ルギアの恩返し   作:東雲るぅ

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10.ルギアと怒り

「我々はロケット団! 偉大なるサカキ様による、サカキ様のための、悪の組織!」

 

 毎回思うんだけど、自分で悪の組織とか名乗って、いいんですかねぇ。

 

 その言葉が合図だった。

 右も、左も、正面の獣道からも、背後の草むらから、ロケット団員たちが姿をあらわし、僕らを取り囲んだ。

 

「君の千里眼の力で、分からなかったの?」

『……私の千里眼は、記憶した特定の生命体の痕跡をたどるものだ」 

「こんなに連中がいたのに気が付かなかったの?」

『人間なのかポケモンなのかは判別できないのだ。奴らをこの森にいる野生ポケモンだと誤認してしまっていた』

 

 ロケット団員の一人が、こう要求してきた。

 

「我々に敵対したオマエに告げる! 投降しろ! そしてデンリュウとオマエのポケモンをすべて寄越せ!」

 

 そんな無茶を受け入れるわけがない。

 

「死んでも嫌です」

「そうか、なら痛い目を見てもらうぜ」

 

 僕らを取り囲んだ団員たちはポケモンを繰り出す。

 何十匹ものポケモンたちが、今にもこちらへ飛びかかろうとしている。

 

『私を外に出せ! あの程度の雑魚どもならば、たやすく駆逐できる」

「だめだよ」

『なぜ!?』

「君だけは、あいつらに知られるわけにはいかない」

 

 ルギアを使えば、このピンチを回避できるだろう。

 だけどそれは同時にルギアを、ロケット団に目撃されるということだ。

 

 僕はずっと疑問に思っていた。

 

 どうして、出会った時、ルギアはうずまき島でひんしの状態だったのだろうか、と。

 もし自分の推測が的中しているのならば────。

 

 だからなんとしても、ルギアを所持していることを隠さなければならない。

 焦る思考。

 冷静さをかいていたから、反応に遅れた。

 

「きゅう!!」

 

 パニックになったアカリちゃんが走り出した。

 指示を出す声。

 それを耳でとらえて、僕は振り返る。

 

 ロケット団員の一人が指示を出し、ハブネークがラスターカノンを放つ光景。

 ラスターカノンの射線上には、逃げようとするアカリちゃんがいる。

 銀の光弾は、そのまま無防備な背中をさらしたアカリちゃんめがけて放たれる。

 

 ベイリーフに指示を出しても、間に合わない。

 ルギアに防ぐように頼んでも、同じだ。

 

 とっさに駆け出していた。

 勢いをつけて、アカリちゃんを突き飛ばす。

 視界が、ラスターカノンの銀の光に包まれた。

 

 まるで鈍器で殴打されたような衝撃と痛み。

 自分は吹き飛ばされていることに気づいた。そのまま地面に転がって、仰向けになる。

 

「ごめんよ……」

 

 自分の判断ミスを悔やんでいる? 

 それとも、自分でも嫌になるくらいの優柔不断さが? 

 いいや、違う。

 僕は偽物だから、あの時のように、また失敗したのだろうか?

 

 そうして、めのまえがまっくらになろうとして────。

 

 

 

 

『お前たちは、最もおこなってはならぬことをした』

 

 

 ただ、一声だけだった。

 それだけなのに、周囲の空気がガラリと一変する。

 

『お前たちは私の主を傷つけた』

 

 意識をどうにか取り戻した。

 僕のポケットに入っていたモンスターボールが、空中に浮きあがる。

 ルギアが入っているボールだ。

 モンスターボールが開き、そこから真っ白な巨体が現れる。

 

『私の命を救い、そして私がその代価として命をかけて従うと心に決めた人間を、傷つけた』

 

 突然現れた、異様な重圧を放つルギア。

 その場にいた人間もポケモンも、一歩たりとも動かない。いいや、動けないのだ。

 

『お前たちは万死に値する』

 

 ルギアは、軽くはばたいた。重苦しい風が森を吹き抜ける。

 その風には、殺意と敵意と憎しみが乗せられていた。

 

