~前話おさらい~
・リヴァイが内門の壁に何かの絵を見つける。
・マルコと出くわしたのち、エレン巨人 VS 鎧の巨人のバトル勃発。
・さらに女型の巨人と超大型巨人の出現でトロスト区壊滅状態に。
※今回、ちょい長めです。
↓それでは、本編へどうぞ↓
#08 夢の中で眼鏡光る
『トロスト区、陥落』
壁内はその
鎧の巨人を筆頭に女型の巨人、超大型巨人とトロスト区内に立て続けに知性のある巨人が出現したことにより、街は壊滅状態。
壁内の巨人を掃討しようにも建物の3割ほどが倒壊している街中では、立体機動が十分に機能しない。
言うまでもなく、壁上からの榴弾のみでは巨人を絶命させる威力はない。
さらに鎧がトロスト区を抜け出す際、外門の穴を広げていったことによって、大岩で塞ぐ案*1も白紙となった。
『成す術なし』__トロスト区は放棄し、無数の巨人に街を占拠される結果となった。
しかし、すぐにまた壁を壊せる巨人たちが出現しないとも限らない。
そこで、せめてもの二次被害対策として、トロスト区の内門には駐屯兵団の技術班が考案した『巨人の
そんなものは焼け石に水でしかないことは、その場にいた大半の兵士が理解していただろう。
だが、やる他ない。それ以外に兵団として対処できたことと言えば、負傷者たちの手当と、家や財産を失った避難民たちへ一時的な寝床を用意することくらいだったからだ。
今回の襲撃事件の
こうして人類はまた一つ、巨人との勝敗に“黒星”をつけたのだ。
***
___襲撃事件の翌日。
___【ウォール・ローゼ南区:調査兵団所有地】にて。
「…ふぁっ」
兵舎のベッドで目を覚ました俺は、上半身を伸ばしながら大きく欠伸をする。
窓から差し込む朝日はキラキラと朗らかな陽気を放っていて、まるで昨日の大惨事などなかったかのように部屋を明るく照らし、俺の副交感神経を緩やかに刺激してきた。
眩しい__あれからどれほどの時間が過ぎただろう。
現実から目を背けても、己の過ちを嘆いても、『前に進め』と言わんばかりに無情にも明日はやってくる。
昨晩は酷い悪夢にうなされた。とても気分は上がらない。
「はぁ…そりゃそうだろーな。なんてったって俺は…」
“疫病神”だ。
…イヤ、神なんてそう大層な存在ですらない。場を荒らすだけ荒らして何の役にも立たない、ただのお邪魔虫だ。
そんなことを考えながらゆっくりとベッドから降りた俺は、からくり人形のように無心で兵服に着替え、髪を無造作に結う。
そして、本日の任務__『難民キャンプの設営』に向かうのだった。
**
難民キャンプは街から少し外れた土地に設営された。
ウォール・マリア陥落以降は巨人襲撃の緊急時に備え、ある程度の人数を収容できる施設の建設が進んでいたそうだが、トロスト区の住民全員がそこで過ごせるほどの規模には達していなかった。
そのため昨晩は兵団施設の講堂や武器庫などを解放し、地べたに雑魚寝する形で一夜を過ごしてもらったのだ。
テントの設営を終え、避難民たちへ移動を促していた時__
「お母…さん……お母さんはどこぉ…」
少女の鳴き声が聞こえてきた。
トロスト区の住民は訓練通り何とか避難できた*3のだが、最初の一撃……ベルトルトの蹴りによって飛来した壁の破片の餌食になった住民は数名存在する。
おそらく、あの少女の母親は
すると、少女の元へ一人の青年が駆け寄ってきた。
「アメリ!俺から離れるなって言っただろ!」
「お兄ちゃんの嘘つき!お母さんはすぐ戻ってくるって…」
「…母さんはもういない」
「…え?」
「もう、いないんだっ…」
そう言って兄と思しき青年は、少女の腕を強引に引っ張った。
キャメル色のストレートヘアで前髪をセンター分けにしている青年の髪型は、どこかモブリットに似ている気がした。
アメリと呼ばれていた少女は状況を察したのか、また泣きじゃくり始める。
「うわぁぁぁーーん…!」
キーン…
耳鳴りがする。まるで少女の鳴き声に呼応するように、それは突然やってきた。
つんざくような高音__その振動で脳ミソに絡まった意識が解けていき、耳の穴から外に抜け出そうになる。
それを食い止めようと両手で耳を塞ぐと、徐々に遠のいていく音の中に誰かの声も微かに混ざって聞こえた。
―“『分隊長!どこ行ってたんですか!? 探しましたよ!』”―
