前世...若しくは...転生後の君へ・・・   作:赤道さとり

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序章
#01 転生後の君へ


 

 

___【都内某裁判所】にて。

 

 

カン!カン!カン!

 

 

打ち付けられた木槌の音が、白熱する弁論の小競り合いと傍聴席のざわつきを鎮めさせる。

 

あぁ、いよいよだ…

 

 

「…判決を言い渡す」

 

 

鋭く発せられた言葉に、強張った表情で向けられる視線に、俺は息を呑む。

 

裁判長を務めるその男は全員の耳が己へ向くのを待ってから、ゆっくりと、そして慎重に口を開いた。

 

 

「被告人、ハイド・ドッペラーを…」

 

 

死刑に処す。

 

 

 

**

 

 

 

『お前みたいな奴は、二度とこの世に生まれて来るな!!』

 

『母国にも帰れると思うなよ、この“ペテン師”が!地獄へ落ちろ!!』

 

『人の心を持たぬ悪魔め!!これは当然の報いだ!』

 

 

 

…あり得ない。……あり得ない……

 

 

…あり得ない!あり得ない!あり得ない!!

 

 

何故、俺は今両手を縛られている?

 

何故、俺は顔も名前も知らない群衆から野次を飛ばされている?

 

何故、俺は……()()()()()()()()()()()

 

 

…ダメだ、理解できない!というより、考えたところで分かるわけがない!

 

 

 

俺は生まれも育ちもドイツ。

 

ある時、日本人の父に勧められた【進撃の巨人】という作品に感銘を受けてから、必死に日本語を学び始めた。

 

それから資金集めに勤しみ、やっとのことで聖地である大分県日田市へと移り住んだんだ。

 

日田杉をふんだんに使用した我が家には、観賞用フィギュアの祭壇まで造った。

 

毎週のように『あの丘の木』へ出向いては、ゆったりと腰を下ろし、澄んだ空気を味わいながら単行本を読み耽る。

 

ファンなら誰しもが憧れる夢のような生活を送り、幸せな俺だけの“推し活”を満喫しながら人生を終える__()()()()()()()

 

それが、何がどうなって俺はこんなことにっ…

 

 

「囚人番号850番、ハイド・ドッペラー。……最期に、言い残すことはあるか?」

 

 

言い残すことだと? そりゃ、あくさんあるだろ…

 

これは罠だ!冤罪だ!!……俺は何もしていないし、何も知らない!

 

どうしてっ…誰も信じてくれないんだ!?

 

 

 

……ほんっと、世の中クソだ。俺は嵌められたに違いない。

 

今の俺は、両手どころか全身を()()()()に縛り付けられて、身動きすら取れないんだぞ?

 

言ってやりたいことは山ほどあるが、こんな状況じゃ纏まるもんも纏まらん…

 

 

「最期に、か……ははっ、そうだな…」

 

 

…もう、どうにでもなれ__

 

 

 

「俺を嵌めたヤツ、全員……駆逐してやる!!」

 

 

 

ビリビリッ!!バチバチバチィィィ……

 

 

………

 

 

 

 

 

**

 

 

 

…ん?……あれ?

 

意識が…ある?……あるぞ!!

 

 

ガバッ!

 

 

ベッドから飛び起きた俺は、両手を目の前に掲げ上げ、手のひらをくるくると回してみる。

 

動く__これは俺の意志で動く、俺の手だ!……だが、どういうわけだ? 手錠がない。

 

確かに電気椅子のレバーは下げられた。体中に張り裂けるような痛みが走ったからな。

 

なのに、俺は生きて…

 

 

「!?」

 

 

その時、唐突にも()()()()()()()が全身を駆け巡った。

 

 

「まさか、そんな……あり得ない!」

 

 

毛布を剥がし、自分の身体を隈なく確認した俺は、ベッドから飛び降りて鏡の前まで足を運ぶ。

 

 

「う…嘘……だろ!?」

 

 

…間違いない、()()()()()だ!

 

俺にとって生命線とも言える作品【進撃の巨人】で慣れ親しんだ人物が、鏡の中で口を動かしている。

 

これって、つまり…

 

 

 

「“転生”…って、ヤツなのか…?」

 

 

 

**

 

 

 

タッタッタッタッタ…

 

「ハァ……ハァ…」

 

 

走りづらい__まだこの体に慣れていない証拠だ。声だって違和感がすごい。

 

こんな状態で他の兵士たちに「今は物語のどの辺ですか?」なんて、冷静に聞き出せるわけもない。

 

やみくもに外へ飛び出してみたが……ビンゴ!おおよそわかったぞ。

 

 

ここは、【トロスト区】だ。

 

 

さっき通りすがりに『駐屯兵団本部』を見つけた。間違いないだろう。

 

問題は、()()()()()()()()トロスト区なのか、だが__それも外門の状態を見れば、さらに絞れる。

 

イヤ、待てよ。このキャラクターがここにいるってことは…

 

 

もしかすると、大好きな()()()の可能性もあるか!?

 

 

…そう。俺が今向かっているのは、ただの“外門”ではない。

 

そこは、人類が初めて巨人に勝利した場所だ!そして、人類の無力さを証明する場所でもある!!

