勇者キャンセル界隈(Any%)   作:ときもんめ

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3.透過バグの汎用性は言わずもがな

「FOOOOooooooo!!!」

 

 平行移動グリッヂのイカれた速度とバカげた空気抵抗にも慣れてきた僕は、体勢を仁王立ちからHG(某お笑い芸人)の決めポーズへと移行し、未だトップスピードで地面を滑走していた。

 

 右手に短剣、左手に銅貨が入った革袋を持つそのフォームは、ちょっとファンキーな自由の女神のようであろう。

 今この世界で最も自由を謳歌しているのは僕だ(確信)

 

「……お、見えてきた」

 

 視線の先に現れたのは、万里の長城を思わせるほどの巨壁と、その内側から顔を覗かせる森林。

 『100万回目の愛憎併存(アンビバレント)』*1原作では、ストーリー中盤、いくつかのフラグを踏んでたどり着く『レノリアス樹海』と呼ばれるエリアだ。

 

「うおー……実物を見るとこりゃまた、さすが防(・)衛(・)国(・)家(・)お(・)抱(・)え(・)の(・)禁(・)足(・)地(・)と呼ばれるだけはあるな」

 

 感嘆しながら、体を徐々に起こしてスピードを緩める。何故この森林……というより樹海を囲むように堅牢な塀が建てられているのかと言うと、それはこのエリアに身を潜めていると(・)あ(・)る(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)が関係している。

 

 〝脳喰らい〟の異名を冠する、スライムの突然変異体(アブノーマリティ)。

 

 アブノーマリティとは、いわゆる「ユニークモンスター」などと呼ばれる、規格外の強さを誇るモンスターの総称だ。その内の一体があの内側に封(・)じ(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

「……保有権は防衛都市ヴィルベデア。国益を軍備拡張に全ツッパしてるだけあって、警備の数も半端ないねー」

 

 アブノーマリティから抽出できるエネルギー量は、そこらのモンスターのそれを遥かに凌駕する。そりゃ、国としては喉から手が出るほど欲しいよね。

 

「だからと言って生息地全てを包囲するのはおいたが過ぎるぞ。必死になっちゃって恥ずかしい」

 

 だが実際、奴らの軍事力だけは馬鹿にできない。うろつき回る警備(国家の犬共)は、数が多いくせして一体一体がシャレにならんほど強い。例えそれを突破したとて、目の前に立ちはだかるは巨壁(ロッキー山脈)だ。多い、強い、堅いの三重苦。こんなんぽっと出の僕(モブ)が敵うわけ──

 

「うるさい。私が来た(鋼の意志)」

 

 体を傾け、HG(某お笑い芸人)のポージングをキメながら、僕は再びトップスピードで軌道に乗る(ロックオン)。

 

「!? おい何だこの……ふざけたガキは!!」

「待てごらぁ!! 止まれアホ!! いや本当にアホみてぇな……!!」

「お前それどうなってんだよ?!」

 

 鞘から長剣を引き抜いた警備たちが並外れた反射神経で僕を捉えるが、その刃は全(・)て(・)透(・)過(・)す(・)る(・)。

 

 この平行移動グリッヂの有用性は爆速で移動できることに非ず。その真価は世(・)界(・)か(・)ら(・)弾(・)か(・)れ(・)る(・)ということにある。

 

 だって足埋まっちゃってる(座標軸バクっちゃってる)もん。整合性を保つために都合の悪い存在を排斥するのは何ら不思議じゃない。

 

 平行移動グリッヂは、同時に透過バグの側面を持つ。そしてこの場面(正面突破)こそ、コイツが火を噴く時だ。

 

「じゃーねー、警備団さん♡ ︎︎お国に首輪つけられちゃってかわいそー♡ ︎︎そこで指ちゅぱしながら懲戒解雇の通達を待ってるといーよっ♡…… FOOOOooooooo!!!」

 

 僕は警備団をめっちゃ煽りながら、塀の中を貫通して行った。

 

「「「──??」」」

 

 あーす・れんどら の おきみやげ ! *2

 けいびだん は こんらんした ! *3

 

 

 ◇

 

 

〜厭世の禁足地 レノリアス樹海〜

 

 

 というわけで、危なげなく*4警備を突破したところで視界にホログラムが表示される。無事、樹海に辿り着いたようだ。

 

