~前話おさらい~
・ヒストリアに憑依した転生者ジキルが、ハイドの別人格であることが判明
・前世の記憶で父親による精神実験から“催眠術”という超能力を得たと知る
・死刑判決の真相を知ったところで記憶ツアーから戻ると、ジキルは『世界征服』の野望を唱えた
↓それでは、本編へどうぞ↓
___【シガンシナ区:兵団施設の屋上】にて。
『私はこの世界の支配者となり、完全なる“民族浄化”を達成する!!』
………する…!
………………する…!
大きく開かれた口から放たれたその言葉は、シガンシナ区を取り囲む壁を跳ね返り、何度もこだまして耳に入ってきた。
本日何度目の衝撃だろうか__もう、顎が外れそうだ。
狭まった喉の奥で滞留していた空気がきゅるっと鳴いた。
その音にハッと我に返った俺は、ズリ落ちそうになった眼鏡を押し上げながら反論する。
「み…民族浄化だと!? 君はこの世界で起こった
「呆れた。ハイドは本当にセンスがないな…」
「なっ……じゃあ、エルディア人が何百年にも渡って続けてきた侵略とは違うとでも?」
「当たり前でしょ。もっと
そう言ってヒストリアの皮を被ったジキルは、俺の眉間を貫くように指を差し向けてきた。
直接触れられているわけでもないのに何となく眉間にむず痒さを感じた俺は、気の抜けた声を漏らす。
「お、俺が…?」
「この世界へ転生する際、私たちの魂はそれぞれ別の体に憑依した。私はヒストリア、あなたはハンジ……それと同時に、私の能力はペンダントと共にあなたに奪われてしまった」
「それって、“催眠術”のことか?」
「そう。それさえあれば、人類は救われる」
「すまないが、俺は君に協力できない。君の思想はどうあっても救済者のようには聞こえなかったからな」
「別に理解してもらいたいわけじゃないよ。それに、ハイド自身の協力もいらない……必要なのは、あなたの
「!?……ま…さか…」
俺が次の言葉を口にするよりも早く、ジキルは再び大きく指を鳴らす。
パチン!……ガタガタガタッ
『始祖の叫び』__最強だ。
きっと、頭の中で念じるだけで思い通り事を運べるのだろう。俺の催眠術とはその“瞬発力”に雲泥の差がある。
阻止する暇なんてありゃしない。気づいた時にはもう遅い。
俺の脇には憲兵が二人、体の自由を奪わんと腕に絡みついてきた。
見渡すと、そこかしこで二人一組による人質の取っ組み合いが繰り広げられている。
「む……弱点の突き方を心得ておるようじゃの」
「どどど…どうしたんですか、コニー!? 私、何か気に障ることしましたか!?」
「ジャン、これは一体…」
ピクシス司令にはアンカが、サシャにはコニーが、そして__マルコにはジャンが。
ジキルは原作知識を持っている分、俺が嫌がる組み合わせが分かるのだろう。
「ふふ…これでわかった? あなたには選択肢なんてないんだよ、ハイド」
何も出来ず悔しそうに歯を食いしばるエレンの横で、嘲笑するジキル。
俺が何も言い返せないでいると、彼女はさらに目元をギラつかせた。
「だから……大人しく私に
「…やっぱ、狙いはそれか」
「今の私ではエレンを自由自在に操れない。でも、あなたが私から奪った力さえあれば、それが叶う……ほんと、大変だったんだよぉ? トロスト区であなたたちを誘導するの」
「トロスト区で?」
「そう。エレンには始祖の力で巨人を操らせたかったから、内なる力に目覚めてもらう必要があった。覚醒ってやつね……それから、ハイドにも
「誘導って……そうか!あの時、壁の上から煙玉が入った樽を落とした*1のはっ…」
「私よ。ついでを言うと、壁にペンダントの紋章を描いたのも私。ライナーたちに手紙を送ったのもぜーんぶ私!本当はエレンにも手紙を送ったんだけど、ミカサに邪魔されちゃって…*2」
