 

 

直撃。

 

三つで一つの影が吹き飛び、雪の上を滑る。

 

完全に読まれた。

 

 

でも、起き上がったダグトリオはまだやれると言わんばかりに僕と目を合わせる。

 

 

「…よし。詰めてシャドークローだ。」

 

滑らかな動きでダグトリオが近付いていく。

 

 

「…続けよう。がんせきふうじ。」

 

今度は、さらに嫌な配置で岩が落ちてくる。

さっきのと合わせて完全に岩で囲まれる形だ。

 

無理に岩を抜けるのは間に合わない…それなら。

 

「止まって、だいちのちからで攻撃。」

 

 

岩を降らせていたオムスターに、殻ごしに下から一撃が叩き込まれる。

大ダメージではないが、確実に効いた。

 

「……っ」

 

アルベドの表情が、一瞬わずかに強張る。

 

「またあなをほるで…」

「うずしおだ。」

 

あなをほるが不発に終わった。

岩に囲まれたままのダグトリオを、渦が逃さない。

 

 

「がんせきふうじ。」

 

 

追い打ちの岩が来る。

当たったらもうまずいが、まだ何か方法があるはずだ。

 

一か八か。

 

「ダグトリオ、自分にすなじごく。そのまま行け!」

 

 

 

…岩で囲まれた空間に更なる岩が落ちた直後、オムスターは殻の下から叩き上げられ…突然横に倒れた。

 

その下から飛び出したのは、ダグトリオの姿。

 

 

触手で何とか起き上がろうとするオムスターに、アルベドは指示を出した。

 

「そのままこごえるかぜで決める。」

 

唯でさえ低い辺りの温度が一気に下がり、倒れたままのオムスターの周囲に冷気が広がる。

 

今更逃げられない。

互いに決めるしか無い局面で、結局はこれを叩き込む。

 

「じしん!」

 

雪原が揺れる。

 

鈍い音と共に衝撃が走りオムスターの巨体が大きく跳ねた。

殻が雪に埋もれ、そのまま動かなくなる。

 

数秒。

 

アルベドは静かにボールを構えた。

 

「……オムスター、良くやった。」

 

赤い光に包まれ、重い甲殻が消える。

 

雪の上に残ったのは、ボロボロながらも変わらない状態のダグトリオだけだった。

 

「ダグトリオ。やっぱりもう無理はしないでくれ。」

 

三つの頭が同時に短く鳴き、光の中に収まった。

 

 

「……最初から、そう簡単には行かないと思っていたが。」

 

アルベドは、次のボールを手に取ったままこちらを見ている。

 

「本当に予想以上だ。」

 

その声には、研究者の気質なのか確かな感心が混じっていた。

 

 

 

そして、アルベドは次のボールを静かに投げる。

 

「咲け、キラフロル。」

 

紫の結晶が雪の上に開かれる。

花弁を広げた毒の棘が光を受けて宝石のように輝く。

 

「頼んだ。カメール。」

 

こちらもエースを繰り出した。

カメールは、キラフロルを正面に身構えた。

 

その目が合った瞬間。

 

「パワージェム。」

 

鋭い結晶が並んで飛んでくる。

 

「受け流せ!」

 

合図と同時に、カメールが横へ跳んだ。

紫の弾がその甲羅を掠っていく。

 

 

「アクアブレイク!」

 

勢いを殺さないまま、水を纏って一直線に距離を詰める。

 

 

「ニードルガード。」

 

キラフロルの周囲に棘が展開された。

水流が正面からぶつかり、弾かれる。

 

キラフロルが動いた。

 

「アシッドボム。」

 

紫の液体が弾け、受け身を取ったカメールの甲羅に付着する。

防御が削られていく感覚。

 

 

そうして、距離が再び開いた。

 

 

カメールが、一瞬僕と目を合わせる。

 

辺りが沈黙に包まれるが、今踏み込んでもまたニードルガードを食らうだけだろう。

 

 

「ロックカット。」

 

沈黙を破ったのは結晶が砕けるような音だ。

宝石のような輝きを振りまき、キラフロルの動きが加速する。

 

