ルギアの恩返し   作:東雲るぅ

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9.ルギアと悪い人間

 アカリちゃんを盾にして現れた、黒ずくめの制服を着こんだ3人組。Rという真っ赤なシンボルマーク。

 

「どきなガキンチョ!」

「このデンリュウがどうなっちまっていいのかい?」

「我々はロケット団! すべてはサカキ様のために!」

 

 連中は、ロケット団員だ。

 奴らの姿を見た瞬間、埋没した記憶が浮かんでくる。

 それと同時に、沸き上がったのは、引き裂かれるような心の痛みと、凍てつくような怒りだった。

 

「すぐにアカリちゃんを解放してください」

 

 僕は淡々と告げた。

 それに対して、ロケット団員のうちの一人が、鼻で笑う。

 

「へへっ、解放するって言われて解放するやつがあるか?」

「アカリちゃんをどうするつもりなの?」

「なにって? 決まっているのさ! このデンリュウをサカキ様に献上するのさ!」

 

 話し合いは通じない。やっぱりそうだ。

 ロケット団は……こいつらは、そういう類の人種だ。

 

「あの御方は今、とあるポケモンを探しておられる!」

「オマエには秘密さ! サカキ様の深淵なる計画のために、オレたちはいるんだ!」

「ただしロケット団にオマエも入れば、教えてやってもいいぜ?」

 

 ──『君もロケット団に加わらないか? 幹部の座を用意しよう。私と共に理想の悪の帝国を築こう』

 

 忘れていた、いや、忘れていたかった思い出が浮かび上がる。

 

 ああ、最悪だ。

 気色悪い。

 吐き気がする。

 

 感情がぐちゃぐちゃになって、論理的に思考ができない。

 いますぐ、この不快感を取り除きたい。

 そしてやつらのすぐそばで、こわばった顔のアカリちゃんを目にして、僕は正気に戻った。

 

「なら、無理やり、あなたたちから引きはがす」

「へっ、やってみろよ? オレたち三人相手になぁ?」

 

 ロケット団員3人組は、それぞれポケモンを一体ずつ繰り出した。

 1匹目は、ゴルバット。

 2匹目は、アーボック。

 3匹目は、キリンリキ。

 

 なるほど、3人で僕をタコ殴りにしようという算段なのだろう。

 自然と僕の右手は、腰にあるモンスターボールを握り締めていた。

 そのまま力いっぱいボールを投球する。

 

「頼んだよ、メガニウム」

「べいっ!」

 

 ボールから現れたメガニウムは、元気いっぱいな鳴き声をあげる。

 ルギアの思念の声が聞こえた。

 

『なぜ私を使わない。私であれば、やつらなど容易くねじ伏せられるのに?』

 

 その思念の声は、ロケット団員には届かず、僕にしか聞こえない。

 僕はささやき声で返す。

 

「君が下手に力を暴発すれば、このあたり一帯が消滅してしまうよ」

『むぅ』

「それに、たまには僕を信頼してほしい。ここは任せて」

『ほお……では見守っておこう』

 

 ルギアはどこか期待するような声をだした。

 

「へへっ、なにひとりごとをぶつぶつ言ってんだぁ? お前ら、やっちまうぞ!」

 

 下卑た笑みを浮かべた団員の一人が、そう口にした。

 

 そうしてロケット団員の3人組は、それぞれ自分のポケモンに指示を出す。

 僕は冷静に、相手のポケモンを観察した。

 3匹それぞれの挙動から、おおよその強さは把握する。

 3人組の力量は、3バッジ目のトレーナー程度だろう。

 

 なら、本気を出すまでもない。

 

 3匹のポケモンが行動を開始した。

 まず少し離れた距離から、ゴルバットがエアカッターを放つ。

 

「メガニウム、マジカルリーフ」

 

 僕の命令はそれだけだ。

 メガニウムの胴体にある花弁から、この葉の形をしたエネルギーが放出される。

 それはゴルバットのエアカッターと衝突し、相殺……するどころか、勢いはとまらない。

 マジカルリーフがゴルバットに殺到する。

 無数の木の葉のエネルギー弾に撃ち抜かれて、ゴルバットは戦闘不能になった。

 

「は?」

 

 ぽかん、とゴルバットを使っていた団員が、唖然としていた。

 

 次にメガニウムの右側面からアーボックがかみくだくを繰り出そうと、牙をむき出しに迫る。

 さらに左側面から、キリンリキがけたぐりを放とうと、接近。

 僕は冷めたような声で命令した。

 