ふっと後ろを振り返る。もちろん、そこには誰もいない。
「そうだ。彼は、もう…」
いないはずの人影に目を潤ませた俺は、後悔の念が零れ落ちぬよう、ぎゅっと唇を結んだのだった。
***
___夕方。
「はぁ……つ、疲れた…」
避難民たちの誘導を終え兵舎に戻ってきた俺は、自分の部屋のベッドに倒れ込む。
昨日の戦闘に比べれば体力的にはどうってことのない任務だったが、俺をこんな軟弱者に仕立て上げたのは主に
故郷を失った人たちの絶望に打ちひしがれた表情や気力を失った重い足取りは、その場の空気を濁らせ、陰鬱な飛散物となって酸素と共に血液に流れ込む。
まるで疫病のように伝染する“負のオーラ”には、それを一瞬で打ち消すような特効薬など存在しない。
そんな伝染病にかかった俺は、食べ物も喉を通るかさえ怪しいと感じ、夕飯をぶっちして*4今に至る。
「ありゃ、この世の終わり……だった…な…」
フッ…
目を閉じた瞬間__まるでジェットコースターにでも乗せられたかのように、意識が急降下した。
………
…
―“ おーい、聞こえるかい? ”―
…パチッ。
瞼を上げる。
何だ? 暗い……ここは、夢の中か? 何か聞こえた気がしたが…
不思議と自分の身体は見える。というか、夢の中だと前世の姿なんだな。
キラッ…
ん? 今、
「やぁ。初めまして…かな?」
「うわぁっ!?」
突然パッと目の前に現れた人物と目が合った俺は、情けない声を漏らしながら後ろに飛び上がった。
幻覚でも見ているのだろうか?__だが、何度瞬きをしても“ソレ”は消えずにそこにいた。
俺は声を震わせながらその人物の名前を口にする。
「は、…ハンジ!?」
「幻覚じゃない……とは言い切れないね。この姿はおそらく、私の“意識”だ」
「へ…? もしかして、俺の思考をっ…」
「読める。正確に言えば、君の思考は私にダダ洩れって感じだ」
「なっ…マジか!? ってことは、昨日の
俺がその先の言葉を躊躇っていると、ハンジは意図を汲み取るように真剣な表情でコクリと頷いた。
「思考だけでなく、私には君の見た景色も見えているんだ」
「!?……そう、だったのか…」
「状況は把握してる。人類はかなり追い詰められてしまった。聞きたいことは山ほどあるけど、えっと……君、名前は?」
「俺は……ハイドだ」
「よろしく、ハイド。じゃあ、まずは君という存在から……君は最初の頃『転生』という言葉を吐いていたよね。その言葉の意味と事件の流れを知っていた理由を話してもらいたいんだけど、いいかな?」
「あ…」
そうだよな。俺の思考が読めるってことは当然その疑問にぶち当たる。
「…って、今のこれも筒抜けってわけか」
「あぁ。どうやら私たちの関係にプライバシーってものはないらしい。
その言葉の意味を察した俺は、冷水が染み込んだ布の感触を思い出しながら、熱を帯びた脇腹を手でさする。
今、何を思い浮かべていたのかさえ伝わってしまうのだと、恥じらいながら__
「すまない。その…」
「謝る必要はないよ、今は君の体なんだから。私の意識は体から切り離されている……だから、私たちはやるしかないんだよ。2人で力を合わせよう…ってヤツを」
そう言いながら握った拳を胸元に掲げるハンジの姿は、原作そのものだった。
そのたくましさに感銘を受け興奮を覚えた俺は、正気を保つためほっぺたをぎゅっとつまむ。
これは
「わかったよ、ハンジ。すべて話そう…」
こうして俺は、自分がこの世界に来た
**
「なるほど。簡単に言えば、この世界は君のいた“現世”ってところで作られた物語であり、君は何故かその物語……つまり、“異世界”の中に吸い込まれて私の体の中に魂が宿ったというわけか」
「…し、信じられないだろ?」
「イヤ、信じる」
「え…」
「そりゃ、初めは混乱したよ。他の意識に体が乗っ取られるなんて初めての経験だったし、その意識はこれから起こることをすべて知っていたのだからね。でも……君はとにかく一生懸命だった。我々人類を守ろうと必死に抗ってくれた」
「…だがその結果、俺は取り返しもつかない大惨事を招いた。本当にすまない。ハンジ、君の……
そう話しながらのしかかる罪悪感の重圧に耐えきれなかった俺は、ハンジから目線を外し、暗闇のせいでそこにあるかもわからない地面を見つめる。
少し間があった__この後、俺はどんな顔してハンジと接すればいい?