そう話しながら左斜め前に視線を流すジキルにつられ、俺も右斜め前にいたミカサに目をやる。
ミカサは相も変わらず操られたアルミンによって拘束されているため、視線を向けられても身動き一つ取れない様子だ。
俺のところからは彼女がどんな表情をしているのかよく見えないが、口元の動きで「あの手紙…」とつぶやいているのがわかった。
そんなミカサの反応が面白かったのか、ジキルはクスクスと小さく笑い声を漏らしながら俺の方へと視線を戻した。
「事前に紋章を2回見せておけば、あとはどこかにいるハイドが彼らに何らかの指示を出すだけ。転生してすぐはあなたがどこの誰に憑依したか知る術もなかったけど、この世界を大好きなあなたが【トロスト区襲撃事件】をただぼうっと見過ごすわけないじゃない? 絶対この二人には干渉してくるだろうな~って……そしたら、ビンゴ!あなたの単純な脳みそのおかげで色々助けられた。だって、あの事件を乗り越えないとほら……“この力”は手に入らなかったんだし?」
「っ……」
頭に血が上る__俺は何か言い返してやりたい気持ちをぐっと堪えた。
今のジキルがエレンを介して皆を操れているのは、彼女が
確かに、ジキルの補助が無ければトロスト区襲撃事件はもっと悲惨な結果に終わっていたかもしれない。シガンシナ区だってこんなにあっさりと取り返せなかっただろう。
だからと言って、これまでの彼女の横暴なふるまいや、これから実行せんとする残虐非道な野望を認める理由にもならない。
落ち着け、俺。冷静に状況を見極めるんだ!
探せ。この状況を打開できる“何か”をっ…
今度こそ__彼女の思惑通りにならないように。
今度こそ__自分の力でこの世界を救えるように。
そう心の中で唱えた俺は、今にも震え出しそうな足にぐっと力を入れ、腹筋を意識しながら口を開く。
「それなら、さっさと俺を喰っちまえばよかったじゃないか」
「急に何? そんな風に開き直られると、興が
「いいや、そうじゃない。今もこうして俺を泳がせているのは……何か
「!……」
俺が言葉を被せたせいか、はたまた、俺の指摘が“図星”だったからか…
一瞬だけ驚いた表情を見せたジキルは、本心を悟られまいと俺から視線を外した。
「別に…これと言った理由はないけど。せっかくハイドと体が分かれたんだし、会話の一つくらい交わしておこうと思ってね」
「嘘だ」
素早く吐き出された俺の言葉で、ジキルの纏う空気がピリついた。
ずっと引っかかってたんだ…
何故、自分は
ジキルが俺を取り込みたい理由は、『エレンを操りたいから』だ。
そもそもとして、エレン自身を取り込んでしまえば操る手間さえ必要ないのだが……ジキルはそれをしない。
おそらくは、それが彼女の“スタイル”なのだろう。前世でも常に人を使い、極力自分は首を突っ込ず巻き添えを喰らわないよう細心の注意を払っていたようだった。
だからジキルは俺を吸収したい。
しかし、ジキルは巨人の力を手に入れた時点で、俺を見つけ次第すぐさま取り込むこともできた筈だ。
だが、それをしなかった__何故?
これまでジキルが俺に対してそれほど高圧的ではなかったこと。妙に事細かく経緯を説明してくれたこと。そして、何より……前世の記憶まで見せて、俺に野望を打ち明けたこと。
思い返せば、それらすべてが臭い。まるで、様子を伺って俺から何か
俺の人格を知っていたのであれば、ジキルの思想に反感を抱くことくらい想像できただろう。
それに加え、必要以上に皆を操って弄んでいる。俺がここで抵抗することはあいつにとっても都合が悪いんじゃないか?
