放浪領を北に抜けて少し…買った地図によるとこの辺りは明冠峡谷と言うらしい。
周辺の街道沿いの宿で一泊した、翌朝。
昼に食べる用のサンドイッチを作った後、ポケモンセンターによると、受付のキャサリン(既に知っているが、やっぱり何人も居るな…)が困った顔で話しかけて来た。
「皆さんをかなり実力のあるトレーナーだと見込んでのお願いです。一人のトレーナーの少年が昨日から遺跡に行くと言ったきり戻っていないのですが、安否確認しに行っては頂けないでしょうか?」
「「遺跡?」」
首をかしげる蛍とアンバー。
「ここから北に少し進んだ所にある古い遺跡です。今はゴーストタイプのポケモンが多く生息しているとか…」
パイモンは怖がって僕達の周りを飛び回った。
「そいつ…まさか呪われたんじゃないか…?」
そこで蛍が立ち上がった。
「助けに行くしかないと思う!」
アンバーも頷く。
「うーん、…こういう時こそ出番ってね!」
キャサリンから簡単な地図を受け取り、僕達はすぐにその遺跡に向かった。
「冒険って言えばこういう物だよ?」
等と気分の高揚した蛍の一人語りを聞くこと約20分…
遺跡は、街道から外れた丘の上にぽつんとあった。
苔むした石の塀…崩れかけた階段…。
入口には最近のものと思われる靴跡が続いている。
「誰かが入った形跡はあるね。」
「よし…。」
蛍とアンバー、パイモンに続き、…僕が足を踏み入れた瞬間。
大きな音がしたと思えば、背後で石の壁が勝手に閉まった。
「ちょっ!?」
アンバーが軽く叩いて見るが、勿論全く動かない。
「罠…」
「…これじゃ出れないぞ!?」
前には、薄暗い通路が続いている。
「ま、まあ、閉じ込められた人を助けに来たんだし…進むしかないよね…」
入り組んだ狭い通路を少しの明かりを頼りにしばらく進んで行く。
道中で何度も視線を感じて少し怖かったが、蛍だけは全く気にしていなかった。
「蛍ちゃん、ここ、やっぱり何か居るよ…?」
「居ても多分ゴーストポケモンでしょ。」
「…結局怖い事には変わりないだろ!?」
「ちょっと待った。奥…。」
気付けば、次の角の向こうから少し光が差していた。
その先から何か呟く声が聞こえてくる。
「…あっちも行き止まり…さっきはこっちから来たと思ったのに……」
「誰か居る…」
「…ひょっとして、依頼の少年!?」
曲がり角を曲がった瞬間、一人の少年が現れた。
全身に傷と絆創膏をつけて、白っぽい髪で短パンを履いている。
「えーっと、大丈夫!?」
「何だっ!?」
アンバーがいきなり声をかけると、少年は驚いて大げさに跳び上がり目を丸くさせた。
「び、びっくりした!?ちゃんと人か!?俺はまだ生きてるのか!?」
「生きてないならどうして見えるんだ…?」
パイモンが呆れた声を漏らす。
「私達は通りすがりのトレーナーだよ。」
少年は胸に手を当て、ほっと息をついた。
「よ、良かった……。あっ、オレはベニー冒険団の団長、ベネットだ!」
「短パンこぞうの冒険団…?」
ぼそっと呟く蛍。
「色々あってオレ一人だけどな。」
ベネットは続けて、へへっと笑った。
「…僕は空、こっちが妹の蛍だ。」
「オイラはパイモンだぞ!こっちは騎士見習いの…」
パイモンの紹介をアンバーが遮る。
「私、既に二回くらいあなたを助けた事があるんだけど……」
「ああ、思い出したぞ。アンバーって言ってたか?」
「そうだよ。それはそれとして……もう危ない所には行かないって言ったよね!?」
「いや、それはその…」
「駄目と言ったら駄目!こういう遺跡とか洞窟はもっと強いトレーナーになってから!」
アンバーの説教は数分にも及んだ。
「その、見ての通りここで閉じ込められてたんだ…。出口も塞がってるし、いくら歩いても同じ景色だし、怖いポケモンも寄って来て俺のガーディもやられた上、逃げた時に転んだらきずぐすりが全部こぼれて無くなったんだ……」
運が悪いのか、かなり酷い目に遭っているようだ。
「…ポケモンが寄ってくる?」
モンスターボールを握るベネットに僕がそう聞き返した時。