「パワージェム。」

 

今度はさっきよりも鋭い軌道。

避けるよりも、正面から砕いた方が速いだろう。

 

「かわらわり。」

 

カメールがキラフロルめがけて前に飛び出る。

その小さな拳で、飛んで来る礫を叩き割った。

 

光が散る。

 

 

「……来る。」

 

さっきより弾が少ないと思ってキラフロルを見れば、やっぱりすでに次の技に用意に入っていた。

 

「エナジーボール。」

 

緑の光が渦を巻いて飛来する。

 

 

「からにこもるだ。」

 

カメールに一気に指示を出す。

その姿は甲羅だけになり、速度のままに地面に跳ねて、緑の球を潜りぬけた。

 

「もう一度アクアブレイク!」

 

 

甲羅からさらに勢いよく体を出したカメールが、キラフロルに飛んでいく。

 

そのまま…

 

水を纏った一撃が正面から叩き込まれた。

 

 

 

結晶が砕け、雪原のあちこちに、紫色の微細な棘が散る。

 

 

キラフロルは、そのまま花びらを閉じ動かなくなった。

 

 

「……キラフロル、戻れ。」

 

赤い光が消え、雪原にはカメールだけが残った。

 

「……良い判断だ。」

 

 

はっきりとそう言ったアルベドは、最後のボールを手の上で静かに転がす。

波か、それとも氷河のような青のコントラストが入ったボールのボタンが握られ…

 

 

 

「今こそ誕生の時。アマルルガ!」

 

 

淡い光と共に巨大な影が現れる。

背ビレが光を受けて虹色に光り、鳴き声が高らかに響いた。

 

雪が、降り始める。

地面に落ちたままの毒の欠片も白に包まれて見えなくなる。

 

 

僕は一度息を整えてからボールを持ち変えた。

 

「カメールはもう休んで大丈夫だ。行こう、ロコン。」

 

茶色い体毛を揺らし、小さな狐が雪の上に着地した。

 

ロコンが寒さと威圧に身をすくめるのが分かる。

それでも、視線は逸らさない。

 

「オーロラベール。」

 

虹色の光が雪に反射し、薄い膜のように周囲へ広がった。

 

「…ロコン。」

 

考える暇なく技を決める。

 

「だいもんじ!」

 

ロコンが一歩踏み込み、喉の奥から炎を吐き出す。

空気を焦がす高温の火柱。

 

炎は確かに、アマルルガを包んだ。

 

炎が晴れた後、そこに立っている姿はさっきとほとんど変わらなかった。

怯みもしない…。

 

突然ロコンが息を荒くする。

だいもんじの反動だけではない…どくびしを踏んでしまったらしい。

 

 

今攻撃が来たら避けられるか……

 

「でんじは。」

 

アマルルガから、電撃が雪を切って走る。

避けようとしたロコンの体が強張った。

 

 

「メテオビーム。」

 

 

アマルルガの背ビレが、再び輝く。

 

 

動けないまま沈黙が過ぎ、凝縮された極光が正確にロコンを捉えた。

 

直撃。

 

ロコンは、一撃で目を回して起き上がらなくなった。

 

「……ロコン、戻れ。」

 

ボールに戻る光は、弱々しかった。

 

アルベドは、こちらを見て淡々と告げる。

 

「判断は悪くなかった。」

 

その言葉は慰めでも、皮肉でもないだろう。

 

 

雪が降り続ける。

 

毒の結晶はまだ地面に残っている筈だ。

オーロラベールも勿論消えていない。

 

僕はボールを握り直した。

ダグトリオはギリギリだし、カメールしかいない。

 

「決める。カメール!」

 

 

ボールが開き、再びカメールが雪原に立つ。

 

 

そう言って、僕は真正面からアマルルガを見据えた。

 

 

 

「…オーロラビーム。」

 

アマルルガの背ビレが淡く輝き、すぐに七色の光線が放たれる。

 

「前に出て。そのままかわらわり!」

 

飛び出すカメール。

光線はその甲羅にぶつかって乱反射した。

 

 

アマルルガを覆う虹色の幕を、カメールの拳が貫く。

 

