前世...若しくは...転生後の君へ・・・   作:赤道さとり

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~前話おさらい~

・エレンがドハンジの叫びに反応して巨人化
・同時に鎧の巨人が出現し、内門へ突進 ⇒ ドハンジの叫びで急停止!?

※ちなみに住民の避難は完了しております。(前話の鐘の音がそれ)

↓それでは、本編へどうぞ↓



#07 突・噛・極

 

 

=====

 

[リヴァイ視点]

 

ふざけた話じゃねぇか。

 

俺たち調査兵団は前線で穴から侵入してくる巨人どもを相手取っていた。

 

常に目を光らせていたが、鎧の姿なんてどこにもなかった。

 

なのに何故、奴は壁の中にいる?

 

そして、何故__

 

 

()()()()()()んだ。

 

 

ついさっきまで内門へ突進していた奴がこうもピタリと止まるか?

 

ここへ向かう途中ハンジの叫び声が聞こえた気がしたが、何を言っていたのかは聞き取れなかった。

 

鎧の横顔からは何を考えているか読めん。あの()()()()()()()に反応したのか? それとも__

 

 

「まぁ何にせよ、好都合だ。停止してる今なら関節を狙いやすいからな…」

 

 

問題は鎧の皮膚にアンカーが刺さるかだが、考えてる暇はねぇ。

 

やるか…

 

 

ガキ―ン!!

 

 

その時、反対側から現れた一人の訓練兵が鎧のうなじへ刃を振り下ろした。

 

()()()()()()が特徴的なそのガキは、折れた刃の破片を少し肩に受けながら近くの屋根に着地する。

 

 

「くっ…!刃が…通らない…!?」

 

「オイ、そこのガキ!奴の鎧は砲弾すら効かない。そんくらいは訓練所で習ったはずだ!」

 

「しかし、このままではっ…」

 

「あぁ、わかってる。()()()俺が来た…」

 

「!……あ、あなたは…」

 

 

こいつの動きは訓練兵にしては人並み外れていた。調査兵団の精鋭たちにも引けを取らねぇほどに…

 

“補佐”として申し分ないだろう。

 

 

「…いいか? 俺が関節を狙う。お前は奴の気を引け」

 

「!?……わかりました」

 

「威勢がいいのはいいが、死なねえ工夫は忘れんな」

 

「了解!」

 

プシュゥゥーーッ…

 

 

訓練兵が鎧の正面へ飛び出して行く。

 

その隙に、俺は背後に回っ…

 

 

「!?」

 

 

妙だ__目の前をあの訓練兵が散々飛び回ってるってのに、鎧はピクリとも動きやしねぇ。

 

 

「チッ…さっきから、どこ見てやがる」

 

 

そう吐き捨て鎧の視線の先に目を向けると、内門より少し上の壁に何かが描かれているのが見えた。

 

 

「あぁ? 何だ、()()()は…」

 

 

………

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

***

 

___同時刻。

___【トロスト区:中衛付近】にて。

 

 

「ハァ…ハァ……本当に……と、止まった…!?」

 

 

現実とは思えない__だが、鎧が内門を破壊しなかったのは事実だ!

 

それに、さっき平然と俺を抜かしていく兵長の姿が見えた。

今頃、鎧は関節をズタボロにされているだろう…

 

 

「そうだ、エレン!今のうちにエレン巨人を上手く誘導できればっ…」

 

 

そう言いながらバッと振り返ると、ある訓練兵と目が合った。

 

 

「い…一体、何の話をしているんですか? さっき、あの鎧の巨人のことを『ライナー』って…」

 

 

ひょろっとした体格に()()()()の訓練兵__そう、マルコだ。

 

いつからそこにいたのか、そんなことを考えたところでマズイことを聞かれた事実は動かない。

 

動揺した俺は身振りを大きくして誤魔化しにかかる。

 

 

「き、聞き間違いじゃないかな!? 急に鎧が出てきてびっくりしちゃって、その、えっと……『そんなぁぁ!』って叫んだんだ!!」

 

「でも、僕の同期にライナーっているんです。さっきの発音は確かにそう聞こえた気が…」

 

「ははっ、空耳だよ!ほら、君も気が動転して…」

 

「それに!……『エレン巨人』ってなんのことですか?

