お兄ちゃんを置いて、私は階段を駆け上がる。
ここまで来たなら、迷っている暇はない。
階段を抜けて開けた場所に出た瞬間、視界が一気に広がった。
星空に近い高さ、暴風に囲まれた円形の空間。
その中央に、巨大な影があった。
「見ろ、居たぞ!」
「あれが、風魔龍……!?」
青と緑の鱗に覆われた巨大な龍。
その前で、一人の少年がライアーを弾いている。
風魔龍は、その音楽を静かに聴いているようだった。
ウェンティ…。
「やあ。やっと来たんだ。」
ウェンティは、私に気づいて振り返る。
「こんな所で何してたの。」
「そもそもどうしてこんな場所にいるんだ?」
私とパイモンの問いかけはのらりくらりと返される。
「ちょっとトワリンをなだめていただけだよ。」
「トワリン…そう言えばそんな名前だったね。」
今までと変わらない軽い声。
だけど、その額にはうっすらと汗が滲んでいる。
その時、風魔龍…もといトワリンの身体が大きく震えた。
「うわぁっ!?」
その巨体は飛び上がり、ウェンティは風圧を受けて転びかける。
パイモンはフィールドの端まで吹き飛んでいく。
見上げると、翼を広げた龍が居た。
星空を背負うトワリンのその影は、十二分な威圧感を放っている。
「…見える?あれが暴走の原因だ。」
ウェンティの指がトワリンの額を差す。
そこには紫の棘のような出っ張りが確かについていた。
この前のアビスってやつだろう。
「あれを砕いて、傷口にこの薬をかければ万事解決って事さ。」
ウェンティが取り出した小瓶を軽く揺らす。
「…分かった。」
そのためにまず戦って弱らせないといけないのは分かっている。
だって、こんな展開お約束通りだから。
私はモンスターボールを手に取った。
「戦える?」
「まさか。僕に出来ないって言うの?」
ウェンティは余裕そうに返事をする。
謎の乱気流が空全体を覆う。
空中でこちらを睨むトワリンに、私は吹っ掛けた。
「「行くよ。トワリン。」」
お兄ちゃんでもないのに不思議と台詞が合う。
暴風のような伝説のポケモンが、ついに私達に牙を剥く。
咆哮が響き…
風魔龍 トワリンが あらわれた!
「バタフリー!」
「ムクホーク!」
放られたボールと共に出現する複眼の蝶、猛禽の鳥。
「バタフリー、まずはおいかぜ!」
バタフリーが舞い上がり羽ばたく。
空気の流れが一変し、風が私達の背中を押した。
「ムクホーク、ビルドアップ!」
ウェンティのムクホークは全身に力を溜め込む。
準備は上々。
流石にトワリンは、こちらを待ってはくれなかった。
「来る。」
「分かってるよ。」
旋回したトワリンがその速度のままにこっちに突撃してくる。
…つばめがえしだ。
「リフレクター!」
「インファイト!」
半透明な障壁が勢いを弱め、ムクホークがすれ違いざまに攻撃を仕掛けた。
ギリギリで突進を躱していく…
すぐ横を爆風が通り過ぎた。
しかし体格差の差かそれとも種族値の差か、こっちの攻撃はほとんど効かなかったらしい。
「全然効いてない……」
これが、伝説のポケモンの強さ。
トワリンを中心に風が吹き荒れる。
周囲に、今までの戦いで見た事のない程大量の竜巻が出現した。
見た所、物理より特殊方面の方が強そうだ。
「ちょうのまい。」
「ビルドアップ。」
まだ勝負に出る時じゃない。
勿論トワリンの攻撃も来る。
今度はりゅうせいぐんだ。
さっきの竜巻と相まって逃げ場がほとんど無い。
このままだとバタフリーだけでなく私も巻き込まれるかもしれない。
轟音を伴って無数の流星が降り注ぐ。
地面に叩きつけられた風圧で、足元の石畳が削れ飛んだ。
「バタフリー。ひかりのかべを重ねて!」
半透明の障壁が幾重にも展開され、攻撃から身を守る。
「ムクホーク、ふきとばしだよ!」
強風が流星の軌道を逸らし、威力を下げていく。
どれもこれもゲームじゃ思いつきもしない戦術。
でも少しは分かってきた。
純粋な戦いなら私の一番の得意分野だから。
やがて振り注ぐ流星が止む。
「てだすけ。」
ウェンティと短く目を合わせた。
ウェンティのムクホークは、やはり相棒なのか私のどのポケモンよりもレベルが高い。
今は私が支援に徹するべきだ。
「任せて。ブレイブバード!」
掛け声に合わせてトワリンにムクホークが突撃し、額の棘に命中した。
「いかりのこな。」
バタフリーが舞い、返しのエアスラッシュがムクホークから逸れる。
額の棘に亀裂の入ったトワリンは、空中で大きく旋回した。
突然、辺りの乱気流が無くなるのを感じる。
「なんか、来る?」
「あれは…「終天のフィナーレ」。」
「何その名前。」
