~前話おさらい~
・調査兵団の会議中、催眠術の発動条件を見抜く
・臨時兵法会議前、ザックレーに催眠をかけたドハンジの元へライナーたちから手紙が届く
・臨時兵法会議中、クリスタもといヒストリアがその場に姿を現す
↓それでは、本編へどうぞ↓
#11 虚像
___【兵団総統局:審議所】にて。
『私は、ヒストリア・レイス。この壁の“真の王”です』
…は?
どういうことだ。何故、クリスタが本名を名乗ってる?
それにレイス家が真の王ってことは、原作ではクリスタ本人も認識してなかったはず。
それに様子が変だ。あの服、
ザワ……ザワ…
傍聴席がざわつき、兵団上層部のお偉方の一部やウォール教のニック司祭の顔が青ざめている。
お偉方は差し詰め、『大至急、ロッド・レイスへ確認を取れ』と慌てているのだろう。
…が、そいつらはどうでもいい。とにかく、行方不明だったクリ……ヒストリアがここに現れた理由だ。
そうやって様子を伺っていると、再びクリスタが艶やかな唇を動かす。
「あれ? もしかしてエレン……躾、受けてない? ピンピンしてるじゃん!」
その口調はこの世界観にてんで馴染まない、軽々としたものだった。
「ん~、明らかに“流れ”が変わってる……ってことは、
「王と名乗りし者よ、君は先ほどから重大な罪を犯していることに気づいているかね。今は厳正な議論の最中だ」
ザックレーが踏み込む__すると、ヒストリアは「やれやれ」というように掌を上に向けた。
「ザックレー総統。女王に向かって無礼な発言ですよ………ね、ニック司祭なら私の言ってる意味がわかるでしょう?」
「なっ…!?」
ヒストリアの視線の先では、ニックが言葉を詰まらせている。
「ニック司祭殿、今の話は本当か?」
「いや、その……私からは、何とも…」
「まぁそう虐めないであげて。ニック司祭も可哀そうな人だから…」
そう言って眉頭を上げ哀れみの表情を浮かべたヒストリアは、審議所の中央へ向かってコツコツと歩き始めた。
「とりあえず、エレンが憲兵団に処分される前に間に合ってよかった……しかし、憲兵団の皆さん。あなたたちの警戒心は正しいです。何故なら、そこにいるエレンは……この世で最も残虐な“殺戮者”となるのですから…」
「!?」
俺は動揺が声に出そうなのをぐっと堪え、困惑が伝わらぬよう顔を作る。
それまでの発言からも怪しい点が見られたが、今ので確信に変わった…
ヒストリアは【進撃の巨人】の“結末”を知っている!
ということは、つまり……俺と一緒で、ヒストリアの中にも
同じ世界に2人も転生者が共存するとは想像もしていなかったが、別にあり得ない話でもない。
もし、本当にこの作品を熟知している転生者なのであれば、協力を仰ぎたいところだが…
ゴクリ…
白地の生地が靡く度、赤い斑点がゆらゆらと宙を舞う
そうやって何もできず立ち尽くしていると、ヒストリアがエレンの横で足を止める。
エレンは床に膝をつけたまま、右斜め上へ懐疑的な視線を向けた。
「おい、クリスタ。さっきから訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。訂正するなら今の内だぞ」
「…可哀そうなエレン。君は奴隷なんだよ。今、思い出させてあげるね…」
「は? お前、本当におかしくなっちまったのか!?」
「大丈夫、誰だって本当の自分と向き合うのは怖いもの。
「オイ、話が見えねぇぞ……一体、何企んでんだ?」
「これで君もわかるよ。ついでに、
そして、ヒストリアは有無を言わさず、エレンの肩にポンっと手を置いた。
すると…
バチッ!
静電気のような音が審議所に響いた。
原作でも、王家の血を引くヒストリアに触れられた際、エレンは父から巨人を継承した記憶を取り戻している。
この現象は想定内__だが、
ガタガタガタッ…
突然、審議所内にいた人間の大半が、ヒストリアに向かって
ザックレー総統やピクシス司令、ニック司祭にエルヴィン団長まで一様に。
その場に立っていたのは、リヴァイとミカサ、そして__“俺”の
ヒストリアは全体をゆっくり見渡すと、残念そうに眉を顰める。
「あー……やっぱり、アッカーマンの2人には洗脳が効かないか…」
アッカーマンには効かない。
この状況とその言葉から連想されるのは、あの“能力”しか考えられない…
『始祖の洗脳』
イヤ、待てよ……あり得ない!!
