~前話おさらい~
・前衛の配置につき、初めての巨人討伐を成す。
・壁上から落とされた煙幕によって、エレン巨人化のきっかけとなる巨人たちが包囲網を抜けるも、最も肝心な髭の巨人がリヴァイに討伐されてしまう。
~注意点~
今回は[エレン視点]が大半を占めます。
※切り替えマーク:=====
※それ故のタイトルというわけです。
↓それでは、本編へどうぞ↓
「ま、まずい……これは、非常にまずい!!」
目の前には、蒸気を上げる髭の巨人__その上には、瞳をギラつかせたリヴァイが佇んでいる。
受け入れ難い現実に直面した俺は、煙でガサガサになった喉に無理やり唾を押し流した。
このままでは、エレンが
巨人化に必要な条件は2つ__体に傷をつけることと、
特に後者はアルミンの身代わりとなって髭の巨人の胃袋に収まったのち、強い復讐心から芽生えるもの。
つまり髭の巨人は、エレンの巨人化に最も肝心な存在だったと言える。
だが、その巨人はもういない。リヴァイがあっさりと討ち取ってしまったからだ。
他の巨人をあてがうか? イヤ。そもそも巨人を上手く誘導する方法なんて思いつきもしなければ、そんな不審な行動は調査兵団の一員として許されない。
「終わっ……た…」
悲壮感を滲ませた声と共に、俺は膝を屋根瓦にめり込ませた。
エレンが巨人化できなければ、ライナーたちが探し物の存在に気づくことなく、トロスト区の内門は破られてしまう。
所詮は、素人の考える策__上手くいきっこないことはどこかでわかっていたはずなのに。
被害を抑えるため、良かろうと思って調査兵団をその場に残した行動が裏目に出るとは……内門まで破られてしまったら、今度こそ人類に勝ち目はない。
そんな結末を導いた俺は、この世界の“救世主”どころか地獄へいざなう“悪魔”のような存在でしかないだろう。
今から挽回できるか? イヤ。俺にはもう、どうすればいいか
―“ わからないなら、わかればいい ”―
「!?」
耳鳴りがする__これはハンジの意識か、それとも、俺が自分自身に言い聞かせたのか。
「前者……だと、いいな…」
願望のようにそう小さく唱えながら、俺はブーツの底を屋根瓦へ叩きつけるように立ち上がった。
そうだ、今ここでうだうだ考えていても埒が明かない。
わからないなら、わかるまで突き進む__俺たちは諦めの悪い調査兵団だって、ジャンもそう言ってたっけな。
今俺にできることは、エレンたちの元へ出向き、状況を把握しながらその場で策を練ること。
最後まで抗い続けるんだ……この、
パシュッ……プシュゥゥゥ―――!
「分隊長!どこへっ…!?」
脇目も振らずに飛び出した俺の背中をモブリットが引き留める。
だが、意を決した俺の勢いは、もはやどんな言葉のブレーキも利かない。
「
「失態?……あんた、気は確かですか!?」
すると、俺たちのやり取りが耳に入ったのか、リヴァイも此方を睨みつけてきた。
「待ちやがれ、クソ眼鏡!!逃した巨人は後ろに任せろ!作戦の本質を見失うな!」
「あぁ、わかってる……だけど!ここで動かなかったら私は
「話が読めん……どうしても行かなきゃならねぇ理由は何だ!」
「理由を説明している時間はない!すまないが、私の隊を任せたよ!」
「…は? 何勝手を言ってやがっ…」
ズシン!ズシン!……ズシン!ズシン!…
その時、俺の背中を後押しするように、複数体の巨人が煙の中から一斉に飛び出てきた。
「チッ…」
リヴァイは舌打ちしながら瞬時に方向を切り替えると、俺とすれ違うようにして兵士たちへ指示を出しに向かった。
彼の判断の素早さには脱帽する__俺は一度だけ振り返り、その雄姿を拝む。
「頼んだよ、兵長…!」
遠ざかっていくその
そして、再び前を向いた俺は、レンズの中の瞳を尖らせながら巨大な背中を追いかけたのだった。
=====
[エレン視点]
___ちょうどその頃。
___【トロスト区中衛:訓練兵第34班】の持ち場にて。
あ…れ……ここ、は…?