その面倒を承知の上で、ジキルは俺に前世の記憶を見せた。俺の抵抗からあいつが“得たいもの”があるとすれば、それは…
―“『誤算だった…』”―
―“『洗脳を解かれてしまうなんて…』”―
確証はないし、ここを突いてしまえばもう後戻りすらできないだろう。
それでも、覚悟を決めるしかない!
「ジキル、君は……『洗脳の解き方』を
勝負に出た__が、先ほどと違ってジキルの瞳は揺れ動くことなく、中心で静寂を保っていた。
焦る俺の心中を見透かすように、ジキルは堂々と構えている。
「どうしてそう思うの?」
「君は人を誘導するのが上手いらしい。トロスト区での件もある……だからこの会話も、何か目的があるのかもしれないって思ったんだ」
「ふーん……それで?」
「だけど、誤算を嫌うほど完璧を求めた君が、分かり合えるはずもない俺とこうして下らない会話を交わし、わざわざ前世の記憶を見に行くなんて妙じゃないか?」
「そうかもね……それで?」
『それで』『それで』って、圧迫面接かよ。
そうツッコミを入れたいところだったが、今の俺にそんな余裕はない。
イヤ、前世の俺だったら確実にイラついて思考がまとまらなくなっていただろうに……不思議だ。自然と言葉が湧いてくる。
心なしか、目頭が熱い。昨晩は移動の馬車の中で寝心地が悪かったせいか、夢を見ることはなかった。
でもきっと、ハンジは今の俺を見てくれている__そう思うだけで、百人力だ…!
「君はこう言ってた。『俺に
「回りくどいな……それで、結論は?」
「君は『洗脳の解き方』を知らない。だから、それが使える俺から
「……」
ジキルは黙った。
彼女は俺が話している間もずっと表情一つ変えなかった。いまいち何を考えているかわからん…
だが、これまでとは明らかに空気が違う。苛立ちや焦りといったオーラが混じっているように見えなくもない。
そんなことを考えていると、左手を腰に当てたジキルが小さく唸った。
「ん~……半分正解で、半分不正解ってところかな」
「はんぶん…?」
「あなたの言う通り、確かに私は『洗脳の解き方』を知らない。でも前世の記憶を見せたのは実際に見て確かめるためじゃなく、あなたにその方法を思い出してもらうためのつもりだった。ハイドが催眠術の使い方を知らないことはわかってた。なら、あの時洗脳を解いたのは偶然……
「はは、確かにそうだ。あれは偶然だった」
「正直驚いた。私はあなたを侮っていたみたい……でも、いいの?」
「いいって……何がだ」
「私にそれを話してしまって」
「……」
俺は黙った。
何なら、敢えて「しまった…」と言わんばかりの表情をして見せた。
此方に何か思惑があるかもしれない__ジキルにそう悟らせないために。
「あなたにバレないようこっそり聞き出すつもりだったんだけどな~……これから世界征服しようってんだから、催眠術で洗脳をかけるも解くも、自由に使えるようにしておいたら便利じゃん?」
「そうか…」
「でも、あなたは今、私がその情報を欲しがってると知ってしまった。ならこれ以上聞いても、どうせハイドは『洗脳の解き方』を素直に教えてはくれないでしょ?」
「まぁ……だろうな」
「じゃあ、今あなたとこうして話す必要もなくなったね。洗脳のかけ方を工夫すれば、解く必要だってない。これまでそれでやって来れてるんだから……早い所あなたを喰って力を取り戻すことにするよ」
「!?」
驚いた……振りをした。そう来るのは見えていたからな。
だから会話を交わしながらも、この場を凌ぐ策を探し続けた。
一か八か__失敗するかもしれない。怖い。今にも挫けそうだ。
パチン!