「駄目だった?僕がつけたんだけど。」
そう言うウェンティの顔は、いつもと違って真剣なままだった。
今は間違いなく軽口を叩く場合じゃない。
空の高みでトワリンの身体が発光し始める。
雲が、風が、集束していく。
すぐに、無数の風弾が星のように輝いて落ちて来た。
落ちる星々は爆風をまき散らし、着弾した場所も危険地帯に変わっていく。
幸い浮いているバタフリーとムクホークならスリップダメージは問題ないだろう。
「トワリンは、ここが一番の隙になるはずだ。」
ウェンティがそう言ってすぐに、強風が通り過ぎ、空を覆う量の光が落ち尽くす。
見れば、トワリンの動きが明らかに鈍っている。
それでも圧倒的な存在感は消えない。
安堵より先に冷静な判断が頭をよぎる。
「バタフリー、近づいてねむりごな!」
バタフリーが急上昇し、トワリンの視界いっぱいに粉を撒く。
「今っ!」
「勿論!ムクホーク、ギガインパクト!」
バランスを崩して降りてくるトワリンの額にムクホークが全力で突撃する。
衝撃。
棘が、高い音を立てて完全に砕け散った。
「……トワリン。」
ウェンティが駆け出す。
私は後から追い抜いて、倒れたトワリンに飛び乗っていく。
「パス!」
ウェンティの手から硝子の小瓶が投げられる。
私はそれを受け取って、その中身を暴れるトワリンの紫の光に全部零した。
傷口からすごく嫌な感じのする闇が吹き出し…
風魔龍トワリンはついに大人しくなった。
トワリンは、大きな身体を伏せたまま動かない。
さっきまでの威圧感は影を潜め、ただ深く息をしているだけだった。
ウェンティが、そっとトワリンの額に手を置く。
労わるような声だった。
「長い間、無理させちゃったね。」
その手つきは、まるで長年の友達に向けるものだ。
私はその距離感に、少しだけ眉をひそめた。
ウェンティは懐から、ひとつの古いボールを取り出す。
青と白に、鳥のような模様や翼のような模様が刻まれている。
……見たことがないデザインと形だ。
ウェンティはトワリンにそのボールを押し当てる。
「おやすみ、トワリン。」
変わらず光が走り、巨大な風魔龍の身体がゆっくりと粒子に還っていく。
「……」
思わずその光景から目が離せなかった。
「ねえ。」
私は我慢できずに口を開く。
「トワリンはあなたのポケモンだったの?」
ウェンティは一瞬だけ目を逸らして、それから軽く笑った。
「うん。昔からの仲だからね。」
「……そう。」
納得はしていないけど、これ以上踏み込むのも違う気がする。
そうしてウェンティは私の方に向き直った。
「助かったよ。君が居なかったらもっと酷いことになってた。」
「…。」
頭の中で考え続けた結果、一つの結論にたどり着く。
私ははっきりと聞いた。
「もしかして、貴方がチャンピオン?」
そして、ウェンティはまるで何でもないことのように言った。
「そうだよ?僕がモンドのチャンピオンだ。」
そこに着いた時、僕はちょうど決定的な瞬間を見てしまったようだ。
辺りには戦闘が終わった後の妙に澄んだ静けさだけが残っている。
目の前の蛍が、ゆっくりと振り返った。
「お兄ちゃん…!」
その表情はどこか強張っていた。
「誤解しないでね。」
軽い口調で言うウェンティ。
「本当なら僕達だけで解決しておきたかったんだけどね。」
蛍が眉を潜める。
「君たちが思うほどに、僕の立場も自由じゃないんだ。」
辺りを沈黙が包む。
「勝負して。」
そんな時に蛍はそう言った。
「チャンピオンなんでしょ?」
ウェンティはすぐには答えなかった。
トワリンのいた場所を一度だけ振り返り、深く息を吐く。
「トワリンは今はまだ戦える状態じゃないから、僕の手持ちは一体削れて五体。」
帽子の角度を直すウェンティ。
「君たちは二人で四体ずつ持ってたよね?」
彼は条件を並べていく。
「つまり八対五。せっかくだから厳格なルールも無し。なんならそっちはタッグバトルでもいい。」
「トワリンを共に救ってくれた仲だし……これで君たちが勝てたら、特例でチャンピオンランクにしてあげてもいいよ。」
そこまで言いおえて顔を上げたウェンティは、いつものおどけた表情と口調に戻っていた。
蛍がこちらを見る。
その目に迷いはない。
俺は短く頷いた。
「う~ん、この後もそんなに暇じゃないからね。」
三人は、それぞれ静かにボールを手に取る。
「手短に終わらせてあげようか。」
「へぇ、私とお兄ちゃんだって負けてないよ?」
最後の確認は済んだ。
「ウェンティさん…!」
「勝負!」
チャンピオンの ウェンティが しょうぶをしかけてきた!
