~前話のおさらい~
・調査兵団をトロスト区へ留まらせる策を考案中にドハンジ気絶
・ライナー&ベルトルトの元へ「襲撃を必ず遂行せよ」という趣旨の不審な手紙が届く
・翌朝、モブリットが「調査兵団の馬が脱走した」と報告に来る
↓それでは、本編へどうぞ↓
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[アルミン視点]
___遡ること、1時間前。
___【トロスト区:訓練兵団宿舎】にて。
僕たち104期生は城壁都市での整備訓練に向け、前日の夜からトロスト区の宿舎へ移動していた。
そして、訓練実施当日の朝。食堂でエレンたちと朝食を摂っている時のこと__
「なぁ…アルミン。手紙ってのは普通、送るヤツが名前を書くもんだよな?」
「そうだね。僕のおじいちゃんが手紙を出す時、封筒の縁に名前と住所を書いているのを見たことがあるよ」
「だよな。俺も親父に届いた手紙で見た……なら、これは手紙とは違うのか…?」
「エレン、それは何を持ってるの?」
「朝起きたらこれが枕元に置いてあったんだ。中身はまだ見てない……気味が悪いからな」
「ちょっと貸してみて!……うーん、ほんとだね。封筒にはどこにも差出人の名前が書かれていないみたいだ」
そう言ってエレンから受け取った封筒をヒラヒラさせていると、そこにジャンとマルコもやってきた。
「おいおい、そりゃ
「ジャン、そんな風にからかうのは良くないよ………エレン、本当に差出人が不明なら一度教官へ預けた方が…」
「なら、私が預けておこう」
「ミカサ!……って、あれ!? それはさっきまで僕が握ってた手紙じゃないか!……い、いつの間に…」
しまった__ミカサには気づかれないようにと思っていた矢先に…
「勝手に取るなよ、ミカサ!……ほら、返せ…」
「…返さない。エレン、あなたはそれより優先すべきことがある……今日はこの後、調査兵団の出発を見送ると言っていた」
「そうだった!グズグズしてる場合じゃねぇ!……おいっ、アルミン!さっさと食っちまうぞ!!」
「あ、あぁ…!」
よかった__エレンは特に気にしてなさそうだ…
…あ。でも、ジャンはそうじゃないみたい。
「クソッ!どうしてこうもお前ばっか…!」
「何すんだよ、離せ!服が破けちゃうだろーが!」
「いっつも服が服がって、お前……そんなんどーでもいーだろーが!羨ましい!!」
「お前こそ、二言目にはいつもソレだな!そんなに
「はぁ!? 違ぇわ!このっ…バカ!!」
「何だとぉ!?」
あぁ、また『いつもの』が始まった。
きっと、皆して呆れてるんだろうけど、真面目なマルコはいつもミカサに確認するんだ。
「ミカサ、止めなくていいの?」
「いい。……それより、マルコ。火起こし持ってない?」
「それならあそこの台所にあると思うけど……何に使うの?」
「……燃やす」
「…は…はは……ミカサの冗談はいつも冴えてるなぁ…!」
「……」
ミカサが冗談を言うような茶目っ気のある女の子じゃないことは、誰もが知ってる。
だから僕は、それを敢えて無視してエレンたちの仲裁に入るんだ。
「やめなよ、二人とも!早く朝食を済ませて兵服に着替えないとっ…」
その時、小さく舌を弾く音が聞こえてきた。
「チッ……(
鋭い視線を感じた僕は、身の毛を逆立てながらバッと振り返る。
だけど、その音を奏でた人物の顔を拝むことは叶わなかったんだ。
=====
***
___現在に戻る。
___【調査兵団トロスト区支部:兵員宿舎】にて。
おいおい、どうなってんだ!……馬が逃げた? それも、全部だと!?
とりあえず、モブリットに上の状況を伺ってみるか…
「それで、エルヴィンたちは!?」
「すでに講堂へ集まっています。とにかく、分隊長もお早く!」
「わかった……1分で向かうと伝えろ!!」
「了解!」
モブリットが走り去って行くのと同時に、俺はベッドからクラウチングスタートを決めてクローゼットに飛び込んだ。
兵服への着替えは慣れている__
華麗な早着替えを済まし、念のため着こなしに問題がないか鏡でチェックしていると…
「ん?こんなの昨晩から置いてあったか…?」
ベッドの傍の棚に置かれている1枚のビラに目が止まった俺は、それを拾って読み上げてみる。
「『トロスト区近辺に牧場新設。馬や羊の飼育も始めました。御用の方は【シャルマン牧場】までご連絡されたし』……何だコレ?」
馬が逃げたという騒動の最中、牧場に関するビラが今ここにあるのが不思議で仕方なかった。
だが、考えてる暇はない__そうして俺は、妙に気を引かれた牧場のビラを握りしめたまま、部屋を飛び出したのだった。
**
講堂に着くと、
おぉ……うおぉっ…!!