目を覚ますと、俺の頬には橙色の瓦がぴったりと張り付いていた。
傾いた視界に映り込んだ生々しい血痕が、その場が戦場であることを思い出させる。
確か俺たち34班が持ち場に着いた時点では、まだ前線を抜けてくる巨人はほとんどいなかった。
流石は歴戦の猛者、調査兵団__俺たちの出番なんてないんじゃないか? そんな淡い期待を抱いた時だった…
前衛右翼の広範囲に煙が巻き上がり、調査兵たちの姿が見えなくなったと思ったら、その中から数体の巨人が抜け出て来やがったんだ。
巨人たちは一気に駆け出し、次々と中衛の訓練兵たちに襲いかかっていく。
もちろん、俺たちの班も例外じゃない__2体の巨人がこちらへ迫ってくるのが見えた。
『総員、戦闘態勢!!』
けど、そうやって声を張り上げた時には、すでに先頭の巨人がこっちに向かって飛びかかってきていたんだ。
最初に犠牲になったのは、トーマス__下半身からずっぽりと巨人の口に納まったあいつの姿を見た瞬間、俺の体は硬直した。
何とか声は絞り出せたが、体が動いたのはトーマスが丸ごと飲み込まれた後だった。
実戦経験のない訓練兵が単騎行動に出ることは
そうして、トーマスを飲み込んだ巨人の背中を無我夢中で追いかけてたら、下から別の巨人が飛び上がってきて…
「!?……そうだ、足!!」
ズキズキ!
「ぐあぁっ…」
意識が左足に向いた瞬間、遅れてやってきた痛みが脳内を駆け回った。
膝から下の感覚がない__切断された箇所は、まるで火で炙られているように熱い。それに、先の尖ったもので神経をつつかれているような鋭い痛みも絶え間なく走っている。
クソッ!こんなところで死ねるか!……俺はまだ、何も成せていない!
自分の胸に強く言い聞かせながら、歯を食いしばって顔を上げると…
「アル…ミン…?」
向かいの屋根の上で膝をつくアルミンの姿が目に入った。
戦意喪失__光を失ったアルミンの瞳から、絶望的な心境が嫌ほど伝わってくる。
やめてくれ、そんな顔をするな!諦めるにはまだ早い!きっと、何か…
「やっと見つけた!……エレン!!」
その時、誰かが俺の名前を叫んだ。
声のした方へふっと顔を向けると、前方から一人の女性兵士が立体機動でこっちに向かってくるのが見えた。
後ろで髪を結って、ゴーグルをかけている。どこかで見覚えが……あ、ミカサに後衛配置の指示を伝えに来た人だ。
返事に戸惑っていると、その女性兵士は俺の元までやってきて体を起こしてくれた。
「大丈夫か、エレン!やっぱり左足は、あの四足歩行の巨人に持っていかれちゃってるね…」
「
「あ、いや!何でも!……それより大事な話があるんだ!!」
「え、話? こんな時にですか……それに、あなたは…?」
「私はハンジ・ゾエ。調査兵団で分隊長を務めている」
「ハンジ分…隊長…」
「ハンジでいいよ。まずは、今の状況なんだけど…」
そう言ってハンジさんは一度立ち上がって周囲を見渡すと、またしゃがみ込んで俺の瞳を真剣な顔つきで覗き込んできた。
「いいか? 落ち着いて聞いてくれ……君たち34班は壊滅状態だ。今も他の子たちが襲われている。私一人では倒せない。君の力が必要だ!」
「俺の力…?」
「そう、君が
「え、えっと…」
何を言ってるんだ、この人は。
内に秘める力? 彼らの記憶? それに、俺が調査兵団を志す目的を知ってるなんておかしいだろ。
ダメだ。足の痛みで意識が飛びそうだってのに、もう何がなんだか…
意識が薄れかけ、瞼を下ろしそうになった瞬間__ハンジさんが俺の肩を揺らす。
「しっかりしろ、エレン!……そうだ、あそこにアルミンが見えるだろ!?」
「は、はい…」
「彼は今この状況に希望を見出せていない。あの顔になった兵士はもう戦えない!このままだと後衛のミカサの元までも巨人の魔の手が伸びてしまう……ミカサやアルミンを救いたいのなら、君はその力を
「救いたいのは、そう…なんですが……さっきから『力』って何のことですか?」
「君はすでに知ってるはずだ!グリシャから受け継いだだろ!?」
「!?……なんで、父さんの名を…」
「これはグリシャが……イヤ、
「俺…が…」
グォォァァ…!