「じゃ、行こうか!」
ウェンティはそう言って躊躇なくボールを放つ。
「ムクホーク!エルフーン!」
鳴き声と同時につむじ風が辺りを走る。
「あのムクホーク、あれで一体目…。」
変わらず飄々とした表情のウェンティを蛍が睨む。
今までにあの人がムクホーク以外のポケモンを出したのは見たことがないけれど、あの一体だけでも十分すぎる程に強い。
「…問題ない。」
「うん。」
一瞬の目配せの後で蛍はボールを投げ放った。
僕もすぐにボールを握りこみ前に突き出す。
「バタフリー!」
「ダグトリオ!」
宙に舞うバタフリーと地面を割って飛び出すダグトリオ。
それを見たウェンティは帽子を押さえ、指示を飛ばしてくる。
「じゃあまずは…おいかぜ!」
エルフーンがくるりと宙返りし、白い体毛を逆立てる。
吹き始めた気流が周囲を覆う。
「ムクホーク、はがねのつばさ!」
翼が金属光沢を帯び、ムクホークがダグトリオに突っ込んで来た。
「ロックブラスト!」
岩が連続して撃ち出されるが、攻撃は互いに掠っただけ。
風に乗ったムクホークの動きはやはり想像以上に速い。
「バタフリー、おいかぜ!」
風の流れが拮抗する。
いくらか見切れるようになった相手の動きに安堵した瞬間。
「アンコール。」
エルフーンが飛び上がると同時にバタフリーの動きが縛られる。
「うげっ!?」
ウェンティはやはりそのまま畳みかけて来た。
「ムクホーク、ローキック!」
ムクホークが爪を立てながら今度は低空飛行でやって来る。
おいかぜが無くなった筈なのに、何故かさっきより断然速い。
まだ全然トップスピードじゃなかったのか。
「…うちおとす!」
岩による咄嗟の一撃。
確かに当たったが、同時に爪撃がダグトリオを叩き潰す。
速度の乗った攻撃を真正面から受けたダグトリオは、一撃で動けなくなった。
「……ダグトリオ、良くやった。」
ムクホークは大きく体勢を崩して着地する。
明らかに効いているが、こっちはやられてしまっている。
「う~ん、なかなかやるね?」
ウェンティの声は余裕を持ったままだ。
「そっちこそ、まだ全然本気じゃないでしょ?」
「まあね。」
そんな二人を前に僕は次を繰り出した。
「任せた。カメール!」
少しのにらみ合いの後、今度はこっちから仕掛けに出る。
「ハイドロポンプ。」
轟音と共にカメールが水柱を放出した。
「ブレイブバード!」
ムクホークは横に逸れ、勢いのまままた向かって来る。
「ふきとばし!」
風にあおられたムクホークが激しい水を浴びる。
蛍が的確にカバーしてくれたようだ。
バタフリーへのアンコールの影響も、もう無くなっている。
「うげっ…!」
ウェンティが初めて一瞬慌てた素振りを見せる。
「ねむりごな!そっちにブレイブバードね!」
しかし、変わらず的確に詰めて来た。
エルフーンが動いた瞬間にバタフリーのふきとばしが中断される。
更には、その指示でムクホークが急に目標を変える。
空中でバランスを失いながらの無理やりな突撃がバタフリーに衝突し……
二体の影が地面に落ちた。
「相打ちか。……いやぁ、よく頑張ったよ。」
ウェンティは倒れたムクホークと、更にエルフーンをボールに戻す。
蛍も無言でバタフリーを戻した。
「いやぁ、本当にいい連携だね。」
彼は迷いなく次のボールを二つ放つ。
「そろそろ、真面目にやらないといけなくなってきたかな?」
姿を現す、赤いカマキリと緑のフクロウ。
「ハッサム、ジュナイパー。」
こちらも、蛍が迷いなくボールを投げた。
「リザード!」
睨み合いの末、カメールが最初に動く。
「こごえるかぜ。」
相手の周囲に冷気が広がる。
「ハッサム、でんこうせっか。」
赤い影が視界を裂いた。
回避しづらいはずなのに、ハッサムは冷気の縁をかすめるように滑り込んで来る。
