「ディグダ!」
「ニューラ!」
掛け声とともに、互いのモンスターボールからポケモンが飛び出す。
地面から顔を出したもぐらもどきと、鋭い爪を持つ狩人のような影。
インパクトには大きな差を感じるが、問題無い。
ニューラ。いきなりエース格を出してきたのか、それとも二つ目のジムの難易度がインフレしているのか…といった強さだ。
「つめとぎ…そしてきりさく。」
ニューラは爪に光を纏わせ、こっちに走って来た。
速い…が、こっちのディグダはその速度を上回る。
「避けてマッドショット!」
爪を下がって避け、泥の弾丸を飛ばす。
ニューラは跳び退いて回避したが、泥が頬にかすりわずかに表情が揺らいだ。
「今だ、じならし!」
地面の振動がニューラを襲う。
だけどロサリアは落ち着いたまま、静かに命令した。
「…跳んでだましうち。」
振動を避けて跳んだニューラの姿が掻き消える。
「ディグダ!」
ディグダとの視線が交差する。
地面に潜った事で、ニューラの爪は空を切った。
「今だ、あなをほる!」
コートの下がわずかに盛り上がったかと思うと、
次の瞬間、地面を突き破ってディグダが飛び出した。
「…ッ!」
土煙と共に直撃。
ニューラが宙を舞い、倒れ込む。
すると、その体が揺らいで輪郭が崩れた。
黒い子狐型のポケモン…ゾロア。
いきなりニューラはおかしいと思ったが、そういうトリックか。
「やっぱり。イリュージョン…!」
蛍の声が響く。
あいつは最初から気づいていたんだろう。
「……思ったより骨があるわね。」
ロサリアは淡々とボールを構え、ゾロアを戻した。
「次よ。」
放たれたボールから現れたのは、魔女のようなシルエットの黒い鳥。
ヤミカラス、ひこうタイプか……
「後は大丈夫。戻れ。」
まだいわ技を覚えていないディグダじゃ分が悪いだろう。
ディグダをボールに戻す。
「行ってこい!ゼニガメ!」
ゼニガメは自信満々で飛び出して来た。
ロサリアが指を鳴らす。
ヤミカラスはゼニガメを睨んだ後、空気を裂きながら飛んで来る。
最初のは技のにらみつける…。
そしてこの構えは多分、つつく攻撃。
「からにこもって防げ!」
甲羅に引っ込み、直撃を受け止める。
甲羅が火花を散らす。
ぼうぎょ1段階ダウン程度じゃゼニガメの甲羅は突破できない。
ここで追撃を入れる!
「…そのままこうそくスピン!」
加速した甲羅がヤミカラスへ突っ込む。
その一瞬、ヤミカラスが一気に飛び上がった。
あの位置じゃ普通当てられない…でも、速度が乗った今なら届く!
「今だ、とっしん!」
勢いのまま、甲羅に入ったゼニガメは一気に跳躍する。
「っ…つばさでうつ、よ。」
迎撃態勢に入ったヤミカラスに、高速回転するゼニガメが突っ込んだ。
両方が吹き飛んで落ちていく。
衝突音の後…一瞬の沈黙の中で、ロサリアの指を鳴らす音が響いた。
ヤミカラスの爪に灯る黒い光。
来る…!
さっきの衝撃でゼニガメは甲羅から出たままだ。
…ここは迎え撃つしかない。
「ゼニガメ、みずのはどう!」
ゼニガメが咄嗟に飛ばした水の円は、波紋を描いてヤミカラスに命中した。
それとほぼ同時に、ゼニガメも仰け反る…
「何だ…!?」
床を見れば、ヤミカラスの影がゼニガメの所まで伸びていた。
…かげうちか。互いに地面に付いていなかったから気づけなかった…!
