みなさまありがとうございます!!
「・・・・・・まったく、どうなってんだ、この街は」
バーニィはアイスを片手に、顔を空に向けてため息を漏らした。
アリスが言っていた武器屋という言葉に、最初は模型銃やエアガンを扱うおもちゃ屋のことだろうと高を括っていた。必要最低限の工具さえ手に入ればそれでいい。バーニィはそう思っていた。
だが、彼の足元に立てかけられているのはおもちゃでもない。“本物の銃”だった。
しかもそれが、裏取引や闇市場を経由したものではない。ただのコンビニの一角で、まるでペットボトルでも買うかのように普通に売られていたのだ。
「・・・・・・」
目の前に広がる常識外れの光景に、もはや言葉も出ない。
「どうしたんですか、バーニィ?」
隣からの問いかけに、バーニィは微かに首を振る。
「いや、なんでもない。ただ、俺のいた世界とは・・・常識が違いすぎると思ってな。それはもう、世界そのものが別物なんだって思えるくらいにな」
「へぇー。そうなんですね」
アリスは首を傾げながら、無邪気にアイスをかじっている。そんな彼女を見て、バーニィも同じくアイスを食べ始めた。
すると突然、アリスが何かを思いついたように、ベンチの上にぴょんと立ち上がり、手を広げて宣言した。
「ぱんぱかぱーんっ! アリスはすごくいいアイディアを思いつきましたっ!」
バーニィはじと目で隣の少女を見上げる。
「・・・・・・なんだよ、今度は」
「困った時は、“先生”に相談するのです!」
「先生?」
「はいっ! アリスたちが困ってる時、いつも助けてくれる、みんなの先生です!」
アリスが言う「先生」。つまり彼女より年上の存在であり、ある程度の知識を持った人物。もしその人物がこの街のことをよく知っているなら、会って話を聞いてみる価値はある。
だが一方で、こんな異常な世界を作り出した張本人である可能性も否定できない。もし正気じゃない人物なら? 子供を洗脳して戦わせているマッドサイエンティストだったら?
アリスの案に乗るべきか、それとも別の道を探すべきか。バーニィが悩んでいるその時だった。
──ドンッ!!
突如、目の前の店が爆発した。
轟音とともにガラスと瓦礫が四方に飛び散り、破片の一部がこちらに向かってくる。
「っ!」
バーニィは反射的にベンチを倒し、その陰にアリスをかばうように押し込んだ。
「お前ら、ズラかるぞッ!!」
「「へい、姉御!!」」
爆風の中から姿を現したのは、三人組の不良。それも、全員が幼い少女だった。手にした銃を天に向けて発砲し、辺りに威嚇射撃を撒き散らしながら逃走経路を探している。
バーニィはベンチの裏で息を殺した。
(マジでなんなんだこの街は!? 真っ昼間からテロまがいの爆破事件!? しかも犯人は女子高生の不良だと!?)
治安という概念が死んでいる。そう確信せざるを得なかった。
だが次の瞬間、思いもよらぬ行動を取った者がいた。
「おい待て、どこ行く!?」
アリスが、バーニィの腕をすり抜けて飛び出したのだ。
「おいっ、アリス!? やめろ、戻れ!!」
バーニィの叫びもむなしく、アリスは不良たちの前に立ちはだかった。
「止まってくださいっ!!」
「・・・・・・なんだ、このチビは?」
「みんなを怖がらせるなんて、アリス、許しません!!勇者アリスが成敗しますっ!!」
一人で立ち向かう少女の姿に、不良たちは奇妙なものを見るような視線を向けた。
「なんだぁ? チビが生意気言ってんじゃねーよ」
リーダー格の少女が舌打ちし、部下二人がアリスに銃を向ける。
「くっ・・・・・・!!」
バーニィは即座に手に入れた銃を構えた。狙いは完璧に定まっている。引き金さえ引けば、アリスを守ることができる状態だ。
だが——
(・・・・・・重いッ!?)