その時、俺の左足を食い千切った四足歩行の巨人が唸り声を上げながら屋根の下まで駆け寄ってきた。
それに気づいたハンジさんが慌てて俺を担ぐ。
「クソッ……一旦
「は、はい…!」
そう言って屋根から飛び出したはいいが、人ひとり担いでの立体機動は速度が落ちる上に低空飛行になりかねない。
四足歩行の巨人はここぞとばかりに加速し、器用にもハンジさんのワイヤーをくんと引っ張った。
完全に引きずられる直前でアンカーを離したために巨人に掴まることはなかったが、俺とハンジさんはそのまま地面に叩きつけられてしまった。
ズザザザァァーー…
「ガハッ…!」
胸から着地した俺は、肺から押し出される空気と一緒に唾も吐き出した。
左足も地面に擦ってしまった。ひどく痛む……痛みが吐き気となって胃に這い上がってくるような感覚だ。
顔を青ざめながら振り返ると、巨人が勝利を確信したかのように一歩一歩踏みしめながら近づいてきていた。
その風貌はあまりにも恐ろしく、まざまざと放たれた威圧感に胃がひっくり返りそうになる。
そいや、ハンジさんは無事か!?__震える腕で体を起こし頭をキョロキョロと動かすと、少し先で地面に伸びているハンジさんを見つけた。
「ハンジさん!巨人がっ……巨人がもう目の前に!」
ハンジさんは俺の叫び声に応えるようにむくっと体を起こした。
それから、額に流れる血を拭いながら何かをつぶやき始める。
「炎の水……氷の大地……砂の雪原…」
「!?…そ、それは……
聞き覚えのある単語__忘れていたわけじゃない。俺がそれを口にしなくなったのは、アルミンを調査兵団に行かせたくなかったからだ。
でも、どうしてハンジさんがそれを知ってる? 今、それをつぶやく理由はなんだ!?
その答えに辿り着く前に、いつの間にか立ち上がっていたハンジさんが俺の方へ歩き出す。
ジャラッ…
鎖が擦れるような音がして、俺の視線はハンジさんの胸元で揺れるペンダントに奪われた。
さっきまであんなのあったか?……いやきっと、シャツの中にしまっていたのが落下の衝撃で出てきてしまったんだろう。
しかし、俺がそれに釘付けになった理由は別にある__ペンダントの彫刻に
壁の外で超大型巨人と対峙した時に目にした“壁の絵”と瓜二つ……偶然か? イヤ、偶然にしては似すぎている。
あれは、一体…
「エレン。
「!?」
「壁から一歩外に出ればそこは地獄の世界なのに、どうしてエレンは『外の世界に行きたい』と思ったの?」
「それは…」
不思議だ__ハンジさんの口から放たれた言葉が、俺の体に優しく染み込んでくる。
耳の穴がこじ開けられたように、頭の中がスッキリ整頓されたように、一語一句を全身で嚙み砕いているような感覚だ。
ハンジさんの声が足の指先まで行き渡ると、何の躊躇も遠慮もなく、俺の口は勝手に動いていた。
「それは、俺が……この世に生まれたからです!!」
「なら戦え、エレン!……
ピキーーン…!
その時、頭の中で音がした。
視界が歪み、思考回路が絡まり合う脳内で唯一、ハンジさんの叫び声だけが何度も繰り返された。
戦え__戦え__戦え。
俺はその言葉に身を委ねるように、体の内から湧き上がってくる熱を喉元から外へ放出する。
ウオオォォオォオォォ!!!
唸るような咆哮とともに、全身が
この時、俺の意識にあったのは__たった一つの“目的”だった。
…駆逐……シテヤル…
…コノ世カラ……一匹残ラズ…!
………
…
=====
***
___エレン巨人化直後。
今、俺の目の前には、夢にまで見た光景が広がっている。
『巨人が巨人を殺している』
そう。エレンが巨人化に成功したんだ!
四足歩行の巨人に捕まりそうになった時はもうダメかと……いっそのこと、アルミンを無理やりにでも危機的状況に晒して、エレンの本能を刺激しようかとも考えたくらいだ。
だが、あくまでそれは最終手段__“きっかけ”が何だったのか今となってはわからないが、諦めず必死に言葉をかけ続けていたら突然エレンの体が静電気を帯び始めた。
きっと、巨人化直前に条件反射的に起こるエネルギー放出なのだろう。その様子はアニメで何度も見てきたソレそのものだった。
巨人化の兆候に気づいた俺はすぐさま後方へ飛び退いたが、視線をエレンから離すことはなかった。
次の瞬間、“雷鳴”が轟いた。
生でその音を聴くと、やはり迫力が違う。トロスト区の壁に反響したのか、
ドゴォォン!!