 

「!?」

 

 

盲点だった__墓穴を掘るとはこのことだろう。

 

変に言い逃れようとしたために、もう一つの穴に気づかず、より怪しさを増幅させる結果を招くとは。

 

エレンはまだ巨人化を解いていない。故に、あの巨人がエレンだと知る人間がいるはずないんだ。

 

でもこんなの、どう誤魔化せばっ…

 

 

「あの!エレンって名前の兵士も僕の同期にいるんです。さっきのあなたの口振りだと、エレンも巨人だということに…」

 

「そ、それは!……()()()

 

「…き、気は確かですか!? こんな状況では、一人で冗談を言いたくなる気持ちもわかりますが……もしさっきの発言が本当だとしたら、僕はっ…」

 

「まさか上官に報告すると? 早まっちゃいけない、そんなことしたら君こそ気が触れたのかと思われてしまうよ!? 私が言えた口じゃないが、ほら……今は作戦に集中しないと!」

 

 

そうだ。このまま適当に受け流して行けば、この場は乗り切れるだろう。

 

だが、それではダメだ……ダメなんだよ!

 

俺は心の内で自分に言い聞かせるように叫びながら、マルコの肩をガシッと掴む。

 

 

「はぁ……マルコ、君は察しが良いからダメなんだ」

 

「え、何で僕の名前……いやそれより!さっきのは()()()()っ…」

 

「私は君を死なせたくない!だから……どうか忘れてくれ!!

 

「……」

 

 

懇願するように俺が言い放つと、マルコは明後日の方角を向いて黙り込んでしまった。

 

あれ? なんかこんなこと()()()()()()()()()

 

 

「あれ!僕はどうしてここに……ん? えっと……あなたは?

 

「!?」

 

 

思い出した__確か作戦開始直前に、モブリットも似たような反応をしていた!

 

これは何だ、まぐれか? いやでも……マルコの反応は一時的に()()()()()()って感じだ。

 

まさか、俺の“言葉”が…

 

 

ドゴォオーーン!!

 

「な、何の音だ!?」

 

 

慌てるマルコの声でハッと我に返る。

 

音のした方角に目を向けると、エレン巨人が建物を薙ぎ倒す勢いで突進しているのが見えた。

 

進路の先には鎧の巨人__エレン巨人は鎧の存在に気づいたのだろう。

 

こうしてはいられない!エレンを追いかけないと…

 

 

「私はあの巨人を追う!マルコ、君はここから少し下ったところにいるアルミンを援助してやれ!彼は今、一人では動けない状態にある!」

 

「は…はっ!了解しました!!(…あれ? 僕、あの人に名乗ったっけ?)」

 

一瞬、マルコが足を止めた気がしたが、俺は構わず飛び出して行った。

 

 

 

**

 

 

 

「クソッ、早いな!!」

 

 

エレン巨人の後方を立体機動で飛ぶ俺は、目の前に見据える黒髪の後頭部に向かってそう吐きかけた。

 

しかし、先ほどまでの焦りはない。一時はどうなることかと思ったが、ようやくライナーたちにエレン巨人を認識させられる。

 

その安心感が俺に冷静な機動力を取り戻してくれたんだ。

 

とは言え、まだ油断はできない。エレン巨人がちゃんと『知性巨人』であることをわからせる必要があるんだが…

 

不安的中__鎧の巨人が見えた途端、エレン巨人はまるで無垢の巨人のようにわっと飛びついた。

 

 

ズゥゥーン…!

 

 

背後から勢いよく飛びかかられた鎧はそのまま前方へ倒されてしまう。

 

エレン巨人は鎧の背中にしがみつきながら、今度はうなじにガブリと噛みついた。

 

 

ガキ!!……シュゥゥゥー…

 

 

硬質な皮膚に思い切りかぶりついたことで、エレン巨人は顔の中心が削れてしまう。

 

その様は、原作のレベリオ襲撃事件で戦鎚の巨人の本体(結晶体)にかぶりついた時のようだ。

 

無策もいいところ__エレン、君が(あぎと)を持っていれば話はまた違っていたかもな。

 

しかし、まずい。この調子じゃそこら辺にいる無垢の巨人となんら大差ないぞ!

