ブルーアーカイブ ポケットの中の戦争   作:龍角散ガム

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僕が思い描く平和と君たちの平和

 

 

「バ、バーニィ、これはどうですか・・・?」

 

 

恐る恐るといった様子で、ユズがVRゴーグル越しのバーニィに声をかける。

ゴーグルを装着したバーニィは、黙って周囲を見回していた。視界の確認、そして戦場の把握。

しばらくして、バーニィは眉をひそめながら静かに言った。

 

 

「もう少し視線の高さが上の方がいいな。少し見下ろすくらいの角度の方が、戦況を把握しやすい」

 

 

「わ、分かりました・・・!!」

 

 

ユズは慌ててメモを取る。

その手元は震えていたが、目は真剣そのものだった。

そして、バーニィがVRゴーグルを外したその瞬間を見計らったように、ミドリがタブレットを差し出した。

 

 

「バーニィ、この敵の機体のデザイン、どう思いますか?」

 

 

画面にはミドリが設計したロボットのデザイン画が映し出されていた。

無骨なフォルムに鋭く光るモノアイ。バーニィにとって非常に親近感が湧くデザインだった。

 

 

「良いんじゃないか? ヘッドパーツのモノアイがとても俺好みだ」

 

 

短くも肯定的な言葉に、ミドリの頬がわずかに赤く染まる。

だがその空気を破るようにモモイが勢いよく身を乗り出してきた。

 

 

「見て見てバーニィ!! 今度の脚本はすごいんだから!!」

 

 

キラキラした瞳で、モモイはタブレットをバーニィへと手渡す。バーニィが受け取ったタブレットには、彼女が書いた新しいシナリオの原稿が書きなぞられていた。

 

 

「どれどれ・・・」

 

 

一読したバーニィは、少しだけ眉をひそめた。

 

 

「なあ、モモイ。もっと現実的なストーリーの方が良いんじゃないか? 戦闘経験の無い民間人がロボットに乗って、反乱軍相手に無双ってのは・・・さすがにやりすぎだと思うが」

 

 

「えぇ〜? これくらいの方が絶対人気が出るって!!」

 

 

「でも、“主人公の反応速度に機体がついてこれない”って設定はやりすぎだろ」

 

 

「いいのいいの!全く、バーニィはもっと顧客の視点で考えるべきだよ!今のトレンドは“俺TUEE”!むしろ足りないくらいだよ!!」

 

 

「えぇ、そうなのか・・・俺には、いまいち分からないな」

 

 

小さく笑いながら首をかしげるバーニィ。

彼がキヴォトスにやって来てから、もう一ヶ月が経っていた。

 

高度に発達したキヴォトスの医療技術のおかげで、バーニィは当初すぐに退院することができた・・・のだが、その直後にアリスの全力タックルを食らい、あっさりと再入院。

彼女なりの喜びの表現だったのだろうが、キヴォトス人ではない彼には耐えられなかった。

 

そして現在。

復帰したバーニィは、「ゲーム開発部」の顧問的立場として、彼女たちのゲーム制作を手助けしていた。

ジャンルは3D対戦型FPS。反乱軍との戦いを描いたロボットのFPSゲームだ。

 

元々は部内で出たコンセプト案の一つだったが、具体的な方向性が定まらず、長い間お蔵入りになっていた。

 

そこに現れたのが、アリスに連れられたバーニィだった。

彼はその案を一目見て、呟いた。

 

 

『この機体のデザインはもう少しどうにかならなかったのか?それに、全体的にリアリティも無い。特にここ。コックピットが頭部にあるが、これじゃあ機体が動いた時の遠心力にパイロットが耐えられない。腹部にコックピットをつけるべきだ。そうすれば、頭部ほどの遠心力を受けることもないし、耐久性も上げられるはずだ』

 

 

それが、すべての始まりだった。

経験から生まれた軍人としての意見が、ゲーム開発部の心に火をつけた。

少女たちの熱意と技術に、彼のアドバイスが加わり、ゲームは着実に完成へと近づいていた。

 

ちなみに、バーニィは彼女たちには“外の世界でロボットアクションゲームが得意だった”と説明している。もちろん、“先生”にさえも明かしていない。

 

知っているのは、ザクをその目で見たアリスだけだった。

そして、そのアリスは、この状況を面白くなさそうに見ていた。

 

 

「ぶぅ〜・・・バーニィはアリスのバーニィなのに・・・」

 

 

