「勝った……!みんな、お疲れ!」
アンバーのフシギダネの最後の一撃が決まった後、僕たち三人は同時に息を吐いた。
「やった!これで三つ目!!」
蛍が腕を突き上げる。
すぐ横でアンバーも同じように笑っていた。
「ほんとに勝っちゃった……!」
「危なかったけど、なんとか勝てたな。」
「オマエ達、皆凄かったぞ!何と言うか…とにかく凄かったぞ!」
「雑…!」
そんなやり取りをしていると、疲れた様子のモナが近づいてきた。
「……見事です。ここまで読んでも読んでも掴みきれない運命、…やはりあなたたち、星に選ばれていますね。」
そう言うと、モナは小さなケースを取り出した。
「コホン…このアストローギスト・モナ・メギストスが認めましょう。」
ケースを開くと、中には夜空のように深い紫の、星座盤を象ったメダルが三枚。
「これが……三枚目のバッジ……!」
バッジを受け取った蛍は目を輝かせた。
「これで、チャンピオンへの道も折り返しって感じ?」
「それはまだ早いと思うけど?」
「確かにこの先はもっと強いかもしれない。…でも、ここまで来たなら行ける気がする。」
「そう来なくちゃね!」
そろそろジムを出ようとした時、モナに声をかけられた。
「皆さん強いようですが…中でも特に強いあなた…」
「私!?」
蛍…。
「あなたの強さには、小さいながら致命的な綻びが見えます。」
「私、なんかやっちゃった…?」
「さぁ…?」
「そう遠くないうちに、あなたはそれと向き合うことになるでしょう。私から言えるのはこれだけです。」
それだけ言うと、モナはコートの向こうの方へ歩いて行ってしまった。
…ジムを出た頃には、すっかり空が赤く染まっていた。
「今日はここで泊っていくか」
「賛成。ジム戦の後だし、休まないとね。」
アンバーも肩を落として笑う。
「そういえば…キャンプセット、わざわざ買ったのに最初しか使ってないよね…?」
「でも、宿がある分にはありがたいぞ!」
「ロマンって物があるでしょ?毎回宿とか冒険っぽく無い…!」
蛍の事だ。宿が無かったら無かったで宿が良いとか言い出すだろう。
結局、僕達は町の湖沿いの小さな宿屋にチェックインした。
「……あ、そうだ。」
アンバーがバッグから大きな物体を取り出した。
ウェンティに貰ったポケモンのタマゴ…。
何だか、小さく揺れている。
「これ、もうすぐって事?」
そう聞くと、アンバーは嬉しそうに頷いた。
「多分…!」
「どんなポケモンかなー?」
「でも、あの吟遊詩人から貰ったってだけで不安しかない。」
「一応あの時拾ったらしいけど…」
そんな賑やかな会話のまま、その夜は静かに更けていった。
翌朝、今度こそ自分達で食べる用のサンドイッチを作った後、僕達は早めに出発した。
そして、何のトラブルもなく夕方にはモンド城へ到着する。
しかも昼はちゃんとサンドイッチを食べることができた。
「数日ぶりのモンド城だぞ…!」
「私達、この湖を一周して来たんだ!」
僕達は、この世界に来て初めて泊まったのと同じ、安い宿で平和な一日を終えた。
…翌日の明け方……
「…ん、何だ!?」
宿全体が震えるほどの轟音で、僕達は叩き起こされた。
足元で寝ていたポケモン達もパニックを起こしている。
「何がおきてるんだ!?」
「…絶対地震じゃないよね?」
「一旦外に出よう!……あと蛍、起きろ!」
窓を見ると、不自然に風が渦巻いていた。
「…ムニャ…!?お兄ちゃん?…何が!?」
「緊急事態!」
すぐに宿の外へ向かう。蛍も半分寝たままだがついて来た。
「……あれ、やばくない?」
一瞬で目を覚ましたらしい蛍が、指を震わせながら空を指した。