 

早くなんとかしないとっ…

 

 

シュタッ。

 

「オイ、クソ眼鏡。あの巨人は何だ」

 

 

そう言いながら華麗に俺の側へ降り立ったのは、リヴァイとミカサだった。

 

 

「なんと!アッカーマン一同()()()()!!」

 

「あ? ふざけてんのか」

 

「あ、イヤ、その……さっきはごめん。私が飛び出した理由はあの巨人だ」

 

「…てめぇが兵規違反を犯した罪は後で咎めてやる。それよか、このクソみたいな状況への対処だ。鎧にしがみついてるあの巨人はなんだ?」

 

「あれは…」

 

 

俺は言いかけた言葉を一度飲み込み、周囲を見渡す。

 

大丈夫、まだアニやベルトルトはここへ集結していないようだ。ライナーを見捨てることはないだろうが、状況を伺ってるってところか。

 

しかし、気は抜けない。彼らの動向には十分注意しておかねば…

 

そう考えをまとめた俺は、再びリヴァイへ目を向ける。

 

 

「あれは……『巨人を襲う巨人』だ。よくわからないけど、あの巨人が他の巨人たちを踏み倒している姿を見た。だから鎧の元まで誘導したんだ」

 

「…理解し難いが、要するに……()()()()()()()()()ってことか?」

 

「イヤ、まだ此方の味方とは断定できない。だけど、可能性はある!あの巨人にも鎧や超大型と同じく、“知性”のようなものを感じるんだ…」

 

 

俺の語りに導かれるようにして、リヴァイとミカサもエレン巨人へ目を向ける。

 

見ると、エレン巨人は顔から蒸気を上げながらも鎧に必死にしがみつき、前歯がないというのに今度は腕に噛みつこうとしていた。

 

その様子にリヴァイは殊更呆れ切った顔をする。

 

 

「…俺には、あれが知性のある奴の動きには見えんが?」

 

「あれぇ!? お、おかしいな…」

 

 

どうしたもんか__エレンは正気を保っていないのか?

 

このままでは本当に無垢の巨人と思われて、ライナーに始末されっ…

 

 

ウォォオォオオ!!

 

 

その時、鎧が凄まじい咆哮と共に立ち上がった。

 

さらに鎧は勢いで剥がされたエレン巨人に対し、すぐさま攻撃を開始する。

 

 

ドゴォ!……ベキッ!!

 

 

防御の姿勢を取らせる間もなく、ストレートにフックの2連発。

 

エレン巨人は左肩を大きく抉られ、2発目のみぞうちへのパンチで体ごと思いっきり後方へ飛ばされてしまう。

 

 

ズザザァーー…

 

 

まずい、時間が経ち過ぎた。

 

これ以上壁内で巨人の姿でいることは、ライナーたちにとっても不都合だろう。てっきり、さっきの咆哮でアニたちに助けを求めたかと思ったが、とりあえずは()()()()()()()()ないようだな…

 

ええぃ、こうなりゃヤケだ!もう一度エレンに語りかけに行く!

 

 

パシュッ……プシュゥゥゥ―――!

 

「オイ、またか……どこへ行く!」

 

 

すぐに反応したリヴァイが引き留める__が、それどころじゃない!俺は前を見据えながら答える。

 

 

「君らは鎧の隙をついて関節を狙ってみてくれ!私はあの巨人の補助に回る!!」

 

「チッ…簡単に言いやがる…」

 

 

納得したのか、リヴァイはすぐに引き下がってくれた。

 

 

「ありがとう、兵長…!」

 

 

俺は2人には聞こえない程度の声量でそうつぶやくと、地面にうつ伏せになっていたエレン巨人の背中へ降り立った。

 

先程の攻撃がかなり効いているのか、エレン巨人はなかなか立ち上がれないでいる。

 

今がチャンス__俺に迷いはなかった。

 

 

「ごめんよ、ちょっと痛いかもだけど…」

 

パシュッ!

 

 

そう言って俺は体を固定させるためにエレンのうなじ付近へアンカーを放ち、刃先の照準を合わせる。

 

縦1m、横10cm……()()だ!!

 

 

ドスッ。

 

ウガァッ…!