巨体がほんの少しだけ揺れた。

 

「アマルルガ、もう一度オーロラビーム。」

 

今度は薙ぎ祓うように放たれた光線。

 

「アクアブレイク!」

 

近距離に対する攻撃を避けるために更に距離を縮める。

 

放たれた光線を再度甲羅で受けながら、水を纏った一撃を叩き込んだ。

 

衝突。

 

カメールは吹き飛ばされ、雪の上を転がる。

それでも、すぐに体勢を立て直した。

 

「でんじは。」

 

警戒していた空を裂く電撃…

 

カメールの身体が強張り、動きが止まった。

 

「オーロラベール。」

 

再び、虹色の光が雪原に広がる。

 

 

「……っ、かわらわりで距離を!」

 

踏み込もうとした瞬間、動きが遅れた。

 

「オーロラビームだ。」

 

至近距離。

 

ビームが着弾し、カメールは再び雪に叩きつけられた。

 

 

「……メテオビーム。」

 

視界の端で、アマルルガの背ビレが強く輝き始めている。

 

 

何か手は無いのだろうか……。

 

 

その瞬間、ふと気になった。

雪の下に紫色の結晶がまだ残っている筈だ。

 

「……下だ!」

 

理解より先に声が出た。

 

「かわらわり!」

 

カメールは、痺れた体を無理やり叩きつける。

拳が雪の表面を割り毒がカメールを蝕む。

 

同時に、痺れが切れた。

 

 

しかし次の瞬間、極光が放たれる。

 

「……まもる!」

 

 

カメールの前に見えない壁が立ち上がった。

 

 

音が、ひとつ遅れる。

光の壁が悲鳴を上げ、無数の亀裂が走る。

 

「……っ!」

 

メテオビームは完全には止まらず。

衝撃が甲羅を叩き、星の光が砕け散った。

 

ここで止まったら、次はもう無いだろう。

 

 

 

「アクアブレイク!!」

 

 

 

水を纏った最後の突進。

オーロラベールを超えて、巨体を正面から貫いた。

 

 

 

アマルルガは大きく揺れ、そのまま崩れ落ちた。

 

 

降り続いていた雪も、いつの間にか弱まっていた。

 

「……。」

 

アルベドは、ゆっくりと息を吐いた。

 

「アマルルガ、戻ってくれ。」

 

淡い青の光に包まれ、巨体がボールへと収まる。

アルベドは、そこで僕にむきなおった。

 

「君は、一度も負けにつながる判断を選ばなかった。」

「……え?」

 

唐突な言葉に、思わず聞き返す。

 

「最後まで、判断を一度も間違えていない。理由は単純だ。君は今の自分に出来ることしか選ばなかった。」

「そんなにかな…?」

 

少しだけ、視線が柔らぐ。

それは、研究者としての純粋な評価だった。

 

 

「次は、君だね。」

 

アルベドは蛍へ視線を移す。

 

「望むところ!」

 

蛍は即答だった。

すぐに戦い始めた蛍を、僕は寒そうなパイモンと一緒に眺めた。

 

 

 

蛍のバトルは、変わらず僕のそれとは真逆で考える前に動きだった。

 

最初にだしたのはモココ。

 

じゅうでんを挟んで、返しのかみなりでオムスターを一撃で倒す。

 

次にイワンコ。

 

ストーンエッジを攻撃だけでなく足場や障害物として使い、キラフロルを圧倒した。

 

アマルルガにもモココを繰り出したが…ボルトチェンジでエレキボールを当て逃げし、3体目としてバタフリーを繰り出す。

 

相手の特性によって出た雪の中に隠れ、ねむりごなとギガドレインで悠々と撃破…

 

 

蛍は、三匹全てに余裕を残した状態でアルベドに勝利した。

 

 

 

アマルルガが倒れた瞬間も、蛍は息を切らしながらも真っ直ぐ前を見ていた。

 

「……なるほど。」

 

アルベドは短くそう言った。

 

「対照的に、君は常に勝つことを考えているようだ。」

 

蛍がこちらに戻って来る。

僕は思わず声をかけた。

 