そして今、巨人化したエレンは近くにいた四足歩行の巨人を殴り飛ばし、さらに豪快な音を奏で続けている。
立体機動による巨人討伐を『スマート』と言い表すのなら、エレン巨人による巨人駆逐は『ワイルド』という言葉が当てはまるだろう。
本能の赴くままに巨人を懲らしめていくエレンの巨大な背中に高揚感を覚えつつも、俺は我に返る。
第一の関門:『エレンの巨人化』は突破__残るは、
これに関しては、それほど難しい話ではないという見込みがある。
エレン巨人にはしばらくこの辺で暴れてもらい、適当な口実を繕って後衛からライナーを連れて来ればいいだけだ。
もう一つ肝心なのは、住民の避難だが……そう言えば、避難完了の鐘はまだか?
カン!カン!カン!
ちょうどその時、内門側から鐘の音が聞こえてきた。
「やっとか!」
だが、安堵の声を漏らしながら振り返った俺はの期待は、一気に地へ堕とされた。
内門付近の壁上に、『緊急事態』を意味する赤い煙弾が撃ち上げられていたのだ。
嫌な予感に胸がざわつき、顔に曇がかかる。
「まさか、そんなっ…!」
俺は情けない声で弱音を吐くと、すぐさま立体機動で屋根の上に飛び上がった。
そこで目にしたのは、この襲撃事件で
「あれは……鎧の巨人!?」
『いつの間に』という文字が頭に浮かぶ__そうか、あの時!エレンの雷鳴が反響して音が重なったと思っていたのは、同じタイミングで巨人化していたライナーの音だったのか!
…イヤ、そんなことはどうだっていい。問題は、鎧の巨人が出現してしまった
ライナーは後衛に配置されたていたが、巨人化したのは街のど真ん中。きっと、内門へ体当たりするための助走距離を確保したのだろう。
だが、原作では巨人が街に充満してから内門を破壊する算段だったはず……それが何故、もう姿を現したんだ!?
けれどライナーは、そんなことを考えさせる時間を俺に与えてはくれなかった。
ドッ…!!
鎧は急に姿勢を屈めたかと思うと、地面が隆起するほどに軸足を踏み込み、内門へ向かって駆け出した。
「ダメだ!行くな!!」
俺は声を裏返しながら、必死に鎧を追いかける。
エレン巨人の存在に気づいていないのか、鎧は一心不乱に内門を目指している。
速度として鎧の足はそれほど速くはないものの、立体機動でギリギリ追いつけても俺一人の腕では到底太刀打ちできない。
もう、ダメなのか? 俺は何もできずに、最悪の事態を招いてしまうのか!?
ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!
次第に速まる鎧の足音が俺の鼓動とリンクする。思考がまとまらない。
さっきチラッと後ろを振り返った時、異変に気付いた兵長がこっちに向かって来ているのが見えたが、あの距離ではたぶん間に合わない!
もう内門はすぐそこだ!鎧の視線も目標をしっかりと捉えている。
今の俺に何ができる!? 俺に、何がっ…
スカッ…
焦りが指先に伝わったのか、アンカーの射出タイミングを見誤った俺は、また性懲りもなく屋根に体を打ち付ける。
肘も膝も背中も胸も__戦闘開始から1時間も経っていないというのに、至る所に擦り傷ができた。
心なしか頭も痛む。立体機動の重力負荷によるものだろうか…
もう何をどうしたらいいかわからない。それでも、一体全体どうしてか……諦める気にはなれなかった。
つい先程、エレンに放った言葉がブーメランのように胸にぶっ刺さる。
どうして俺は『この世界を変えよう』と思ったのか?
そんなこと、決まってんだろ…
「それは、俺が……この世に
俺はそう豪語すると、ガクガクと震える足に鞭を入れ、腰を持ち上げるように立ち上がった。
そして、キッと鎧の背中を睨みつけながら、腹の底から全力で息を吐き出す__
「
ズゥゥゥン…!
……
…
ピタッ。
…へ?
目を疑った。夢かと思った。
誰が想像できただろう。まさか鎧が本当に、
止まってしまうなんて__
―【 続く 】―
〜後書き〜
『戦え!!』
ドハンジの想いが通じたのか、エレン無事巨人化に成功。
だが、安心するのも束の間__鎧の巨人出現。
果たして、トロスト区はどうなってしまうのか!?
※次回がトロスト区襲撃事件編の最終話となります(たぶん)
■次回予告:『#07 突・噛・極』
◼︎おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第6話『少女が見た世界』
◎俺がこの世に生まれたからだ!
この台詞大好きです。
一見シンプルに思われますが、自由意志の真髄がこの一言に詰まっていると著者は感じています。