ソファの上で頬をぷくりと膨らませ、アリスは不満げに皆を眺めていた。

そんな彼女の視線に気づいたバーニィは、ふと笑みを浮かべ、立ち上がる。

 

 

「それじゃあ、悪いがみんな。これからアリスと出かける約束をしててな。今日はこれで失礼するよ」

 

 

「っ!!」

 

 

「え〜!? また〜!? いつも二人で何してるのさ〜!」

 

 

「モモイには秘密です!」

 

 

「そう言われると余計気になるじゃん〜!」

 

 

「もう、ダメだよお姉ちゃん。わがまま言ってバーニィやアリスを困らせちゃ・・・」

 

 

「そ、そうだよ。バーニィにはいつもお世話になってるんだから・・・」

 

 

「ぶぅーぶぅー!!」

 

 

不貞腐れて唇を尖らせるモモイに、バーニィはまた優しい笑みを浮かべ、彼女の頭をそっと撫でた。

 

 

「今度スイーツでも買ってきてやるから。我慢してくれ」

 

 

「うぅ〜・・・わかったよ〜。だけど、今度は私の番だからね!!約束だよっ!」

 

 

「はいはい、分かった分かった」

 

 

「わ、私もバーニィと、買い物に行きたいな・・・な、なんて・・・」

 

 

「わ、私も・・・」

 

 

「分かった、順番な。とりあえず今日はアリスの番だからな。さあ、行こうかアリス」

 

 

「はいっ! アリス、クエストを開始します!!」

 

 

アリスは元気よく立ち上がり、バーニィと共に部室を後にした。

扉が閉まった後の静寂の中、残された3人は、視線を交わしながら口を開いた。

 

 

「そ、それにしても・・・バーニィとアリス、いつも何してるんだろうね・・・」

 

 

「そういえば、この前エンジニア部に行ってるのを見かけたよ」

 

 

「私はヴェリタスの人たちと話してるのを見かけたよ。その時はアリスじゃなくて“先生”と一緒だったけど・・・・・・」

 

答えは出なかった。

けれど、今は目の前のゲーム開発を進めなければならない。

 

再び、部室にはキーボードの音が響き始める。

少女たちの手で再び、新たなゲーム伝説の幕があげようとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ふふっ、これでようやくザクを動かせるんですね♪」

 

 

助手席で無邪気に笑うアリスの声が、軽トラックのエンジン音に混じって弾んだ。

 

 

「あぁ。ミレニアムに使える部品が大量にあって助かった。流石はキヴォトスって感じだな」

 

 

ハンドルを握るバーニィは、肩の力を少し抜きながら返事をする。

 

バーニィがキヴォトスに来てから一か月。

単なる客人としてゲーム開発部の手伝いをしていたわけではない。

裏では密かに彼女たちと信頼関係を築き上げ、ザクの修理に必要な部品を集めていたのだ。

 

バーニィがキヴォトスに来た理由は、“ゼクノヴァの調査”としている。それはある意味、嘘ではない。

“先生”とヴェリタスには、ゼクノヴァの存在と、それがもたらす脅威について説明し、ザクに搭載されていたシステムの一部を提出。ミレニアムの圧倒的な技術力によって、その解明を依頼した。

 

エンジニア部には、ザクの修復に必要な武装や交換部品の作成を依頼した。その結果、ようやくザクが動かせるほどにまで修理が進んだのだ。

 

もちろん最初は、誰もがバーニィを警戒した。

しかし、彼が持ち込んだ外の世界の技術や、ゼクノヴァに関する知識を与えることである程度の信頼を得た。

 

そして、時間とともにゲーム開発部を始めとするミレニアムの生徒たちは、彼を受け入れ始めたのだ。

 

 

「それにしても、ここが別世界だってのはいまだに信じられないな。ゼクノヴァが空間転移を引き起こすって話は聞いたことがあったが・・・まさか別世界に転移するとは。しかも、俺がその当事者になるなんて」

 

 

「いわゆる“異世界転生”ってやつですね! アリス、この前アニメで見ました!!」

 

 

「“イセカイテンセイ”・・・? なんだそりゃ。よく分からないけど、どうせ碌なもんじゃないんだろうな」

 

 

「そんなことないですっ! バーニィにも異世界転生の良さ、伝授してあげます!!」

 

 

「はいはい・・・ザクまでの道のりは長いしな。ラジオ感覚で聞いてやるよ」

 

 

目的地のザクまではまだ距離がある。

バーニィは肩をすくめながら、楽しげに語り続けるアリスの話をBGM代わりに車を進めた。

 