「無理はしてないか?」

「してないしてない。」

 

即答。

 

「お兄ちゃんの方がよっぽど無茶してたよ。」

「否定は出来ない。」

 

パイモンが間に入る。

 

「ほんとだぞ!蛍はともかく、空は見ててずっとヒヤヒヤしたんだからな!」

「別に勝ったから良し、ってことで良いでしょ。」

 

 

すると、アルベドが僕達の前にケースを持って来た。

中身は岩と氷の結晶でできた花のような意匠のバッジだった。

 

「これが、フィンドニールジムの証だ。」

 

バッジが一つずつ、手渡される。

 

「知っていると思うが…記録として、君たちは歴史に残る初の制覇者になる。」

 

 

相変わらず言い回しは淡白だが、その事実は確かに軽くない。

 

蛍はバッジを掲げた。

 

「やったね!」

「うん。本当にリーグ制覇をできるなんて思ってなかった。」

 

僕はバッジを握りしめて雪原を見渡した。

ここまで来たという実感が、ようやく追いついてくる。

 

 

アルベドは少しだけ考える素振りを見せてから、続けた。

 

「待った。もうすぐまた吹雪が来る。一回止むまで待った方がいいだろう。」

 

アルベドと同じ方を見上げてみると、山の上の方から灰色の雲が降りてきているのが見えた。

 

「もうすぐまた吹雪が来る。」

「またかよ!」

 

パイモンが露骨に嫌そうな顔をする。

 

「完全に止むまで、研究所で待機していってくれ。」

「まあ、お言葉に甘えておこう。」

 

アルベドは小さく頷いた。

 

「それに、少し話したいこともある。」

 

それだけ言って、彼は先に建物の方へ歩き出した。

 

 

 

研究所に戻ると外の冷気が嘘のように引いていく。

アルベドは無言でカップを用意し、再び湯気の立つココアを差し出した。

 

「体温と集中力の回復を優先して。」

 

言われるまでもなく全員素直に受け取る。

 

ポケモンセンターと同様の機械で回復されたポケモン達も、それぞれ好きな場所で落ち着いた。

 

 

 

一息ついたところで、蛍が口を開いた。

 

「これで、チャンピオンに挑めるの?」

 

アルベドはすぐには答えず、カップを置いてから視線を向けた。

 

「……その話をする前に、一つだけ言っておこう。」

 

蛍を制するように、静かに続ける。

 

「モンドリーグは、単なるリーグというだけではない。」

 

 

少しだけ言葉を選ぶように間を置くアルベド。

 

僕は自然と背筋を伸ばして身構えた。

アルベドの視線が窓の外、再び降り始めた吹雪の向こうへ向く。

 

「風魔龍と対抗できる存在を見極めるためのものだ。」

 

その名が落ちた瞬間、室内が静まる。

 

「対抗って?」

「今の風魔龍は、制御を失っている状態だ。」

 

首を傾げる蛍。

 

「止める必要がある、そういう事?」

「そうだ。」

 

アルベドはこちらを見る。

 

「君たちがここまで来たこと自体がその答えに近い。」

「そして、僕等もそのための協力者だ。」

 

 

そこまで言ったところで…

 

部屋の隅にあった機械が電子音を立てた。

アルベドが画面を確認し、眉をわずかに動かす。

 

「電報…ガイアからだ。」

 

アルベドは、出て来た紙をそのまま読み上げる。

 

「騎士団が動いた。表向きは正規作戦だが、内部はかなり強引だ。」

 

「作戦の実行を早める。そっちに二人もいるだろ?合流できるなら風龍廃墟に急いでくれ。」

 

そこまで言い終えて、アルベドは紙を机に置いた。

 

 

「…君達。準備はいいかい?」




アルベド:モンド最強のジムリーダー。普通に異常な難易度の手持ちかも?アルベドは生命を生み出すレベルの錬金術師だから二匹の化石ポケモンは持ってそうだし、キラフロルは擬似陽花そのものなので作者は手持ちの完成度が高いと思っている。

どくでまひ上書きは気にしないでください。現在のポケモンではできません。

何気文字数すっごい行きましたね。
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