 

 

エレン巨人の上半身がエビのように仰け反った。

 

その反動に耐えながら、俺はすぐさま突き刺したブレードへ息を吹き当てる。

 

 

「聞こえるか、エレン!ハンジだ!……えっと…」

 

 

勢いでここまで飛んできたはいいが、正直言って何を語るべきか考えがあったわけじゃない。

 

エレンの巨人化を促す際あらゆる手を出し切ってしまったがために、それらしい原作の台詞がすぐに出てこなかったんだ。

 

焦った俺は衝動的に後ろを振り返り、周囲を確認する。

 

リヴァイとミカサの2人が何とか鎧の注意を引こうと奮闘してはいるが、かなり苦戦している。さらには、四方八方から異変に気付いた駐屯兵たちが応援に駆けつけてきているのが見えた。

 

大勢の兵士に囲まれたら鎧は後がなくなる。そうなれば、何をしでかすかわからない!もし、()()()()()()()()でもしたらっ…

 

 

「壁…!」

 

 

鎧の巨人の背後には壁が聳え立っている。

 

そして、巨人化したエレンが目の前にいる__この状況って原作の()()()()()に似てないか!?

 

エレンはすでに巨人化して立ち向かって行った。つまり、戦闘の“意志”はある!となれば、あと必要なのは……“戦い方”を思い出させること!

 

意を決した俺は、再びブレードに顔を近づける。

 

 

「…わかるか? 君が今戦っている相手は、ライナーだ!」

 

 

そう。相手はライナー__なら、戦い方はすでに知ってるはずだ!

 

 

「エレン、対人格闘訓練を思い出せ!()()()()()()()あの技を…!!」

 

ドクンッ…

 

 

その時、エレンの胸が大きく弾む音がブレードからじーんと伝わってきた。

 

動き出す__そう察知した俺は、すぐに飛び退いた。

 

 

ウォォオォオオォ…!!

 

 

けたたましい咆哮に、不気味に光る緑の眼光。

 

間違いない__エレンが覚醒した!

 

 

ドッ……ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

エレン巨人が勢いよく駆け出したのを見送ると、俺はリヴァイたちに向かって叫ぶ。

 

 

「リヴァイ!ミカサ!……避けろ!!」

 

「!?」

 

 

2人がその場から離れると、鎧もエレン巨人の接近に気づいたのか、拳を構えた。

 

エレン巨人も助走しながら拳を構える。

 

撃ち合う__そう思われた、次の瞬間…

 

 

ゴッ…!

 

 

勢いよく振り抜かれた鎧の拳はエレン巨人の幻影をかすめ、空を切る虚しい音だけが響いた。

 

エレン巨人は瞬時に体勢を低くかがめ、鎧の攻撃をかわしたのだ。

 

さらに右脇の下から一気に距離を詰めると、鎧の首を腕でガチッと拘束して自身の胴体を鎧の背後に入れ込み、腰を軸に勢いよく後方へ投げ飛ばしてみせた。

 

しかし、鎧も反撃に出る__エレン巨人の脇腹を手で押し上げるようにゴロンと転がすと、その勢いで体を起こして今度は鎧がエレン巨人の上に覆いかぶさった。

 

だが、エレンも怯まない__転がされた鎧の腕を掴み、腰から下半身を浮かせて鎧の首に両足を回すと、バネのように体を反らしたのだ。

 

 

ビキビキ!…ビキッ!

 

 

“極め技”が見事に効いたのか、鎧の右肩と頬に亀裂が入った。

 

 

「いいぞ!行けぇぇ!!」

 

 

興奮気味にエレン巨人へ声援を送る俺の元へ、リヴァイたちが駆け寄ってくる。

 

 

「ハンジ、お前が言ってたのはこれか」

 

「だから言っただろ? あの巨人は戦える!」

 

「しかし、あの状況じゃ人間は近づけねぇな…」

 

「あぁ、他の兵士たちにも注意喚起をっ…」

 

ドッ!

 

「!?」

 

 

もし、時を戻せるのなら__この時の俺を殴ってやりたい。

 

後衛では鎧の巨人出現の騒動を受けて、陣形が大幅に乱れていた。

 

大半の兵士たちが『巨人同士の取っ組み合い』という異様な光景に釘付けとなり、注意が散漫していたんだ。

 

さらにはエレンたちの激しい攻防戦は、周囲の音を跳ね除けるほどの迫力だった。

 

何故、頭が回らなかったのだろう?

 

この状況が()()()()()()“好都合”だということに。周囲の目を掻い潜って()()()()()()()が、容易であるということに…

 

 

ドゴォ!!