「…バレットパンチ。」
鋼の拳がカメールに叩き込まれる。
「…からにこもる!」
甲羅が鈍く鳴り、衝撃を正面から受け止める。
慌てながらも蛍に視線を送る。
「任せて!リザード、かえんほうしゃ…」
「あやしいひかり。」
ジュナイパーから放たれた光がリザードを包む。
「えっ!?」
判断が遅れた一瞬で、ハッサムの拳が再び振り抜かれカメールを吹き飛ばした。
「カメールっ!」
「ジュナイパー、はっぱカッター。」
体勢を崩したところにさらに追撃。
鋭い葉が飛来し、カメールの身体を切り裂く。
「まだ…!」
立て直そうとした瞬間。
「ハッサム、でんこうせっか。」
再びカメールに接近する赤い影。
「蛍!」
「今度こそ…オーバーヒート!」
リザードがハッサムに正面から炎を叩きつける。
バックステップで躱そうとしたが、当たった少しの炎だけでもハッサムの体力を大きく削る。
しかし代償も大きい。
リザードの息が荒くなり、炎の勢いが明らかに落ちている。
「勝負に出るぞ……カメール、ウェーブタックル!」
残った火の粉を水を纏ったまま突っ切っる。
これで押し切る…そのつもりだった。
「かげぬい。」
気づいた時には遅かった。
影が、二体の足元を絡め取る。
「しまっ……!」
ウェンティの声が響く。
「残念。ハッサム、ダブルウイング!」
二条の風が交差する。
金属の翼が空を切り…
現実を理解した時には既に、カメールとリザードは倒れていた。
「…戻れ。カメール。」
「…戻って、リザード。」
正面には並び立つハッサムとジュナイパー、そして帽子を直すウェンティの姿。
「うんうん。悪くない。」
まるで考え事があるかのような顔をするウェンティ。
「でもね…チャンピオンっていうのは、その程度で負けるものじゃ無いんだよ?」
ウェンティのその声は余裕に満ちていた。
僕は、次のボールを取り出してそれに相対する。
「ここは頼んだ、ヤバチャ。」
「イワンコ、行こう。」
僕のヤバチャが静かに浮かび上がる。
隣では蛍のイワンコが地面に降り立った。
「イワンコ、ステルスロック。」
「ヤバチャ、シャドーボールだ!」
蛍に合わせていきなり仕掛けるが、相手の速度によってあっさりと回避されてしまう。
ウェンティは陣形を崩す気が無い様だ。
「ジュナイパー、シャドーボール!」
黒い球体が静かに撃ち出される。
「ダブルウイング!」
迫る翼が唸りを上げて空を切り裂く。
「あまいかおり。」
「ストーンエッジ。」
正面のハッサムを紅茶の臭いが包み…
鋭く尖った岩が跳ね上がりハッサムの装甲に掠る。
避け辛い筈なのに、ほとんど威力を流されているようだ。
ウェンティは指示を止めない。
「でんこうせっか。」
赤い影が、一気に踏み込む。
「バレットパンチ!」
「こらえる。」
拳が振り抜かれ、イワンコが吹き飛ばされる。
「……まだやれる。」
それを、イワンコは地面に爪を立てて踏みとどまった。
「シャドーボールだよ!」
「ふいうち!ヤバチャはふういんして。」
ウェンティに続いて蛍の指示が飛ぶ。
「…頼んだヤバチャ!」
考えるより先にその通り指示し…。
ヤバチャの体が怪しく光り、ジュナイパーの放とうとした影が霧散した。
その体を後ろからイワンコが襲う。
ジュナイパーは再度引き下がったが、今の一撃だけでもかなり入っただろう。
ウェンティがはっきりと目を見開く。
「僕としたことが迂闊だったね。」
しかしその口調は、一拍の沈黙の後すぐに調子を取り戻した。
「でも…決めに行くよ。」
ウェンティがそう呟く。
「ハッサム、ギガインパクト!」
全身の力を乗せた突撃。
僕達が気付いた時には、イワンコはもう避けられない位置に居た。
技の発動も間に合わないだろう。
嵌められたのか…?