夜明けの空を裂くように、巨大な影が旋回している。
風を引き裂く轟音。
建物が悲鳴をあげるほどの突風。
そして、青く光る六つの翼。
「風魔龍……!」
背筋がぞくりとする。
同じ伝説のアンドリアスには出会ったが、あれは全然本気を出していなかっただけ…。
…目の前のそれの威圧感は、まるで暴風そのものだった。
アンバーが険しい表情で呟く。
「…最近風魔龍が凶暴化してるって。まさか、こんなに近くに現れるなんて。」
その時甲冑の音が響き、騎士たちが一斉に通りへ走り込んできた。
空を飛ぶ竜と言い騎士団と言い、この世界が王道ファンタジー系だと改めて実感する。
「全員、後退ッ! 市民は避難を!!」
その中心で叫んでいるのは、金髪の女性である。
「……ジン団長…!」
アンバーの声に、僕と蛍も息を呑んだ。
「西風騎士団、対空隊は配置につけ!」
ジン団長のよく通る声を合図に、中世風の甲冑を着た騎士たちは次々とボールを構えた。
同時に大量のポケモンが放たれ、一部は空へ向けて散開、一部はひかりのかべを張り、また一部は風魔龍に極光を放っていく。
「凄い数…」
蛍が思わず見上げたまま呟く。
「これが騎士団か…」
「二人とも、私は救助に行ってくる! あとで合流しよ!」
そう言えば、アンバーも見習いとはいえ騎士団所属。
僕と蛍は邪魔にならないよう後退しつつ、空を見上げた。
「って、突っ込んでこない!?」
「来るぞ!?蛍!空ー!」
風を裂く轟音とともに、風魔龍が急降下してきた。
「…各部隊迎撃用意よ、耐久技を中心に!」
正面で落ち着いて指示を飛ばしているのは、紫のローブを纏った魔女風の女性である。
「シャンデラ…マジカルフレイム!」
デザイン的にも、連れているシャンデラが相棒なのだろう。
彼女の指示は、風魔龍の攻撃を的確に全て無力化した。
「あの人も凄い!あの格好で騎士団…?」
蛍が目を丸くしたまま呟いた。
トワリンがもう一度旋回すると、今度は北の空へ向けて加速した。
「逃げていくぞ!」
後方の騎士の声が上がる。
巨大な竜の影はそのまま遠ざかって…やがて、完全に見えなくなった。
風が弱まりようやく街に静けさが戻る。
僕達は、しばらく空を見つめたまま動けなかった。
しかし、その沈黙は長くは続かなかった。
「やぁやぁ、すごい大騒ぎだったね。」
気付けば後ろに吟遊詩人のウェンティが居た。
「出た、…怪しい人!」
「いやぁ~、城の方が騒がしかったから来たけど、ちょっと遅れちゃったね。」
ウェンティは彼らしい調子で肩をすくめる。
その目は風魔龍の飛んで行った北西の方を眺めていた。
「トワリン…派手にやってくれたみたいだね。」
「…町がボロボロだな。あれが暴れてるなんて…」
「しかも逃げてっちゃったし!」
「うーん、あっちに巣でもあるのか?」
さっきの光景に僕達はまだ頭が追い付いていなかった。
「…え~と、トワリンが飛んで行ったのは風龍廃墟だね。」
「よし!今度行こう。」
「待て待て!?」
慌てて蛍を制するパイモンとウェンティ。
何だか一挙一動が怪しく見えてきた。
「行かない方がいいと思うよ〜?…危険なポケモンが多くてそもそも立ち入り禁止だから…。」
「立ち入り禁止、じゃあクリア後エリアね。」
「どちらにしろ危険だからな。」
そんな蛍に、ウェンティは笑顔を浮かべている。
その笑顔の裏に何か深い事情を隠しているように見えた。
「…おっと、やっぱり用事が出来たかも。まだ聞きたいことがあるかもしれないけど…またね!」
そう言って、蛍が何かを言う前にウェンティは颯爽と走り去って行く。
「逃げられた…」
すぐに、入れ違いでアンバーがやって来た。
