勇者キャンセル界隈(Any%)   作:ときもんめ

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1.まずは屈伸運動で演出をスキップします

 気付いたら転生してた。物語の導入としてどうなのかってくらいにはヌルッとね。

 

 お決まりだけど前世と思しき記憶も健在。だもんで所感はまぁ、()()()転生って感じ。

 

 転生先は前世で1()0()0()()()()()()見たRPG世界。王国に転生を果たして、王様から一言「魔王を討伐してくれ」と。

 

 片手で数えられるくらいのお駄賃と、申し訳程度の短剣を与えられ、今は謁見の間で王様からこの世界の歴史を刷り込まれてるところ。長ったらしいし大して面白くもない。

 

 ──はっきり言って、退屈だった。

 

 この時が止まったような感覚は、前世で散々体験してきたそれとさして違いはない。変わったのは環境だけで、僕の運命は変わらない。

 

 前世は使い潰しがいのある都合のいい社畜、今世は魔王討伐のために奔走させられる馬車馬。

 

 前世も今世も、取り上げて然るべきものは何も無い。結局のところ、僕は社会の歯車(マリオネット)同然の存在だったってワケ。

 

 ──して、僕が転生した世界は、前世で飽きるほど遊び倒したRPG『100万回目の愛憎併存(アンビバレント)』。RPGとは思えないようなネーミングだが、これには事情がある。

 

 「RPGの皮を被った死に戻りローグライク」と称され、ゲーム業界ではそれなりのポストを確立していた本作。

 

 しかしながら、その異端な評価もさることながら、このゲームは大衆向けのキッチュなものではない。

 

「──我らの平穏は魔王によって打ち砕かれた! 今こそ、其方(勇者)が豪勇を胸に立ち上がるべき時であろう!」

 

王様(こいつ)いっつもホラ吹いてんな)

 

 そう、本作の悪役は魔王ではなく王様、ひいては大臣や官僚共々を含めた王国側。魔王が従えるモンスター(無害)からエネルギーを吸収し、自国の開発と発展に転用しているらしく、主人公の善意に漬け込んでその片棒を担がせる胸糞っぷり。

 

 ストーリー序盤は王国への忠誠心()を胸に、幾度となく死に戻り(リスポーン)しながら数々のフラグを回収していく。そして王国側の所業が明るみに出てからは、王国への反逆精神()を胸に、勧善懲悪(ぽんぽんぺいん for オウ=サマ)

 

 故に、タイトルが『100万回目の愛憎併存(アンビバレント)』と──しかしまぁ、実にプレイヤーを選ぶ攻めた脚本だと思う。たしかに憎き王様をこの手でぶちのめした時の快感は忘がたい。恍惚として全身が震えたのも記憶に新しい。

 

 けども、そこに行き着く(ゲームクリア)までの道のりがいかんせん遠いんだよね。だからギブアップするプレイヤーも界隈では多かった。

 

 ゲーム廃人(ドM)な僕だからこそストーリーを完遂させられた。そう自惚れて然るべきレベル。

 

 というわけで、そんな世界に転生してしまったからにはその本筋(ストーリー)に従って生きねばならないのかぁ……という憂鬱から、退屈な気持ちになっていたわけなのである。

 

 しかし天才ワイ、ここで天啓を得る。

 

(これリアル世界だし、ストーリーガン無視しても(バグらせても)良いのでは……?)

 

 前世では、本作は(ゲーム側の)ご都合(と全力で添い遂げる)主義の自由度低めな作風だった。しかしこれはゲームではない。ここに生きる全ての者が意志を持つ現実空間。ご都合とやらに振り回されるほど、僕の意志は脆弱じゃない。

 

(初っ端から勇者キャンセルして王国への反転アンチになったるわ)

 

 して、世間的には稀な「勇者キャンセル界隈」の原点にして頂点(開祖)となる決意を固めた僕は、くだらない王様の啓蒙(洗脳)を頭から洗い流した。

 

「征けぇ! 未来の英雄よ! 我らが人類のプライドを、かの忌々しき魔王共に示すのだ!!」

 

(うるせぇ『ペテン師ハゲ頭』が、さっきから唾飛んでんねん)

 

 なお、ストーリー途中の茶番でズラであることが判明する王様は、本作におけるメインヴィランであることも相まって、多数の不遇な呼び名を与えられたことでも有名だ。主に「ハゲ頭」とかいう脳死で考えたような罵倒が含まれているものが大半である。

 

 王様が満足気に僕を謁見の間から追い出そうとするので、お言葉に甘えて僕も足早に席を立ち、扉の前に移動する。護衛の騎士たちがゴテゴテとしたそれを開こうとするのを横目に、僕は扉に身体を近づけて──

 

 激しい屈伸運動を開始した。

 

 場の空気が凍りつく。言い忘れていたが、本作にはAny%のRTAが存在しており、こうしてグリッヂを挟んで面倒な扉の演出をスキップするのはもはや恒例行事と化している。

 

 数秒の沈黙と間抜けな布擦れの音が流れた後、僕は扉を貫通して王国の正門上空にテレポートした。

 

「うし、まずは手当たり次第にモンスターを仲間に引き入れるところから始めよう」

 

 着地と同時にそんなことを呟く。いつ王国側に僕の企みが筒抜けになるか分からない以上、素早い行動が肝要になってくる。

 

「ひとまず『森』を目指すか。あそこには()()()がいるはずだ」

 

 僕は原作知識を総動員しながら一旦の目的地を定め、走り出した。

 

 

 ◇

 

 

(なんなのだ……なんなのだあの男は……)

 

 次代の勇者(カモ)にお得意の説法(洗脳)を施した、ヴァグダム王国の四代目国王、アロガン・ゾーク=ガイアー(76)はひどく困惑していた。

 

 自分の野望を叶える駒になると信じて送り出した青年がイカれていたからである。

 

 世界を己がものとするべく、曾祖父から続く国王の地位を継承して早五十数年。ゾーク=ガイアー家の陰謀は今もなおじわじわと侵食を続けている。

 

 一体、何人もの純朴な少年少女たちを義勇兵に仕立て上げてきたのだろうか。洗脳の禁術を織り交ぜた呪文(スペル)で数多の若者たちを堕としてきたのだから、その効果は折り紙付きなはず。

 

 しかし彼奴──アース・レンドラ少年はどうだ? 

 

 儂の講話を涎を垂らしながらあしらった挙句、唐突に爆速屈伸運動を繰り返して消滅しやがった。

 

 テレポートの類か。いやしかし、にしたって発動までの予備動作がキモすぎる。それにあの様子、洗脳が全く意味を為していないようだった。

 

(あの男の素性が知れぬ……何やら悪寒がするぞ……)

 

 そしてそれは周囲の衛兵たちも同じらしく、儂らは互いに引き攣った顔を見合わせ、大袈裟に現実逃避をすることにした。

 

 王族権威の象徴とも言える、絢爛豪華な窓から外の青空を眺める。

 

(空が綺麗じゃのぉ……)

 

 元より無い髪の毛にさらにストレスがかかり、毛根が軋む音がした(幻聴)あとズラもずり落ちてた(光沢)

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