そして、ゼニガメとヤミカラスの二匹は地面に落ちた。
甲羅から落ちたゼニガメはすぐに起き上がって相手の方を見たが、ヤミカラスは動かない。
もうのびているらしい。
ロサリアは少し沈黙して、それから息を吐いた。
「……いいわ、その胆力。」
ロサリアは静かに最後のボールを取り出した。
緑の中に黒と赤の映えるボールから、闇のようなエフェクトと共に黒影が飛び出した。
「じゃあ、本気を出させてもらうわ。ニューラ。」
ゾロアが化けてるって事はそういう事だと思ったが、切り札はニューラだ。
ゼニガメはまだ戦おうと立ち上がったが、よろけてしまった。
「ゼニガメ、無理せず休め。」
ボールの光がゼニガメを包む。
代わりに、僕はもう一つのボールを握りしめた。
「ロコン、最後は頼む!」
飛び出したのは6つの尻尾の茶色の狐。
ロサリアは僅かに口角を上げた。
「まずはひのこ!」
「ニューラ、こおりのつぶて。」
氷と炎が空中でぶつかり、白い蒸気が上がる。
「ロコン、ほのおのうず。」
「こうそくいどう。」
加速…!恐らくそのまま追撃が来る。
ほのおを吹こうとしたロコンに少し違った指示を出す。
「自分の周りにほのおのうずだ!」
ロコンが鳴き声を上げると、足元から炎が螺旋を描くように広がる。
ニューラは勢い余って炎に飛び込んだ。
「ちっ……抜けてメタルクロー。」
ニューラは、地面にこおりのつぶてを撃って強引に突破してくる。
「ロコン、かえんほうしゃ!!」
ロコンなら未完成ながらかえんほうしゃを使える。
…これで決めよう。
放たれるのは、コートを焦がすような赤い輝き。
銀色の閃光が、その炎を割って突き進む。
そして、コート全体を覆うような爆風が起こった。
「ロコン!!」
火の粉が舞い、風が止む。
ニューラは力尽き、倒れた。
その体をボールの光が包む。
ロコンは、傷付きながらも確かにまだ立っていた。
一陣の風が吹き抜け、鐘の音が鳴った。
ロサリアはポーチから銀色のバッジを取り出し、指先で弾くように投げる。
「貴方の勝ちよ。」
受け取ったバッジには、氷の槍が彫られている。
1人目に限らずこの国のバッジは全部中二デザインなのか。
「強かった…」
「お兄ちゃんナイス!」
「凄かったぞ!!」
「…で、次は誰なの?」
「えっ、じゃあ私!」
「あーっ!蛍ちゃんずるい…!」
気づけば蛍はすでにコートに立っていた。
ほんの数分前まで戦っていたコートの空気が、また緊張で満たされていく。
「バタフリー、行こう!」
光と共にコートに蝶が舞い降りる。
ロサリアは無言でボールを投げた。
「バタフリー。ちょうのまいから連続でエアスラッシュ。」
一瞬でバトルが始まった。
…と思った次の瞬間には、風の刃の前にゾロアが地面に崩れる。
「は、速いぞ…!?」
「一撃……?」
「いや、蛍ちゃんのバタフリー、動きが見えなかった…!」
ロサリアが目を細め、次のボールを取り出す。
「やるじゃない……。」
数分後、コートに立っていたのは蛍のヒトカゲだった。
「……完敗ね。」
ロサリアが微笑み、バッジを蛍に渡す。
蛍はそれを受け取り、振り返ってこちらに手を振った。
「お兄ちゃん、私も勝った!」
「良かったな…」
蛍は、ほとんどダメージを受けずに相手の3体を撃破した。
今の僕には、全く勝てそうになかった。
続けて、アンバーもロサリアと戦った。
途中までは押されていたが、ヤミカラスとの空中戦を制したヤヤコマがヒノヤコマに進化し、ニューラを押し切った。
バッジを手に持ったアンバーも駆け寄って来る。
「やったー!」
「蛍には負けるけど、相当上手かったな!」
「最後のは、ほのおのうずの上昇気流を利用してとびあがるを強化した…?」
「多分そう。まだ無理だと思うけど、それにはがねのつばさとかを合わせればもっと…」
「昔から風を読むのは得意だったからね!…って二人とも、そんな分析は今いいでしょ!」
「そうだぞ!」
…ついやってしまった。
「うん。えーと、僕達はこれで二つ目のジムも突破した事になる。」
「おめでとう、か?」
「万歳!」
「よし。」
「…これでチャンピオンも目前…!!」
「まだ早いよ…」
モンドの夕暮れの下、三人は互いを称えあった。
「…もう仕事の時間ね。もう聞きたいことは無いでしょう…?」
ロサリアはそう言って、取り出したボールからマニューラを出すと槍を持ってどこかへ去っていった。
教会を出てポケモンセンターに寄った後、空はそろそろ群青色に染まっていた。
石畳に街灯が灯り、大体の露店はもう店仕舞いをしている。
緊張が解けたからか、蛍とアンバーの足取りも軽かった。
「お腹すいたぁー!」