「イワンコっ…!」
蛍の声と僕の判断は同時だった。
「ヤバチャ!サイドチェンジ!」
衝撃の直前、イワンコとヤバチャの位置が入れ替わる。
圧倒的な威力の突進でも、ヤバチャにはただ弾かれるだけだ。
反動でハッサムの動きが止まる。
「イワンコ、ほのおのキバ!!」
炎を纏った牙が、硬直したハッサムに深く突き刺さる。
鋼の身体はついに膝をついた。
「……戻って、ハッサム。ジュナイパー。」
静かに掲げられたボールに光が吸い込まれていく。
「今のでイワンコの方は流石に落とせたと思ったんだけど…僕もそこまで頭が回っていなかったね。」
ウェンティはは再び穏やかに笑う。
「まさかここまで追い詰められるとは思わなかったよ。」
僕と蛍も、既にボロボロなヤバチャとイワンコをボールに戻す。
「もう十分頑張ったよ。」
「最後は私を信じて任せてね。」
最後のボールを握りしめる。
「…ロコン、出番だ。」
同時に蛍も頷いた。
「モココ、お願い。」
茶色の毛並みのロコンが前に出る。
その隣で、少し震えながらもモココが立つ。
ウェンティはその様子を見てふっと息を吐いた。
彼も、残った二つのボールを軽く放る。
「エルフーン、チリーン。」
風の妖精と鈴の音。
「……ここで来るか。」
ウェンティはチリーンを一瞥してからこちらを見る。
「最初から出し惜しみはしないつもりだったんだけどね…。」
その冗談めいた声から唯ならぬ気配を感じた。
「切り札まで使わされるとは思ってなかったよ!」
ウェンティがずっと抱えていたライアーを手に取り爪弾く。
ライアーの下部についていた宝石、キーストーンが輝きを帯びる。
「僕の風に答え、音色を奏でてくれ。チリーン、メガシンカ!」
光が弾け、鈴の音が耳鳴りのように響いた。
「……メガチリーン?そんなの聞いたこと無い…!」
困惑する蛍をよそに僕はその様子を見て覚悟を決める。
ある物を見せても、ロコンは強く頷き返した。
「いいんだよな?ロコン。」
僕は、熱を閉じ込めたような石をロコンに投げ渡す。
光が、ロコンを包む。
白い炎が九つの尾となって揺らぎ…僕の前にはキュウコンが立っていた。
「お兄ちゃん…!?ずるい……。」
考え事を辞めてこちらを睨んでから、蛍はモココと向かい合う。
「私達、ここまで来たんだよ。」
その声にも、強い覚悟が感じ取れた。
「チャンピオンを相手に、貴方は中間進化で終われるの?」
蛍の無茶ぶりに、モココが必死に歯を食いしばる。
理屈も条件もない根性論。
それでも、モココを眩い光が包んでいく。
「……デンリュウ。」
黄色の体、尻尾についた赤い球が力強く地面を打つ。
ウェンティはただ感心した様子で見ていた。
「これで十分互角。」
蛍がそれに睨み返す。
「このファイナルラウンド。勝たせてもらうから!」
「そうこなくちゃ!」
向かいには、エルフーンとメガシンカによって豪華になったチリーンが並ぶ。
「まずは一手、置いておこうか。」
チリーンの鈴が澄んだ音を鳴らす。
「みらいよち。」
何も起きない。
しかし、罠を仕掛けられたようだ。
「多分、そことあそこ…、良し。」
そう言って蛍が前に出る。
ウェンティとは対照的な覚悟のこもった顔だ。
「デンリュウ、じゅうでん。」
電流が走り、尾の赤い球が強く輝く。
「キュウコン、ニトロチャージ。」
白炎を上げてキュウコンが地面を蹴る。
熱と速度を纏った突進が、エルフーンを正面から捉えにいく。
「かみなり!」
溜め込まれた電気が雷となって相手に落ちる。
「エルフーン、コットンガード。」
膨れ上がった綿毛が、雷も炎も纏めて受け流した。
「マジカルシャイン。」
反撃の光が真正面からキュウコンにぶつかった。
体勢を崩したその横合いにメガチリーンが浮かび…。
「ばくおんぱ。」
メガチリーンの鈴の音が衝撃を伴って空間を響かせる。
「でんじほう!」
デンリュウは踏みとどまった。