 快晴だった空は、暗雲にふさがれ、土砂降りの雨が降り出した。

 荒れた風が森の木々を激しく揺らす。

 森一帯が、ルギアの怒りによって、嵐に覆われた。

 

 この時、ロケット団員たちは、悟ったのだろう。

 自分たちは、神の怒りを買ってしまったのだと。

 

 そこから、僕らを囲む包囲網が崩れるのは時間の問題だった。

 恐怖する者や、理解できずその場で立ちすくむ者。あるいは腰を抜かして逃げようとする者。

 従っていたポケモンたちは、ルギアの殺意にあてられ、戦意を喪失している。

 

『逃げられると思っているのか?』

 

 暴力的な風は、人もポケモンも巻き取り、上空へ飛ばしていく。

 もはや象がアリを踏みつぶして、蹂躙しているようだった。

 森の中はロケット団員と彼らのポケモンたちの阿鼻叫喚で埋め尽くされていく。

 

 だめだ。

 たしかに、君が怒るのはわかる。

 あいつらが悪人だってことも理解している。

 

 けど、もしここで君が誰かを殺してしまったら……。

 

 痛みをこらえながら、僕は立ち上がった。

 そのまま暴風の中を歩いて、ルギアに近づく。

 

 ────『ルギアは……人間は、全員が自分勝手な存在だって思っているかもしれない。けど、みんながみんなそういうわけじゃないってことを、分かってほしいかな』

 

 いつか、ルギアに言った言葉。

 今でもそう思っている。

 僕以外の人間を、ミカンちゃんでも、母さんでも、他の誰かでも信じてくれるようになってほしいから。

 

 おぼつかない足取りだったから、強風でこけそうになる。

 それでも、確実一歩ずつ進んで、ついにルギアの元にたどりつく。

 

「もうやめようよ」

 

 ルギアが振り返る。

 

『なぜだ』

 

 風は止まらない。ルギアの瞳の中は、怒りと憎しみがないまぜになっている。

 

『彼らはお前を傷つけた』

「知ってるよ」

 

 一拍置いて、僕はつづけた。

 

「でも、それでもだよ」

『理解できない』

「君が怒ってくれるのは嬉しい。でもそれは、僕のための怒っているんでしょ」

『当然だ、主を傷つけられたのだ』

「じゃあ、僕がやめてほしいと言ったら、やめてくれ。風で打ち上げたポケモンや人間をなんとか降ろしてくれ」

 

 嵐が、少しだけ迷うようにやわらいだ。

 けれどまた体を持っていかれそうなくらい激しくなる。

 ルギアの瞳が揺れていた。

 

『やつらは再び同じことをする』

「かもしれないね、でも、それは殺していい理由にはならないよ」

『では、何度でも傷つけられるのか。また利用されて、また裏切られるのか?』

「違う」

「捕まえて、罰してもらえばいい。それは君がやる必要はないんだ」

『……人間は、信じるに値する存在ではない』

 

 それは怒っているようで、どこか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

「そう思ってたよね。昔の君は。でも今は違うでしょ」

 

「僕を見てきたでしょ。君にとって僕はどんな人間なの?」

 

「僕だけじゃない。ミカンちゃんはどうなの? 君を可愛いと言っていって、自分のポケモンを大事にしているあの子は?」

 

「君は今でも人間全部を敵だと思っているの?」

 

 ルギアの殺意が、わずかにほどけたような気がする。

 

『……お前とあの娘は例外だ』

「なら、世の中には君の知らない例外がいっぱいだ。君はそれを知らなかっただけなんだ」

 

 嵐が大きく揺らいだ。暴風が止んだり、激しくなったり、それを何度も繰り返す。

 まるでそれはルギアの心境を表しているかのようだった。

 

『……私は』

 

 ルギアの声が、かすれる。

 

『どうすればよい?』

 

 絞りだすような声。

 

『私は……分からない。

お前を傷つけた者を許せない。

だが、お前はそれを望まない』

 

