前世...若しくは...転生後の君へ・・・   作:赤道さとり

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~前話おさらい~

・ライナーが持つ手紙にドハンジのペンダントと同じ紋章が描かれていた
・夢の中でハンジがハイドの能力を”催眠術”だと推測する
・その頃、礼拝堂の地下空洞にて、拘束されたユミルの目の前でクリスタが注射を打つ。

↓それでは、本編へどうぞ↓




#10 怪しき影

 

 

___襲撃事件から3日後の晩。

___【ウォール・シーナ:調査兵団本部】にて。

 

 

兵団総統局の地下牢に幽閉されているエレンとの面会を終え、エルヴィンとリヴァイが本部に戻ってきた。

 

その知らせを聞き、執務室に幹部数名が集う。

 

顔を連ねたのは団長のエルヴィン、兵士長のリヴァイ、分隊長のミケと俺、それから__ミケの副官としてついてきたであろうナナバだ。

 

 

『一人足りない…』

 

 

この時、俺の視線は()()()()に向いていた。

 

そこに腰掛ける彼の姿を想像すると、胸が痛む__だが、今は過去の失態を悔い改めている場合ではない。

 

俺は顔を顰めながらも、エルヴィンの話に耳を傾ける。

 

 

「今回、エレン・イェーガの身柄引受に立候補したのは、我々調査兵団と憲兵団の2組織だ。明日の兵法会議では、通常の法が適用されない。各兵団が提示する方針で、エレンの処遇は決まるだろう。()()()()も…」

 

 

今交わされているのは、明日執り行われるという『臨時兵法会議』に向けて、調査兵団としての意向を固めるための議論だ。

 

兵法会議と称されているが、エルヴィンが言うように、これはエレンの生死を審判(ジャッジ)する“裁判”でもある。

 

しかし、まずは原作通り、身柄引受を希望する組織に変化はないようだな。

 

だが、()()()

 

 

「それで、エレン・イェーガー本人は何と? 彼の、正体は…」

 

「当の本人は『人間だ』と主張している。巨人の能力を身に宿していたことも自覚がない上、巨人化時の記憶もない、と……その一点張りだ」

 

「なら、処遇はどうする?」

 

「本人が希望するようにエレンを調査兵団へ引き入れ、壁外調査へ連れ出す。知性を持った巨人の力は絶大だ。ウォール・マリア奪還の助力となるだろう」

 

「しかし、我々の味方であるという確証は…」

 

「ない。現時点で彼における信頼性の判断材料は、先のトロスト区襲撃事件で鎧の巨人と格闘したことくらいだ」

 

 

的確に質問を投げかけるナナバと、冷静沈着に意見を返すエルヴィン。

 

しかし、ナナバは不安を拭いきれていないのか、まだ何か言いたげな顔をしている。

 

それもそのはず__何故なら、この世界線ではエレンが()()()()()()()()()からだ。

 

本来(原作通り)であれば、エレンは『トロスト区の奪還に貢献し、人類を危機から救った英雄』とも評価されるはずのところ、むしろ『人間のフリをして潜入した内通者かもしれない』と敵対視されてしまっている。

 

中央で実験を握る有力者たちは言うまでもなく、職を失ったトロスト区の商会や生活を脅かされたウォール・ローゼの住民たちからも不満の声が上がる一方。

 

記憶が正しければ、臨時兵法会議の日取りも確かエレンとの面会から数日後のはず__それがいきなり明日というのも、兵団上層部が議論するまでもないと見限っている可能性も高い。

 

 

つまり問題は、原作と違ってエレンが『政治的な存在』になっていないことだ。

 

 

巨人化したエレンが大岩を担ぎ外門に開けられた穴を塞ぐという【トロスト区奪還作戦】が決行されるまでもなく、『トロスト区放棄』という大敗を叩き出して事件を終えたこの世界では、キッツ隊長のようにエレンへ疑惑の目を向ける者が後を絶たない。

 

さらに、巨人化の能力を有したエレンに対し疑心暗鬼になっているのは、何も住民だけではない___

 

 

「リヴァイ。鎧の巨人と闘っている時の彼は、どんな様子だった?」

 

 

慎重にそう問いかけるのは、先ほどから石橋を叩き続けているナナバだ。

 