 

だとすれば、最高だ!原作第13巻54話『反撃の場所』でディモ・リーブスとリヴァイ兵長が外門の上で商談を繰り広げるシーンは、作中で一番のお気に入りと言っても過言じゃないからな。

 

あの兵長の“交渉術”には目を見張るところがあった!是非とも、あの場に立ち会いたいものだっ…

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

「……()()

 

 

外門は、壊されていなかった__現実を突きつけられた時、俺の淡い期待は腰元から大きくへし折られた。

 

膝に手をつきながら状況を整理しようと思考を巡らすも、無駄に膨らませた胸がしぼんでいく締め付け感と、全速力で駆け抜けた代償に得た目眩で視界が歪む。

 

 

「なんだ、つまりは……初期の初期ってわけか…」

 

 

!?…イカン、本音が漏れっ……有難く思え!俺は今、大好きな作品の中にいるんだぞ!?

 

 

「…そうだ。これはきっと、()()()()なんだ…」

 

 

作中では忌み嫌われていた壁も、今の俺にとっては神が与えし『試練の壁』のように思えた。

 

その壮大さが放つ輝きは、不遇な前世の果てに荒み切った俺の心を優しく包み込むような神々しさが伺える。

 

そんな身勝手な思い込みに瞳を潤わせた俺は、両手を大きく広げながら天を仰いだ。

 

前世はとにかく悲惨だった__あんな理不尽に人生を終えるなんてあっていいはずがない…

 

 

だが、神は見ていた!俺は選ばれし者なんだ!!

 

 

きっと、この世界を…『トロスト区襲撃事件』が発生するこの時から()()()()()()と、神はそうおっしゃっているに違いない。

 

俺を嵌めたヤツらは“地獄”へと送り込んだつもりだろうが、残念__俺が辿り着いたのは“天国(ラクエン)”だったぜ?

 

 

「やってやる…」

 

 

気づけば俺は、強く握りしめた拳を天高く突き上げていた。

 

 

「俺がこの世界を変えてみせる!!」

 

 

そう吐き散らしたのち、

 

 

「ん…?」

 

 

ふと、顔を横に向けると、掲示板のようなものが目に入った。

 

風に(なび)く貼り紙を片手で押さえながら、内容を確認してみると__

 

 

「850年〇月✕日、調査兵団による第56回壁外調査実行…」

 

 

…なるほど。今日が何日なのか知らないが、第56回ということはこの壁外調査が実行される日にトロスト区襲撃事件が発生するに違いない。

 

というか、俺のキャラがここにいるってことはつまり__

 

 

ザッ…

 

「オイ、そこの者!さっきから何やら怪しい動きをしているな!」

 

「ここは外門の前だ。不審者と判断した場合、王政府の命により即刻逮捕とする」

 

 

おっと、憲兵様のお出ましだ。いきなり2人も__この街の憲兵はちゃんと仕事をしているらしい。

 

仕方ない、喋り方は勢いで乗り切るか…

 

 

「あ~っと、これは失敬!失敬!私は別に、怪しい者ではっ…」

 

「何だ、喋り方も変な奴だな……貴様は何者だ!」

 

「ちょっ、勘弁してくださいよぉ!? こう見えて私も兵団の者だ。…と言っても、あなた方と違って所属は調()()()()だけど…」

 

 

確かこの辺に……ゴソゴソ……あった!ポケットに入ってたのは、やはり兵員帳だったか。

 

よし、こいつを見せながら__

 

 

「私は調査兵団で第4分隊長を務める、ハンジ・ゾエだ!」

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

[???視点]

 

 

転生後の君へ。

 

 

『この世界は腐ってる』

 

それが、君の口癖だった。

 

戦いに勝利した者が正義だと称えられ、弱者は強者に虐げられる。

 

物事の本質なんてあるようでないものだ。

 

人間は上辺だけの認識でほとんどを分別(ふんべつ)する__まるでそれが、当たり前だといわんばかりに。

 

自然な成り行きで、無意識の内に、普通の指標ってやつを決めつけたがるんだ。

 

そんな世の中を、君は壊したいと言った__それが“救い”になると信じて。

 

だから、その能力(ちから)を身につけたんだろ?

 

…イヤ、元々君にはその才があった。

 

神様がどうしてこの世界に君を連れてきたのかはわからないが、その能力(ちから)はきっと何かの役に立つはずだ。

 

使い方は()()()記憶が教えてくれるだろう。

 

この世界を救いたいなら、

 

君はその能力(チカラ)を…

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 






〜後書き〜

まずは本作品に目を通していただき、誠にありがとうございます!

初めて執筆する『転生もの』。
右も左もわからぬ素人ですが、温かく見守っていただけますと幸いです。

主人公はハンジに憑依したので、後書き内では彼のことを…

ハイドハンジ ⇒ 略:『ドハンジ』

とでも呼ぼうかと。(あまりしっくりと来てないですが…)

※ちなみに、日本の裁判所では木槌使われていないらしいですが、雰囲気重視で採用しました。


■次回予告:『#02 生理的欲求』


■おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第1話『二千年後の君へ』

◎ハイド・ドッペラーについて
[プロフィール]
 ・憑依先:ハンジ・ゾエ
 ・年齢 :30歳(2005年生まれ、2025年に逮捕、2035年に死刑執行)
 ・誕生日:1/2
 ・血液型:AB型
 ・出身国:ドイツ(父:日本人 / 母:ドイツ人のハーフ)

[補足]
 ・【進撃の巨人】の大ファンすぎて18歳(2023年)の時、日田市へ移住
 ・日本語はペラペラ、たまに厨二病な口調になる

[伏線]
 ・前世ハイドが処刑された経緯に何か秘密が隠されている__かも?

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