「またかよ!ってオイラもだけど…」
「そりゃあ昼もほとんど食べてないわけだし。」
「じゃあお兄ちゃん奢って!」
「…自分で言うのも何だが、兄をATM扱いするのは良くないと思う。」
結局、僕達は近くの小さめのレストランのテラス席に着いた。
道を挟んで向こうの湖面に、登りたての月の灯りが反射していて、なかなか綺麗だ。
メニューはそこまで高くなかったが、財布の中身はやっぱり心もとない。
今までに手に入れた大量の金だの宝石だのを売れば金…確かモラは工面できるが、こういうのはやり過ぎは良くないものである。
ゼニガメ達を出して、注文したピザやパスタが来るのを待つ。
メリープとフシギダネはすぐに寝だすし…ディグダ、バタフリー辺りは元気に走り回ったり飛び回ったりしている。
僕のゼニガメも元気そうだが、ロコンと一緒に遠巻きに他を眺めていた。
ヒノヤコマは、ヤヤコマのころと同じようにアンバーの方に乗っているが…
「それ、重くないか?」
「うん。ちょっと重い…」
やっぱり重そうだ。
和やかな空気が流れる。
そんな時…
「やあ、楽しそうだな。」
振り向けば、隣の席にワイングラスを手にした眼帯の男が座るのが見えた。
「…ガイア。」
「おや、名前を覚えられているとは光栄だな。」
「うわ…何か出た…!」
「それはこっちの台詞だな。子供が夜に外で食事だなんて、親に怒られるぞ?」
「私達もう子供じゃないでしょ!」
何となくガイアらしい軽口に、アンバーが返す。
「……まぁ、俺も似たようなものだ。」
ガイアはワインをあおり、湖面を見ながら続けた。
「ジム巡りをしてるんだったよな?…ここでのんびりしてるってことは、もうロサリアに勝ったって事か?」
「そうそう!」
「まだたった数日だろ?お前達って本当にせっかちだな。俺は数か月でやっと3枚だってのに。」
そう言うとガイアは、知っているデザインの2枚のメダルと、もう一枚星座盤の模様が彫られたメダルを見せた。
「えっ、やってたの!?」
アンバーが声を上げる。
「ああ。とはいえ趣味みたいなもんさ。少しは退屈しのぎになるだろ?」
「こんな怪しい人がジム巡りなんて…」
「怪しい、か。俺が隠し事とかをしそうな奴だって?」
「うーん、凄くしそう。」
「同感。」
やっぱり胡散臭い。
「なら、俺に何か聞きたいことはあるか?」
「ガイアさんに聞きたいこと…なんでジム巡りをしてるのか、とか。絶対ただの趣味じゃないと思う!」
アンバーがそう聞くと、ガイアは分かりやすくたじろいた。
「…実は、少し因縁の相手がいるんだ。」
「因縁…?」
一瞬だけガイアの声が低くなる。
少し沈黙が落ちた後、ガイアは軽く息を吐いて笑った。
「ま、難しい話はやめよう。お前達はまだ三つ目のジムを目指しているんだろう?」
「そうそう!」
「次のジムは北東、ここからだと北に行ってから海峡を渡ったほうが早いぜ。」
ガイアは分かりやすくルートを教えてくれた。
しれっと話題が逸らされた気はするが、まあいいだろう。
「そういえば、最初に会った時騎士団の上層部が怪しいみたいなこと言ってたけど、その辺どうなの?」
蛍が聞くが、軽く流されてしまう。
「理由はいずれ話すさ。今は風向きが悪い。少しだけ言っておくと、団長はファデュイの圧力に押されてるんだ。」
「ファデュイ…ってあの?」
「蛍ちゃん、普通のファデュイは今日見た変な奴じゃないよ…」
アンバーによるとそうらしいが、あんまりイメージがわかなかった。
「正直、俺も全てを知ってるわけじゃない。けど妙な動きがあるのは確かさ。」
「それって、やっぱり団長さんの…?」
「ま、話はここまで。リーグ挑戦者に水を差すのも野暮ってもんだろ。」
軽く手を振って、ガイアは立ち上がる。
「ガイアさんは、これから?」
「俺か?ちょっと酔い覚ましにでも歩いてくるさ。」
そう言って、彼は湖沿いの道を軽い足取りで歩いていった。
「……何だったんだ。」
「一応、悪い人じゃなさそうだったよ?」
「胡散臭いけど、ちょっと頼りになる感じ。」
「あれで結構モテそうだもんな…!」
そんなくだらない話をしながら、出された料理を平らげた。
「次は結構遠いけど、数日もあれば着くか。」
「次もまた変な人だったらどうしよう…」
「蛍が突っ走って余計なトラブルにならなければいいけどね。」
「えーっ、私そんなことしないよ!」
ロサリア:王道ファンタジーな原作とは違うこの世界観でも相変わらず影に生きる女。その割にジムリーダーなんて何故やってるんだろうか。
補足:ジムリーダーが皆エースをオシャボに入れているのはノリと勢いである。剣盾以降公式もその傾向があるから問題はない。