 

 

それは、瞬きをするコンマ1秒ほどの間に起こった。

 

初めは何が起こったかわからなかった。鈍い音がした途端、いきなりエレン巨人の頭部が遠くへ吹き飛ばされて行ったからだ。

 

だが、答えはすぐ()()()()()

 

冷徹な瞳でギロリと此方を見下すのは、アニ__もとい、女型の巨人だ。

 

圧倒的強者のオーラを放つその出で立ちに、俺の顔にあるすべての穴が限界まで開く。

 

 

「なっ……が!?」

 

 

上手く声が出せない__喉元を氷のように冷たい手でぎゅっと掴まれているような感覚だ。

 

何もできず立ちすくんでいると、女型が動いた。

 

エレン巨人の首元をぐいっと持ち上げ、硬質化させた尖った指先でうなじを引っ搔く。すると案の定、中からエレンが飛び出してきた。

 

首を飛ばされた衝撃からか、エレンは気を失っている。

 

 

「!?……エレン!!」

 

 

横でミカサが叫ぶ__と同時に、飛び出していた。

 

さらに、いつの間にか女型の背後に回っていたリヴァイもうなじを狙う。

 

 

ガキガキ――ン!

 

 

もちろん、指もうなじも刃は通らない。

 

女型は他の九つの巨人と比べて、“瞬発力”が段違いなんだ。

 

 

「くっ……何なんだ、こいつは!」

 

 

この戦いで初めて、()()リヴァイが焦りを見せた。

 

そんなことに気を取られていると、女型が鎧へ向かって指示を出すような仕草を見せた。

 

それは至極単純なものだった__女型はただ、()()()()()()()()()のだ。

 

彼らが何をしようとしているのか理解した瞬間…

 

 

ダッ!

 

 

女型と鎧が外門へ向かって走り出した。

 

リヴァイやミカサ、他の駐屯兵たちもその後を追いかける。

 

だが、俺の足は動かなかった……というより、すでにガスを切らしていたんだ。グリップの引き金を引いても掠れた音だけがボンベから漏れ出るだけだった。

 

何故、想像できなかったのだろう?

 

思い返せば、そもそも鎧が内門破壊に失敗した時点で、すでに彼らには()()()()()()ことは明白だった。

 

巨人化を解いて俺たちの中に紛れようにも、兵士がうじゃうじゃいる壁内でそんな真似はできない。うなじから出てくるところを目撃されたら終わりだし、巨人化の跡ってのはそれほどすぐには消えないだろう。

 

つまり、どのみち鎧は外門か内門からこのトロスト区を脱出し、外で巨人化を解く必要があったんだ!

 

それにライナーたちマーレ組を後衛の駐屯兵たちに紛れさせたのも痛恨のミスだ。面識のない班員たちにとって彼らの行動にはそれほど注意は向かないだろうし、のちに姿をくらましたことがバレたとしても『自分たちの同期が襲われているのを見て助けに向かった』などといくらでも言い訳が…

 

 

―“ 過ぎたことを今考えて、何になる? ”―

 

 

ふと、頭の中で声が聞こえた気がした。

 

脳裏で思考をまとめているときは元の俺(ハイド)の声が再生されるような感覚だが、今のはハンジの声のように聞こえなくもなかった。

 

 

「そう、だよな…」

 

 

そう言って俺は、気持ちを切り替えるように顔を上げる。

 

女型と鎧は外門へ向かったが、前衛には調査兵団が布陣しているし、無垢の巨人たちも多い。そう容易くは抜けられないはずだ。

 

だが、何かが引っかかる……彼らがそんな無策に行動するか?

 

もし何か切り抜ける策があるとすれば、最悪の切り札(カード)は…

 

 

「!?……そうだ、超大型(ベルトルト)はっ…」

 

 

すぐに後衛のベルトルトが配置された方角へ目を向けるも、ハンジの視力では元より、前世では裸眼で過ごしていた俺でさえそんな遠くまで見通せるはずもない。

 

業を煮やした俺は再び前方へ顔を向ける__すると、前衛の中央付近で高く飛び上がる人影が見えた。

 

容姿までわかるはずもないのに、俺はハッキリとその人物が誰なのか理解した。

 

 

「や、やめて…くれ…」

 

 

次の瞬間…

 

 

カッ!!……ドオォォオオォオォン!!