確かに王家の血を引いているヒストリアなら、エレンの中にある始祖の巨人を介して、原作でウーリやフリーダが使っていたような『始祖の洗脳』を扱えるのかもしれない。
だが、その能力を発揮できるのは__あくまで、
じゃあ、ヒストリアは一体、誰の巨人を…
―“『…それとクリスタの他にもう一人、ユミルという同期も行方をくらましています。…』”―
この時、俺の脳裏に過ったのは、ライナーたちから届いた手紙の内容だった。
「ま……さか…」
嫌な予感に声を震わせた俺は、とうとうヒストリアと目が合ってしまう。
「ふふ、見つけた。そこにいたんだね……
「!?……な、何故それをっ…」
「あなたの話は後。今はエレンに用があるから…」
「……」
俺は言葉を失った。
思考が、これっぽっちも追いつかなかったのだ。
呆然と口を開ける俺の横で、リヴァイとミカサも周囲の異変に困惑している。
「オイ、エルヴィン。何してやがる…」
「…アルミン、どうしたの?」
肩を揺らしたりして話しかけるも、どちらも反応はない。
「クソ眼鏡、これはどういう状況だ?」
鋭い視線を向けてくるリヴァイ__そんなの俺だってわからないよ、兵長。
_ヒストリアが何故、俺の正体を知っているのか。
_エレンの記憶を呼び覚まして、何をしようとしているのか。
_本当に、ユミルは
考えたってわかりやしない。だから…
「…今はとりあえず、彼女の話を聞こう」
**
「ほら、エレン。思い出したことを話してみて」
ヒストリアが促すと、エレンは体を小刻みに震わせながら声を絞り出す。
「お、俺が…巨人の力を有しているのは……俺が、
「!?……え……どういう、こと…?」
聞き捨てならない言葉に、ミカサが柵に手を掛けると…
ガシッ…
「あ、アルミン…!?」
それを引き留めたのは、虚ろな目をしたアルミンだった。
さらに…
ジャキジャキジャキ!
向かい側に立つ憲兵たちが一斉に、此方へ銃口を向け出したのだ。
まさしく、蛇に睨まれた蛙__そんな俺たちの姿を嘲笑するように、ヒストリアは薄気味悪い笑みを浮かべながら人差し指を立てる。
「法廷ではお静かに…」
「!?」
この言葉で、危険信号が灯った。
彼女はまともじゃない__ヒストリアの中に潜む転生者からは、明らかな“悪意”を感じる。
どうやら今は、これ以上彼女の気を逆立てないよう注意を払うしかなさそうだ…
「さぁ、エレン。その調子で続けようか……それで、君は
「俺…は……ゴクッ」
エレンの酷く怯えた様子から、どんな“記憶”が掘り起こされたのか、俺には見当がつく。
おそらく、
世界から恨みを買うほどの『大虐殺』__それを己が実行する未来なんて、そう簡単に受け入れられるわけがない。
エレンがその先の言葉を出せずもごもごと口を動かしていると、ヒストリアが呆れ顔で指を鳴らす。
「はぁ……エレン、君にはガッカリだよ」
パチン!
すると、審議所内のそこかしこから声が聞こえてきた。
「あ…れ……体が動く!」
「…む、わしらは何を…」
洗脳が解かれたのか、操られていたほとんどの人間が動き出したのだ。
ほんの、
「ぐっ…」
「チッ……何ってザマだ、こりゃ…」
苦しそうな息を漏らすミカサと、柄にもなく弱音を吐くリヴァイ。
その首元には、尖ったペン先や小型ナイフの腹が押し当てられている。
2人は操られたアルミンとエルヴィンによって、それぞれ拘束されてしまったのだ。
さらに__
「ナイル!貴様、何をやっている!?」
声を荒げた役人の視線の先には、ザックレーへ銃口を向けるナイルの姿があった。
そう、これは“人質”__ヒストリアは
…惨い。こんなやり方は、間違っている!
