~前話おさらい~
・審議所に乱入したヒストリアが、エレンに未来の記憶を見せる。
・ヒストリアはエレンを介して始祖の巨人の力で巨人を操り、シガンシナ区へ移動。
・グリシャの手記の内容を公開したのち、ヒストリアの転生者は自身を『ハイド・ドッペラー』と名乗った。
↓それでは、本編へどうぞ↓
___【シガンシナ区:兵団施設の屋上】にて。
『私の、前世の名は……ハイド・ドッペラー』
訳が分からない。
ハイド・ドッペラーは
同姓同名の人物? しかし、喋り口調からは、ヒストリアの中に潜む転生者はてっきり女性だと思っていた。
まさかオカマなのか?__イヤ、性別なんて今気にすることじゃないか…
「…ハイド。もしかして私のこと、
「なっ…何故、それを!まさか、思考が読めるのか!?」
「別にあなたの思考なんて読まなくてもわかる……“単純”だもの」
そう言って自身を『ハイド』と名乗るヒストリアは、これみよがしに薄ら笑みを浮かべてみせた。
何なんだよ、こいつ!どうして俺のことを知った口振りなんだ?
前世で同じ名前の知り合いなんていなかった。それも、女性でなんて珍しい名前だ、忘れるはずがない。
そうなると、残される可能性は…
「そろそろお願いしたら? 『教えてください、ヒストリア様~』……ってね」
「ふざけるな!お前はヒストリアじゃない!!……それと、本当のことを言え。俺と同じ名前のはずがっ…」
「ある。だって、私は……
「……は?」
「あぁもう、情けないな~……私を創り出したのはハイドなのに」
「俺が? どういうことだ、それはっ…」
「…前世のあなたは『二重人格』だった」
「え…」
困惑し、思わず肩の力が抜ける。
すると、ヒストリアはやれやれといった表情で
そして、嫌悪感にも似た威圧的な瞳で、俺を見下す__
「つまり、私は……もう一人のハイドってこと」
「!?」
…も、もう一人の俺だと!?
俺はあまりの衝撃に、あんぐりと大きく口を開けた。
その空洞からやっとのことで這い出てきた言葉は、散り散りになった思考だった。
「二重…人格?……俺が!?……だ、だけど!そんな記憶はっ…」
「覚えてないのも無理ないよ。ハイドは私のことを認識していなかったもの」
「!?……俺はお前の存在を知らぬまま過ごしていたのか?」
「えぇ。逆に私は、あなたの意識を常に覗き見れた。おかげで
「あ……俺が“進撃”のファン、だから…」
「そういうこと」
奇しくも、納得できる点はいくつか思い当たった。
特に記憶に新しいのはやはり、【死刑判決】*1__俺は何の罪も犯した記憶がないのに、ある日突然、有無も言わさず投獄されたんだ。
何らかの組織的な陰謀に巻き込まれ、濡れ衣でも着せられたとばかり思っていたが、まさかあれは…
「俺が、死刑になったのも全部……お前の仕業か!?」
「…やめてよね、そんな言い方。私はいつでも完璧だった……
「俺の……せい?」
「はぁ…こうやってごちゃごちゃ話してても、埒が明かない。
「み、見るって何をっ…」
「もちろん、“記憶”を……この世界ではお馴染みでしょ?」
「なっ…」
そう言われ、目の前にいるのが王家の血を引く“ヒストリア”であることを思い出す。
その隣には、始祖の巨人を宿したエレンが__つまり、原作でジークとエレンが実行した『記憶ツアー』を開催しようってんだ。
俺が何かを察したように眉を上げると、もう一人の俺はクスクスと笑い出した。
「ふふ…感情がすぐに顔に出るのも前世のままなんだね、ハイド」
「くっ…」
「あぁ、忘れてた。私のことは『ジキル』って呼んで」
「ジキル?」
「えぇ、前世ではその名で通してたの。あなたの名前をそのまま使ってたら、すぐに
「待てよ……お前、俺の知らないところで何してたんだ!?」
「それを知りたければ、ここへ来て……今、思い出させてあげる」
そう言って自身を『ジキル』と名乗るそいつは、俺に向かって手招きをした。
ゆっくりと、着実に、細い糸でも手繰り寄せるように__
ザッ…
俺はヒストリア、もとい、ジキルの目の前まで歩み寄った。
彼女の言いなりになるわけじゃないが、前世の記憶を見ればこいつの思惑もハッキリするかもしれない。
そして、この傍若無人な非行を止めさせる__それが、今の俺にできる最大限の努力だ。
「…で、どうすればいい」
「私の手を握って…」
「わかった」
ぎゅっ…
差し出された手を握り返すと、途端に小さな火花が散り始めた。
視界が歪む__まるで体が宙に浮くように、全身から力が抜けて行くのがわかった。
そして、遠ざかる意識の中、ジキルの声だけが脳裏にこびりついてきた。
「これで、きっと思い出せる…」
…あなたの
バチバチバチィィ!!
