~前話おさらい~
・エレンが超大型巨人との再開時、外門の外壁に何かの絵柄を見つける。
・部隊編成において、ミカサをエレンの傍から離すようキッツ隊長に仕向ける。
・立体機動での移動時、リヴァイに鎧の巨人の対処法を聞かれるも原作知識で乗り切る。
↓それでは、本編へどうぞ↓
[トロスト区襲撃事件]、勃発__原作における“第一幕”の開演というわけだ。
前衛部隊を任されることになった俺たち調査兵団は、駐屯兵団本部を出発し、破壊された外門を目指し立体機動で街中を滑空していた。
エルヴィンの指示通り、中央に兵士長リヴァイの部隊が、そして左右にそれぞれミケと俺(ハンジ)の部隊が配置についた。
司令塔のエルヴィンは全体の状況を把握するため、中央部隊の後方に控えている。
「分隊長!すでに巨人が侵入しています!!」
配置に着いた途端、モブリットが声を上げる。
破壊された外門へ目を向けると、穴を塞いでいた駐屯兵団の迎撃部隊が壊滅しており、巨人たちの侵入を許してしまっていた。
付近には至る所に血や肉片が飛び散っていて、遠目に見ても吐き気を催すほどおぞましい光景が広がっている。
壁のすぐ手前には侵入妨害のための堀があるが、そんなものは巨人にとって些細な足止めにしかならない。
不気味な足音が近づいてくる。
兵士たちの亡骸を踏みつけながら__
覚悟はしていたが、これはあまりにも……
アニメや漫画で視覚的に見るのと決定的に違うのは、“臭い”だ。
壁に開けられた穴から壁外の空気が流れ込み、生々しい鉄の臭いを含んだ風が俺の鼻をひん曲げて過ぎ去っていく。
ブルルッ…
身震い__ここへ来るまでの立体機動による疲労か、はたまた、
「後者……イヤ、両方だな」
「後者? 分隊長、それはどんな指示ですか!?」
「あ、その…」
…ただの独り言だと、本当は言いたかった。
ぼそっと小さくつぶやかれた俺の声にさえ瞬時に反応を示せるモブリットは、きっと部下として優秀な人材なのだろう。
『指示』__その短い単語が、今の俺の立場を嫌でも思い出させてくれる。
忘れたわけじゃない。ただ、それを下すと同時に背負わされる“責任”の重さに、耐える心の準備が整っていなかっただけだ。
もうリヴァイたちのいる中央では戦闘が始まっている……だが、こういう時にふさわしい戦略なんて、ただのオタクの俺に思いつくはずもない。
原作ではエルヴィンの言葉に『最善策で留まっているようでは、到底敵を上回ることはできない』とあるが、俺にはその“最善策”すら頭に浮かばないんだ。
自分の不甲斐なさを睨みつけるように、俺はもう一度中央へ目を向ける。
ベキベキッ…
その時、木材が押し潰された音が俺の視線を奪った。
見ると、昨日発見した掲示板が巨大な足の下敷きになっている。
「あ……あれは、
そうだ__俺はあの場で、この世界の結末を変えてみせると誓った。
俺が自ら背負った責任はあそこに見えるバカでかい岩*1よりも重いんだ。こんなところで、ひるんでいる場合じゃない!
最善策が思いつかないのなら、今俺にできる
そう思えた時、体から震えが消えていた。
「3人一組になって、横へ展開!!配置はなるべく中央に厚みを持たせろ!」
「「 はっ! 」」
「1人は討伐に集中!幸いここは遮蔽物が多い。身を潜めるのに打ってつけだ!……他の2人は補佐に徹しろ!巨人の注意を限界まで引きつけるんだ!」
「「 了解! 」」
俺の指示に口を揃えて返事をした隊員たちが、次々に陣を広げていく。
一人一人の背中が遠ざかるほどに、己の心臓の鼓動が早まるのを感じた。
ここからはそれぞれの戦いが始まる。調査兵団の仲間からも死人が出るかもしれない。
だけどそれも、俺が選んだ選択__
だから悔いの残らぬよう、進み続けるんだ。調査兵団の一員として…!
