【第四章 かわらぬ挨拶をもう一度のスタート!】宇宙の神秘を詰め込まれてオカルト探偵になった   作:初雪空

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指名手配となった室矢重遠は、どこへ!?
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第59話 かわらぬ挨拶をもう一度

 ループする異変は、解決した!

 

 町内会費が10万円を超えていそうな高級住宅地。

 

 その一角にある注文住宅のリビングで、2人の女子が息を吐く。

 

 綾ノ瀬(あやのせ)奈々美(ななみ)は、近くのソファに座っている水鏡(すいきょう)アレーテを見た。

 

「姉のクラウディアさんも、本来の状態……。死んだので?」

 

「そうですわ! どういう滅び方をしたのかは、知りませんが……」

 

 聞き役の天城(あまぎ)梨理香(りりか)が、冷静に意見する。

 

 サイボーグらしく、無表情。

 それに、ループ事件と無関係で、客観的にならざるを得ない。

 

「私が未来から来たわけですし、タイムループぐらい、不思議ではありませんね? もっとも、繰り返せば人の精神は狂い、世界の物質もグチャグチャに混ざり合ったでしょう! ……(さい)さんは?」

 

 肩をすくめたアレーテが、教える。

 

「ふてくされて、引き籠ってますわ! 失恋の1つや2つで、女々しいこと……」

 

 興味深い表情になった梨理香が、身を乗り出す。

 

「ループをしていた、妹のルイゼさんは? やはり、才さんが殺したのですか?」

「……才は、比例原則を破りました。その意味でも、落ち込んでいますわ!」

 

 奈々美は、暗い顔になった。

 

「私、バカみたいですね? ここで一緒に暮らして、あれだけ誘っているのに……」

 

 自分は手を出されないのに、才はポッと出の外国人のために自分のルールすら曲げた。

 

 その事実は、奈々美を打ちのめす。

 

 ソファの上で体育座りになった奈々美が、顔を両膝にうずめた。

 

 けれど、アレーテは明るい声を出す。

 

「奈々美? あなたは、むしろ喜ぶべきですわ!」

 

「……えっ?」

 

 思わず顔を上げた奈々美に、アレーテが悲しそうに微笑む。

 

「初恋は実らないと、相場が決まってます!」

 

 リビングに沈黙が流れるも、両足をフローリングに下ろした奈々美は泣き笑いのような表情だ。

 

「私、嫌な女になってる……」

 

 自分の恋敵、ルイゼ・マルガレータ・エルデルは、死んだ。

 それも、相思相愛だった水鏡才の手で……。

 

 邪魔者は、消えた。

 

 開いた手を見つめる奈々美は、それを喜ぶ自分に嫌悪感。

 

 しかし、アレーテの悪戯っぽい声。

 

「今なら、すぐに抱いてもらえますよ? わたくし達は、外泊しましょうか?」

 

「ふっ!」

 

 顔を上げて、にらんだ奈々美は、すぐ我に返り、肩を上下させる。

 

 女子っぽい共感で、大変だったね? と言われるよりは、遥かにマシだ。

 

 だいたい、弱っている才に付け込んで既成事実を作ることは、奈々美も考えていたこと……。

 

 呼吸を整えた奈々美が、言い捨てる。

 

「結構です! あの女の代用品で抱かれる気は、ありません!」

 

 今すぐに結ばれれば、そういう話になる。

 

 奈々美にとっては、最悪だ。

 

 少なくとも、才が心の整理をつけて、ちゃんと自分を見てから……。

 

 嫌味なく笑ったアレーテによって、閉幕。

 

「世界を乱したルイゼは、舞台から去りました! それだけです」

「……1つ、良いでしょうか?」

 

 梨理香の声が、待った! をかけた。

 

 アレーテと向き合った梨理香は、冷静に指摘する。

 

「才さんは、本当にルイゼさんを殺したんですか?」

「……同じ質問に答える必要が、ありますの?」

 

 再び、沈黙。

 

 息を吐いた梨理香は、首を振る。

 

「いえ、失礼しました……」

 

 

 ◇

 

 

『プライベートの島が突如として消えた件は――』

 

 テレビからの声で、少女は目を覚ました。

 

 ゆっくりと上体を起こせば、どこかのリビングで、ソファの上。

 

「あの……」

 

 リビングの広い空間にいた中年女性が、驚いたような視線。

 

「まあまあ! 気づいたのね? あなたが倒れていたから、ここに運び込んだけど……。大丈夫? どこから来たの?」

 

 ぼんやりする頭で、考える。

 

「ありがとうございます……。私は……」

 

 頭痛がした。

 

 揺れると、明るい茶色のボブも動く。

 

「無理しないでね? ところで、サイという人がご家族なの?」

 

「……えっ?」

 

『US軍の高級将校、通信ネットワークの経営者、議員の3人の遺体は、いまだに見つからず! おそらく、深海にガレキと共に沈んだものと――』

 

 中年女性に教えられた少女は、片腕にある黒マジックの殴り書きを見た。

 

 見開かれる瞳。

 

「私は……。ルイゼです……」

 

 かろうじて、思い出した。

 

 だが、サイという名前に覚えはない。

 

 ないが、どうしても気になった。

 

 片腕の内側にある、自分の筆跡である黒文字を見る。

 

“Remember Sai!(サイを忘れるな!)”

 

 海外らしい、窓が多く、開放的な屋内で、通り抜ける風に吹かれた。

 

(何か、忘れている気がする……)

 

 記憶がないことは、もちろん。

 

 それだけの問題ではない。

 

 中年女性に尋ねれば、どうやら欧州のようだ。

 

(とりあえず、生活できるようにしないと!)

 

 

 ――1週間後

 

 女子高生の年齢とあって、中年女性たちの好意で、わずかな資金とチケットを手に入れた。

 

 町といっても、村と変わらない場所。

 

(ここで暮らせば、同年代との結婚を強いられるだけ……)

 

 現に、若い男たちはそういう視線。

 夜這いや、普通に誘われて拒めば、村にいられない。

 

 家事などを手伝ったら、中年女性の養子という形に。

 不法移民ではなく、恵まれている。

 

 残念そうな若い男たちに、いつでも戻ってこいと言われつつ、ルイゼは列車に乗り込んだ。

 

 遠ざかっていく景色は、そもそも見覚えがない。

 

 ボックス席の窓際に座りつつ、ルイゼは思う。

 

(サイ……。誰だろう?)

 

 失われた記憶。

 

 それを取り戻すためにも、彼女は旅を続けるだろう。

 

 だが、思い出せなくても感情は残っている。

 

 知らずに涙を流しつつ、こう呟く。

 

「かわらぬ挨拶をもう一度……」




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