エルヴィン団長……本物だ!リヴァイ兵士長もいるぞ!間近で見るとやっぱ目きっついなぁぁ、かっけぇぇぇ…!
「遅かったな、クソ眼鏡……何してやがった」
ひぃぃ…!『クソ眼鏡』いただきました、ご馳走様です!!
…って、イカンイカン。鼻息を荒くしている場合じゃないぞ!不審がられる前にハンジっぽく適当に返さねば…
「ご、ごめんよぉ~リヴァイ……ちょっと、アレがどぉ~にもアレでぇ…」
「…なるほど。クソがなかなか出てこなかったって顔にそう書いてあるな」
「そうそう、そんなところ…」
ニヤけるな、俺!喜ぶな、俺!!
己の意志に反して弛んでいく頬を必死に引っ張り上げていると…
「スンスン…」
「うぉあ!?」
な、なんだ? 後ろから突然……って、大体察しはつくわな。ミケだろ絶対!
振り返ると、やはりそこにはミケがいた。
「ちょっ…手洗い後の人のニオイを嗅ごうなんて趣味が悪いと思わないか、ミケ!もう少し
「ハンジ……お前…」
「えっ……な、何!?」
ミケは何故か怪訝そうな顔をしていたが、俺の顔をずいっと一瞬だけ覗き込んだのち、人差し指で鼻の下を擦りながら引き下がっていった。
「スンスン……いや、何でもない…」
「……そう」
び、びっくりした!よもや俺がハンジじゃないってことがバレたのかと…
とにかく気を引き締め直そう__馬が逃げたということは調査兵団は遠征に出られない。つまり、俺(ハンジ)も含め、ここにいる者たちにとってそれはまさしく“緊急事態”だ。
まずは状況確認から…
「エルヴィン、馬が逃げたってのは本当なのかい?」
「あぁ、それも一頭残らずだ。脱走に気づいたのは今朝方。そして、馬小屋の鍵は意図的に壊された痕跡があったそうだ」
「えっ……じゃあ、誰かが
俺が声をうわずらせていると、リヴァイが横から野次を飛ばしてくる。
「すべての馬がたった一夜で姿をくらましたんだぞ。人の仕業以外あり得ねぇ」
「それは、そう…なんだろうけど…」
とても信じ難いことだが、エルヴィンとリヴァイの2人がそう見込んでいるなら間違いないだろう。
馬は意図的に逃がされた__『誰が、何の目的で』ってところは気になるが、肝心なのはそこじゃない…
遠征に行けないのなら、調査兵団はこのまま
何か手を打たねばと焦っていたが、まさかこんな好機が舞い降りて来るとは!
だが、どういうわけだ? 原作とは流れが違う。転生者である俺はまだ物語に影響を与えるようなことを何もできていないが、もしかすると
そんな俺の思考を知る由もなく、エルヴィンはその整えられた前髪と同様にピシッと引き締まった表情で話を切り出した。
「何はともあれ、壁外調査は中止だ。馬がいなくては始まらない。我々は今からウォール・シーナの本部へ帰還し、兵団上層部へこの件を報告する。それから馬を調達し、再度遠征の機を伺おう」
おっと、そう来るか!? ダメですよ、エルヴィン団長。あなた方は
何としてでも引き留めねば__ちっぽけな脳みそをフル回転させながら体に力を入れると…
クシャッ…
紙が押し潰される音がして、己の拳に目をやった。
そいや、ビラを握りしめていたんだったな……ん、待てよ? これを使えばっ…
「待つんだ、エルヴィン!このまま本部へ戻ったら上にドヤされるのは目に見えてる」
「…何が言いたい?」
「兵団用の馬は高価なんだ。それをみすみす逃しましたなんて調査兵団の信頼が失墜しかねない……せめて、逃した馬の『調査結果』が必要じゃないか?」
「もちろん。数名はここへ残し、調査を並行して進めるつもりだが…」
「す、数名じゃダメだ!馬は数十頭が一気に逃がされている。そんな芸当ができるのは、馬の扱いに長けている者……それも、
「……」
少し無理があったか? エルヴィンが黙ってしまった。
だが、ここまで話したんだ。後はもう押し切る!