ジキルの指が弾かれた。
両脇にいた兵士たちが力づくで俺の体を地面に伏せさせようと絡みついてくる。
「ぐっ…」
俺は何とか膝を立て、必死に抵抗する。
すると、目の前にナイフを突き立てられ、抗う術を失った。
「いい加減諦めたら~?」
ジキルの呑気な声が、俺の脳天に降りかかる。
諦めることは誰にだってできる、そう、簡単なことだ。
だけど、希望を捨てさえしなければ可能性だって消えることはない。そうして抱き続けた“
諦められない、諦めたくない。
ポンッ
「洗脳、解除」
フッ…
「あれ……俺は、ここで何を…?」
両脇の兵士たちが正気に戻り、俺は拘束から解放された。
正直、始祖の叫びによる洗脳を解除できるかどうかは“賭け”だった。
でも、これでハッキリした__洗脳解除の方法と、ジキルによる洗脳は俺の催眠術で打ち消せるということが。
「思った通り!
捕食すべき対象が自由の身になったというのに、ジキルは動じるどころか、興奮気味に尋ねてきた。
俺はその場に立ち上がり、ゆっくりと口を開く。
「さぁな、想像に任せるよ……でも、いいのか?」
「いいって、何が?」
「俺をまたすぐに拘束しなくて」
「触れられたら意味ないもの。だけど、方法はいくらでもある。私が巨人化して触れられるより早くあなたを蹴散らすことだってできるしね」
「そうか。だから君は……
「え…」
バッ!
俺はジキルに考える暇を与えぬよう、勢いよく腕を振り上げた。
そして、左斜め前を指差して、一言__
「すでに、ジャンたちの洗脳を解いたぞ」
「!?……まさか!触れずに解くこともっ…」
ここに来て初めて絵に描いたような動揺を見せたジキルは、慌てて右斜め前に視線を移した。
しかし、すぐに首を傾げる。ジャンが虚ろな目をしたまま、マルコを拘束し続けていたからだ。
ジキルはキョロキョロと辺りを見渡した。
「…あれ? 誰も、洗脳を解かれてない…?」
そりゃそうだ__ただの
俺が欲しかったのは、この一瞬の“隙”!
ダッ!
俺は脇目も振らず走り出した。
たぶん、原作でロッドレイスが巨人化した際、地下空間の崩壊からみんなを守るために『ヨロイ』の瓶咥えて走り出したあの時のエレン*3に似ていたと思う。
それくらいがむしゃらだった。みんなを助けるため、俺はとにかく足を回した。
向かった先は、アニが拘束されていた荷台__俺は先ほど洗脳解除した兵士から奪ったナイフでアニの体を縛る縄を断ち切ると、後方を指差しながら命令を下す。
「アニ!巨人化しろ!!」
アニはすぐさま走り出し、そして、屋上から飛び降りながら光を放った。
ピカッ……ドォォオオォオォォン!!
「くっ…」
強烈な光と音の衝撃で、再び“隙”が生まれる。
ジキルが眩んだ目を腕で覆い隠しているうちに俺は足を動かし、リヴァイとミカサ、そしてライナーとベルトルトを拘束していた兵士たちの洗脳を解く。
そして、一人一人の名前を読み上げたのち…
「みんな!女型の背中に乗れ!!」
端的に命令を下した。
意識が戻り混乱するエルヴィンやアルミンをその場に残すことに罪悪感を覚えながらも、俺は必死に駆け出した。
そして、全員が女型に飛び乗ったのを確認すると…
「アニ、全速力で走れ!!」
アニに2つ目の命令を下した。
ドッ!!