そう。事件の当事者である兵士でさえ、未だその存在を受け止め切れていないのだ。

 

 

「どの技も粗が目立ったが、鎧を攻撃対象として認識していたことは間違いねぇ……俺から言えることはそれくらいだ」

 

「そう……ハンジ、あんたも目撃してるんだってね?」

 

「へっ!?……あ、うん。その場にいたよ」

 

 

急に話題を振られ情けなく声を裏返す俺の顔を、ナナバは怪訝そうな瞳で見つめる。

 

 

「彼は……エレンは、我々を救うために戦っていたように見えた?」

 

「さぁ、どうだろう。あの時はみんな必死だったから……だけど、エレンは鎧の他にも巨人を数体倒している。それは事実だよ」

 

「…うん、それもそうだね」

 

 

手応えのない反応だ。

 

疑心が晴れないナナバの気持ちも分かるが……俺は今、それよりも“気になること”がある。

 

 

「ねぇ、エルヴィン。エレンは巨人の能力を自覚してなかったらしいけど、本当に思い当たる節は一つもないのかな? こう……巨人化した時に何か()()()()()、とか!」

 

「いや、特にそれらしいことは何も」

 

「そう…」

 

 

やはりそうか。

 

ここまで“その報告”を耳にしなかったために、薄々勘づいてはいたんだ…

 

 

エレンが『地下室』のことを()()()()()()()()ことに。

 

 

原作では、襲撃事件の途中で強いられた尋問中、榴弾からミカサとアルミンを守る際に地下室の鍵が目に入ったことがきっかけで、エレンは父から託された地下室を思い出した。

 

しかし、この世界では襲撃事件中のエレンの巨人化は一度のみで、救出後は気絶したまま幽閉され、そして今に至る。

 

地下室のことを思い出すシチュエーションなんて発生する余地もない。

 

状況は最悪だ__『地下室に秘密が隠されている』という情報は、調査兵団にとって有利なはずだが、その切り札もない。

 

となれば、やるしかないな…

 

 

総統であるザックレーに催眠をかける!!

 

 

最終的にどちらの兵団へエレンを委ねるかは、ザックレーの匙加減。

 

だから、明日の兵法会議が始まる前までに、『エレンの身柄を調査兵団へ委ねよ』と命令しておくんだ!

 

そのためにも、催眠術の扱いをちゃんと把握しておく必要がある。

 

 

「……ンジ」

 

 

昨日、ハンジに言われたように、試して確かめるしかない。

 

 

「オ……聞い……か?」

 

 

()()()催眠をかけるための条件を…

 

 

「クソメガネ!」

 

「はひっ!?」

 

 

突然の罵声に、俺は舌を噛んだ。

 

…と同時に、ため息も吐く。この情けない声を出す癖、我ながら嫌になるよ。

 

だが、兵長の生罵声は痺れ……てる場合じゃない!話を聞こう。

 

 

「何、ぼーっとしてやがる」

 

「あ、あぁ……ちょっと、考え事を…」

 

「会議中だぞ。それに今はてめぇの話をしている」

 

「へ? えっと……ごめん、何だったっけ?」

 

「チッ…()()()()()()だ」

 

「え…」

 

 

やばい。考え事に集中しすぎてて聞き逃したが、まさかそんな話に切り替わっていたとは…

 

それにしても、一体どういう風の吹き回しでその話題に?

 

エレンの身柄引受とは無関係の様に思えるが……と首を傾げていると、俺の訝しげな表情に気づいたのか、エルヴィンが補足する。

 

 

「明日の会議で議題に上がるか定かではないが、襲撃事件に我々調査兵団が居合わせたことについて上から説明を求められている。敵の手掛かりを掴むためにも不安要素は片っ端から探り、状況を明らかにしたいのだろう」

 

「それってつまり……上は調査兵団を怪しんでるってこと!?」

 

「直接的にそうと断言はしないが、馬の脱走に敵の意図が絡んでいる可能性も否めない。此方としても真相ははっきりさせておくべきだ」

 

「…た、確かに」

 

 

すると今度はリヴァイが問い詰めてくる。

 

 

「そこでてめぇに話を伺おうってんだ」

 

「わ、私に…?」

 