………
…
=====
___西暦2018年。
___【西ドイツ:シュトゥットガルト州】にて。
「やめてよ!父さんっ……離して!!」
「大丈夫、少し痛むだけだ。すぐ終わる…」
「前と同じ
「この実験が成功すれば、人類は飛躍的に進化する!お前はその、第一人者になるんだ!」
「そんなこと、望んでなっ…」
チクッ…
「うわああぁぁあぁぁ!!」
あれは、父さんだ。しかし、こんな出来事あったか?
………
…
「どうだ? ハイド……【進撃の巨人】は面白いだろ?」
「うん、すごく面白いよ!こんなに興奮したのは
これは、少年時代の俺だ。
確か13歳の時に初めて、父さんに【進撃の巨人】を見せてもらったんだっけ?
あぁ、あの時の感覚が懐かしい…
………
…
「ドッペラー博士。実験が成功したというのは本当かね」
「はい。息子は確かに、【進撃の巨人】を
「では、君はやってのけたのだな……催眠による『記憶の改竄』を」
「えぇ。しかし、まだ完全に科学的に立証できたとは言えません。今の段階では、心理学的精神操作に過ぎないのですから…」
「そこを何とか形にするのが、君の役目ではないのかね?」
「わかっています。それで、ディゴール中将……例の件は…」
「あぁ。軍法会議にて、君の罪は正式に不問となったよ」
「よ、よかった……ありがとうございます」
「しかし、軍の研究所を一つ消し飛ばすなんて失態はこれっきりにしてくれたまえ。それと……君の首は皮一枚を残して繋がっているようなものだ。そのことも忘れるな」
「はい、肝に銘じておりますとも…」
なっ…なんだ、これは!?
父さんは街の精神科医だと母から聞いていたが、軍に所属していたとは知らなかった。
それに、『記憶の改竄』って言ったか!? それじゃあ、まるでっ…
(まるで、
この声はジキル!お前、知ってたのか!?
(知ってるも何も、私はこの実験で押し込められた“記憶”から生まれた存在なの……自分の父親に抗いたいというあなたの意志によってね)
俺の、意志…
(私はすべて覚えてる。あなたが感じた憎悪、無念、憤り、そして……“痛み”も)
お、俺が13歳の時に【進撃の巨人】を見たのは初めてじゃなかったのか?
本当は何度も見ていて、その度に記憶をいじられて…
父さんは一体、この実験で何をするつもりだったんだ!
(それは、本人に聞けばわかるよ。この記憶には
………
…
パァン!………ドタ。
「ディゴール中将!!……ハイド、お前何でここにっ……自分が何をしたか、わかっているのか!?」
「不必要な害虫を始末した。それだけのことでしょ?」
「!?……お前、ハイドじゃないな…?」
「流石、精神科医ってのも伊達じゃないか……初めまして、父さん。私はジキル」
「そうか、ジキル……お前の望みは何だ」
「それより、これを見て……家にあったペンダントだけど、不思議とこの“模様”に惹かれたの。だから
「うっ……がぁ!」
「あれ、まだほんの数回揺らしただけなのに……動揺が隠せてないんじゃない?」
「だ……まれっ…」
「自分の息子に“催眠”をかけられる気分はどう?」
「こ…れは……催眠の域を……超えて…いる…」
「大正解!私はハイドに生み出された時、この身に“超能力”を宿した。それも、
「くっ……うぅ…」
「そろそろ本題に入ろうか。父さん、イヤ……“ロイド・ドッペラー”……あなたがここで企んでいたことを話しなさい」
「わ、私は…」
「フッ……録音、開始」
「私がここで、軍に協力していた研究とは……『精神統一国家』の実現だ」
………
…
ピッ。
「事細かく説明してくれてありがとう、父さん。それじゃあ……
…パァン!
