アカリちゃんを盾にして現れた、黒ずくめの制服を着こんだ3人組。Rという真っ赤なシンボルマーク。
「どきなガキンチョ!」
「このデンリュウがどうなっちまっていいのかい?」
「我々はロケット団! すべてはサカキ様のために!」
連中は、ロケット団員だ。
奴らの姿を見た瞬間、埋没した記憶が浮かんでくる。
それと同時に、沸き上がったのは、引き裂かれるような心の痛みと、凍てつくような怒りだった。
「すぐにアカリちゃんを解放してください」
僕は淡々と告げた。
それに対して、ロケット団員のうちの一人が、鼻で笑う。
「へへっ、解放するって言われて解放するやつがあるか?」
「アカリちゃんをどうするつもりなの?」
「なにって? 決まっているのさ! このデンリュウをサカキ様に献上するのさ!」
話し合いは通じない。やっぱりそうだ。
ロケット団は……こいつらは、そういう類の人種だ。
「あの御方は今、とあるポケモンを探しておられる!」
「オマエには秘密さ! サカキ様の深淵なる計画のために、オレたちはいるんだ!」
「ただしロケット団にオマエも入れば、教えてやってもいいぜ?」
──『君もロケット団に加わらないか? 幹部の座を用意しよう。私と共に理想の悪の帝国を築こう』
忘れていた、いや、忘れていたかった思い出が浮かび上がる。
ああ、最悪だ。
気色悪い。
吐き気がする。
感情がぐちゃぐちゃになって、論理的に思考ができない。
いますぐ、この不快感を取り除きたい。
そしてやつらのすぐそばで、こわばった顔のアカリちゃんを目にして、僕は正気に戻った。
「なら、無理やり、あなたたちから引きはがす」
「へっ、やってみろよ? オレたち三人相手になぁ?」
ロケット団員3人組は、それぞれポケモンを一体ずつ繰り出した。
1匹目は、ゴルバット。
2匹目は、アーボック。
3匹目は、キリンリキ。
なるほど、3人で僕をタコ殴りにしようという算段なのだろう。
自然と僕の右手は、腰にあるモンスターボールを握り締めていた。
そのまま力いっぱいボールを投球する。
「頼んだよ、メガニウム」
「べいっ!」
ボールから現れたメガニウムは、元気いっぱいな鳴き声をあげる。
ルギアの思念の声が聞こえた。
『なぜ私を使わない。私であれば、やつらなど容易くねじ伏せられるのに?』
その思念の声は、ロケット団員には届かず、僕にしか聞こえない。
僕はささやき声で返す。
「君が下手に力を暴発すれば、このあたり一帯が消滅してしまうよ」
『むぅ』
「それに、たまには僕を信頼してほしい。ここは任せて」
『ほお……では見守っておこう』
ルギアはどこか期待するような声をだした。
「へへっ、なにひとりごとをぶつぶつ言ってんだぁ? お前ら、やっちまうぞ!」
下卑た笑みを浮かべた団員の一人が、そう口にした。
そうしてロケット団員の3人組は、それぞれ自分のポケモンに指示を出す。
僕は冷静に、相手のポケモンを観察した。
3匹それぞれの挙動から、おおよその強さは把握する。
3人組の力量は、3バッジ目のトレーナー程度だろう。
なら、本気を出すまでもない。
3匹のポケモンが行動を開始した。
まず少し離れた距離から、ゴルバットがエアカッターを放つ。
「メガニウム、マジカルリーフ」
僕の命令はそれだけだ。
メガニウムの胴体にある花弁から、この葉の形をしたエネルギーが放出される。
それはゴルバットのエアカッターと衝突し、相殺……するどころか、勢いはとまらない。
マジカルリーフがゴルバットに殺到する。
無数の木の葉のエネルギー弾に撃ち抜かれて、ゴルバットは戦闘不能になった。
「は?」
ぽかん、とゴルバットを使っていた団員が、唖然としていた。
次にメガニウムの右側面からアーボックがかみくだくを繰り出そうと、牙をむき出しに迫る。
さらに左側面から、キリンリキがけたぐりを放とうと、接近。