「二人共遅くなったね。…ところで今、誰かと話してた?」
「オイラも入れて三人だろ!!…それはそうと、今の今までいたのはあの吟遊野郎だぞ!」
「吟遊…ウェンティの事ね。」
「あの人、まだ聞きたいことがあったのに急に逃げて行ったんだよ!」
「ま、多分あの人はいつもあんな感じだし……。」
そういえば、朝ごはんすら食べていないしまだ店も開く時間じゃ無かった。
という事で行く当てもなく歩いていると、少し離れた路地の中で騎士が二人でなにかを噂しているのが聞こえた。
「こんな所のタイルまで直す必要あるのか…?それと…やっぱり団長、かなり悩んでるらしい。」
「だよなぁ…今日の被害、見ただろ?もう討伐しか手がないんじゃないかって話だ。」
うっかり聞いてしまったその言葉に、蛍が目ざとく眉を潜めた。
「ねぇ、討伐って……あの風魔龍を?」
「本気で言ってるのか…?」
「確かにきな臭い。」
「風魔龍を倒すなんて、まともな発想じゃないと思うけど。」
街の騒ぎも収まりつつあるが、当の騎士団の空気は少しきな臭かった。
~少し歩いた後~
…少しした後、焼きたてパンの香りが漂うレストランに滑り込むと、蛍はテーブルに突っ伏した。
「……この時間でも開いてる店、やっとあった……!」
「落ち着け蛍。まずはメニューを見ろ。」
「朝から大変な事になってたからね。」
パイモンはすでに席に座り、早くしろと言いたげな顔をしていた。
さっきは風魔龍に怯えていたポケモン達もリラックスしている様だ。
注文の後…おもむろに鞄を開けたアンバーが、突然驚いた顔をする。
見れば、鞄から謎の光が漏れていた。
「えっ…何々!?」
「アンバー、それ……!」
「あっ、タマゴ!」
アンバーが慌ててカバンから取り出すと、淡い光がタマゴの全体を包み込んでいた。
「これ……もうすぐじゃない!?」
蛍が興奮気味に身を乗り出す。
僕たちは思わず席を離れ、良いのかは分からないがテーブルの上にタマゴを置いた。
光が強くなり…
殻が割れて、中から小さな影が飛び出した。
小さな体に赤い炎の目。
灰色の兜のような頭。
「カルボウだね!」
蛍のよると、カルボウと言うポケモンらしい。
「可愛い……!あと強そう!」
「ひのこポケモンだったか…?小さい割にかっこいいな。」
そのとき、鈴の音が鳴り、店に二人組が入って来た。
ブロンドの髪の青年に、ミントグリーンの髪の少女…二人共研究者と言った風貌だ。
「アルベド先生、見ましたよね…!?今の光…!」
アルベドと呼ばれた青年は目を細め、かえったばかりのカルボウを見つめていた。
「……カルボウ。そもそも目撃情報が少ない上、孵化を見るのは初めてだ。」
「えっと…、珍しいの?」
アンバーが驚いて聞く。
「ああ。主にモンドで確認されているが、観測例は少ない。」
「ラッキー…!」
蛍がすかさず口をはさんでくる。
「そうそう、カルボウは鎧みたいな奴があればかっこいい二種類のポケモンに進化できるんだけど…」
「進化先が選べる系なのか…?」
「そうだな…。必要なのはイワイノヨロイか、ノロイノヨロイだぞ…」
てっきりほのおのいし辺りかと思ったが、蛍とパイモンによるとそれが進化アイテムらしい。
「それってどこで…」
「「分からない(ぞ)…」」
肝心のアイテムが無いのでは進化もしようがない…
といった所で、さっきから話していた青年が話を持ち掛けてきた。
「急に話して悪かったと思っている。僕はアルベドだ。…突然だが…イワイノヨロイ、もしくはノロイノヨロイと呼ばれる物ならこちらで持っている。」
「…!!」
アンバーの目が星になる。