え…
父さんが撃たれた__イヤ、撃ったのは俺……違う、ジキルだ!
この年、確かに俺は祖父母の家に預けられた。でも、父さんとはそれ以降も、手紙のやり取りや電話をしていたはず。
それに、母さんだって父さんが死んだなんて一言もっ…
(あの女には洗脳で口を閉じてもらっていたの。それと、手紙や電話なんて現代の技術ならいくらでも加工できる)
なっ……ジキル!何故父さんを殺した!?
(あなたも聞いたでしょ? 軍が水面下で進めていた非人道的な計画を…)
『精神統一国家』の実現__確かに、勝手に記憶を改竄され、人工的に造り出された平和な世界なんてものだとすればおぞましい。
だけどその技術は主に、犯罪者たちの改悛を促すために使われるって記憶の中で父さんが言ってただろ!? だったら、人々のためになるんじゃっ…
(はぁ…貴方の父親は軍に騙されてた。そんなこともわからないの?)
ま、まさか本当に…?
(『精神統一国家』とは文字通り、政府が国民の精神を縛り付け、意のままに操る独裁政治のこと……あの録音テープでドイツ政府軍をゆすったら、あっさりと認めたから間違いない)
そんな、ことが…
もしかして、俺が日本で死刑になったのも、この事件に何か関係があるのか?
(……ない。でも、感謝してよね?
…は? どういうことだよ、それは。
(日本への『移住資金』、どうやって集めたか覚えてる?)
そりゃもちろん、働いて……あれ?
(記憶がないって顔ね。そう、あなたは何もしていない。お金は……私が
………
…
___西暦2023年。
___【日本:大分県日田市】にて。
「はぁぁ……
【進撃の巨人】のアニメ放送が終わった年__18歳になった俺は、祖父母の元を遠く離れ、我らが聖地“日田市”へと移住した。
当時の俺が今寝そべっているのは、『田来原美しい森づくり公園』の茂み。
そこは、アニメ放送10周年を記念し、巨大樹のモデルとなったメタセコイアが埋められている小さな丘だ。
何かあるとすぐにここへ来て、現実逃避していた日々が懐かしい。
だけど、働かず稼ぎもない俺が、どうして異国の地で一人暮らしなんてできてるんだ?
そんな資金、一体どこから__
………
…
ドコォ!……バキ!!
「リュウ、アキヤ……その辺に」
「何だよ、ジキル。まだ締め上げ足りねぇっての」
「リュウの言う通りだ。こいつは
「もちろん、許しはしない。舌が回るうちにヘソクリの在り処吐かせなきゃ、意味がないでしょ?」
「…お、俺はやってない!信じてくれ!!」
ジャラッ…
「信じてるのは、あなたの“本心”だけ……さぁ、隠した場所を吐きなさい」
おいおい待て待て待て!
これは恐喝か? あんなにも痛めつけて…
それに『組織』って何だ!お前は犯罪に手を染めていたとでもいうのか、ジキル!!
(その通り。金を稼ぐためなら何だってやった……闇金、詐欺、強盗……暗殺までね)
人殺しまでっ…
正気とは思えない!何故、そんなことをする必要があったんだ!!
(…世界が、
…は?
(この世には『腐った人間』が蔓延りすぎた。真っ当に生きるのがアホらしくなるくらいにね……だから、私はそんな下らない人間たちから搾取する道を選んだの)
り、理解に苦しむ。
他人の不幸で飯を食っていた__お前は、そう言ってるんだぞ!?
お前には父さんたちの愚行を批判する資格なんてないじゃないか!
(…私はね、あなたの父親や軍の考え自体には賛成だった。けど、彼らのやり方では
賛成? お前は父さんたちを『非人道的』だって切り捨てた癖に!
さっきから、何を言って…
(でも、甘いのは私もそう。あれは完全に……誤算だった)
………
…
___数年後。
「…あ、落とし物ですよ!お兄さん!」
「……」
「あれ、聞こえてないのかな? ちょっと、財布を落とされましたよ!」
ガシッ…
「!?……(虚ろな目をしてる…)……あの、これ落とし物です」
「あぁ、ありが……うぅ!あ、頭が!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ひ、ひぃぃ!!近寄るな!」
「え…」
「
「呪い? 何の話だかさっぱり…」
「ふざけるな!お前はいつも俺たちを駒に使い、自分では何もしない……もう懲り懲りだ!!」
「えっと、人違いとかじゃありませんか?」
「ハッ…シラを切るきか? いいさ、お前がその気なら……俺は今から、警察に駆け込んでやる!」
ダッ!