「モブリット!それと、ケイジもついてこい!」
「!?…分隊長、どちらへ?」
「私たちは
「前線に!?……ダメです!指揮系統を失えば隊は連携を崩します!いつもは後方の高い位置で戦況を見渡すのに、何故…!」
「モブリット、これは壁外調査じゃないんだ。遠征のための戦闘と、侵攻を食い止めるための戦闘ではわけが違ってくる。いつも通りとはいかないさ」
「し、しかし…」
そう。
何故なら、エレンたち34班の元へは少なくとも、3体の巨人が向かわねばならないからだ。
_トーマスに飛びついた奇行種。
_エレンの左足を喰った巨人。
_そして、アルミンを飲み込もうとした髭の巨人。
エレンの巨人化を促すため、そいつらにはここを通過していってもらわないといけない。
だからなるべく、侵入してくる巨人の様子が見える位置にいたい……という、俺の勝手な都合だ。
「それと、なるべく巨人を逃さないよう班を少人数で組ませ母数を増やしたが、本当にその戦術でいけるのかも確かめたい」
「…そういうことでしたら、わかりました。行きましょう!」
「あぁ!……先頭の1体はもう目の前だ、私たちで討ち取るぞ!」
「「 はっ! 」」
モブリットとケイジの2人は歯切れよく返事をすると、ガスを思い切り蒸かし、俺の前に出た。
特に口裏を合わせたわけでもないが、立場的に俺が討伐の役回りらしい。
…まじか。
いやまぁ、こうなることは読めていた。読めていたんだが…!
いざ「はいよろしく」って有無も言わさず任されると、ちょっとだけひよるというか委縮しちゃうというか…
「分隊長!今です!!」
その声に、俺はハッと顔を上げる。
屋根の上で構えていた俺の目の前に、巨人の後頭部が向けられていた。
髪はふさふさで、嫌に人間らしい肉付きの巨人__この巨人たちも元は俺たちと同じエルディア人、要するに“人間”だ。
きっとこの人たちを含めたすべてのエルディア人を救ってこそ本当の救世主と言えるんだろうが、俺にはそれをやってのけるほどの知能も技量も備わっていない。
願わくば、来世では幸せな人生を送ってくれ…
そんなことを考えながら屋根を飛び出した俺は、うなじめがけてアンカーを放つ。
バシュッ……
…は、外した!?
少し考えたらわかることだった__それまで普通に立体機動装置を使いこなせていたから意識が薄れていたのだろう。
壁にアンカーを放つのとは違って、
そして、その動きが読めていなかった俺は無様にも落下を始める。
「分隊長!!」
ガシッ…
助かった。
地面スレスレのところでケイジが体を受け止めてくれた。君は命の恩人だよ…
認識が甘かった。挽回しないと__
「大丈夫ですか、分隊長!? やはり、まだ体の調子が…?」
「あぁ、少しな。迷惑をかけてすまない……仕切り直しだ!今モブリットが前方で注意を引いてくれてる間に、ケイジは背後に回れ!」
「さらにもう1体、巨人が向かって来ています。どうしますか!?」
「後ろの班に任せる!私たちは目の前の巨人に集中する!!」
「わかりました…!」
そうして、俺たちは再び巨人に向かって行くのだった。
**
2人が隙を作ってくれている間、俺は集中力を高めるために目を閉じ、うなじを削ぐモーションを鮮明にイメージした。
_アンカーは手前ではなく、奥の肩に向かって突き刺す。
_軌道は背後を横切るようにガスの噴出を左右で調整。
_速度から考えて、うなじとの距離が体1個分くらいまで近づいた瞬間に腕を振りかざし始める。
目を閉じると、斬撃の繰り出し方が映像のように浮かび上がってきた。
これは、ハンジの中にある記憶__潜在意識のようなものだろうか? さっきまでの不安が嘘のように消えて行く。
『今ならできる気がする』
そんな根拠のない自信が俺を突き動かした。
パシュッ……ガッ
命中!
あとは軌道を崩さないよう、引くレバーのバランスを意識しながら……今だ!!
刃が巨人の皮膚にめり込んだ瞬間、グリップから伝わる肉の重みに歯を食いしばりながらも、俺は最後まで腕を振り切った。
ザシュッ!!