「なんてことをっ…」
だが、ヒストリアは身を乗り出して訴える俺なんぞに構うことなく、エレンに詰め寄った。
「さぁ、エレン!答えを聞かせて!!」
外堀を埋められ逃げ道を失ったエレンは、言われるがままに口を動かしてしまう。
「お…俺は、
やめてくれ__
「壁の中にいる巨人を……動かして…」
ダメだ、それ以上は__
「…
「「 !? 」」
審議所内は一気に騒然となった。
「奴は今、何と言った!?」
「壁の中に巨人がいる?……ふ、ふざけるな!!」
「人類の8割を踏み潰すだと!? やはり、奴はバケモノに違いない!」
「今すぐそいつを殺せ!!」
困惑の波紋が広まり、野次に怒号の嵐。
しかし、それも__エレンの肩に手を置いたままのヒストリアが、一声上げるだけで収まってしまう。
「お静かに。皆さんの気持ちはわかります。確かに、彼が内に秘める野心はリスクが大きい……しかし、殺しはしません。
審議所内は再びざわついたが、先ほどよりは幾分マシなようだ。
すると今度は、ピクシスが周囲を黙らせるように声を上げる。
「主は今、王国……と言ったかの?」
「はい。ここは元々エルディア帝国という国なのです。そして、我々の敵は巨人などではない……“世界”です!!」
「…ほう。それを、どう証明するのじゃ?」
「その答えは、ここから少し離れた場所にあります」
「こう人質を取られておっては、わしらに
「ふふ、話が早くて助かります」
そして、少し嬉しそうに会話を終えたヒストリアは、バッと大袈裟に両手を広げて見せたのだった。
「それでは皆で向かいましょう……
………
…
***
___半日後。
シガンシナ区を目指す一行は、ウォール・シーナの南に位置する城壁都市【エルミハ区】を抜けようとしていた。
少し前に日は暮れ、辺りは薄暗い__だが、暗いのは空模様だけではなかった。
「ハンジ、あの女王と名乗る奴のことだが……お前は何か訳知り顔だな」
ガタガタと揺れる馬車の中、リヴァイが俺に問いかける。
そこにミカサの姿はない__ヒストリアはエレンに言うことを聞かせるため、アルミンを操ってミカサを人質に取り続けているのだ。
ヒストリアたちは別の馬車に乗り、主要人であるザックレーやピクシスもそこに同席している。
それ以外の兵士たちは単騎で駆けたり、大きな荷馬車に押し詰められているらしい。
『始祖の洗脳』によって操作された大行軍は、気味が悪いほどスムーズに歩を進めていた。
状況は芳しくない__俺は雲行きの怪しさに顔をしかめながら、リヴァイの問いに答える。
「うん……イヤ、正確に言えば何も知らない。だけど、彼女はすでに
「あの返り血か? お前がそれだけの根拠で断言するとは思えん……その顔は、他にも何かあるって顔だ」
「そ、それは…」
「奴は審議所で、俺と人質の訓練生に向かって『アッカーマン』と言いやがった……トロスト区でのお前と同じ反応だ」
「あ、そういえば…」
「それに、奴はお前を知っている口振りだった。呼び方も違ったしな……お前と奴の間には何かある」
リヴァイの鋭い指摘に、俺は顔をより曇らせる。
「流石だね……でもごめん、今は話せない。彼女が何をしようとしているのか、それがはっきりしたら……その時話すよ」
「…そうか」
「…うん」
しばらく沈黙が続く。
馬車の震動で思考がまとまらない。
…というよりは、まとまりようがない。一つ一つが散り散り状態で、繋げようにも雲のようで掴めやしない……そんな感じだ。
頭痛がする__誰かの意識が俺の頭を覗いているというよりは、単純に理解不能な状況へのストレスが原因だろう。
そんなしょうもないことを考えていると、馬車の窓から遠くを見つめるリヴァイがボソッと呟いた。
「しかし、あの
「あぁ、それは…」
危ね……思わず口が滑りそうになった。
フッと俊敏に向けられたリヴァイの視線から逃れるように、俺は反対側の窓へ目をやる。
「私には、見当もつかないや…」
そう言ってわざとらしいため息を吐きつつも、心の中では深く感心していた。
兵長、あんたどんだけ
………
…
その後。
夜通し馬を走らせ続けた俺たちは、夜明け前にトロスト区の手前の街へ到着したのだった。
=====
[ライナー視点]
___夜明け頃。
___【ウォール・ローゼ南区:訓練兵団所有地】にて。
さっきまで暗闇だった空間が、次第に輪郭を保ち始め、やがては窓から差し込む光の筋さえはっきりと映し出す。
「オイ、起きろ。ベルトルト…」
そう言って俺はいつものように、特殊な寝相をかます相棒の肩を揺らした。
すると、ベルトルトは「ん…」とまどろみながら、細い体をベッドから浮かせる。
「ライナー……もしかして、寝てないのか?」
「…わかるか?」
「あぁ、そんな顔だ」
「どうにも気になる……クリスタのことだ」
「…昨日も結局、
「俺たちの正体を知る手紙の差出人が、もしクリスタなのだとすれば……エレンが中央に連れて行かれてるこのタイミングでの失踪には、何か関連があると思えてならん」
「今日、もう一度アニと話すべきかな?」
「あぁ、そうしよう…」
そうやって小声で話していると、まだ他にも寝てる奴らがいる大部屋の扉が突然開かれた。
キィィ…
「ライナー、ベルトルト……迎えに来たよ」
「!?」
扉の先には、取って付けたような笑顔のクリスタが、罰の悪そうなエレンと2人で立っている。
俺は言葉を失った__2人の斜め後ろには、口元に猿ぐつわを嵌められたアニが、両手両足も縛られ身動きの取れない状態で立たされていたからだ。
「アニ!?……クリスタ!君は一体、何をっ…」
「クリスタじゃないよ、ベルトルト」
ベルトルトの話を遮ったクリスタは、そう言いながら片手をスッと上に挙げた。
すると、次の瞬間…
ガタガタガタッ!
