~前書き~
初手かなり暴走気味ですが、後半に伏線描写があります。
↓それでは、本編へどうぞ↓
___【調査兵団トロスト区支部:兵員宿舎】にて。
「ふぅ……とりあえず、ハンジの部屋へ戻ってきたはいいが…」
ここへ来る途中で又聞きした話によると、『第56回壁外調査』が実行されるのは明日。
そう、明日なのだ。
_トロスト区襲撃事件で変えられることがあるとすれば、何か?
_地鳴らし発動の結末を防ぐには、今どう動くべきか?
そんなことを頭の中で自問しながら、俺は窓の外へ目を向ける。
「クソッ……もう日が落ちた!」
つまり、時間はそれほど残されていないのだ。
だから、こんなところでグズグズしていられない…
一刻も早く、行動しないとっ…
…
どうしても、俺の思考を邪魔する“欲求”が一つ__
もの凄く、トイレ行きたいんですけどぉぉぉ…!!
ちょっ…、えぇえぇぇ!?
こういうのって大体、時代背景とかストーリー展開の都合とかで描かれないものじゃないのか!?
転生なんて初めての経験だが、生理現象まで如実に現れるとは……そこは
こんなこと思いたくもないが、今だけは排泄器官のない巨人たちが羨ましいよ、まったく…!
つーか、ほんとコレどうすればいいんだ? 突然のもよおしに登場人物がトイレへ駆け込んでいくシーンなんて、某万事屋作品くらいでしか見たことないぞ!?
『三人寄れば文殊の知恵』だの『四人揃えばいろんな知恵』だなんて言うがな……今の俺は、ただの
大体、この時代のトイレってどんな形式なんだ!?……クソッ、こんなことに思考を奪われている場合ではないというのに!
だがしかしっ…
「うっ……漏れそう」
もう限界が近い__足も震え出した。
思っていた以上に時は一刻を争う。もはや使い方は実際に現物を見て、その場で理解するしかない!
…
“理性”ってやつが、俺の足を掴んで離さない。
前世で俺は男だった__そして、今も
だが、転生先はハンジ。触れるまでもなく感覚で分かる…
これは、女体だ!!
【進撃の巨人】に対して俺は箱推しだった。当然ハンジも大好きなキャラクターの一人。
特定のキャラへ恋愛感情を抱くような夢思考はなかった__それ故の、“背徳感”と“罪悪感”…!
「健全なファンとして、こんなことしていいのか?……でも、ダメだ!もう…
あぁ…これでは、異才な陽気さを放ちつつも成熟した強い大人の女性を想起させる
自己嫌悪に陥りながら鏡に目を向けると…
「!?」
そこには、肩をさするように腕を交差させ、無様にも足を内股気味に震えさせるハンジの姿があった。
違う__俺は間違っていた。大好きなキャラクターにこんな
そうだ。これには決して、神々に誓ってやましい欲望などは存在しない。あるのは『生理的欲求』のみ……すなわち、“生存本能”がそうさせているのだ。
男には、背を向けられない瞬間がある…
「それがっ……今、この時だぁぁぁ!!」
バターン!……タッ…タッ…タッ…タッ…
………
…
*・*・*・*・*
シバラク、オマチクダサイ。
*・*・*・*・*
___数分後。
勢いよく部屋に戻ってきた俺は、ベッドに腰を下ろし、膝に両肘をつくように前屈して床の木目を見つめる。
「ふぅ……なんか、
気を取り直して、“本題”に戻ろう。
原作のトロスト区襲撃事件では、多くの犠牲者が出ている。もし事前に防げるものなら防ぎたいものだが…
イヤ、しかし__今からライナーとベルトルトの元へ出向いて説得しようにも、彼らを納得させパラディ島に向けられた非難の目を退けさせるほどの
それに、少しでも敵対心があると見られ、その場で巨人化されたら俺は詰む。
「うーん……どうしたもんか…」
事前に防げない理由はもう一つ__やはり、“エレン”の存在だ。
『始祖の巨人』の力は強大でリスクも伴うが、上手く利用すれば良い方向に結末を持っていくことだってできるはずだ。
とは言っても、肝心な
現状わかっていることは、エレンが巨人化の能力に目覚めるきっかけが『トロスト区襲撃事件』だということ。
つまり、襲撃事件は発生しなきゃならん。
そして、原作通りで考えると、奪われかけたトロスト区を取り返すのにエレン巨人の存在は必要不可欠……イヤ、それだけじゃない。ライナーたちが
内門破壊の歯止めとなったのは、ライナーたちが『エレン巨人』の
以上をまとめると…
1.エレン巨人化必須条件:トロスト区襲撃事件の発生
2.内門死守必須条件:巨人化したエレンをライナーたちに目撃させる
…こんなところか。
トロスト区襲撃事件は防げない__だが、減らせる被害は減らしておきたい!