「どちらを使うにせよ…進化の瞬間…そしてその進化した姿を見たいんだ。カルボウに関する資料は少なくてね。」
「じゃあ、くれるって事!?」
「どうだろう…、流石にタダで渡すわけには行かない…そうだ。僕の弟子、スクロースの研究を少し手伝ってあげてくれないか。」
突然名前を呼ばれた少女は、そんなに身長差のないアルベドの後ろから慌てて飛び出した。
「えっ…せ、先生!?…わた、私の研究を…!?」
「年もそんなに離れているように見えないし、そろそろ僕無しで野外に出る経験も積んでおいた方がいい。」
アルベドの提示するおつかいの内容は、弟子の研究の手伝い…。
ドジっ子眼鏡キャラとフィールドワークという事は、統計的に考えて何かハプニングが起きる事を覚悟しておいた方が良いだろう。
「僕は、仕事が忙しいから手助けはできない。協力してくれるなら、夕方には報酬を持ってここに戻って来るよう約束するよ。」
「…アンバー、勿論協力するよね?」
「この子がいいなら…」
アンバーが椅子の上のカルボウに確認を取ると、頷き返して来る。
「…いいらしい。」
~数十分後~
本来の目的だった、朝御飯を終えた…
そこには、そろそろお馴染みになったメンバーに加えてスクロースが集まった。
「皆さん…私の名前はスクロースです……。えーっと、普段はアルベド先生の下で見習い錬金術師をやっていますっ…!」
研究職らしい風貌だったが、どうやらファンタジーらしく錬金術師らしい。
「焦りすぎだし顔が硬すぎる!もう1テイク!」
「えっ、えっ…っと……私の名前は…」
「蛍ちゃん今はそういうのストップ!あと私はアンバーね!」
蛍が捻じ曲げかけた場の空気が、アンバーの一声によって和んだ。
5人が一通りの自己紹介を終えた後…
「えっと、今回の研究で作りたかったのは、今後の研究にも欠かせない薬なんです!もうレシピは完成していて、後は足りない最後の素材だけで良いので…」
「その素材ってのは何だ?」
後は、めざめいしが必要です!粉末にして使うので一つでもあれば良いかと…。」
首をかしげる蛍。
「エルレイドとかユキメノコに進化させるアレね…?」
「はいっ……!でも薬品としても使えるんです。その…活性化の性質が強くて……」
細かい上以上に長い説明の後、早速出発することにした。
スクロースの案内で、僕達は洞窟はモンド城の南側…ちょっとした崖の下に辿り着く。
「ここか。よし。…まだ昼前だな。」
「それじゃあ、皆‥!」
「ディグダ。」「バタフリー!」「カルボウ!」「チルット…!」
洞窟を探索する為に呼ばれたのは、ディグダ、バタフリー、カルボウ。
3匹ともやる気満々だ。
逆にスクロースの頭の上に出て来たチルットは、まだ寝たままらしい。
「恐らく、この洞窟の奥の方ならめざめいしが取れるはずです…!」
「見た所、至って普通の洞窟か。」
「今回はゴーストタイプも居ないよな…?」
「どこの洞窟もゴースくらいなら出ると思うけど」
「そ、そうだよな…!気をつけて進もうぜ…」
慎重さの欠片もない蛍を先頭に、洞窟の中へ慎重に進んでいく。
蛍は洞窟の天井を見上げながら呟いた。
「なんか……さっきから誰かにつけられてない?」
「えっ!?」
スクロースがびくっと肩を跳ね上げる。
「…何か来てるかも…。」
ポケモン達も、後ろから近づいてくる気配に警戒を向けた。
「おーい、誰か居ますか〜…?」
近づいてくる気配が、止まった。
次の瞬間…
3つの影が飛び出してくる。
「誰か居るかと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
この聞き覚えのある名乗りは…!