「あぁ。調査の結果、こんな目撃情報があった……馬を連れていた人物の中に()()()()()()()()者がいたと。さらにそいつは、ボサっとした髪を後ろで一つに結っていたらしい」

 

「!?」

 

「薄暗かったもんで、ハッキリと姿を捉えたわけではないらしいが……誰かと特徴が一致していると思わねぇか?」

 

「あ…」

 

 

そこまで聞いて、この場にいる全員の視線が己へ向けられていることにようやく気が付いた。

 

複数の目と向かい合い、喉元がぎゅっと細くなる。

 

緊張で汗が分泌されたのか、レンズの端が少し曇る。

 

 

…って、ハンジさん!? あんた、結構見られちゃってるんだが!?!?!?!?

 

 

そう考えた瞬間、申し訳なさそうに顔の前で手を合わせるハンジの姿が何となく脳裏に浮かんだ気がした。

 

そして、追い詰められた俺に止めを刺したのは、ミケのこの一言__

 

 

「スン……事件の朝、お前から()()()()がした」

 

「!?」

 

 

…そうか。やはり巨人の匂いを嗅ぎ分けるほど鋭いミケの嗅覚では、あれが馬の匂いであることまでわかってしまうのか。

 

詰んだ__以前までの俺なら、そう思っていただろう。

 

 

だが、今は違う!

 

 

焦りで散々な結果を招いてきた俺だ。同じ轍を何度も踏んでなるもんか!

 

大丈夫、目撃情報は見間違いだって主張できるし、臭いだって確実な証拠にはならない。

 

一旦、様子見で否定してみるか…

 

 

「ミケ、あの時は手洗いにこもっていたと言ったろ? 用を足した後の人のニオイを勝手に嗅いでおいて、馬だなんて失礼極まりないな~!」

 

「…スン?」

 

 

『俺の鼻に狂いはないが?』

 

…って顔してんな。ミケは寡黙な割に表情で思考を読めるところが少し面白い。

 

逃げ場を失ったように感じるが、まだ行ける!まだ押し通せる!

 

そう自分に言い聞かせながら、俺はエルヴィンやリヴァイへ順に目を向けた。

 

 

「確かに状況証拠だけ見れば、私が怪しいってのも頷ける。けど、誓ってそんなことはしていない!目撃情報は他人の空似じゃないか? ほら、()()()()()()()()的な…」

 

「なんだ、その妙な名前は…」

 

「あ…イヤ、何でも…」

 

 

だよな、この世界でこの単語は通じないか。

 

 

「…確かに、目撃情報は当てにならん。だが、ミケの鼻は信頼に足る。その上、襲撃事件の朝からお前の様子がおかしかったことは、ここにいる全員が気づいている」

 

「そ、それは…」

 

 

リヴァイの鋭い指摘にうろたえていると、今度はエルヴィンが眼光を研ぎ澄ませる。

 

 

「馬の調査を進んで買って出たのもお前だ、ハンジ。何か情報を持っているのなら話してくれないか」

 

「っ……」

 

 

…潮時か。

 

ここで懲罰房行きになれば、明日の兵法会議までにザックレーを操ることが不可能になる。バレるとしてもせめて明日を乗り切ってからだ!

 

とにかく今は何とかこの場を切り抜けるしかない。ちょうど催眠術を試したかったところだしな…

 

だが、焦るな。まず確かめるべきは__それぞれが見た紋章の“個数”。

 

ライナーとベルトルトで例えると、

 

・ライナー:手紙と別のどこかで2個

・ベルトルト:手紙のみで1個

 

…というように、目撃したであろう紋章の形式の数に違いがあった。

 

ベルトルトは手紙の紋章を何度も見ているだろうから、紋章を見た回数ではなく、同じ紋章を()()()()()()()()()()()ことが重要なんだ。

 

 

『2形式以上の紋章を目撃する』

 

 

それが催眠術の“発動条件”だと仮定して、今この場にいる幹部たちは俺のペンダントの紋章しか見ていないのであれば、おそらく紋章を見た数は1個。

 

しかし、ライナーのようにどこか別の場所で同じ紋章を目撃しているかもしれない。

 

だから、まずは__『記憶を消す命令』による反応の違いで、見極める!