隙を潰すように放たれた電撃。
「ラスターカノン。」
それも、銀色の光線が正面から打ち破る。
完全に相殺されてしまった。
「今だ、キュウコン…だいもんじ!」
反撃。こっちからもだいもんじだ。
「やどりぎのタネ。」
選択を焦ったせいか、その間にもキュウコンにエルフーンのやどりぎが絡みつく。
しかし、白炎が今度こそメガチリーンを正面から包んだ。
「……通った!」
だが。
「じこさいせい。」
落ち着いたままのウェンティの声と共に、メガチリーンのダメージも無かったことになる。
「その程度じゃ、まだ勝たせるわけには行かないよ?」
ウェンティは素直にそう言った。
一拍の沈黙。
「デンリュウ、でんじほう!」
「キュウコン、あやしいひかり!」
二方向からの連携。
だが。
「二人共、ひかりのかべ。」
エルフーンとメガチリーンによって、二重に張られた障壁がそれを完全に弾く。
「キュウコン、オーバーヒート!」
「合わせてでんじは!」
更に畳みかけて決めに行こうとした、その瞬間……
「……まずいっ!」
蛍の声が跳ねる。
空間が歪む。
「デンリュウ、ひかりのかべ……!」
忘れたころにみらいよちが発動する。
咄嗟にキュウコンが身を翻す。
直撃は避けたが、オーバーヒートの構えは完全に崩れる。
「でんこうせっか。」
エルフーンが、一直線に踏み込んだ。
「サイドチェンジ。」
ウェンティの合図で、二体の位置が入れ替わる。
至近距離に現れたのはメガチリーン。
「かえんほうしゃ……!」
「ばくおんぱ!!」
キュウコンが動くよりも先に、音が世界を塗り潰した。
「キュウコンっ……」
キュウコンとデンリュウが地に伏せる。
ウェンティは、その光景を見下ろして静かに息を吐いた。
「……そこまでだよ。」
そう言って、帽子のつばを指で押さえる。
「……負けた。」
蛍が、悔しそうに唇を噛む。
「二人とも十分すぎるくらいだ。正直、ここまで食い下がられるとは思ってなかったよ。」
相変わらずの軽口。ただ、冗談には聞こえない。
「でも、まだ本気すら出させられなかった。貴方、まだ一段上があったでしょ?」
「……そこまで気付いていたなんて。」
ウェンティは否定しなかった。
ただ少し困ったように笑う。
まだ彼にはどう頑張っても勝てないようだ。
「次はしっかりチャンピオンとして待ってるからさ。」
蛍は小さく息を吐く。
「なら、そう約束しておいて。」
「約束ね…覚えておくよ。」
ウェンティは、そこまで話すと僕の方に近づいて来た。
「君達もそろそろ、この世界で目的は見つけられたのかな?」
思わず表情がこわばってしまう。
早速、僕より先に蛍が質問を口にした。
「なんで私とお兄ちゃんが外から来たって知ってるの…!?」
「…そんなに怪しむことじゃないって。僕はただ、君達が空から光と共に降ってきたことしか知らないよ。」
「……本当に、それだけ?」
蛍の視線は鋭かった。
疑いというより、確かめるような目だ。
「残念だけど、僕だって何でも知ってる神様って訳じゃないからね。」
そんなに嘘をついているようには見えなかった。
ウェンティは夜空を見上げる。
「ただ、普通じゃないっていう事だけは分かるんだ。僕なんかよりもずっとね。」
視線が、僕と蛍を順に捉える。
「君達からはこの世界の人間が持つものとは少し違う何かを感じる。」
「……そう?」
蛍はそれだけ言って、視線を逸らした。
「さて。」
空気を切り替えるように、ウェンティが手を叩く。
「騎士団も、街も、そろそろ落ち着かせないとね。主役はもう十分働いたでしょ?」
直後、ウェンティの放ったボールから強い風が吹きだす。
夜空を割るように現れた大きな影の名は…トワリン。
さっきまでの暴風は嘘のように静かに、翼を畳んでいる。
「……大丈夫か?」
「勿論。」
ウェンティはそう答えて、トワリンの首元を軽く叩いた。