近くの背の高い棚から、勝手に食器や壺が落ちて砕けた。
「ひぃっ!?」
「い、言ったそばからぁ…!」
パイモンが僕の後ろに飛びついてくる。
「何だろう?ポルターガイストを覚えるゴーストタイプ…?」
「そんな冷静に分析する場面か!?」
「いやいや蛍ちゃん危ないって!」
ベネットとアンバーも思わず声を上げる。
辺りを警戒していると突然、冷たくてどろっとした何かが顔にかかった。
「なんか、顔にっ…!?」
「お兄ちゃん!?」
咄嗟に物体を引きはがした。
床に落ちた紫色の物体は、意思があるかのように地面を滑っていく。
「…まさか私が知らない技…!?」
「今はいいでしょ!?逃げよう蛍ちゃん!」
そう言っているうちに、液体はさっき落ちた一つのティーカップに流れ込んでいく。
僕達はその様子を距離を取って見つめる。
すぐに液体の入ったカップが、空中に浮かび上がった。
カップがくるっと回ると、顔のような模様がついている事がわかる。
…何だか、カップにウインクされたような気がした。
「これは…ヤバチャだね!」
「ヤバチャ…?」
「…こうちゃポケモンのヤバチャ、古いティーカップに住み着いたゴーストタイプのポケモンだぞ!」
「襲ってくるんじゃ無いか!?」
「でもそんなに危険じゃなさそう……」
そう言われても、僕はそんなに詳しくないからかあまりピンとこなかった。
問題はそこではない。
ヤバチャは、何かに驚いたように体を震わせると、こちらに背(?)を向けて飛んで行こうとする。
何だか、背後で音が聞こえた気がして振り返ると…
「……え?」
後ろの通路からたくさんの影が次々と飛び出してくる。
「ひぃっ!?」
分かるだけでもゴース、ムウマ、バケッチャ、カゲボウズ……
その全てが、ベネットを見つめていた。
「まずい!!俺を追いかけてきたんだ!」
「とにかく逃げよう!」
蛍が先陣を切って走り出し、僕達もそれに続く。
案の定、後ろのポケモン達は雪崩のような勢いで追いかけてきた。
あの量が相手じゃ足止めも期待できない。
少し行ったところで分かれ道に当たった。
前を飛ぶヤバチャは、速度を緩めて一瞬こちらを振り返った後、左の方へ飛んで行った。
「ついて行った方がいいかな!?」
「多分!」
角をいくつか曲がった先で、アンバーが叫ぶ。
「きっと出口だ!」
僕達は光の差す所から転がるように外へ飛び出した。
瞬間、後ろで天井が崩れ、通って来た道は音を立てて塞がった。
「た、助かった……」
ベネットがその場にへたり込む。
「まさかこんな怖い思いするなんて思ってなかったぞ!」
「あの量…まるでバトルさせる気が無かったよね!?」
「…蛍はもう少しバトルを自粛してくれ。」
ふと見ると、ヤバチャはふわりと近くに浮かんでいた。
「そういえば…案内してくれたのかな…?」
なんとなく思った事を言う。
「…俺が遺跡内に居た時には見かけてないな。」
「そもそも私も見た事が無いポケモン…。モンドには本来居ないじゃない?」
「ついて来ちゃったけどどうしよう?」
そんなヤバチャの周りを飛び回って居たパイモンは、突然目を丸くした。
「ちょっと待った…、この底の模様!?!」
「えっ、模様!?」
蛍が聞き返してカップの底を確認する。
「この青い模様…しんさくフォルムじゃん!」
「…しんさく?」
二人で盛り上がる蛍とパイモンに僕は思わず聞き返す。
「ヤバチャのほとんどは贋作なの!」
「そして肝心の真作は滅多に居ないんだ!」
「………」
二人の熱演を、僕ともう二人は呆れた顔で眺めた。
「お兄ちゃん、何その反応?」
「とにかく凄いんだぞ!」
「凄いのは分かったから…。結局、この子どうするの?」
沈黙…。
「…それなら私が…!」
蛍がそう言いかけた時、ヤバチャはふわりと僕の目の前に飛んでくる。
硬いカップは軽く揺れ、僕の額に優しく触れて来た。
懐いているのだろうか。
「そんな…!?ずるいよ!」
「蛍ちゃんは昨日色違いゲットしたでしょ…?」