「メガニウム、ツタを使って、その場から飛び上がって」

 

 メガニウムは、体から二本のツタを伸ばす。それをバネのようにはじかせて、自分の体を空中へ跳ね上げる。

 そうして左右それぞれから迫るアーボックとキリンリキの攻撃を回避した。

 

「たねばくだんを足元に落とす」

 

 跳躍したメガニウムがいた足元には、攻撃を外したアーボックとキリンリキがいる。

 そこへ、メガニウムがたねばくだんを落下させる。

 二匹のポケモンは、たねばくだんの爆発をくらい、吹き飛ばされて、動かなくなった。

 

 3体を瞬殺した直後、空気が変わった。

 さっきまで僕をいたぶろうと、嗜虐的だったロケット団員たちの瞳は、今では小動物のように怯えた色をしている。

 

「信じらんねえ……」

「な、なんだよこのガキ……クソつええ」

「こんなやつがいるなんて、作戦でも聞いていないぞ」

 

 ……ふう、よかった。

 スムーズにメガニウムと連携することができたのも、以前ミカンちゃんとポケモン勝負をしていたおかげだ。

 

 団員の一人が、何かに気づいたように声を荒げた。

 

「ちょ、ちょっと待って、どこかで見たことがある顔だと思ったら。な、なあ、あんたひょっとして……」

「おい、このガキンチョを知っているのかよ?」

「あ、ああ。やべえ、やべえやつを相手にしちまったよ……。だってこいつは────」

 

 これ以上、こんな奴らの言葉を聞いていたくはなかった。

 

「メガニウム、ツタで全員を拘束して」

「べい」

 

 メガニウムの体から、ツタが伸び、3人組の体をぐるぐる巻きにする。

 そしてガムテープ代わりに、口もとをツタでおさえこむ。

 

 ツタで体を拘束され、口を封じられ、それでも「んー、んー」と何かを訴えながら、身じろぎするロケット団3人組。

 僕は冷ややかな目で、連中の哀れな姿を見届けたあと、視界から外した。

 

『見事な。戦いぶりだった』

「ありがとう、ブランクがあるから、まだちょっと鈍っているけどね」

 

 

 ★

 

 

 そっとアカリちゃんの頭に触れる。するとブルブルと体を震わせていたアカリちゃんは、落ち着いた様子をみせる。

 

「よーしよし、そうだよ、ほら、僕のことはわかるでしょ」

「きゅう」

「おうちに戻ろう。ミカンちゃんが心配しているよ」

 

 ひとまず、アカリちゃんは保護。

 あとはこの森から離れるだけ……と言いたいけれど、拘束したロケット団をそのままにしておくわけにはいかない。

 

『やつらをどう罰する?』

「ん、罰するって?」

『海の藻屑にするか? それとも風で八つ裂きにするか?』

 

 ルギアは平然と、物騒なことをいう。

 

「いつも思うんだけど海の藻屑っていう言葉が好きだね……?」

『救いようのない愚かな人間だ。ここで捨て置けば、また悪事を働くかもしれん』

「多分君の言う通りだと思う。だから僕ら以外の人たちに任せよう」

 

 彼らの処遇については、一般人である僕が定めることではないだろう。

 警察に引き渡して、牢屋の中でたっぷり反省してもらえばいい。

 

『……お前がそういうのならば』

 

 ルギアは渋々といった口調で納得していた。

 

 それから僕は、ジョーイさんに通報しようとした。

 バッグを開いて、電話をかけるためにスマホロトムを探す。

 そこで気づく。

 ……バッグの中にない。

 

「あ、家に置いてきた」

 

 とんでもないポカをやらかした。

 これじゃあ、通報できないじゃないか。

 

 どうしよう? 

 ……このロケット団員たちを放置して、森から出ようか。

 けど、あのままだったら身動きができないだろうし、犯罪者とはいえ、無防備なまま野生のポケモンに襲われたりしたら大変だ。

 

 僕が判断に迷っていると、ルギアは突然、こう言いだした。

 

『……お前に謝らなければならないことがある』

「ん? さっきの屋根を破壊しちゃったこと?」

『不覚をとった』

「え?」

『我々は囲まれている』

 

 僕はすぐに周囲を見回す。ルギアは静かに告げた。

 

『相手の数はおおよそ50だ』

 

 

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