「うおっ……っぶない、入ってすぐがデカい川だとは思わなんだ」

 

 すんでのところで体を起き上がらせて停止。眼前に広がる、ヌメっとした水色の河川を眺め、うんうんと頷く。

 この大河はおそらく『マグル清流』。『ネムリア湖畔』という湖から流れる、か(・)つ(・)て(・)透き通るほどにキレイな水が流れていた川だ。

 

「うん、〝脳喰らい〟の体液だな。となるとこの辺のモンスターは全(・)滅(・)し(・)て(・)る(・)はず」

 

 そも、『レノリアス樹海』も元からこんな濃霧が立ち込める幽玄とした雰囲気だったわけじゃない。以前はモンスターたちが共存し、活気ある美しい原風景がそこにはあった。

 

 しかし、防衛都市ヴィルベデアの建国と同時にモンスターは殲滅され、他のモンスターを淘汰する能力を持つ〝脳喰らい〟だけが生き残った。

 

 以来、〝脳喰らい〟は樹海の奥地に逃げ込み、至る所に自身の体液をぶちまけながら隠居している……という設定だった気がする。

 

 ちなみにこちらの体液、ちょっと触れるだけで体が溶ける劇薬なので、誤って川にドボンでもしたら普通に死ぬ。

 なお透過バグはあくまで地(・)面(・)に(・)埋(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)が発動条件であるため、液体である川に落ちたらその条件が満たされず、透過バグは切れる。

 

「えっ、てことは今死にかけてたってこと? 三途の川まっしぐらだったってこと?」

 

 ヤダ怖い。このエリアで不用意に突進するのはやめとこう。とりあえず一旦上流に向かってゆっくり移動せねば……。

 

「たしか原作だと、『ネムリア湖畔』の近くに生息していたような……」

 

 このまま移動すればいずれどこかで会敵するだろう。もっとも、僕にとって〝脳喰らい〟は敵ではなく愛(・)娘(・)だが。

 

「説明しよう! 〝脳喰らい〟はオドオドした清楚系長髪美少女をベースとした全身ヌメヌメの扇情的なディティールに、戦禍に巻き込まれ、自分の強さゆえの孤独に苛まれているという『アンビバ』特有の胸糞ストーリーが搭載された『可哀想は可愛い』を体現するかくも虚しきキャラクターであり、そのあまりの悲惨さと心を許した相手への懐き具合から一部プレイヤーから『愛娘』とまで呼ばれ愛されているきゃわわスライムちゃんなのである! *5

そしてそれは僕も例外ではない! FOOOOooooooo!!! *6」

 

 今から推しキャラと出会えるとなれば、上がり始めたテンションのボルテージは天井知らず。そのため無意識に大声を張り上げてしまったのが失敗だった。*7

 

「──何者だ?」

 

 目の前に、我が愛娘〝脳喰らい〟ちゃん……とその頸元に長剣の切っ先を向ける、矍鑠(かくしゃく)とした老人がいた。ヴィルベデアの軍服に身を包む老人は、こちらに感づき様子を伺っているように見える。

 対する〝脳喰らい〟ちゃんは……怯えて腰を抜かしているように見える。間違いない、〝脳喰らい〟ちゃんのピンチ、命の危機である。

 

 それだけで、僕が動き出すには十分な理由たり得た。

 

「FOOOOooooooo!!!(吶喊)」

「!? なんだ貴様の……その物理法則を無視した妙な動きは!!」

 

 ざっくばらんに*8動き回り、ご老人を撹乱する。原作では見覚えのないキャラクターだが、軍服を着ている以上少なくとも味方ではない。

 

「ふんっ──なっ……!? なぜ刃が通らぬ!?」

「FOOOOooooooo!!!(吶喊)」

「えぇいやかましいっ……!! この化け物が……!!」

 

 とここで、ノリと勢いと、推しの前ではカッコつけたいじゃん? という邪念とで無策で突っ込んだはいいが、これ以上僕にできることは何も無いことに気が付いた。

 

「ふんっ──はぁっ──!!」

(ひゅー、こぇぇ!! これ透過して(バグって)なかったら即死だったわ!!)