そのトリガーは、まるで鉛でも詰まっているかのように重く感じられた。
(子供相手に銃を撃つのか?それも女の子に?)
確かに彼女たちはテロリストだ。銃を放っている時点で、正当防衛も成立するだろう。
だがここは戦場じゃない。モビルスーツもない。兵士でもない、相手はただの一般人でここは人気の多い市街地。
もしこれが戦場であったら。
モビルスーツ同士の戦いであったら。
バーニィは迷わずその引き金を引けていたはずだ。
だが、今この状況は違う。
トリガーにかけた指が、震える。
本当に引いていいのか。
バーニィの中で、答えの出ない問いがこだまする中、時間だけが静かに過ぎていった。
だが、今撃たなければアリスが殺されてしまう。
バーニィとアリスには特に深い関係はない。
たまたま出会い、その場の流れでここまで案内してもらっただけの他人。
テロに巻き込まれて死のうがバーニィには関係ない話だ。
だが、アリスの言葉がバーニィの脳裏から離れなかった。
——勇者になりたい。
それは、かつてバーニィ自身が夢見た言葉だった。
勇者になりたいとまでは思わなかった。だが、誰かを守れる人間になりたかった。
弱い者の盾になり、困っている人に手を差し伸べる。
子どもの頃に漠然と描いていた“ヒーロー”の姿。
それを目指して、バーニィはジオン軍に入隊した。
だが、現実は理想とは程遠いものだった。
敵と味方の区別すら曖昧な戦場で、命令に従ってスイッチを押す。
「平和のため」だと信じて連邦軍と戦ってきた。だが、その平和とは誰のためのものだったのか。
敵を殺し、仲間を失い、ただ“命令”に従って戦場を彷徨うだけの毎日。
赤い彗星のように名を馳せたわけでもない。
黒い三連星のように戦場を駆け抜けたわけでもない。
ソロモンの悪夢と恐れられた男のような伝説もない。
バーニィはただ、上司に命じられた戦場へと向かい、モビルスーツに乗り込み、戦っては、生き残り、また戦う——
それだけの“駒”だった。
気がつけば、ヒーローになるという夢はとうに失せていた。
残ったのは、引き金を引く技術と、数えきれない死の記憶だけ。
そう、自分はもう、ただの人殺しに成り下がっていた。
それでいいのか?
バーニィは自分に問いかけた。
——いや、そんな人生でいいはずがない。
(今からでも遅くはない。俺は変わるんだ)
バーニィの心に再び火がついた。
女の子一人守れないで、何がヒーローか。
人を殺して解決なんて、そんなのヒーローなんかではない。
胸の奥から突き上げる衝動に突き動かされるように、バーニィは手にしていた銃を地面へと投げ捨てた。
鋼の塊がアスファルトにぶつかり、乾いた音を立てる。
迷いはなかった。
足が自然と動いていた。
「やめろっ!!」
叫びながら、バーニィは全力で駆け出す。
アリスへと伸ばしたその手は、間違いなく彼女に届くはずだった。
だが——
パァン!!