「自由が呼んでる声を聴き!」
「北風乗ってやってきた!」
横を見れば、蛍とアンバーは僕と同じしかめっ面を浮かべている。
「愛と氷の悪を貫く」
「ラブリーチャーミーな敵役!」
「ヴァシリ!」
「シドレンコ!」
「ニャースでニャース!」
「モンドを駆ける先遣隊のトリオには」
「
「「「ファデュイ!異色三連星!!」」」
またも悪の組織の変な三人組が現れた。
「ジャリボーイにジャリガール!迂闊に洞窟に入ったのが間違いだったわね!」
「お前達にこれ以上強くなられちゃ偉大なる計画に支障が出る!」
「そこで、おミャーらのポケモンをここで根こそぎいただくのニャ!」
はた迷惑な事に僕達のポケモンが目当てで追ってきたらしい。
ニャースの指先が、取り出したリモコンの赤いスイッチを押した。
洞窟の入り口から、異様な振動音が迫ってくる。
「な、何この音……?」
すぐに機械がゆっくりと姿を現した。
上部に一つの砲塔…左右には大きなキャタピラ。
前面にはでかでかとファデュイのロゴが付いている。
「…こんな所で戦車が出てくるなんて。」
「お兄ちゃん、来る。」
戦車はゆっくりと僕達に迫って来た。
洞窟が狭いのもあって、奴らの思惑通り逃げ惑うしか無い様だ。
「来るぞ!?」
「えーっと…?」
「逃げなきゃ!皆こっち!」
逃げ出した僕達を三人衆は戦車と共に追いかけて来る。
「ニャーハッハー!」
「待てニャース、こういうのは俺達は巻き込まれない位置で使うもんじゃないか?」
「そうよ!今の状況じゃこっちまで追われてるじゃない!」
「…ちょっと待つニャ、……えーっと、停止ボタンは…」
再度取り出されたリモコンには、ボタンが一つしか無い様だ。
「無いのニャ…!」
「おいニャース!?」
「あの人達…、何やってるの!?」
蛍までツッコむが、戦車が迫って来る状況では笑っていられない。
気持ち加速したように見える戦車をバックに、僕達はファデュイと一緒になって必死に逃げた。
蛍と僕は、すぐ後ろの三人を警戒しながら洞窟を下っていく。
すぐそこには…カルボウを抱えて逃げるアンバー、
「ひぃぃ!!そもそも狭い洞窟に戦車とかありえないぞ!」
と涙目で叫ぶパイモン…。
それから頭にチルットを乗せたままのスクロース。
「何か聞かないの!?バタフリー、エアスラッシュとか!」
「ディグダ!マッドショットを。」
技を食らわせるも、戦車には傷一つつかなかった。
「き、効いてない!?」
「装甲には自信があるニャ!」
「…自慢してる場合か。」
その瞬間だった。
戦車のキャタピラが、ひときわ大きく地面を踏みつけた。
辺りの地面に嫌な亀裂が走る。
蛍が振り返る。
「え、ちょっと…!」
地面が、抜けた。
視界が暗転する…僕と蛍、それにファデュイ三人と近くにいたポケモンは纏めて、黒い穴へ吸い込まれていった。
アンバー
「…あわわ、二人共落ちて行っちゃったぞ…!?」
「見た所、相当深いですね…」
「二人なら無事だと思うけど……でも、早く助けに行かないと!」
崩れた地面の縁に近づいてみるも…真っ暗で、底が見えない。
「スクロース、降りられそう?」
飛び立ったチルットとパイモンが穴の中を覗き込んだけど、全く下が見通せない。
「お~い!聞こえてるか~!?…駄目だな…」
「チルット、危ないよ!戻ってきて!」
「え、えっと……ほとんど真っ暗で、声が届かない…。少なくとも30メートルはありそうです…」
足元でカルボウが小さく鳴く。
不安を感じているのが伝わって来た。
「…ここは、私達だけで奥に進んでみるしかなさそうですね…。」
「私もそう思うよ。…よし、ちょっとパイモン、偵察行って来て!」
「オイラかよ…!?」
ディグダにイシツブテ、それとズバットくらいしかいない洞窟を進んで行くと、広い空間があった。
天井から少し光が差し込んでいてちょっと綺麗だ…
「あっ…!見ろよ!」
パイモンの言う方を見れば、差し込んだ光の下にラムネ色の石が落ちているのが見えた。
「あれって!?」
「…ひょっとして、めざめいしでしょうか?」
スクロースは近付いて石を拾い上げた。
「…やっぱり間違い有りません…この石です!」
「これで一旦、目標の方は」
「アンバーさん、後ろです!」
スクロースの叫びに振り向くと、
奥の暗がりから、視線を感じる…!