原作で死亡してしまうキャラが生存すれば、結末を変える糸口が何か見出せるかもしれないしな。
被害を減らすために俺の頭脳で考え得る“最善策”……まぁどうにも他力本願ではあるが、やはり『調査兵団』を
ただ、ライナーたちが襲撃日を明日に決めたのは、トロスト区滞在中に調査兵団が
とは言え、彼らも切羽詰まっているはず__壁内へ侵入して5年、未だ何ら成果を挙げられていないんだ。それに、訓練兵団を卒業して憲兵団へ入団してしまっては、トロスト区へ気軽に赴くこともできないだろうし。
一か八か、賭けてみるのはありか?……でも、どうやって調査兵団を留まらせればいい!?
…ったく、つくづく嫌になるよ。俺ってやつは!『頭脳明晰』って言葉が遠すぎてただの点にしか見えん。というか、もはや何も見えていない。
こういう時、ハンジなら………って、ハンジ俺じゃん。
「はぁ……せめて、ハンジと
そうつぶやきながら背中からベッドに倒れ込んだ俺は、片手でポリポリと頭を掻く__そうすれば、思考が少しは纏まるかと思ったんだ。
掻いて、手を下ろして、また掻く。
…なんだ? 手が止まらない。片手では満足できなくなり、しまいには両手を使い出す。
次第に「ポリポリ」という可愛らしい音だったのが、「ボリボリ」という主にオッサンなどから発せられる重低音へと変わっていく。
掻いて、掻いて、搔きむしる……
「…いや、痒すぎるだろ!!」
ガバッ…
俺は己の頭皮へ盛大なツッコミをかましながら、跳ね起きた。
ぷるぷると震える指先に「痒みよ収まれ」と念じてみるも、そんな浅はかなまじないが効くはずもなく、烈火の如く痒みは増していく。
イヤ、頭皮だけじゃない__よくよく神経を研ぎ澄ましてみると、体の至る所が何だかベタついていて、総じて痒い。
察しがついた俺は、鼻の先を恐る恐る右の脇に近づけてみた。
「こ……れはっ…!?」
鼻腔を這い上がる酸味の効いた“ニオイ”に、思わず顔をしかめてしまう。
…ハンジ、あんた何日
そのニオイは爽やかな柑橘系のフルーツというには程遠く、どちらかと言えば、何度洗っても泥シミが落ちない野球少年のユニフォームに近い。(ドイツ風に例えるなら、サワー種を使用したライ麦パンの生地から香る発酵臭ってところだな)
ついさっきまでは転生後の興奮でアドレナリンでも出てたのか、全身の痒みや体臭には気づかなかった。
用を足してベッドに落ち着いた瞬間、その効果が切れたのだろう…
確かに原作では、先生への一問一答で『風呂は毎日入らず、体臭を良しとする文化』とあるが、現代日本で“風呂”の素晴らしさを味わってしまった今の俺にとってそれはまったくもって“良し”ではない。
ダメだ!また思考が邪魔される!かくなる上は、風呂にも入っ……いやしかし、場所も使い方も知らんが、どうする!?