 

 

巨大な光に目が眩み、ぎゅっと瞼を結ぶ。

 

強烈な爆風に体が飛ばされぬよう必死に屋根にしがみついた。

 

キーンという耳鳴りが過ぎ去ったのち、再び目を開くと、俺の瞳には大きなキノコ雲が写し出された。

 

雲が風に流され、爆発と共に出現した超大型巨人と目が合う。

 

絶句する俺の視線の先で、超大型は全身から蒸気を放って周囲を煙で包み、外門を足で挟み込むように仁王立ちしている。

 

その足元へ鎧が最初に駆け込んだかと思うと、外門の穴をさらにこじ開けるように突っ込んで行った。

 

続いて、女型もそこから壁外へ脱出する。

 

その後ろ姿を一通り眺め終えると、()()()()()()が打ち鳴らされたかのように鐘の音が響く。

 

 

カン!カン!カン!

 

『撤退だ!総員、壁上へ退避せよ!!』

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数十分後。

___【トロスト区:壁上】にて。

 

 

撤退の鐘が鳴ってすぐ、本部にある物資庫から予備のガスボンベを手に持つ『補給班』が飛び出した。

 

その時点で街に侵入した巨人が原作と比べて圧倒的に少なかった上、()()()()超大型巨人が前衛の巨人たちを兵士諸共吹き飛ばしたことにより、補給班は見事に機能した。

 

『そのおかげで』なんてのは不謹慎だと承知の上で言わせてもらうと、そんな状況じゃなきゃ俺が壁を登ることはできなかったんだ。

 

気絶していたエレンは巨人の体から救出されたが一向に目を覚まさず、そのまま拘束されて駆けつけた憲兵たちに連れて行かれてしまった。

 

結果は言うまでもないだろう…

 

 

【トロスト区】は放棄する他ないと判断された。

 

 

「人類は今日、()()……巨人に負けた…」

 

 

俺の近くにいた駐屯兵のリコが、巨人に蹂躙されたトロスト区内の街並みを見下ろしながらそうつぶやいた。

 

原作とは正反対の台詞を吐かせてしまったことに胸を痛めながらも、俺は内心()()()()に怯えていた。

 

 

「ハンジ、ここにいたか」

 

 

神妙な面持ちで俺の元へやってきたのは、生き残った調査兵たちを引き連れたエルヴィンだった。

 

その後ろには、()()()()()()険しい顔をしたリヴァイと顔を青ざめたミカサがいる。

 

 

「エルヴィン……団長の君が無事でよかったよ。前衛の中央、リヴァイの隊は…」

 

「…全滅だ。あの爆発の中心にいた」

 

「っ……」

 

 

俺は絵に描いたように言葉を詰まらせながら、拳をぐぐっと強く握りしめる。

 

リヴァイに合わせる顔がない__しかし、事はそれだけに留まらず。エルヴィンの話にはまだ()()があったんだ…

 

 

「それから…」

 

「え……まだ、何か…?」

 

「心して聞いてくれ。その爆発に君の隊の何名かも巻き込まれている」

 

「!?……そんなっ…」

 

 

自分の隊士たちが集まっている人影に目を向けると、戦闘前よりも明らかに人数が少ない。

 

()()に気づいた瞬間、胃の中で何かが沸々と煮えたぎる音がした。

 

俺は声を震わせながら尋ねる。

 

 

「ね…ねぇ、エルヴィン……モブリットは、どこ…?

 

 

その問いに対しエルヴィンは、

 

 

ただ()()()()()()だけだった__

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 






〜後書き〜

突進 ⇒ 噛みつき ⇒ 極め技

タイトル『突・噛・極』は鎧 VS エレン巨人の戦闘(※)で、エレン巨人が繰り出した攻撃の流れからつけました。

読み方は、とう・ごう・きょく?……語呂が悪いですね。

※:戦闘シーンは原作11巻の第44話を参考にしています。


■次回予告:『#08 夢の中で眼鏡光る』
 ⇒更新時期は未定です。

◼︎おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第44話『打・投・極』

◎リヴァイの[ハンジ呼び]について
リヴァイは原作でも「クソ眼鏡」「ハンジ」とハンジの呼び方が変わります。
おそらく状況によって小馬鹿にしてる時と真剣な時で使い分けていると思いますが、本作品ではその辺を感覚で使い分けていますのでご了承ください。

◎ドハンジの[リヴァイ呼び]について
こちらに関しては、地の文において「リヴァイ」「兵長」と呼び方が変わっています。
これは説明口調の時と語り口調で使い分けていますが、正直その場のノリです(笑)

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