乾いた銃声が、真昼の街に響き渡った。
一瞬、世界が止まったように感じた。
アリスの体が、銃弾の衝撃でふわりと宙に浮く。
その小さな体は、まるで操り糸を断たれた“人形”のように、背後へと崩れ落ちた。
「アリスッッッ!!!!」
バーニィは喉を裂くような叫び声を上げ、地面に倒れた少女のもとへと飛び込んだ。
その手に抱き上げたアリスの体はあまりにも軽く、そして──静かだった。
「アリス……!? アリス!!返事をしろッ!!」
何度呼びかけてもアリスは答えない。
出血はない。
だが、心臓の音が聞こえない。
──間に合わなかった。
ほんの一瞬のためらい。
あの時、撃っていれば。あの時、迷わなければ。
もし、あと一歩早く動けていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
悔しさと無力感がバーニィの胸を締めつける。
バーニィはアリスを強く抱きしめ、静かに涙を流した。
「う、うぅ……」
そのかすかな呻き声に、バーニィの胸が跳ね上がった。
「アリス・・・・・・!?」
恐る恐るアリスの顔を覗き込む。
「いたた……不意打ちとは卑怯です……!」
するとアリスは、何事もなかったかのように体を起こし、ひょいと立ち上がった。
その表情に怯えも痛みもない。ただ、不快そうに眉をひそめているだけだった。
「おい、大丈夫なのか!? 」
「はい、大丈夫です。ですがバーニィ。ここはアリスに任せて、バーニィは危ないから下がってください」
アリスは、静かに光の剣を手に取り、不良たちに向き直った。
その姿はまるで、勇者そのものだった。
「な、なんかヤバくないっすか、リーダー・・・?」
「ひ、ひとまず逃げた方が・・・」
「そ、そうだな。逃げるぞお前ら!!」
不良たちは顔面蒼白で踵を返す。
だが、アリスは逃がさない。
彼女の手に握られた光の剣に、眩いエネルギーが集まり始める。
その光はみるみるうちに膨れ上がり、まるで戦艦級のビームキャノン砲がチャージされているかのようだった。
「光よっ!!」
その声と共に、アリスが跳躍する。
次の瞬間、世界が白に染まった。
轟音と共に放たれた光は、辺り一面を吹き飛ばすほどの衝撃を巻き起こし、地面をえぐり、空気を震わせ、不良たちへと襲いかかった。
やがて光が薄れ、砂埃が静かに舞い落ちる。
バーニィは目を細めながら、不良たちがいた方向を見やった。
「なんだ・・・これは・・・・・・夢でも見ているのか・・・・・・?」
そこにあったのは、ススのように黒く焦げた不良たちの姿。
まるでギャグ漫画から抜け出たように、全身真っ黒に焦げた彼女たちが、潰れたカエルのように地面に転がっていた。
「大丈夫でしたか、バーニィ!?怪我はありませんか!?」
アリスが心配そうに近寄ってくる。
だが、バーニィはその言葉を受け止めることすらできなかった。
撃たれたはずのアリスが、無傷で立っている。
あの攻撃を受けた不良たちも、5体満足で倒れ伏しているだけだった。
(こいつら、本当に俺と同じ人間なのか・・・・・・!?)
もはや「異常」という言葉では済まされない。
この世界が狂っているかのようだった。
「バーニィ・・・・・・?」
アリスが呼びかける声にも反応できず、バーニィの頭は完全にショートしていた。
──そのとき。
カラン……
静かに、乾いた金属音が鳴った。
バーニィは反射的にその音の方へと目を向けた。
野球ボールほどの黒い物体が、地面を転がってきていた。
(・・・・・・手榴弾!?)
目にした瞬間、白兵戦の記憶が脳裏を駆け巡る。
ピンは抜かれている。爆発は・・・・・・秒単位の問題だ。
「ッッッ!!!」
バーニィは反射的にアリスを抱きかかえ、背後にかばうようにして飛び退いた。
ドォォン!!!
激しい爆音が辺りを包む。
破片が空気を切り裂き、バーニィの背中に突き刺さった。
「ぐ・・・・・・うっ・・・・・・!?!?」
瞬間、地面に叩きつけられる。
全身が焼けつくように熱くなり、呼吸すらまともにできない。
「バーニィ!?バーニィッ!!」
泣きそうな声が耳に届く。アリスの声だ。
どこか遠くで、泣きながら自分を呼んでいる。
(・・・・・・よかった・・・アリスは、無事か・・・・・・)
それだけで、満足だった。
視界が暗くなる。
世界の音が、遠ざかっていく。
そうしてバーニィは、静かに意識を手放した。
お盆+評価バーに色がついた喜びで筆が止まらず、投稿時間も気にせずに投稿しちゃいました
いつまでこのペースで描き続けられるかは分かりませんが、次回も楽しみにしていただけると嬉しいです!!
また、モチベに繋がりますので引き続き感想・高評価をお願いします!!