 

 

「馬の脱走の件についてだが…」

 

 

そこまで切り出したところで、意を決した俺はゴホンと小さく咳ばらいをしながら姿勢を正す。

 

 

「エルヴィン、リヴァイ、ミケ、ナナバ……全員()()()()()!」

 

ピキーン!

 

………

 

 

 

「了解だ。忘れよう」

 

「!?」

 

 

エルヴィン、ナナバ、ミケの3名が記憶を失ったようにポカンと意識が飛んでいる中、リヴァイだけがまるで()()()()()()()()反応を見せた。

 

俺は思わず、前のめりになって問いただす。

 

 

「り…リヴァイ!この紋章と同じものをどこかでっ…」

 

「あれ? 私たちは何の話を…」

 

 

しかし、意識を取り戻したナナバに話を遮られた俺は、ハッと我に返るのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

___【調査兵団本部:廊下】にて。

 

 

結局、その後は兵法会議で進言する調査兵団としての“提案”の詳細を話し合って、会議を終えた。

 

本当はすぐにでも紋章の件を確認をしたかったが、状況の悪さを察し、とりあえずその場はやり過ごした。

 

少しは成長できたかな__そんな風に考えながら、俺は目の前を歩くリヴァイの背中を見つめる。

 

エルヴィンは執務室に残り、ミケやナナバも途中で別れた。

 

確認するなら今しかっ…

 

 

「なぁ、クソメガネ」

 

「へ!な、何…?」

 

「前から気になっていたんだが…」

 

 

そっちから声をかけてきたかと思えば、何故か俺の胸元をじっと見つめるリヴァイ。

 

…え、ナニコレ? 絶妙に恥ずかしいんですけど。

 

 

「…そのペンダント、どこで手に入れた?」

 

「あぁコレぇ? 最近人から貰ったんだよ。それにしても、ペンダントが気になるって……リヴァイ、君にそんな趣味あったのかい?」

 

「イヤ、装飾品(かざりもん)にはさほど興味はねぇ……気になるのはその“紋章”だ」

 

 

来た!

 

向こうから触れて来たぞ。これはチャンスだ…

 

 

「いやぁ~私もよく知らないんだけど……もしかして、どこかで見たことある?」

 

「トロスト区の()()()()に、同じ絵柄が描かれていた」

 

「えっ……壁ってどの辺り!?」

 

「扉の真上だ。()()そいつを凝視してやがった」

 

「!?」

 

 

なるほど、そうか!()()()()()リヴァイと同じ場所で紋章を見ていたんだ。

 

2形式以上この紋章の絵柄を見ている者には命令をかけられる。やはり、ハンジの推論は正しかった!

 

…よし。そうなれば、最後に『記憶を消す』以外の命令を試して、その条件を確実なものにする。

 

命令、か…

 

うーん……何をかける?

 

ダメだ。特に何の目的もなく催眠術をかけるって、意外と思いつかないもんだな…

 

 

この時、俺の中で何らかの“欲望”が渦を巻いていた。

 

 

ファンとして不誠実__良くないことだとわかっていても、どうしても気になってしまう。

 

例えば、そのキャラが()()()()()()()セリフとか…

 

 

「ねぇ、リヴァイ?」

 

「なんだ」

 

「…3回まわって『ワン』って言ってくれない?」

 

「……」

 

シーーン。

 

 

あれ? 反応がない。

 

もしかして、登場人物の人格によっては聞けない命令もあるとか?

 

すっごい不機嫌そうな顔。今にも「何の冗談だ?」ってキレられそうな…

 

一瞬、雲行きが怪しまれたが、それはすぐに晴れることになる。

 

 

「…いいだろう」

 

「!?」

 

 

え!まさか本当にっ…

 

 

くるんっ…

 

 

あのリヴァイが回っている。

 

眉間の皺をくしゃっとさせたまま__

 

 

くるんっ…

 

 

あのリヴァイが回っている。

 

ツヤのある髪とクラバット*1を靡かせながら__

 

 

くるんっ…

 

 

あのリヴァイが__

 

 

「す……ストップ!!」

 

ガシッ…

 

 

胸を締め付ける“罪悪感”に耐えきれなくなった俺は、思わずリヴァイの肩を掴んで動きを封じた。

 

 

「じょ、冗談だ!頼むから、やめてくれ!」

 