まだ寝ていた他の奴らが一斉に動き出し、俺たちに飛びかかってきた。
「ジャン!…コニー!? お前ら、何するんだ!!」
押し返そうとするも、さすがの人数に対処しきれない。
そうして、両手を後ろで縛られた俺たちに、クリスタは冷たい瞳でこう告げたのだった。
「あなたたちは
=====
***
___1時間後。
___【トロスト区:外門壁上付近】にて。
「さぁ!今から皆さんに、
そう声を高らかに上げるのは、かなりご満悦の様子のヒストリアだ。
俺たちは今、超大型巨人の攻撃でガタガタになったトロスト区の外門の壁上にいる。
人数的に全員は壁上に登れなかったため、ヒストリアは人質となったミカサや兵団主要人、俺と兵長、それから途中で拾ったライナーたちの数名だけを壁上に上がらせたのだ。
「あ、さっき言い忘れてたけど……ライナー、ベルトルト。ここで
「…言われなくても、それくらい状況は読めてる」
「そう、ならよかった」
ライナーは渋い顔でヒストリアの後姿を睨みつけながら、くっと奥歯を噛みしめた。
すると、その会話を聞いていたミカサが声を震わせる。
「巨人化って何?……説明して、クリスタ」
「大丈夫。あなたとエレンの故郷にすべての答えはあるから……それと、私はヒストリア。何度も言わせないで」
「っ……」
ヒストリアが声を強めると、ミカサの首に回されていたアルミンの腕に力が入った。
ミカサが渋々一歩引き下がると、ヒストリアはクスクス笑いながら今度はエレンに顔を向ける。
「さてと。ここからはエレン、あなたの仕事よ」
「お、俺…?」
「そう。私に触れながら心の中でこう唱えてみて…」
ゴニョゴニョゴニョ…
何やらエレンに耳打ちをするヒストリア__唯一この世界の
だが、それを止める手立ても
今のところ、彼女がやろうとしていることは、おそらく俺たち壁内人類にとってむしろ都合がいい。
何の犠牲も払わずウォール・マリアを取り戻せるのなら、これ以上の話はないだろう。
彼女が俺たちに味方すれば、この世界を救えるかもしれない。
とは言え、警戒心を解くわけにはいかないな…
チラッ…
一瞬だけ、ヒストリアは俺の方へ目を向けた。
自信満々に、『見てて』__とでも言う顔で。
「行くぞ…」
意を決したように顔を上げたエレンが、差し出されたヒストリアの手をギュッと握る。
そして、しばらくすると…
…ドド
……ドドドド
………ドドドドドドドドド!!
