何卒、よろしくお願いします!!!!
「なんだ、ただの女の子じゃないか」
そう呟くと、金髪の男は手にしていた銃を静かに下ろし、巨大なロボットの腹部にあるコックピットへとよじ登り始めた。
彼の目の前に佇んでいた少女、アリスは、目を輝かせながら一歩前に踏み出した。その胸の高鳴りを抑えきれず、思わず声をかける。
「あの、これに乗ってたんですか!?」
つい先ほどまで地面にいたはずの少女が、いつの間にか真横に立っていることに一瞬驚いた男だったが、表情には出さず、淡々と答えた。
「ああ、そうだ。俺がこのザクのパイロットだ」
「ザク・・・?このロボットの名前なんですか?」
「なんだ、君、ザクを知らないのか?」
「はいっ! こんなかっこいいロボット、初めて見ました!!」
彼女の無邪気な言葉に、男はわずかにため息をついた。
「・・・はぁ、まったく。平和な顔をして。このコロニーにも軍隊くらいはあるだろう?」
「コロニー・・・?って、何ですか?」
「コロニーを知らない?・・・ってことは、ここは地球なのか?」
「地球……というのはよく分かりませんが、ここはキヴォトスです!」
「キヴォトス・・・?聞いたことのない地名だな」
馴染みのない言葉に眉をひそめ、男は何かを考え込むように顎に手を当てた。
その横で、アリスは身を乗り出すようにして、興味津々にコックピットの中を覗き込んでいた。その瞳は宝石のように輝いている。
「お嬢ちゃん、コックピットが気になるのか?」
男が振り返りながら尋ねると、アリスはぱっと顔を輝かせ、大きく頷いた。
「はいっ!! アリス、コックピットの中から外を見たことはありますが、コックピットの中を見るのは初めてですっ!!」
「軍隊がないのに、モビルスーツに乗ったことがあるのか?」
「はい!! アリスはモモイよりもたくさん撃墜しました!! ・・・さすがにユズのスコアには勝てませんが」
男は一瞬目を細めたが、すぐにため息まじりに口を開いた。
「……なんだ、ゲームの話か」
肩を軽く振るわせながら、男は再びザクのメンテナンスに取りかかる。手慣れた動作でコックピット内のスイッチを操作し、損傷した配線を点検していく。
「モニターはかろうじて生きてるな……でも、他の回路が完全に焼き切れてる。こりゃ一筋縄じゃいかない……通信もダメか」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、男は慎重に手を動かし続ける。だが、今持っている道具では手の施しようがないと判断し、隣で「わぁ・・・!」と感嘆の声を上げながらコックピットを覗き込んでいる少女へと目をやった。
「お嬢ちゃん、このあたりで工具か武器を売ってる場所を知らないか?」
「え、あ、はいっ!! アリス、知ってますっ!!」
「できれば、そこに案内してほしいんだが……」
「メインクエストの発生ですね!? えっと、このクエストの報酬は……?」
どこか期待に満ちた瞳で、アリスはバーニィとザクを交互に見つめる。男は困ったように息を吐き、やがて、肩をすくめながら笑った。
「わかったよ。ザクが直ったら、お嬢ちゃんを乗せてやる」
「ほんとですかっ!?」
「本当だ。約束する」
「やったーっ!! アリス、パイロットになります!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶアリス。その無邪気な笑顔に、男の頬も自然と緩む。
ザクから降りた男は、パイロットスーツの埃を軽く払いつつ、軽く手を振った。
「じゃあ、道案内、頼んだよ……お嬢ちゃん」
「アリスはお嬢ちゃんではありません。アリスはアリスです。世界を救う勇者ですっ!!」
「・・・そ、そうか。頼もしいな。俺の名前は、バーナード・ワイズマン。バーニィって呼んでくれ」
「分かりました、バーニィ!! アリスについて来てくださいっ!!」
そう言ってスキップを始めたアリスは、街の方へと軽やかに進んでいく。その後ろ姿を見つめながら、バーニィは口元に苦笑を浮かべ、アリスの後をついていくのであった。
「着きましたっ! ここが武器屋さんです!!」
明るい声と共に、アリスが両手を広げて振り返る。
森林地帯を抜け、瓦礫の散らばる廃墟を越え、ようやく辿り着いたのはミレニアム地区。
その道のりは想像以上に険しく、足取り軽く先導していたアリスとは対照的に、バーニィは今にも倒れ込みそうなほど疲労困憊していた。
「ア、アリス・・・?もっと近道は・・・なかったのか・・・?」
ベンチに腰を下ろしながら、顔をしかめて尋ねる。
「今の道が、敵との戦闘を避けた最短ルートです!」
「マジかよ・・・。俺は一体、どれだけ街から離れた場所に墜落したんだ・・・」
バーニィは額の汗を拭い、空腹と疲労に耐えきれず、情けない声を漏らす。
「と、とりあえず休ませてくれ。何か飯を食おう。勇者の冒険にも休憩は必要だろ? な? アリスも腹が減ってるだろ?」
「アリスはお腹が減りませんが・・・でも、確かに休憩は必要ですね!」
「よし、決まりだ。・・・あー、悪いが、何か食べ物を買ってきてくれないか? 俺はもう限界でさ、この辺りのこともさっぱり分からない。このベンチで大人しく待ってるから、頼む」
「分かりました! 仲間のピンチを救うのも、勇者の使命です! 待っててください、バーニィ! すぐ戻ります!!」
「おう、頼んだ。・・・金は後で払うよ」
元気いっぱいに駆けていくアリスを見送りながら、バーニィは背もたれに体を預け、長いため息を吐いた。
「・・・しかし、ここは一体なんなんだ?」
思わず、ぽつりと呟く。
ここへ来るまでに出会った子どもたちは、皆一様に不思議な格好をしていた。中高生ほどの年齢で、頭上にはまるで“天使の輪”のような物体を浮かべている。
それだけではない。全員が当然のように銃火器や近接武器を携帯していた。
軍隊はないと言っていたが、それどころではない。
「まさか、ここにいる子どもは……全員、武装した少女兵ってわけか?」
ゾッとする思いと共に、バーニィは周囲を見渡した。大人の姿は、どこにも見当たらない。
この場所は、明らかに異常だった。
そして、それ以上に信じがたい光景——人間の言葉を話す動物が、街を普通に歩き回っていた。
「・・・ジオン公国のニュータイプ研究所も大概らしいが・・・ここはそれ以上か・・・?」
あの研究所でさえ、非人道的と恐れられていた。だが、この世界では動物が二足歩行し、人間のように会話する。
どうやったらそんなことが可能になる?
遺伝子操作か、洗脳か、魔法か。どれも現実味がなかった。
「・・・想像したくもない。どれだけ恐ろしい実験を重ねれば、こんな世界が出来上がるんだ」
もしこの世界に、ジオンや連邦以上の技術が存在するのなら・・・そしてそれが全ての技術がここで暮らす子供や動物たちに詰め込まれているとしたら・・・
バーニィは無意識のうちに背筋を正し、辺りを警戒し始める。
「ザク・・・というか、モビルスーツ自体を知らないということは・・・ここにはモビルスーツが一度も来たことがない。つまり・・・」
青空を仰ぎ、思考が整理されていく。
「
淡く雲が流れる空に、ぽつりと呟く。
——だが、バーニィはまだ知らなかった。
この世界にはジオンどころか、「モビルスーツ」という概念すら存在していないことを。
自分が、“
そして——
この世界が、バーニィの想像すら凌駕する“非常識”に満ちているということを。
その事実を、彼はまだ知る由もなかった。
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