「それはそれ、これはこれって言うし…!」
そんな話を聞いていると、顔にまた違和感を感じ…。
「お兄ちゃん、ヤバチャは…ってまたかけられてる!?」
「おい、大丈夫か!?」
顔にかかった紫色の液体は、引きはがされると大人しくカップに戻った。
「えーと、飲んじゃったら生気を吸われるから気を付けて…」
「言うのがちょっと遅かったな…」
相変わらず、ヤバチャは僕の周りを浮遊している。
「これって、懐かれてるって事でいいのか…?」
「…ゴーストタイプだし、多分…」
僕が一応モンスターボールを取り出すと、ヤバチャは迷いなく自分から吸い込まれていった。
ボールは軽い音を立て、星のエフェクトを出して静止する。
「…ゲットしちゃった………」
「…やっぱりお兄ちゃんはズルい………」
気付けば太陽は結構高く上がっていた頃。
何故か新しい仲間を手に入れた僕達は、ベネットを連れて街道沿いへ戻った。
ベネットは苦笑しながら言った。
「それはそれとして、本当に助かった!皆が来てくれなかったら、俺…今ごろまだウロウロしてたと思う…」
「うん、ほぼ確実にね!」
「ちょっとは慰めてあげたら…?」
朝に訪れたポケモンセンターに戻って来ると、キャサリンは僕達を見て顔を明るくした。
「…無事に戻られたようですね。」
「俺、そんなに心配されてたのか…」
「ええ。つい先日にいらしたトレーナーさんに万が一の事態があっては、こちらとしても寝覚めが悪いので。」
寝覚めが悪い…どちらかと言うと心配されてないんじゃないか?
「皆さま。改めて誠にありがとうございます。」
「トレーナーとして当然の事をしただけだよ!」
胸を張る蛍。
「蛍にも一応そういう意識はあったのか。」
「厄介ごとに首を突っ込みたいだけじゃないといいけどな?」
「…ふたりとも余計なこと言わないでよー!」
その後、ベネットは次からは無理をしないように注意を受けていた。
そして…
「おつかいをやったのに、報酬が……無い!?!」
「蛍ちゃん、さっきのが台無し…」
「…相変わらず現金だな。」
「どんなRPGでも普通こういう時何かしら……」
残念ながらこれは現実である。
蛍にも少しは得を積んで欲しいものだ。
「…なら、お礼にこちらを。」
結局、キャサリンは蛍に渋々きずぐすりの束を渡してくれた。
蛍は嬉しそうだから今回は良しとしておこう…。
これ以上迷惑をかけるわけにいかないので、僕達はポケモンセンターから離れた。
「…本当に助かった!…マジで俺、遺跡から出られなかったかもしれないしな!」
「次からは危ない場所に一人で行っちゃダメだよ。」
アンバーが眉をしかめる。
「う……わ、分かってるって……」
蛍は少し考え込んでから、
「また何かあったら、冒険者じゃないけど助けには行くから!」
「蛍はむしろ事件を増やす側じゃないか…?」
パイモンが小声で突っ込む。
「なんか言った…?」
「何も言ってないぞ!」
そんな軽口を交わしつつ、ベネットとはそこで別れる事にした。
街道を東へ進み、割と長い橋を越えていく。
南を見ればシードル湖の向こうにモンド城がそびえていた。
海峡を越えて進んで行くと、一気に道を行く人とポケモンが多くる。
「あー、この辺りは、北にスネージナヤとモンド最大の港があるからね。」
「すねーじなや…?」
僕と同じ疑問を口にする蛍。
「行ったことは無いけど寒いらしい。…あとはファデュイの本拠地があるとか。」
「いわゆる北国って感じか。」
「うん。いつか行こう!」
「まあ、いつかだな…。」
スネージナヤ…この国はモンドと言うらしいし、こんな国が7つあるらしい。やっぱりこの世界は相当広い方だろう。
乗って来た船の修理も目途が立っていないし…。
ジム巡りをしているうちに目途が立てばいいのだが。
そう考えているうちに、大きめの町についた。
「ここがエスパージムのある町か?」
「モンド城の次に大きい…!」
「モンドでも3、いや4、5番目くらいに大きいんじゃないかな!」
「割とアバウトだな…。」