ここには嫌な上官も敵もいない。

戦場とは正反対のこの平和な世界こそ、バーニィが求めていた世界なのだろう。

だからこそ、バーニィにとって、この平和な時間が心地よく感じられた。

 

しばらくして、アリスの異世界転生の説明は終わったのだが、ザクまではまだまだ距離があった。

そして、沈黙が続いた後にアリスがぽつりと疑問を口にした。

 

 

「そういえば、モモイたちには“ゲームのプロ”って言ってましたけど、バーニィって本当はどれくらいすごいんですか?」

 

 

純粋な疑問だった。悪意も疑念もない。

だからこそ、バーニィは思わず顔を逸らした。

 

 

「———そうだな。俺の階級は伍長だ・・・って言っても伝わらないか。要は、数えきれないほどの戦場を駆け抜けて、仲間のために戦ってきたってことだ。だが、後一機落とせばエースってとこだったのに、直前でやられちゃってよ。惜しかったよあれは」

 

 

「エース……っ!!」

 

 

目を輝かせるアリス。その瞳の純粋さに、バーニィは思わず苦笑する。

 

 

「アリスもザクに乗って、エースになりたいです!!」

 

 

「おいおい・・・エースになるってのは、“人を殺す”ってことだぞ?そんなこと、お前にできるわけない。いや、少なくとも俺がやらせないよ」

 

 

「・・・・・・??どうして殺すんですか?」

 

 

「えっ?」

 

 

バーニィは一瞬、耳を疑った。

 

 

「相手のロボットを倒せば良いだけじゃないですか? わざわざ人を殺す必要なんてないですし、それに——」

 

 

 

 

 

 

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その一言でバーニィは凍りついた。

ブレーキが急に踏み込まれ、軽トラックは急停止する。

アリスの体が前に投げ出されそうになり、慌てて手すりを掴む。

 

 

「あいたた・・・急に止まるなら、一言言ってください。アリスのHPが減っちゃいました!」

 

 

バーニィは信じられないものを見るような目ででアリスを見た。

だが、アリスの顔には一切の悪意がなかった。

あるのは純粋な疑問だけ。

 

キヴォトスという世界では、“死”は遠い概念だった。

“死”があるとしたらそれは基本“老弱死”だけ。

少なくとも、銃撃や爆発で死ぬことはないのだ。

 

唯一、“ヘイロー破壊爆弾”という明確な死をもたらす兵器が存在しているが、それを知っているのは一部の人間のみ。

当然のことながら、アリスが知っているはずがない。

 

バーニィは理解していたはずだった。

この世界が、彼のいた世界とは根本から異なることを。

だが、ここまでのズレがあるとは思っていなかった。

 

この世界は平和なのではない。

ただ“無知”なだけだ。

それがバーニィにとって何よりも恐ろしいかった。

 

もし、この世界の子どもたちがモビルスーツに乗り、ジオン軍や連邦軍と同じ戦場に立たされたらどうなる?

 

——自分が人を殺したという事実を理解しないまま戦場に赴き、そして最後には殺されてしまうだろう。

 

そしてもし、自分が人を殺していると自覚した時。

 

 

——彼女たちは壊れてしまう。

 

 

考えただけでも恐ろしい。

バーニィはハンドルに手を置いたまま、静かにその恐怖を飲み込んだ。

 

 

「バーニィ?」

 

 

アリスは首を傾げながらバーニィへと声をかけた。

 

 

「っ!!・・・悪い。ちょっと嫌な記憶を思い出しただけだ」

 

 

「嫌な記憶ですか?」

 

 

「ああ。でももう大丈夫だ。車を動かすぞ」

 

 

誤魔化すように、バーニィは再びアクセルを踏み込んだ。

トラックがゆっくりと再発進し、アリスはしばらく沈黙していた。

だが、再びぽつりと尋ねた。

 

 

「——バーニィは人を殺したことがあるんですか?」

 

 

その一言で背中を冷たい汗が伝った。

図星だからではない。

過去の記憶が脳裏を焼いたからだ。

 

銃のトリガーを引いたときの反動。

モニターに映し出された敵機が爆発する光景。

目の前で舞い散る血飛沫。

命が途絶える瞬間。

 

全てが音もなくよみがえる。

 

バーニィは深く息を吐いた。

歪んだ口元を無理やり動かし、アリスを心配させないように静かに答えた。

 

 

「——そんなわけないだろ。人を殺すなんて、最低な奴がやることさ」

 

 

 




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