「実は、一つ“心当たり”があるんだ…」
そう言いながら俺は、持っていたビラをエルヴィンに向かって堂々と突き出した。
「…それは?」
「最近この近辺に新しく牧場ができたんだ。聞くと、そこの主人はかなりのやり手で、
すると、俺の話に耳をぴくっとさせたリヴァイがビラに近寄り、眉間にシワを寄せながらビラ越しに俺を睨みつけてきた。
「ほぅ…やけに詳しいな。つまり、てめぇはその牧場が怪しいって言いてぇのか?」
「そういうことだ、リヴァイ。ここに賭けてみる価値はある!……どうかな? エルヴィン」
「…わかった。上への報告はその結果次第で考えることにする。……ハンジ、牧場の調査を頼めるか?」
「あぁ、任せてくれ」
「私は一度ピクシス司令の元へ顔を出そう。どの道、壁外調査を本日行うことは叶わない。となれば、駐屯兵団に依頼していた外門の開閉も不要だ。その旨を司令にも伝えに行く……リヴァイ、ついてこい」
「…了解だ、エルヴィン」
こうして、俺たち調査兵団は二手に分かれることとなった。
***
___数分後。
副官のモブリットと班員たちを引き連れた俺は、馬が逃げたとされる馬小屋に来ていた。
「分隊長? この小屋にまだ何か用でもあるのですか?」
「あぁ、一応どんな風に鍵が壊されたのか状態を見ておこうと思ってね。事件解決の糸口ってのは、現場に残されているものなんだ」
「なるほど。些細な情報さえ見逃すなということですね」
「その通りだ」
…モブリットよ、君は素直だな。
他の班員たちも俺の適当な出まかせに異議を唱えることなく、普通について来てくれている。
やはり『分隊長』としてのハンジの立場ってのは重い__俺、人に指示を出すのはそんなに得意じゃないんだよ。
まぁでも、“威厳”ってのは大事だよな…
そんなことを考えた俺は、何となく右手をビシッと前に出してみる。
「というわけで……諸君!探せぇぇ!!」
「分隊長!? アバウトすぎます!!……も、もう少し指示を…」
「(あ…やっぱダメ?)そうだな……これより!我々はこの小屋に何らかの痕跡が残されていないか調査する!みんな手分けして探してくれ!…いいか? 小屋の隅々までだ!何か違和感があればすぐに私へ報告しろ!」
「「 了解! 」」
綺麗に口を揃えて返事をした班員たちが一斉に動き始める。
自分の指示一つでこんなにも大勢の人が動くんだな……そう考えると、少し胸が痛む。
『小屋に残された痕跡を探す』__なんてのは口実に決まってる。
これは
何とかそれっぽい嘘を織り交ぜて、エルヴィンたちを説得できたのはいいが…
襲撃事件の発生はまだ少し先__エレンたち104期の整備訓練中に訪れる。
概算だが、馬の脱走さえなければ、調査兵団はちょうど今頃壁外調査に出発していたはず……そして、エレンたちは調査兵団を見送ってから訓練に取り掛かっていた。
今からどれくらい後になるかも予測はつかないが、念のため数時間は見込んでおいた方がよさそうだな…
***
___数十分後。
「分隊長!小屋の確認、完了しました!」
思いの外早いな。
だがしかし、小走りで俺の元へと駆け寄ってくるモブリットの姿はまるで忠犬のようだ。撫でたくなる…
ほんの一瞬だけ脳裏にチラついた“邪心”を誤魔化すように、俺は咳ばらいをしながら応える。
「んん゛っ……何か成果はあったか? 何でもいい。少しでも気づいたことがあれば…」
「いえ、これと言って特には……鍵は豪快に壊されていましたが、犯行に使われた工具や逃走経路の足跡などは発見できませんでした」
「そうか……よし、次だ!」
「次?……って、分隊長!どこに行かれるのですか!?」
そう言ってモブリットは少し困惑したような表情で俺の後ろについてくる。
どこに行くのかって?__こっちが聞きたいよ、モブリット。俺はどこに向かえばいい?
調査で時間を稼ぐなら、次は…
「『聞き取り調査』だ!この辺で目撃者がいないか探す!」
「えっ、聞き取り?……それなら今朝、分隊長が寝ている間に行いましたよ。ここら周辺一帯に…」
「イヤ、足りない……もっとだ!」
「しかし!小屋の近辺で目撃者は見つかりませんでした。それに、団長に託されたのは牧場の調査です!そちらへは行かれないのですか!?」
確かにそうなんだが…
まぁこれ以上ここで粘ると、モブリットに怪しまれるかもしれんな。
仕方ない、この『シャルマン牧場』ってのを探すか…
「そうか、目撃者はいないのか……わかった。そろそろ牧場へ向かおう」
「…はい!」
とりあえず俺は牧場の場所を確認すべく、近くにいた住民に声をかけた。
兵舎から持ち出したビラを広げ、住民の目の前に掲げながら__
「調査兵団です。ここに書かれている『シャルマン牧場』をご存じですか? 場所を知りたいのですが…」
「場所……住所のことか?」
「はい、ご存じでしたら教えてください」
「それならここに書かれておるぞ」
「えっ…」
しまった、ドジ踏んだ__よく考えたらこのビラは「連絡されたし」とか言ってるんだ、住所くらい載せてるよな!