「折角サンドイッチを作ったんだから、この辺で昼ご飯でも食べるか。」
「「賛成!」」
ジムの横のベンチで食べようと思いジムに向かう。
「……ん?」
何かに気付き、アンバーが足を止めた。
「おい空、あれ……人が倒れてるぞ!?」
エスパージムの建物の目の前、石畳の上に…星空のような模様の、魔術師のような帽子とローブを纏った女性が倒れている。
僕達はあわてて駆け寄った。
「大丈夫かな!?」
蛍が声をかけると、小さく返事が返って来た。
「……うぅ……お腹、すい、た……」
蛍が思わず叫ぶ。
「この人、まさか空腹で倒れてるの!?」
僕は急いでバッグからサンドイッチを取り出した。
「とにかく、それならこれを食べて…。」
「……し、仕方ありません……サンド…イッチ………」
と言ってサンドイッチを受け取ると、次の瞬間にはサンドイッチが消滅していた。
「は、早っ!?」
蛍が後ずさる。
サンドイッチを食べ終えると、彼女は帽子を整えながら立ち上がった。
「……もう数日食べていなかったので助かりました。私は占星術師のアストローギスト・モナ・メギストス…長いので別にモナでいいです。」
「占星術師…」
「所で…あなたたち、非常に奇妙な運命をしていますね。」
蛍がすかさず口を挟む。
「奇妙な運命?」
モナは、目線は合っているのに何処か遠くを見ているような視線を向けた。
「良く見えませんが、お二人の運命は私でも見切れないほど複雑かつ難解です。それに横に浮いている小さい子は、逆にその運命の片鱗すら見ることができません。」
「私は!?」
「…見た所普通ですね。」
「普通かぁ…」
アンバーは自分の運命を尋ねたが、至って普通なようでがっくりと項垂れていた。
僕と蛍は世界を渡ってきたくらいだし難解なのもわかるが、パイモンは今更ながら何なのだろう…?
「それはそうとして、皆さんはこの後何か戦う予定が?」
「……もしかして、ジム戦のこと?」
「ジム…?」
モナは何かに気づいたように小さく頷いた。
「よく分かりました…。ここのジムリーダーは、私です。」
「「えぇっ!?」」
全員の声が揃った。
「……少し取り乱しましたね。ですが私は占星術の傍らでジムリーダーをやっているのです。あなた達が挑戦者であるなら、受けて立ちましょう。」
「確かにさっき凄い取り乱してた!」
「…あれは運命の乱れと経済事情による一時的なものです。」
「つまり経済事情なんだな…?」
モナ帽子のつばを押さえ、軽く咳払いした。
「挑戦をするというのなら、準備を整えて中へ来なさい。」
そう言い残すと、モナはひらりとローブを翻してジムの中へ入っていった。
「……大丈夫なのかな、あの人。」
「多分実力は本物じゃない?…生活が安定してないだけで……」
アンバーが力説する。
「お兄ちゃん。お昼どうしよう?」
「サンドイッチは食べられちゃったし。コライドンじゃないのに…」
「…?」
「そうだ!モナって人…準備を整えて来なさいって言ってたし、今からどこか食べに行こう!」
「そうしようぜ!」
「まあ行くか…」
近くのレストランで昼食を取った上で、僕たちはジムに戻って来た。
ついでに、蛍に色々と教えてもらった。
これならちゃんと戦える。
「随分と遅かったですね…」
建物の扉をくぐると、そこにはモナが腕を組んで立っていた。
中はフィッシュルの時と比べ、思ったよりも質素だった。
中央に青と白のカラーリングではあるが、中央にモンスターボールのマークがある、多分一般的なバトルコートそのままだ…。
「本当に金が無いのかな…」
モナは咳払いし、ボールを構えて何歩か前に出た。
「…今回も僕から行く。」
「良いよ。お兄ちゃん、頑張って来て!」
僕はモナの前に出た。
「それでは、挑戦者。この偉大なる占星術師モナが相手をしましょう。」
「よろしく。」
「こちらこそ。もちろん手加減はしませんよ。」
モナの視線が鋭くなる。
先程倒れていた人とは別人のようだ。
「では、始めましょう!」
ジムリーダーの モナが しょうぶをしかけてきた!