「あ、ちょっと!………行っちゃった」
俺はこの男の顔も、交わした会話も、ハッキリと覚えてる。
刑務所に入る直前の出来事__これが、前世における俺の、
(私も詰めが甘かった……催眠をかけて操っていた人物が街であなたと遭遇し、
洗脳を解いた?……俺が!?
(ふーん、やっぱ無意識だったんだ…)
当たり前だろ!そもそも俺は、洗脳や催眠術の類を扱えるなんて知りもしなかったんだ。
そうか、しかし…
お前が『ヘマをしたのは俺のせい』って言ってたのは、このことだったんだな。
(…えぇ。そして、この数年後に判決が下され、
…あぁ、嫌ってほど覚えてるさ。
あれは冤罪だって、勝手に思い込んでいた。
―“『…判決を言い渡す』”―
何も知らなかったんだ。何も…
―“『被告人、ハイド・ドッペラーを…』”―
俺は__俺って奴は…
―“『死刑に処す』”―
救いようのない、大馬鹿野郎だったよ。
ビリビリッ!!バチバチバチィィィ……
………
…
=====
ドタッ…
「ハァ……ハァ……ハァ…」
記憶の旅から戻った俺は、その場に膝から崩れ落ちた。
何ってバカなんだ!俺は!!
ジキルが言っていたことは、
あいつを生み出したのは俺で、単純でバカだった俺は自分が何不自由なく“推し活”を堪能できていることに、何の疑問すら抱いていなかった。
ジキルは実験で押し込められた記憶から生まれたと言った__つまり、あいつの歪んだ思想は、俺の無意識の奥底に潜む憎悪からきている。
これじゃあ、ユミルが最愛のヒストリアに喰われるなんて悲劇も、全部俺が招いたといっても過言じゃ…
「そんなに自分を責めないで、ハイド。元凶は、あなたの父親……そして、腐った世の中がそうさせたの」
「…イヤ、それだけじゃない。俺自身にも罪はある」
「まぁ、否定はしないよ。でも、あなたがいなければ今の私はいない。そして、神はチャンスを与えてくださった……
「生まれ……変わる?」
きょとんとした顔で見上げると、そこには自信満々に佇む
太陽の光を吸収した金色の髪が、俺の瞳の中でゆらゆらと泳ぐ。
その神々しい姿は、まさしく“女神”__だがそれは、人々に自由をもたらす存在ではないらしい。
次に発せられた
「さっきも言った*2でしょ? 私はこの世界を統べる王になるって」
「…それで? 世界平和でも訴えようってのか?」
「違う。そんなちんけな望みに希望を抱くほど、私はバカじゃない…」
ジキルはそこまで話すと、左手をバッと真横に伸ばして見せた。
もちろん右手は、エレンの肩に添えたまま__
そして、大きく口を開けたかと思うと、
「私はこの世界の支配者となり、完全なる“民族浄化”を達成する!!」
―【 続く 】―
〜後書き〜
ダークヒストリア、もとい、ジキルという転生者の存在が明らかになりました。
後書きでの呼び名どうしよう・・・ジキル×ヒストリア ⇒ 『ジキトリア』?
どう頑張ってもキモいので、普通にジキルと言いますね。
ついでに、今後はハイドのことも『ドハンジ』ではなく、普通にハイドって言います。
・・・ブレブレですみませんm(__)m
■次回予告:『#13 逃げる者』
■おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第121話『未来の記憶』
◎二重人格設定について
今回の話でご存じの方は気づいたかと思われますが、主人公の名前は人間の二面性をテーマにしたイギリスの小説『ジキル博士とハイド氏』(通称:『ジキルとハイド』)を参考にしています。
参考元の小説では「ハイド」の方が悪の人格として登場するため、本作では名前を逆にしてみました。
・日本とドイツのハーフ設定:二面性を示唆
・苗字の「ドッペラー」:ドッペルゲンガー(容姿が同じ別の人間)からイメージ
実は、ハイドのこれらの要素は、二重人格であることに掛けて考案しています。