とは言え、右下の小さな枠組みの中に書かれているから気づかなかった…
だがきっと、この世界の住人にとっちゃこの形式は普通なのだろう。それは、俺を見つめるモブリットの奇怪な視線でわかった。
「分隊長? その住所ならトロスト区の内門の先ですよ!いつもここへ来る時に通る街じゃないですか、忘れちゃったんですか!?」
「あ……あぁ!そうだったな!!まったく、これだから
「俺たちそんなに年離れてませんけど……まぁとにかく、細かい番地は街へ着いてから聞きましょう」
「うん、そうだな。………おじいさん、ありがとうございました。失礼します」
聞き込みをした住民に軽く挨拶したのち、俺たちは内門へ向かって歩き出した。
**
しかし、さっきは危ないところだった。
何とか誤魔化せはしたが、やはり牧場はトロスト区内ではないのか…
いつ襲撃が来るかわからない以上、あまり内地へは行きたくないが、もう引き留める手立てはない。
適当に方針転換してみるか?
『やっぱり牧場に直接向かうのは犯人に逃げられる可能性があるから、一旦支部へ戻って作戦を練りなおそう!』
…イヤ、これじゃどう考えても不自然だ。
何かいい方法は…
「~~長?……分隊長!聞いてますか!?」
「はっ……な、何だ? モブリット」
「どうしたんですか? ぼーっとして…」
「あぁ、すまない。ちょっと考え事を…」
「団長の前ではあんなに意気込んでたじゃないですか。しっかりしてください……内門、着きましたよ」
「へっ…!?」
声を裏返しながらパッと顔を上げると、そこにはローゼの横顔が大きく掘られた立派な門がそびえ立っていた。
考え込んでいたらいつの間にか着いてしまったようだ…
えぇい、ここまで来たらもう強行突破だ!「突然の腹痛がぁぁ」とか言って、あそこにいる門兵に便所の場所を聞く。それで、モブリットたちには一旦ここで待ってもらう。
もう、それしかない__
ザッ…
そうして、俺が一歩踏み出した時だった。
「どこに行くのですか、分隊長!? “検問所”はこっちですよ!」
「え……検問所?」
「何とぼけてんですか!門をくぐるには、通行許可が必要でしょうが…!」
「あ…」
そうなのか、知らなかった__あれ。詰んだか? これ…
俺がそう思ったのは、目の前に立つモブリットの瞳がとうとう疑念の色に変わっていたからだ。
「今日の分隊長、
「お、おかしい?……どの辺が?」
「まぁ、おかしいのはいつもそうなんですけど…」
「上官に向かって失礼だな、君…」
「どこか上の空というか、言動が
「…そ、そう? 全然いつも通りなんだけどなぁ…」
「でも、まだ通行許可を取っていないのに、さっき門に向かって行きましたよね? それに、知ってるはずの住所を忘れるなんて普段の分隊長じゃあり得ませんよ!」
「……ゴクッ」
上手い言い訳が見つからなかった俺は、代わりに唾を呑む。
「もしかして、分隊長…」
やばい__バレたか!?
「…具合でも悪いんですか!?」
………
あ、なるほどそっちね。
…って、良い子ちゃんか!お人好しすぎんだろ!!
すまない、モブリット__これは壁内人類のためだ。俺は心を鬼にして、誠実な君をも
「それが、実はっ…」
ッドオォォオォーーーーンン!!
突然の轟音に、俺の言葉は掻き消された。
地響きを伴うほどの衝撃が走り、俺を含めた全員がその場に身構える。
否応なしに立った鳥肌と背中に噴き出た嫌な汗が、瞬時に“危険信号”を脳へ知らせる感覚がした。
「何だ!…地震か!?」
うろたえる班員たち__モブリットも焦燥を露わにした表情で俺に向かって叫んでくる。
「分隊長!!これは、まさかっ…!?」
あぁ。その
『トロスト区襲撃事件』の幕開けだ!!!
―【 続く 】―
〜後書き〜
エレンの元にも不審な手紙が届き、ミカサが嫉妬しちゃいました。
舌打ち、誰がしたんでしょうね…?
また、ドハンジの部屋に見覚えのないビラが置いてあった理由は少し先の話で判明します。
■次回予告:『#04 コタエル』
◼︎おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第9話『心臓の鼓動が聞こえる』
◎『シャルマン牧場』について
著者の別作品【進撃の巨人~もう一人の選択~】にて登場する牧場ですが、当作品は前述の別作品とは違う世界線の話となります。なので友情出演みたいなもんですね(´-ω-`)