モナの指先が弧を描き、一つ目のモンスターボールが宙に舞った。
「行きなさい、キルリア!」
光の中から現れたのは、しなやかに構えるキルリア。
その瞳はこちらをじっと観察している。
「最初はキルリアか…」
僕はヤバチャのボールに手を添えつつ考える。
僕はボールを前に放った。
「折角だし…ヤバチャ、頼む!」
ふわりと宙に浮かぶティーカップ。
モナの眉が少しだけ動いた。
「見た事のないポケモンですね…。それも非常に珍しいようです…まあいいでしょう。」
モナはちょっと羨ましそうな声でそう言った。
モナは片手を掲げる。
「さあ、星の導きがどちらにあるか、見せてもらいます!…めいそう!」
キルリアの体が幻想的な光に包まれ、特攻、特防が上昇する。
「まずはシャドーボール!」
ティーカップから影の塊が放たれ、キルリアに直撃……
したように見えたが、突然現れた薄い膜によって威力を弱められた。
「ひかりのかべ、か。」
相手はかなり戦術的な動きで来たようだ。
積み技に壁張り…しかも見た所後続のサポートがメイン。
なら、速めに倒さないと後が厳しくなるだろう。
「シャドーボール、もう一発!」
「トリックルーム!」
キルリアを起点に、空間が歪む。
相手の方が少しだけこちらに速度を上回り、間一髪で避けられた。
「もう一度めいそう。」
キルリアの体が光に包まれ、精神力が跳ね上がる。
モナの声が静かに響いた。
「キルリア、アシストパワー。」
きらめく多層の光弾がヤバチャに降って来る。
正面から撃ち合ったら確実に負ける火力。
「ヤバチャ、シャドーダイブだ!」
ティーカップが、その影に吸い込まれる。
次の瞬間、影だけが闇へ落ち、ヤバチャの姿が掻き消えた。
キルリアは周囲を見回すが、対応が間に合わない。
「キルリア、下です!影から…」
言い終える前に、キルリアの影からヤバチャが飛び出し、キルリアに強烈な体当たりを食らわせた。
「っ……!?」
キルリアはすとんと膝をつき、そのまま倒れ込む。
モナは静かにキルリアをボールに戻す。
「……見事ですね。ですが、これである程度舞台は整いましたよ。」
モナは次のボールを構えた。
「運命は鏡と水面に映る物です。…行きなさい、ドーミラー!」
現れたのは浮遊する鏡のようなポケモン。
トリックルームの影響で、動きが明らかに速くなっている。
「ヤバチャ、よくやった。…頼んだディグダ!」
嬉しそうに液体を震わせているヤバチャをボールに戻し、ディグダを繰り出した。
「あまごい!」
ドーミラーが一瞬輝くと、天井に生まれた暗雲から雨が降り出す。
屋内で発動するとは思っていなかった。
「チャージビーム。」
「ディグダ、マッドショット!」
雨の中を飛んで来る電撃に、泥の弾丸をぶつける。
弱点のじめん技がその表面にぶつかったドーミラーはよろめいた。
でんき技はじめんタイプには効かない筈なのに、ディグダも多少電撃を食らったようだ。
現実的に考えると、さっきの雨のせいだろうか?