大きな翼の影が飛び掛かって来たのをローリングで避け、相手を睨み返す。
「……ゴルバット!?しかも、でかい……!」
「あれって…、オヤブン個体だな!?」
普通のものより一回り以上大きい。
厄介な相手に見つかった…。この広場が縄張りだったみたい。
「うぅ、だからフィールドワークは怖いんですよ……」
今度は怖気づいたスクロースめがけて、ゴルバットは威嚇の声をあげながら飛んできた。
「来る!スクロースは下がってて!」
私は咄嗟にスクロースの前に出た。
カルボウが一歩前に出て、そんな私を庇うように構える。
「カルボウ、おにび!」
小さな体から放たれる紫の炎。
だがゴルバットはひらりと避けた。
やっぱり動きが速い。
「こごえるかぜ…!」
ゴルバットに、冷気の奔流がかする…
撃ったのは、スクロース横に飛んでいるチルットだった。
「スクロース?」
「私だって、ずっと先生に守られてるだけじゃないんですよ!」
勢いづいたゴルバットは、口を大きく開いて再び突っ込んでくる。
「カルボウ、正面から受けられる?」
カルボウは私にしっかり頷く。
「思いっきり行くよ!スクロースも合わせて!」
炎を纏ったカルボウが正面からぶつかる。
ゴルバットが怯む。
その一瞬、チルットの冷気が再度吹き抜けた。
「決まった!?」
距離を取ったゴルバットはまだバサバサと暴れているが、そろそろ疲れていそうに見える。
私達の攻撃には耐えきれなかったみたい。
そんなゴルバットに、突然大きな網がかぶさった。
次の瞬間、洞窟の奥の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「今だニャース!確保しろ!」
「これで最低限の成果は得られるのニャ!」
姿は見えないが、間違いなくあの三人組だ。
「出たな!?」
「…あの網……」
「戦車についていた物ですね。」
その後すぐに、辺りが煙に包まれる…
「アンバーさん…!」
「こういう時は、落ち着いて出来るだけ動かない…だったはず…」
ボールでポケモンをゲットする音と、人が走り去る音が聞こえた後で、やっと煙が晴れた。
「って、アンバー…!?」
「二人共!」
三人衆が出て来た辺りから、ちゃんと二人も来たようだ。
「ファデュイの人達は…ひょっとしてもう逃げた?」
「うん…それも、ここに居たオヤブンのゴルバットをゲットして…」
質問に返すと、蛍は分かりやすく面倒くさそうな顔をした。
「この状況でオヤブン個体を持ってくとか、アイツらどこまで迷惑なんだよ…!!」
「助かったのも事実だけど…」
空が周囲を見回して、首を傾げる。
「そう言えば、結局めざめいしは見つかってないな…」
その言葉に、スクロースが「あっ」と声を上げる。
スクロースがポケットから出したのは、淡いラムネ色に輝く石。
「そ、そうでした……!」
「……こっちが大騒ぎしてた間に、もう見つけてたんだ…。」
拍子抜けしたように蛍が言い、私も思わず苦笑した。
「これで研究は進められます…!本当に、ありがとうございます……。」
スクロースは深く頭を下げる。
「危険な目にも遭わせてしまって……。」
「いやいや、こういうのも冒険だし!」
私は足元を見て、カルボウに視線を落とす。
「それに、この子もちゃんと活躍してくれたよ。」
カルボウは誇らしげに胸を張ったあと、照れたように小さく鳴いた。
その後、私達は無事に洞窟を抜け、モンド城へ戻った。
朝のレストラン前。
約束通り、アルベドが待っていた。
「無事に戻ったようだね。」
「洞窟、ちょっと大変でしたけど……。」