僕は冷めたような声で命令した。
「メガニウム、ツタを使って、その場から飛び上がって」
メガニウムは、体から二本のツタを伸ばす。それをバネのようにはじかせて、自分の体を空中へ跳ね上げる。
そうして左右それぞれから迫るアーボックとキリンリキの攻撃を回避した。
「たねばくだんを足元に落とす」
跳躍したメガニウムがいた足元には、攻撃を外したアーボックとキリンリキがいる。
そこへ、メガニウムがたねばくだんを落下させる。
二匹のポケモンは、たねばくだんの爆発をくらい、吹き飛ばされて、動かなくなった。
3体を瞬殺した直後、空気が変わった。
さっきまで僕をいたぶろうと、嗜虐的だったロケット団員たちの瞳は、今では小動物のように怯えた色をしている。
「信じらんねえ……」
「な、なんだよこのガキ……クソつええ」
「こんなやつがいるなんて、作戦でも聞いていないぞ」
……ふう、よかった。
スムーズにメガニウムと連携することができたのも、以前ミカンちゃんとポケモン勝負をしていたおかげだ。
団員の一人が、何かに気づいたように声を荒げた。
「ちょ、ちょっと待って、どこかで見たことがある顔だと思ったら。な、なあ、あんたひょっとして……」
「おい、このガキンチョを知っているのかよ?」
「あ、ああ。やべえ、やべえやつを相手にしちまったよ……。だってこいつは────」
これ以上、こんな奴らの言葉を聞いていたくはなかった。
「メガニウム、ツタで全員を拘束して」
「べい」
メガニウムの体から、ツタが伸び、3人組の体をぐるぐる巻きにする。
そしてガムテープ代わりに、口もとをツタでおさえこむ。
ツタで体を拘束され、口を封じられ、それでも「んー、んー」と何かを訴えながら、身じろぎするロケット団3人組。
僕は冷ややかな目で、連中の哀れな姿を見届けたあと、視界から外した。
『見事な。戦いぶりだった』
「ありがとう、ブランクがあるから、まだちょっと鈍っているけどね」
★
そっとアカリちゃんの頭に触れる。するとブルブルと体を震わせていたアカリちゃんは、落ち着いた様子をみせる。
「よーしよし、そうだよ、ほら、僕のことはわかるでしょ」
「きゅう」
「おうちに戻ろう。ミカンちゃんが心配しているよ」
ひとまず、アカリちゃんは保護。
あとはこの森から離れるだけ……と言いたいけれど、拘束したロケット団をそのままにしておくわけにはいかない。
『やつらをどう罰する?』
「ん、罰するって?」
『海の藻屑にするか? それとも風で八つ裂きにするか?』
ルギアは平然と、物騒なことをいう。
「いつも思うんだけど海の藻屑っていう言葉が好きだね……?」
『救いようのない愚かな人間だ。ここで捨て置けば、また悪事を働くかもしれん』
「多分君の言う通りだと思う。だから僕ら以外の人たちに任せよう」
彼らの処遇については、一般人である僕が定めることではないだろう。
警察に引き渡して、牢屋の中でたっぷり反省してもらえばいい。
『……お前がそういうのならば』
ルギアは渋々といった口調で納得していた。
それから僕は、ジョーイさんに通報しようとした。
バッグを開いて、電話をかけるためにスマホロトムを探す。
そこで気づく。
……バッグの中にない。
「あ、家に置いてきた」
とんでもないポカをやらかした。
これじゃあ、通報できないじゃないか。
どうしよう?
……このロケット団員たちを放置して、森から出ようか。
けど、あのままだったら身動きができないだろうし、犯罪者とはいえ、無防備なまま野生のポケモンに襲われたりしたら大変だ。
僕が判断に迷っていると、ルギアは突然、こう言いだした。
『……お前に謝らなければならないことがある』
「ん? さっきの屋根を破壊しちゃったこと?」
『不覚をとった』
「え?」
『我々は囲まれている』
僕はすぐに周囲を見回す。ルギアは静かに告げた。
『相手の数はおおよそ50だ』