【第五章 魔法少女アンジュソニアがスタート!】宇宙の神秘を詰め込まれてオカルト探偵になった 作:初雪空
「おっ? ひょっとして、火野平か!?」
視線の先には、爽やかな男子、
「お前、外に出られるじゃん! ウチに何の不満があるんだよ? とにかく、良かった!」
外廊下で、大きな声。
見えている範囲に人はいないが、他人に聞かれて嬉しい内容とは言えず。
足早に通り過ぎ、鍵を取り出した翔花は、息を吐いた。
ノンデリを無視して、玄関ドアに鍵をさし込む。
「ちょっと! 差玖が話しているのよ!?」
鍵をさしている腕をつかんだ女子は、気色ばむ。
(
黄色に近い金髪ロングに、深い青に紫が入った瞳。
美人と評するだけの容姿で、今は男に媚びた雰囲気のまま、怒っている。
確か、
けれども、名状しがたい不快感がある。
(気持ち悪い……。AIに3Dで描かせた人物みたい)
整いすぎて、死体が喋っている感じ。
差玖にアピールしたいのだろうが、友人でもないクラスメイトに説教される謂れはない。
鍵をひねってから、抜く。
そのまま、相手のつかんでいる腕を巻き込むように払った。
動きに逆らわなかったことで、痛みはなかったはず。
けれど、引き籠もりに舐められたことが屈辱のようだ。
もう片方の手でさすりつつ、睨んでくる。
「それが、返事なわけ?」
「頼んだ覚えはありません! 人の腕をつかむと、危ないですよ? 今みたいに」
「へえ? 言ってくれるじゃん!」
朝宇未は美しい顔をゆがませ、睨んできた。
「帰ってください! 警察を呼びますよ?」
翔花の最終警告に、嫌味なく笑った差玖が言い返す。
「担任に頼まれた! 警察を呼んだら、引き篭もりのお前が困るだろ? 俺たちは、お前を救いに来たんだ! あとは、中で話そう――」
ゴンッ!
玄関ドアが開いたのを見て、当たり前のように続いた差玖は、思い切り衝突。
ドア越しにも、痛がっている様子が伝わってくる。
内側で鍵をかけた翔花は、瞬時に女騎士のような格好の魔法少女アンジュソニアへ。
片手を向けつつ、透視する。
そこには、金属バットを両手で握った差玖がいる。
『お前の心の壁! これで、粉砕してやるぜぇ!』
ピッチャーの球を打ち返すように構えた差玖が、バットをスイングしようと――
「
アンジュソニアが向けている片手が光り、差玖は廊下から吹っ飛んだ。
『うわぁあああああっ!?』
落下していくことで、変わっていく声。
『差玖!』
朝宇未の声に構わず、透視を切り、元の姿へ。
人差し指を上へ伸ばしたまま、クルクルと回す。
「フルール! 家を変えるわよ?」
「はーい!」
――30分後
通報で駆けつけた警官4名が外廊下にたどり着いた瞬間に、火野平翔花が住んでいる家は内側から爆発した。
玄関ドアが外へ開きつつ、大きくゆがんだ。
ベランダ側の窓ガラスは一気に粉砕されて、バラバラと降り注ぐ。
現場には焼け焦げた死体があり、状況から翔花と判断された。
原因は、換気をしないことでのガス爆発。
そうとしか、考えられない……。
◇
放課後の太陽東高校。
誰もいない屋上で、差玖と朝宇未が話し合っている。
「昨日は、まいったよ! しかし、火野平がそこまで悩んでいたとは」
「もう、いいじゃない。その話は……」
差玖に怪我はなく、マンションの外廊下から落ちたとは思えない。
けれど、彼は悩ましい顔に。
「同じクラスにいる、マウントしてくるあいつ! そろそろ、飽きてきたな? 鬱陶しい! 青春というのは青で、それに似合わない奴らは遠慮するべきだ」
「そうね!」
――教室
「おい? お前、赤になってるぞ!?」
「……見間違いじゃ?」
それを聞いた1人が、絶叫した。
「嘘だろ……。俺は、てめえの望んだ通りに……」
真っ青になったのは、屋上で差玖たちが話していたマウント野郎だ。
首が苦しいのか、そこへ両手を当てつつ、遠巻きになった面々に強がる。
「お、俺は、もう帰るからよ? またな!」
他の面々は首元にあるチョーカーが青いのに、彼だけ赤い。
泣きながら笑顔を作っている男子に、女子の1人が叫ぶ。
「待って、アッ君!」
「……ダメだよ、ユーちゃん!」
「我慢して! お願い!」
二人がかりで錯乱した女子を押さえ込むも、彼女は止まらない。
「離して! 離せぇええええええっ!」
リミッターを外したような力に、左右で押さえ込んでいた女子が弾き飛ばされた。
ユーちゃんと呼ばれた女子は、アッ君を追いかける。
――翌日の朝
教壇に立った男の担任は、思い詰めた表情で下を向いたまま。
「えー……。昨日、うちの2人が急に引っ越すと……」
ガタガタと震えつつ、涙や汗が落ちる。
今にも自殺しそうな様子に、誰も喋らない――
「せんせーい! 朝から暗いですよ? あの2人は残念でしたけど、俺たちは青春を楽しまないと! なあ?」
百舐目差玖の声に、クラスは静まり返った。
物音1つ、しない。
けれど、笑い声に包まれる。
呼吸を整えた担任も、顔を上げた。
「そ、そうだな! さすが、ヒーローだ」
彼らは、青春を謳歌している。
青でなくなった者を気にする必要はなく、その暇すら惜しむ。
そうでなければ、いけない……。