そう言って、アルベドは穏やかに笑う。
「スクロース。」
「は、はい……!」
「今の君なら1人で出来ると信じているけど、これで何か凄い薬が出来ると言っていたよね。」
「はい……!」
少し言い淀んでから、付け足すスクロース。
「…完成するのは……眠くなくなる薬で………カフェインって言うんだけど…」
アルベドは溜め息をついた。
「…やっぱりそうだったか…。残念だけど当分は使用厳禁だ。」
「で、でも先生……!」
「君の体に悪いだろう…?」
即答だ。
「うぅ……。」
「今後の研究にも欠かせないって、そういう意味だったんだ…」
しょんぼりするスクロースを横目に、アルベドは話題を切り替える。
「さて、本題だ。」
アルベドは腰のポーチから、二つのアイテムを取り出した。
錆びついた金色の鎧と禍々しい気配を纏った紫の鎧。
「どちらも、カルボウの進化に必要なものだ。」
私はしゃがみ込んでカルボウを見た。
「どうする?」
カルボウは少し考えるように首を傾げ…やがて、前へ一歩踏み出した。
「……決まりだね。」
アルベドはイワイノヨロイを手渡す。
「では、記録のためにも……進化の瞬間を。」
カルボウが鎧に触れたその瞬間
石の鎧が光を放ち、カルボウの体を包み込む。
光と炎が渦を巻く。
光が収まった時、そこに立っていたのは金の装甲を纏った、凛々しい戦士。
「グレンアルマ…」
って蛍ちゃんは言ってたっけ。
「…よろしくね。これからも。」
グレンアルマは静かに頷いた。
「……貴重なデータが取れた。」
アルベドは満足そうに言う。
「感謝するよ。」
そして、ふと思い出したように続けた。
「そういえば……君たち、各地のジムを巡っているんだったかい?」
「うん、確かにそうだけど?」
アルベドは淡々と告げる。
「なら、いずれ分かることだが……」
「僕は、モンド地方の六番目のジムでジムリーダーをしている。」
「…六番目…最後!?」
蛍が声を上げる。
アルベドは南にそびえる雪山を指差した。
「再会は、ドラゴンスパインになるだろう。」
「その時までに、十分に鍛えておくといい。」
そう言って、アルベドは踵を返した。
「……なんか、一気にゴールが見えた気がする。」
「まだまだだけどな。」
私は小さく拳を握った。
「よーし、次も頑張ろう!」
「次は4か所目のジムだぞ!まだまだ旅は長いけどな…!」
「早速行こうよ、お兄ちゃん!」
「そろそろ夕方だし、明日の方がいいんじゃないか…?」
朝の騒ぎから始まった一日は、こうしてようやく一区切りついたのだった。
アンバーのグレンアルマ:アニポケでも毎世代一匹くらいいたタマゴ枠。もともと優遇枠ですが、モンドに居そうな炎ポケモンでこれくらいしかタマゴ枠とかで良さげな候補がないための採用。
アルベド:錬金術師にして、モンドリーグ6番目のジムリーダー。
モンド最大の雪山であるフィンドニール山の中腹に研究所及びジムを構えている。特技はスケッチ。実はホムンクルス(人造人間)だったりするという設定はこの世界線でも生きているそう。
スクロース:C₁₂H₂₂O₁₁で表される、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合したもの (Wikipediaより抜粋)
ファンタジー丸出しのこの世界において、錬金術に関する研究とは別に品種改良という技術を発見しているらしい。これによって、もうモンドで転生知識無双をすることは出来なくなった。(?)
ストーリーは流れと成り行きで動いているので、作者にもそんなに制御できていません(言い訳)