 僕ははっきりと言う。

 

「僕は君のトレーナーだ。だから君に指示を出す。嵐を止めてくれ。上空に飛ばした、人間とポケモンをなるべく傷つけないように降ろして」

 

 僕がそう言った途端、風が止まった。

 

 上空を仰ぎ見る。

 そこには、落下するたくさんのロケット団員たちと、ポケモンたち。

 このままでは彼らは地面に激突して、死ぬだろう。

 しかし、そうはならない。

 

『……承諾した』

 

 ルギアが念力の力を発する。

 すると嵐の風で弾き飛ばした者たちを全員、地面すれすれで空中停止し、ゆっくりと着陸する。

 森の中心部は、ルギアの風によって、草木が凪ぎ倒され、更地と化していた。

 そしてルギアの圧倒的な力で気絶している、ロケット団員と彼らに従うポケモンたちが残骸のように辺りで転がっていた。

 

 

 ★

 

 

 その後、僕はアカリちゃんを連れて、森から出た。

 そして近くの育て屋さんに駆け込み、そこで電話を借りて、ジョーイさんに通報する。

 処理は迅速だった。

 通報を受けたジョーイさん筆頭に警察の人たちが、森の中に突入し、ルギアの攻撃ですっきり気絶している団員たちを片っ端から捕まえていく。

 

 どうやら連中は、ここ数か月近く、このアサギシティ周辺を根城にしていたらしい。

 やつらの目的が何なのか。

 それはこれからの警察の取り調べで明らかになることだろう。

 

 だが、それよりも────。

 

「きゅうっ」

「うぅ、アカリちゃん、よかったですぅ」

 

 よほど心配だったのだろう。

 アカリちゃんが無事だと聞きつければ、ジムリーダ―の業務を放っぽりだして、ミカンちゃんはやってきた。

 そうして飛びつくように、ミカンちゃんはアカリちゃんをぎゅうっと抱きしめる。

 その光景を見ながら、僕は達成感に包まれた。

 

「ねえ、ルギア、君のおかげだよ」

 

 僕が感謝を伝えると、ルギアはこんなことを質問する。

 

『もし、あの時、私がお前の命に背き、奴らを殺していたらどうする?』

「その時は、僕が責任を引き受ける?」

『なぜ?』

「決まっているよ、僕は君のトレーナーで、君は僕のポケモンなんだから」

 

 するとルギアは、こうつぶやいた。

 

『やはり、お前は変わった人間だ』

 

 どこか嬉しそうに聞こえたのは、きっと聞き間違いじゃない。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

計画書No.53 [極秘扱い]

 

本計画は、サカキ様がロケット団を国際規模の組織へと発展させることを目的として立案されたものである。

主眼は伝説級ポケモンの捕獲および戦力化にある。

 

対象個体は以下の通り選定された。

 

①ミュウツー

②ルギア

③ホウオウ

④ミュウ

⑤伝説の三鳥(ファイヤー・サンダー・フリーザー)

⑥伝説の三犬(エンテイ・ライコウ・スイクン)

 

これらの確保により、組織戦力の飛躍的強化を見込む。

 

進捗報告:

 

①ミュウツー:確保完了

サカキ様自らハナダの洞窟へ赴き、当該個体の捕獲に成功。

現在はサカキ様の指揮下にあり、組織の象徴戦力として運用予定。

 

②ルギア:未達成(失敗)

嵐天時、うずまき島周辺空域にて飛行個体を確認。

サカキ様が現地に赴かれ、ミュウツーを用い、ルギアと交戦。

結果、ミュウツーは戦闘不能。当該個体をひんし寸前まで追い詰めたが、捕獲に失敗、取り逃がす。

 

③~⑥:未確認/調査中

現時点では所在不明。研究部門にて継続調査中。

 

 

追記:

 

ルギアの所在について追加情報を確認。

アサギシティ在住のトレーナーが当該個体を捕獲・保有している模様。

近日中にサカキ様が直接接触予定。

 

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