血飛沫と共に、大きく抉り取られた肉片が宙を舞う。
「やった!!討伐数1!!」
主人公気分になった俺はどこかで聞き覚えのある台詞を吐きながら、倒れ込む巨人を振り返る。
その際、体勢を崩して向かい岸の屋根に転げるように着地して腰を打ったが、その痛みが気にならないほど巨人から立ちのぼる蒸気に興奮を覚えた。
「やりましたね、分隊長!」
駆け寄ってくるモブリットとケイジの明るい表情が眩しい。
「あぁ、この調子で行けばっ…」
フラッ…
そう言って立ち上がろうとした時、足から力が抜けてしまった俺は、屋根の上で盛大に尻もちをついた。
体を支えようと膝に手をつくも、先ほどの斬撃の後遺症なのかガクガクと震えている。
なんと情けない姿か__俺の意識がまだこの体に定着していないのだろう。
足を引っ張る前に早く慣れないと、モブリットたちを危険に晒してしまう。俺のためにこの子らが犠牲になるなんてことはあってはならないんだ…
「大丈夫ですか、分隊長!?」
「だ…大丈夫。ただの立ち眩みだ……それより、何としてもここで巨人の侵攻を食い止めるぞ!」
「はい!」
…と、言いつつも。
俺の本来の目的は、逆__必要な巨人を上手いこと
調査兵たちは強すぎる。流石に巨人の数が多すぎて何体かは調査兵団の包囲網を抜けてはいるが、このままだとエレンの巨人化に必要な巨人たちまで討伐されかねない。
原作のタイミングで考えると、もうその巨人たちが来ていてもおかしくない。むしろちょっと遅いくらいだ。
問題はどうやってその巨人たちを見逃すよう事を運ぶかだが、今のところ「立体機動装置が暴発した!」などとのたまってその巨人たちを討伐しようとする班を妨害する方法しか思いついていない。
だが、1回の斬撃すら不安定な今の俺が、そんな高度な立体機動をこなせるのか!?
ズシン……ズシン……
そうこうしていると、新たに複数体の巨人がこちらへ歩み寄ってきた。
「!?……あれはっ…」
見覚えのある顔__そう、例の34班を襲う巨人たちだ。
とうとう現れてしまった。ど、どうする…!?
足りない脳みそで考え付いた奇策を実行するか否か、思い悩む俺の首筋に緊張の汗が流れた瞬間…
ゴトッ……ゴトゴトゴトッ!
頭上から鈍い音が聞こえてきた。
見上げると、横並びになった複数の樽のようなものが壁上から落下しようとしていたのだ。
「なんだ、あれ……ま、まさか…!」
…
確か原作では、オルブド区でのロッド巨人討伐作戦時に火薬を詰めた樽を用意していた。今、上から落ちてくるそれはまさにそれに酷似している!
だが、その予想は半分当たっているようで外れていた。
ボボボボボボ!!……シュウゥゥゥゥ…
地面に落下したその樽の中身は、信煙弾に使われている煙玉__つまり、これは
「ケホッ……ケホッ……くそ!前が見えない!」
「おい、そっちに巨人が行ったぞ!」
「どこだ!? どこにいる!?」
「この煙はなんだ!このままでは巨人を逃してしまう!」
突然の出来事に動揺し、視界を奪われた兵士たちが慌てふためく。
煙は巨人にとっても人間感知の妨げになるのか、近くにいた兵士たちに気づくこともなく、何体かがまっすぐ走って行くのが見えた。
その中には、例の巨人たちの姿も__
「よし!これで、エレンは巨人化できる!」
小声でガッツポーズをした俺は、そこでようやく“違和感”に気づく。
さっきの樽たちが独りでに落ちて来たわけがない。
なら、一体
バッ…
すぐに樽の落下点である壁上に目を向けてみるも、煙で鮮明には見えない。
だが、煙の隙間から一瞬、動く影を捉えた__それは、金色の“何か”だった。
「あれは……人の髪か?
そう言って顎に手を添え、考え得る原作の登場人物を思い浮かべていたその時…
ザシュッ……ズシ―――ン!!
「様子がおかしいと思って来てみたら……てめぇら、なんだこのザマは…!」
キザな台詞を吐きながら、一撃で倒した巨人の上に舞い降りたのは、我らが兵士長リヴァイだった。
騒ぎを聞きつけて、隣の部隊からハヤブサの如く応援に駆けつけてくれたのだろう。
そして、討伐された巨人はなんと__
エレンの巨人化に必要な、“髭の巨人”なのであった。
―【 続く 】―
〜後書き〜
兵長、やってくれましたね。
髭の巨人がいなくなって、ドハンジはどんな行動に出るのか!?
また、煙幕弾を落下させた人物とは!?
※この人物が明らかになるのは、トロスト区襲撃事件以降になります。
■次回予告:『#06 少年が見た世界』
◼︎おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第19話『まだ目が見れない』
◎ケイジを登場させた理由
ケイジって響きが好きなんですよね。ハンジ(判事)とケイジ(刑事)でコンビ的な感覚もありますし。
原作ではストヘス区でアニの水晶体に「この卑怯者がぁ」と刃を突き立てていますが、アニメではジャンにその役回りを奪われていて、少し可哀そうだなと思いました(笑)