「さあ、乗って。送っていってあげる。」
僕たちはトワリンの背に乗る。
三人も乗ると結構厳しい広さだ。
風龍廃墟を覆う雲を抜けると、モンドの景色が一望できた。
風車がそびえる、湖の上のモンド城。
行かなかったけど東に見える海や港。
遠くに見える赤い屋根の街はアカツキシティ。
「綺麗でしょ?」
ウェンティが、前を向いたまま言う。
トワリンが翼をはためかせ、旋回しながら降りていく。
やがて近場に静かに降り立った。
「ここまでだね。」
ウェンティは軽く手を振る。
周りを見れば、何人かの影が集まっていた。
「オイラ心配だったんだぞ!」
「二人共!」
「無事だったか。」
駆け寄ってくる皆の顔を見て、胸の奥がようやく落ち着く。
「うん。何とかね。」
少し後ろから、ジン団長が姿を現す。
マントを翻しこちらを見て静かに頭を下げた。
「私が癒えた事ではないが……騎士団としても、君たちには感謝を示そう。」
その後ろでは、クレーはアルベドの傍で寝ていた。
ノエルやモナは安堵したように息を吐き、ロサリアやフィッシュルは腕を組んだままどこか含みのある笑みを浮かべていた。
「まったく、大仕事だったわね。」
「でも、街は無事みたい。」
ウェンティは一歩下がり、皆を見渡す。
「主役が揃ったところで一件落着かな。」
その声に、誰かが小さく笑った。
張り詰めていた空気が、風にほどけていく。
「今日はもう解散にしよう。」
ウェンティがそう告げる。
ウェンティは最後に帽子を押さえ軽く一礼した。
「風は、また吹く。それまでは、しばしのお別れだね。」
ウェンティが乗り込むと、トワリンが静かに翼を広げる。
風と共にすぐ、その姿は夜空へ消えていった。
トワリン:「人々に風魔龍として崇められ、数百年前からモンドの空を守っている。
山を割り、モンドに春の風を呼んだとする伝説も存在するという。」
原作よりサイズダウン及びデフォルメがされているというドラゴンひこうの伝ポケ。この世界では種族名がトワリンとなっている。少々目つきが悪い気もするが、キュレムと比べれば大差ない。
攻撃防御より特殊面が高く、特性はメガシンカが存在しないのにもかかわらず素でデルタストリーム。
これなんてチートだよ?
専用技は「終天のフィナーレ」 威力100命中100、ひこうタイプの特殊技で更に相手をうずしおやしおずけ等に近い毎ターンHPが1/8減る状態にする効果あり。使うと全ステータスが1ダウンするがそれでもチート技。本作やZA等のリアル路線ならダメージゾーンの設置となる。
ウェンティ:全ての元凶(違)。原作と違い神では無く、またトレーナーとしての強さは完全な実力によるもの。とはいえ年齢と外見が合わない為人間ではない可能性もある。
ただし年齢と外見の差はルザミーネ等の例が存在する為ウェンティが人間である可能性は否定できない。
なおトワリンを入れているのはジェットボールですが、深い意味は全く無い(他に良さげなボールが無かったとも言える)。
弓のジュナイパーや風とつく風鈴のチリーンなどの要素もあり、タイプをずらした上で全体的に飛べるポケモンで揃っているためパーティは最適解かと。
本当のあとがき。
少なくとも一年間の間休載したいと思います。
一年後にUAが20000くらい行っていたとか、評価が100を超えたとかなら更新予定。
いつか書きたい(かった)物集。私の意思をもし次ぎたい人がいたらどうぞ。
・ミ〇レシティみたいなロワイヤルがあるフォンテーヌ廷テラスタル有レギュレーション
・聖火スタジアムでの蛍のキョダイリザードンVSマーヴィカのキョダイエースバーン
・謎のポケモン達(ウルトラビースト)を連れ各国のリーグを次々と制覇したというのに、気配が残らない謎のトレーナースカーク
・古の聖山にて暴走イネファAIの繰り出す楽園の守護竜VS覚醒ちび ~♪戦闘ゼロラボ~