「あぁ? まだ『ワン』を言ってねぇーだろ」

 

「イヤ、たった今聞いたよ…」

 

 

はぁ…と大きくため息を吐く。

 

俺は心の中で“己の弱さ”(邪心)をぶん殴りながら、思考をまとめる。

 

 

これで『催眠術の条件』は明白となった。

 

 

だけど、少し()()()()()

 

 

「…ちなみにさ。その扉の上にあった絵柄ってのは、今まではなかったよね?」

 

「あぁ、かなりデカかったからな。あれば嫌でも目につく」

 

「そうだよね。……それってまだ残ってる?」

 

「イヤ、翌日には消えていやがった。夜中に雨でも降ったのかもな…」

 

「なるほど…」

 

「とにかく、明日は大事な会議だ。お前も早く寝ろ」

 

「…うん、そうするよ」

 

 

じゃあ...と言ってリヴァイと別れた俺は、自分の部屋へ繋がる廊下をコツコツと歩きながら顎に手を添える。

 

壁に紋章が描かれていたおかげで、ライナーは俺の命令を聞き、内門は突破されずに済んだ。

 

しかし、扉の上に変な絵柄があったなんて描写は、原作でも出てきていない。

 

 

『誰』が、『何の目的』で、描いたものなのか?

 

 

見当もつかない__とまぁ、一人で考えたところでわかるわけないか。

 

このことについては、就寝後にハンジへ報告しよう。

 

 

………

 

 

 

こうして、俺は翌日を迎えるのだった。

 

()()()()()()が待ち受ける、その日を__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌朝

___【兵団総統局:ザックレーの部屋】にて。

 

 

コンコンコン…

 

「…誰かね?」

 

「失礼します。調査兵団第4分隊長のハンジ・ゾエです。総統にお話があって、こちらへ…」

 

 

部屋に入ると、兵団の総統を務めるザックレーとその場に居合わせていたお役人の何名かが、一斉に俺の方へと顔を向けた。

 

さすがの威厳だ__ザックレーの目つきには、長年様々な場数を踏んできた色が伺える。

 

 

「会議前だ。これから討論を繰り広げる立場である君の話に、私が今耳を傾けると思うのかね?」

 

「いえ。ですが、()()を見れば気が変わるかと…」

 

 

そう言って俺は堂々と胸の前に一枚の紙を掲げる。

 

ペンダントと紙に描かれた紋章が同時に見えるように__

 

 

 

**

 

 

 

緊張の糸を解くように、ふぅっと息を吐いた。

 

ザックレーの部屋を後にした俺は、調査兵団の控室へ向かう廊下を歩いている。

 

すると、途中でピクシス司令の付き人アンカと出くわした。

 

 

「あ、ハンジさん!これ、あなたにです」

 

 

そう言ってアンカが手渡してきたのは、一通の手紙だった。

 

 

「誰から?」

 

「昨日の昼前、訓練兵の2人が駐屯兵団の郵便受けを探していて、事情を聞いたらちょうどあなた宛てにってことだったので私が預かってきました」

 

「なるほど、ありがとう」

 

 

アンカと別れた俺は、再び控室の方角へ歩き出す。

 

そして、手紙の封を開け、小さな声で中身を読み上げたのだった。

 

 

「『クリスタの件ですが、……彼女は今、()()()()です』!? 」

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

___【兵団総統局:審議所】にて。

 

 

とうとう『臨時兵法会議』が始まった。

 

審議所には調査兵団・憲兵団からそれぞれ幹部クラスの面々が肩を並べ、此方側にはエレンの幼馴染である2人も参考人として参列している。

 

原作と違う点があるとすれば、リコがいないことくらいか…

 

この世界では大岩作戦が実行されていない。彼女がいないのはそれが理由だろう。

 

 

 

しかし、ライナーとベルトルトの手紙の内容が気にかかる。クリスタがいないってどいうことだ?