「…ええぃ!こうなればヤケだ!!」
**
今、俺の目の前にあるのは2つ__バケツいっぱいの水と、それから台所にあった細長い布切れだ。
ジャバッ………ギュゥゥゥ…
バケツの中の水に布を浸し、握りしめた両の手首をそれぞれ反対に捻る。
ビタビタと滴り落ちる水の音が俺のごちゃついた頭を少しだけ
「とにかく今はこれで体や頭を拭いて、耐えるしかない…」
先ほどと同様に、後ろめたい感情が今にも足元から這い上がってこようとしている。
俺はそれを薙ぎ払うようにかぶりを振った。
「断じて不純な動機など存在しない……
そう。【進撃の巨人】の物語は、
俺はこの世界を救いたい。それが、俺に課せられた“使命”でもある!
だとすれば、成さねば成らぬ……何事も!!
…プチ……プチ…
シャツのボタンを外し、先ほど絞った布を肌に当てると__
「ひゃいっ…」
変な声が出た。
ちょこっと冷たいが、やっぱり拭いて正解だったな。痒みが引いていくのがわかる。
よし、拭きながら考えよう。どうやって調査兵団を留めておくかだが__
ジャラ…
その時、開けた胸元から
「ん……何だこれ?」
俺は疑問符を顔に浮かべながら、持ち上げたペンダントを窓から差し込む月明りへかざしてみる。
キラッ…
「…あれ? このペンダント、どこかで
ズキッ!
「痛っ…」
突然__強烈な頭痛に見舞われた俺は、意識を失った。
そして、そのままベッドにぼふっと倒れ込んでしまったのだった。
=====
[ライナー視点]
___【トロスト区:訓練兵団宿舎】にて。
就寝前。
俺はベルトルトと共に、
「ライナー。この“手紙”……どう思う?」
「まぁ要するに……この壁の中に、俺たちの
「やっぱり、そういうこと…だよな。差出人は……ダメだ、書いてない!まずいことになったぞ…」
「落ち着け、ベルトルト。まだその差出人が敵だと決まったわけじゃない」
「でも、味方の可能性も低いんじゃっ…」
「だが、今それをはっきりさせている
「罠、じゃないのか…?」
「…かもな。どちらにせよ、こちらの弱みを握られている以上、明日はその手紙に従うしかない。最後に書かれている『
「あ、あぁ……わかったよ」
「…ベルトルト。もう一度その手紙をよく見せてくれ」
そう言って俺が手を差し出すと、下がり眉のベルトルトが手紙を寄こしながら問いかけてきた。
「何かわかったのか?」
「んん……かなり
「まさか、筆跡から相手の人相を読むなんてこと…」
「イヤ、そういうわけでは………ん?」
「ど、どうかしたか?」
この時。
何故か俺は、便箋の下部に描かれていたものに目が釘付けになったんだ。
「…なんだ?
………
…
=====
***
___翌朝。
ガバッ…
「…イカン、寝落ちした!!」
しまった、まずいぞ……まだ何も策を講じられていない!
というか、俺はいつの間に寝てしまったんだ!? 確か、体を拭いている途中で…
「…ん?」
咄嗟に胸元を確認した俺は、妙な光景に首を傾げる__なんと、シャツの前がちゃんと
さらにそこには、昨晩のペンダントがぶら下がっている。
「あ、これ…」
そういえば、こいつの存在に気づいたときに俺は…
ドンドンドン!
その時、部屋の扉が勢いよく叩かれた。
扉を開けて入ってきたのは、俺(ハンジ)の副官モブリットだ。
「分隊長!大変です!……って、まだ寝てたんですか!?」
「わ、悪かったな!たぶん時差ボケ(?)ってやつだ!」
「はい?……一体、何の話ですか分隊長!!」
「イヤ、
「そ、それがっ…」
そうしてモブリットは、一度だけ唾を飲み込んでから俺に告げたのだった。
「遠征用の馬が
―【 続く 】―
〜後書き〜
2話目にしてメタ発言が多く、大変失礼いたしました。
ドハンジが駆け込んだのは、一体どんなトイレだったのでしょうか…
皆様のご想像にお任せします(´-ω-`)
■次回予告:『#03 侵略の鳴動が聞こえる』
■おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第14話『原初的欲求』