巨人の蹴り出しは、人間のそれとは重みが全く違う。
少し申し訳ないなと思いながらも、振動や衝撃に耐えるため、俺たちは女型の髪の毛をしっかりと掴んでいた。
「逃がすな!追え!!」
背後からジキルの叫び声が聞こえた。
振り向くと、操り人形と化した兵士たちが次々と立体機動に移って建物を下り、馬に跨って追いかけてくるのが見えた。
すると、隣にいたリヴァイが声を上げる。
「オイ、ハンジ!早い所手を打たねぇと、追いつかれるぞ!!」
「!?……まだ、『ハンジ』って呼んでくれるんだね」
「ややこしいからな。説明は後で聞く……それで? 考えもなしに飛び出したわけじゃねぇんだろ」
「あぁ、もちろん…!」
女型の脚力は最高速度でみれば兵団の馬に追いつかれることはない。問題は、持久戦に持ち込まれれば圧倒的に不利だということ。
そうこうしていると、シガンシナ区の内門が近づいてきた。
5年前、鎧の巨人によって穿たれた内門は、女型の巨人でも走ったまま通り抜けられるほどの大きさだ。
原作では、エレン巨人の硬質化によってこの穴は塞がれている。
そして、エレンがその力を得たのは、『
「ライナー。あの門を抜けたら、君が巨人化して穴を塞ぐんだ…!」
「!?……塞ぐったって、どうすれば…」
「硬質化の能力を応用させて、穴を塞ぐような構造物を造り出してみてくれ!大丈夫。エレンもできたんだ、君にもできる!」
「…エレンが?」
「それに、あの穴を開けたのは君だ。
「……」
ライナーは返す言葉に迷ったのか、俺から視線を外し、外門の方へ顔を反らした。
俺はなにも、罪を償えと言いたいわけじゃない。ただ、壁内に災厄をもたらした当人であるライナー自らの手によってあの穴を塞ぐことに、何か意味があるような気がしただけだ。
それはほんの些細なことかもしれないし、これまでの行いが帳消しにできるわけでもない。
でも、少なくとも今の俺にとってそれは、新たな“希望”の糧となる__
「やります。俺に、やらせてください…!」
何とも逞しい声だった。
原作では精神が分裂し自己認識がちぐはぐだったライナーが、まっすぐ俺の眼を見て己の意志を伝えてくれている。
戦士でも、兵士でも、ましてや悪魔などでもない。
一人の人間としてのライナーがそこにいる__ただ純粋に、そう思えたんだ。
**
ピカッ……バキバキ!ビシビシビシィ!!
「ライナー!掴まれ!!」
ガシッ
女型が内門をくぐり抜けたのち、その場に残ったライナーは巨人化し、硬質化で見事に穴を塞いでみせた。
凝固した巨人のうなじからなんとか這い出てきたライナーを救出すべく、俺は女型の掌に乗って迎えにいった。
硬質化という技を繰り出すのが初めてだったためか、体への負担が大きかったためか、ライナーは肩で息を吸っている。
「はぁ…はぁ……ありがとう…ございます」
「ほらね、できるって言っただろ?」
そう言って俺はライナーの肩にポンっと手を置き、その接触面からテレパシーを送るような感覚で「ありがとう」と伝えた。
俺たちが女型の肩に戻ると、赤いマフラーに顔を
「エレンは……エレンは、どうなるのですか?」
と、消極的な声を漏らした。
「すまないが、今は耐えてくれ。君の大事な人は必ず助け出す。ジキ……ヒストリアにとってもエレンは重要なんだ。悪いようにはしないさ」
「コクッ……」
力なく頷くミカサ__そこへ、リヴァイが水を差してきた。
「そいつが助かるかどうかの前に、まずは……ここから
リヴァイが指差した方に目をやると、少し先で無垢の巨人の群れが行く手を阻むように周辺を取り囲んでいるのが見えた。
そう言えば、シガンシナ区へ来るまでの道中は無垢の巨人たちに見送られていたんだった。
その半分は内門の先で待機していて、今こうして意図した陣形を取っているということは、ジキルがまたエレンを脅して操作させているに違いない。
「俺たちは立体機動も身につけていない丸腰だ。戦力となるのは信用できるともしれねぇ敵の巨人3体だけ……無数の巨人に通せんぼされたこの状況を切り抜けるには、どう頑張っても手数が足りん」