 

イヤ、今はそれよりも会議に集中しなければ…

 

そうして審議所の中央に佇む裁判官席に座るザックレーに目を向けると、開廷宣言もほどほどに、憲兵団の提案から伺いに入っていた。

 

憲兵団の師団長であるナイル・ドークがそれに答える。

 

 

「我々は、エレンの体を徹底的に調べ上げたのち、速やかに処分すべきと考えております」

 

 

提案の内容は原作と変わらないが、その“真意”が違う。

 

これは()()()()()__憲兵団はエレンを『疑う余地のない脅威』とみなし、人体実験など行うまでもなく速攻処分する意向だ。

 

会議が始まる直前、審議所の近くにいた憲兵の一人にこっそりと催眠をかけて聞き出したから間違いない。

 

現に、捕捉として連述されているナイルの言い分は原作と大幅に異なり、エレンに対する“不信感”がダダ洩れって感じだ。

 

 

 

憲兵団の進言が終わり、次は調査兵団の番__

 

 

「我々は、エレンを正式な団員として迎え入れ、巨人の力を利用しウォール・マリアを奪還します。……以上です」

 

 

すると、これにはザックレーではなく、ナイルが噛みついてきた。

 

 

「待て、エルヴィン!彼が味方として役に立てる保証はない……それに、今後の壁外調査はどこから出発するつもりだ!?」

 

「トロスト区の内門を希望する。これまで築き上げてきた行路を無駄にはできない。内門から出発し、街中を駆け抜け、外門から壁外へ出る」

 

「無謀もいいところだ……城壁に囲まれ巨人が蹂躙している街中を、簡単に通り抜けられるものか!」

 

「そうだ。調査兵団の援護班のみでは外門に辿り着けるかさえ怪しい……だから、君たち憲兵団の協力を仰ぎたい」

 

「何!?」

 

 

そう、昨日の会議で取り決めた詳細というのはこのことだ。

 

人々の意識をエレンから『人類復興のために何を優先すべきか』という課題へ向けさせ、ウォール・マリア奪還を急かすというのがエルヴィンの策だ。

 

 

「エレンを処分したところで、敵の侵攻とは無関係だ。ならば、その力を最大限利用して反撃に出る。何を優先すべきかは明確だと思わないか?」

 

「くっ…」

 

「君たちの協力がなければ壁外調査は東のカラネス区、ないし、西のクロルバ区からの出発となる。その場合、行路は一から開拓しなおす羽目に……人類の復興も遠のく」

 

「しかし…」

 

 

思ったより議論が続いているな。

 

だが、もう十分だろう__俺はこれみよがしに、ザックレーへ()()()する。

 

 

「そこまでだ。議論は尽くされた」

 

「えっ……お待ちください!まだ、此方の言い分はっ…」

 

 

うろたえるナイルを諫めるように、ザックレーはピンと立てた人差し指を上唇に当てる。

 

ぐぐっと引き下がるナイルと連動して、審議所内が鎮まり返った。

 

ザックレーは厳然とした表情のまま、ゆっくりと口を開く。

 

 

「エレン・イェーガーは…」

 

バターン!

 

 

その時、審議所の入り口の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「あれ? もう終わる感じ? 裁判があるって聞いたから急いできたのに…」

 

 

扉を開けた張本人は、ケロッとした口調でそう話す。

 

_さらっと下ろされた金色の髪。

 

_吸い込まれそうなほど透き通った瞳。

 

_片腕で抱えられそうな華奢な体。

 

後光に照らされたその出で立ちは、まるで女神のようにも見えた。

 

 

なんで、()()()()がここに…?

 

 

言葉も出せず唖然としていると、ザックレーが静かに尋ねる。

 

 

「君は……誰かね?」

 

 

すると、クリスタは不敵な笑みを浮かべながらこう告げたのだった。

 

 

「私は、ヒストリア・レイス…」

 

 

 

…この壁の、()()()です。

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
リヴァイが首元に巻いているスカーフのこと






〜後書き〜

ダーク・クリスタ、もとい、ダーク・ヒストリアの登場です。

次回から原作を一切なぞらず、オリジナル展開が続きます。

かなり滅茶苦茶な話になっていきますが、記憶ツアーならぬ観光地ツアーの要領で、原作に出てくる縁の地を転々と移動しますのでお楽しみに(´-ω-`)


■次回予告:『#11 虚像』

■おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第99話『疾しき影』

◎更新頻度について
これまでも更新頻度はまばらでしたが、今後はさらに気まぐれ&遅くなると思われます。
残りは10話前後を予定しており、エンドは最初から決めているため物語は必ず完結します。
ご興味ありましたら、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
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