「ステルスロック!」
「こうそくスピンです。」
ドーミラーめがけて空間に尖った岩を撒いたが、すぐに回転で吹き飛ばされてしまった。
「続けて行きますよ。チャージビーム!」
様子見をしているうちに、ドーミラーはまた電撃を放って来た。
「あなをほる!」
ディグダは一瞬で地中へ消える。
でも、チャージビームは特攻が上がる技。
これも避け続けるわけにはいかない。
下からディグダが飛び出すが、浮いているドーミラーには当たらなかった。
「おどろかす!」
追加で弱点の一撃。
少しのダメージと一緒に、隙が出来た。
ひかりのかべで威力が下がっていても、今なら押し切れる。
「どろばくだん!」
泥弾が連続して当たり、ドーミラーがぐらつく。
「……あやしいひかり…!」
ドーミラーは最後に怪しい光を放とうとしたが…
その体に揺れが走り、パタリと地に落ちた。
「倒した……!」
ディグダは少し痺れながらも勝利の声を上げた。
「ちょっと重かったな……。戻れ、ディグダ。」
ディグダをモンスターボールに戻し、ウェンティから貰ったボールを手に取る。
モナはこちらを静かに見つめていた。
「やはり強いですね…。ですが簡単に負けるわけにはいきませんよ。星命定規、ヤドキング!」
モナは、淡い桃色に水色のラインの入ったボールを構えた。
頭に王冠のように巻貝を被ったポケモンが、コートに姿を現す。
「ここは頼んだ、カメール!」
ボールから飛び出したカメールは胸を叩いて、自信を表現する。
対するヤドキングは落ち着いた、と言うより何も考えていなさそうな目つきでこちらを見据えている。
「…やるか。からにこもる!」
カメールのはすぐに甲羅に引っ込んだ。
「こうそくスピン!」
カメールは甲羅のまま高速回転し、ヤドキングの周りを回り始めた。
突然、カメールの動きが一気に加速する。
…そろそろだと思っていたが、ついにトリックルームが切れた。
「そのままロケットずつきだ!」
追加の推進力を得て突撃するカメールに、モナが目を見開く。
「残念ですね…カウンター。」
「……っ!」
身構えたヤドキングに対し、物凄い勢いで突っ込んでいく甲羅の軌道は変えられない。
直後。
ヤドキングはゆっくり腕を上げ、衝突したカメールの力をそっくりそのまま弾き返した。
「カメールッ!?」
強烈な衝撃。
カメールは目を回して地面を転がり、そのまま動かなくなった。
「…戻れ、カメール……」
読まれていた。
必殺技が完全に裏目に出てしまった形だ。
ディグダじゃ水タイプの相手は分が悪い。
僕はゆっくりと一つのボールを握った。
「……ヤバチャ、頼む。」
ティーカップがふわりと浮かび上がり、ゆらゆらと揺れた。
「やはりそう来ますか。」
ひかりのかべも既に切れているし、弱点のゴースト技を当てるしか勝機は無い。
「シャドーボール!」
「ハイドロポンプ!」
奔流と影の弾がぶつかり、爆ぜる。
何とか直撃は避けたが、ほとんど威力も落とせていない。
雨の中でこのまま撃ち合えば先に落ちるのは勿論ヤバチャだ。
…その時、視界の端で、床に小さく光るものがあった。
ひとつ、作戦を思い付いた…ヤバチャにこっそり確認を取る。
「行けるか…?」
ヤバチャはその液体を震わせて答えた。
行ける…!
「…何か思いついたようですが、無駄ですよ。行きます…なみのり!」
モナが眉を動かす。
ヤドキングは高波に乗って突っ込んできた。
だが…、今なら問題無い!
「ヤバチャ……ポルターガイスト!!」
「…!?」
ヤバチャのカップが紫色の光を放つと同時に、コートの端の方、床に散らばった岩の破片が見えない糸に引かれたように一斉に宙へ舞い上がった。
「ヤドキング、後ろから来ます!サイコキネシスで…!」
モナとヤドキングは咄嗟に対応しようとするが、…間に合わない!
モナが言い終える前に、ヤドキングはいくつもの破片を受けて崩れ落ちた。
ベネット:とにかく運の悪い少年。原因は最近判明した。ただ今の所唯一「モンスターボール ゴー!」って言っても違和感がない。主人公にはそのくらい言えてほしい物だ。
空のヤバチャ:パーティの貴重なゴースト枠。ゴーストタイプでヤバそうじゃなくて進化系が存在するポケモンがほぼいないため、フワンテと悩んだ末の結果である。ヒトモシは人気すぎる為除外しておいた。
ヤバチャは液体の方が本体で、人間に飲まれることで生気を吸おうとする習性があるが、懐いている場合なおさらのようだ……
また、ヤバチャのしんさくは約百分の一とされているが色違いの確率の方がずっと珍しい為、蛍にはこれをとやかく言う権利は無い。
モナ:天才貧乏占星術師。実力はあるので金の為にジムリーダーもやっているが、モンドではジム巡りがそんなに盛んではない為か給料が少なく、結局貧乏である。本人曰く、「どうしてジムの家賃が私持ちなんでしょう。安アパートより雨風をしのげて過ごしやすいですが…」とのこと。ただし、ジムには居住用のスペースはついていません……。
補足:元よりアニポケ基準だと、水がかかっただけで地面タイプにでんきが通ったり、じめん技が飛び道具ならひこうタイプに当たったりします。
かがくのちからって すげー!(無関係)