「そ、そうだね…」
「僕にやらせてください」
「!?」
話に割り込んできたのは、ベルトルトだった。
確かに超大型巨人の爆発があれば、無垢の巨人を一気に吹き飛ばすことはできる。
でも、無垢の巨人も元は人間__同じ“エルディア人”だ。ないがしろにしていい命ではない。
出来ることなら、彼らでさえ救いたい。そう思っていたんだが…
そうやって俺が決断できずにいると、俺の代わりにリヴァイがベルトルトの覚悟を確かめる。
「あの巨人どもをどう掻い潜るつもりだ?」
「超大型巨人の特性で、巨人化の際に大規模な爆発を引き起こせます。巨人たちを引き付けてある程度ひとまとまりに集められたら、一気に吹き飛ばすことが可能です」
リヴァイは「あの時のやつか…」と何かを思い浮かべた表情で眉を顰めるも、すぐさま気持ちを切り替えるように息を吐いた。
「…なるほど。四の五の言ってる暇はねぇ……その作戦で行くぞ!!」
「は、はいっ……アニ、頼んだよ」
ベルトルトの指示により、女型は再び駆け出した。
斜め左方向。囲いの巨人の層が少しだけ薄かったからだろう、そこを目指して一直線に向かって行く。
何度か掴まりそうになった。その度に女型の体技が炸裂し、無垢の巨人は宙を舞う。それでも引き剥がせない奴は、再び巨人化したライナーが応戦した。
かなりの数を引き付けた__今しかない!
ベルトルトが鎧の肩に飛び移ると、俺たちを乗せた女型は一気に加速した。
そして、十分に距離が取れたのを確認すると…
ピカッ……ドドドオオォオォォン!!
この世界に来て2度目のキノコ雲。
一瞬、爆風に交じって悲痛な叫び声が聞こえたような気がした。
あれだけの大群がたったの一撃で、全滅__
だけど…
「『何も捨てることができない人には、何も変えることはできない』……か」
「…あ?」
「イヤ、なんでもない」
俺はリヴァイの視線から逃れるように、女型の肩の上で仁王立ちした。
すると、遠くから巨人化の跡が真新しいベルトルトが、ボロボロになったライナーと肩を組みながら此方へ向かって歩いて来ているのが見えた。
とりあえず追手は振り切った。けど、皆くたくたでへとへとだ。
どこへ逃げるかはまだ決めていなかったが、これは一度休息が必要らしいな…
「アニ、まだ走れるか?
そう問いかけると、アニは「どこへ?」というような表情を返してきた。
俺は風に流されていくキノコ雲を眺めながら答える。
「巨大樹の森へ」
………
…
***
___1時間後。
___【ウォール・マリア南西:巨大樹の森】にて。
この森は、ライナーとベルトルトがエレンとユミルを連れ去って来た場所だ。*4
特段何か理由があるわけでもないが、木々で姿を隠せるし、まだ他にも無垢の巨人がいないとも限らない。高い場所に居れば安全だろう。
それが、まさかこんな場所で…
“彼ら”と遭遇することになるなんて__
「お~い!ライナー、ベルトルトー、アニちゃーん……そこで何してんの~?」
木の上で休憩していた俺たちの元へ、突然、地上から腑抜けた声が放り投げられた。
聞き馴染みのある声だった。
そもそも、ウォール・マリア内に人がいるはずがない。可能性として考えられるのは…
太い枝の淵から恐る恐る下を覗くと、ヘンテコな眼鏡をかけた
その男は四足歩行の小柄で
驚きのあまり声を出せなかった俺の代わりに、ライナーが一言__
「…ジーク…さん?」
―【 続く 】―
〜後書き〜
シガンシナ区から逃げ出し、舞台は巨大樹の森へ!
原作の様々な登場人物から影響を受け、ハイドも少しずつ強くなってきました。
ジキルがどのような方法で民族浄化を企てているのかについては、次で詳細が明かされます。
■次回予告:『#14 策士は嗤う』
■おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第45話『追う者』