 

 まず剣捌きがあの警備団と違う。向こうが1秒間に1回切りつけられる程度だとしたら、こっちは1秒間でダルマにされる程度には格が違う。

 

 そしてあれだけ厳重に管理された檻の中に足を踏み入れられる権力者ともなれば、軍部でも相当に位の高い人物に違いない。

 

(……マズイな)

 

 透過バグを使用している限り、死ぬことは無い。だがそれは「有効打を与えられないこと(防戦一方)」の裏返しだ。

 

 何度インベントリを見直しても、そこにあるのは短剣と300Gだけ。強いていえば短剣が武器になり得るが、リーチがクソほど短い上に簡単に防がれ──

 

(──いや、そこが突破口(メタ)か!)

 

 あれだけ「ここはゲームではなく現実世界だ」と言い聞かせていたのに、土壇場でそれを失念していた。『アンビバ』では短剣は切(・)り(・)つ(・)け(・)て(・)ダ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)を(・)与(・)え(・)る(・)もので、それ以外に扱いようがなかった。

 

(しかぁーし! ここはリアルワールドだ! そんな常識(デバフ)に囚われるほど、俺(・)の意志はヤワじゃねぇ!!)

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なんっ──ガハァッ!?」

 

 急旋回してご老人に突撃、と同時に短剣をぶん投げた。線(斬撃)ではなく点(投擲)の攻撃……それは、『アンビバ』のバトルシステムにはなかったものだった。

 

 結果、その予想外の攻撃(クリティカルアタック)は見事ご老人の鳩尾に突き刺さり、一撃でダウンを取ることに成功した。

 

「ぐぅっ……ゴホッゴホッ……」

「してやったり!! 上手くいったぜ!!」

「貴様ァ……!! 自分が何をしているのか理解して──」

 

 そうして地に伏したご老人は、老体には似合わぬぎろりとした眼光をこちらに向け、吼える。こいつも無害で幼気(いたいけ)なモンスターたちを利用し、国を、富を、と脳死でほざく資本主義の塊なんだろう。

 

──くだらねぇ。

 

「うるせぇよジジイが。お前らみたいな欲まみれの汚ぇ人間に俺(・)の崇高な理想*9が分かるわけねぇだろ。黙ってくたばれ」

 

 親指を下におったてて吐き捨てると、ご老人は驚愕したマヌケ顔と共にこと切れた。スカッとした僕はそのまま愛娘〝脳喰らい〟ちゃんに向き直ると、彼女は呆然とした表情でこちらを眺めていた。

 命の危機に晒されれば、誰でも感情が追いつかずにボーッとしてしまうものだろう。そう解釈して、僕は地面からスポッと足を抜き、彼女の手を取った。

 

「さ、ここは危険だ。僕と一緒に飛び出そう*10。新しい隠れ家を見つける、楽しい旅に」

「──は、はいぃ……!!」

 

 〝脳喰らい〟ちゃんがオドオドと答えるのを微笑ましく眺めながら、僕は柔らかいおてての感触を楽しんでいた。*11

 

 

 ◇

 

 

 初めは──夢を見ているのかと思った。

 

 いや、たしかにその姿があまりにも怪物じみていたから、ある意味夢であって欲しい……なんて、最初は考えてた。

 

 けど今は──これが夢であって欲しくない(覚めないで欲しい)なんて、高望みしてしまう。

 

『──俺の崇高な理想が分かるわけないだろ』

 

 きっとそれは、「私たちモンスターを救済する」ということであって。

 

『──僕と一緒に飛び出そう』

 

 その救いの手が、私に向けられているのだと。

 

「──は、はいぃ……!!」

 

 そんな妄想のような、夢物語のようなおとぎ話が、本当のことであって欲しいと。そう、願ってしまうのだった。

 

 ──いきなり現れた人間たちに仲間を殺戮され、孤独に苦しんだ末に出会ったその少年が、私の中でかなり美化されてしまっているのだと気付くことはついぞなかった。

*1:
界隈ではワードの特異性から『アンビバ』とも略される

*2:
HG(某お笑い芸人)のポージングをした少年から放たれるメスガキ煽り

*3:
思考停止

*4:
不法に

*5:
早口

*6:
うるさい

*7:
そのため←接続詞の使い方ミスってますよ

*8:
HG(某お笑い芸人)のポージングをしながら

*9:
推しを窮地から救うというロマン

*10:
物理(平行移動グリッヂ)

*11:
変態

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