四方八方から地響きが聞こえてきた。
東西南北すべての方角から巨人が集まり、次第に列を成していく。
トロスト区内に入り込んでいた巨人たちも一斉に走り出し、外門からウォール・マリアへ躍り出た。
そして、その様を愉し気に眺めるヒストリアが一言__
「
そう。彼女は、
ここら一帯に蔓延る無垢の巨人を、
***
___数時間後。
___【シガンシナ区:兵団施設の屋上】にて。
あれから俺たちは再び馬車に乗り、巨人の影が消え去ったトロスト区を抜け、ウォール・マリアを颯爽と駆け抜けた。
まるで囚人の移送のように、
巨人の群れとはシガンシナ区の入り口でおさらばした。どうやら、従えた巨人は檻の役目としてシガンシナ区を挟み込むように外門と内門の先に配置しているらしい。
そうして辿り着いた先は、シガンシナ区内にある兵団施設。どんな用途で使用されてた場所なのかは知らないが、原作でイェーガー派が占拠していた場所だ。
その屋上で待つ俺たちの元へ、ミカサがアルミンと共に戻ってきた。
脇に
「言う通り、持ってきた……これでいい? ク……ヒストリア」
流石のミカサも従うしかないと観念したのか、ヒストリアの指示を大人しく聞いている。
「ありがとう、ミカサ……じゃあ、皆に聞いてもらおうか」
そう言ってヒストリアは、エレンの肩に手をかけたまま、もう一方の手でパチン!と指を鳴らした。
すると、人質を捕らえている者以外の同行者たちが、次々と意識を取り戻していく。
「なっ……どこだ、ここ!?」
「コニー、あなたは馬鹿ですか?……トロスト区ですよ」
「それは違ぇぞ、サシャ。トロスト区出身の俺が保証する…」
「ジャン。あれってライナーたちだよね…?」
飛んだ記憶に騒ぐ104期たちは、マルコが指差す先の光景にさらに困惑した。
「は……ライナーにベルトルト、それにアニまで……お前らどうしたんだ?」
「それについては、私から説明するよ」
そこに首を突っ込んだヒストリアは、全体を鎮めさせたのち、ミカサを中央に呼び寄せる。
「さぁ、ミカサ。その本の内容を皆さんに読み聞かせてあげて」
_兵団の主要人や調査兵団の面々。
_拘束されているマーレ組。
_困惑する同期たち。
_ヒストリアの横で息を呑むエレン。
すべての視線が集まる中、ミカサは持っていた本を慎重に開いたのだった。
**
数十分後。
すべての手記の内容とヒストリアからの説明を受けた面々は、受け入れ難い事実に愕然と肩を落としていた。
「まさか、壁の外にも人類が暮らしているとは……とても信じられん。ピクシス、これをどう見る?」
「ふむ……いやしかし、参ったの。今の話が本当なら、わしらが死滅するまで争いはなくならん…」
ザックレーとピクシスが壁内人類に差し迫る重苦しい危機に驚嘆する中、104期の訓練生たちは裏切り者の存在に憤慨していた。
「嘘…だろ…? お前らが壁を壊した巨人だなんてよ……なぁ、ライナー!何とか言ったらどうだ!?」
「俺たちをずっと騙してたのか!? たくさん罪のない人を殺しておいて、どんな気持ちであの宿舎にいたんだよ!!」
「酷いです。こんなのっ……あんまりです…!」
ジャンは怒りにわなわなと体を震わせ、コニーは頭を抱えてうずくまり、サシャは目に涙を浮かべる。
本当、あんまりだよ…
俺は心の中でそう呟きながら、虚ろな目でリヴァイの首に腕を回しているエルヴィンを見つめた。
エルヴィンやアルミンなど一部の兵士は、ヒストリアが操れないアッカーマンやマーレの巨人たちの見張りのため、洗脳を解かれていない。
だが、その事情を知っているのは俺だけ……イヤ、この場にもう一人いるじゃないか!
いよいよ我慢の限界に達した俺は、ヒストリアの正面へ歩み出る。
ザッ…
「…それで、君は何がしたいんだ?」
俺の核心をつく物言いに、周囲がシンと静まり返った。
それでも、ヒストリアは表情一つ変えずに淡々と答える。
「何って……決まってるでしょ?
「それは、ヒストリアとして? それとも……転生者の君として?」
微かに、ヒストリアの耳がぴくっと動く。
「ふふ、良い質問ね。もちろん後者よ……そして、この“計画”は
「計画?……君は一体、何者だ!!何故、“俺”のことを知っている!?」
「私は、
「え……?」
今度は、俺の両耳がぴくっと動く。
聞き馴染の深い名前に、気を取られたからだ。
そして、体が硬直し声の出なくなった俺に、ヒストリアは丁寧にこう告げたのだった。
「私の、前世の名は……
……は?
―【 続く 】―
〜後書き〜
舞台はシガンシナ区へ。
ダークヒストリアの思惑が少しずつ見えてきました。
気になる転生者の正体とは__!?
■次回予告:『#12 前世の記憶』
■おまけ(補足説明)
◎サブタイトル参考元:原作第12話『偶像』
◎ヒストリアの『始祖の洗脳』発動条件について
物語の中で明確な説明はありませんが、誰かに洗脳をかける際は毎度エレンに触れていることとしています。
(エレンの中にある『始祖の巨人』を介して、その能力を使用するため)
そのため、エレンは常に側においております。
◎無垢の巨人を操ったのはエレン
ヒストリアは王家の血を持つためエレンの始祖の巨人を介してユミルの民を洗脳できますが、
原作と同様に巨人の力を有している者は操れません。
それ故、エレンも操ることができないので、人質を取って脅しています。