こんな時、ハンジの思考が読めたのなら……イヤ、それは野暮なもんだろう。
そんな風に思い詰めていると、「顔を上げてくれ」と言わんばかりにハンジが口を開く。
「君の話によればモブリットやケイジ、それからリヴァイの隊にいた兵士たちはその“原作”ってヤツだと、
「ハンジ…」
「それに、調査兵団をトロスト区に残らせたのは私だ……だから、本来トロスト区にいなかった筈の彼らをそこで死なせてしまったのは、私にも責任がある」
「…へ? 『残らせた』って、どういう…」
「君が私の体に入ってきた日の晩、一時的に意識が戻ったんだ。おそらくまだ君の意識が定着していなかったのだろう。君は気絶したようにベッドに倒れ込んでいたしね」
「そうだ……あの時、俺は酷い頭痛で倒れて、そのまま…」
「君の意識から襲撃事件が起こると知った時は震えたよ。だから意識が戻った少しの時間でできるだけのことをやるしかなかった……結局、エルヴィンたちに知らせる前にまた気絶してしまったんだけどね」
「じ、じゃあ!馬を逃がしたのはまさかっ…」
「私だ。シャルマン牧場の主人は顔見知りで、偶然近くにいたから一役買ってもらった。もちろん調査されてもすぐにはバレないよう工作してある。……しっかし、一晩であれだけの馬を移動させるのは大変だったよぉ~!人手足りないからって、私も手伝わされて…」
「あ!…翌朝、ミケが俺の
「そうそう!あの時ばかりはミケの嗅覚を恨んだね」
「な…んだ。そう、だったのか…」
力なくそうつぶやいた俺は、気が抜けたようにへなへなとその場に座り込んだ。
すると、ハンジもスタスタと此方へやってきて、俺の隣にすとんと腰を下ろす。
それから前を見つめたまま、真剣な表情で会話を再開したのだ。
「君の話と昨日の事件で起こった内容から、いくつか
「引っかかる点?」
「主に2つある。一つ目は、君が首から下げているそのペンダントだ」
「これ、か…」
夢の中では、ハンジではなく俺がペンダントを下げているらしい。
俺はそれを手で持ち上げてハンジに見せる。
「そう、それ……私には覚えがないんだ。もしかして、君が生前……おっと、“前世”と言ったっけ? そこで
「うーん、確かに見覚えはある気がするんだが完全には……それに装飾品まで転生するなんて聞いたことがない」
「そもそも人間の体が転生すること自体、原理が不可解なんだ。物だってあり得るかもしれないよ」
「…だな。でも、これが事件に何か関係あるのか?」
「仮説にすぎないが、2つ目の気になる点に関わっているかもしれない」
「2つ目は?」
俺がそう問いかけると、ハンジは再び前を向く。
「事件の最中に起こった、周囲の人間の
「…それは俺も少し気になった。鎧があそこで止まるなんて、不自然でしかない」
「君から聞いた原作の話だと、巨人を操ったという点では『始祖の叫び』という能力に近い。でもそれは、始祖の巨人の持ち主であるエレンにしか使えないんだったよね?」
「あぁ、そうだ。正確に言えば始祖の巨人の力を有し、かつ、初代王の思想に囚われない状況に限る」
「…となると、似つかわしいがまた別の能力だと考えるべきだろう。そこで気になるのがエレンが
「確かにエレンが巨人化したのも、俺の声掛けの最中だった…」
「だが、初めは無反応というか、それらしい変化は見られなかった。エレンの反応が変わったのは……そのペンダントが胸元から飛び出してからだ」
「!?……これが、
「不確定要素は多分に含まれるにしても、可能性は拭いきれない。君の声掛けとそのペンダント、2つの要因が合わさってのことかもしれないね」
言葉が出なかった。
とても信じ難い__俺がエレンやライナーを
だとすれば、その”能力“って何だ? このペンダントは一体……ダメだ、俺はハンジみたいに頭が回らない。もう訳がわからなくなってきた。
己の無能さに失望していると、ハンジが優しい瞳で俺の肩に手を置いた。
「…こういう時は、地道に探って行けばいい。エレンは幽閉されてしまっているから、まずはライナーに探りを入れてみよう」
「探りを入れるったって、どうすれば…」
「下手に聞き込む必要はない。会話の中でそれとなく何かを命令するんだ。そこで、その能力が試せるだろう」
「なるほどな。
「もし君が本当に誰かを操る力を持っているのなら、今後はそれを活用してこちらの優位になるよう事を運べばいい。そうすればこの世界を救うことだって夢じゃないだろう。ただ…」
「…ただ?」
「そのペンダントの効力は計り知れない。基本は胸にしまっておいて、いざというときに取り出してくれ」
「あぁ、わかった」
「それから…」
ハンジはそこまで話すと、身を縮めながら膝の上に置いていた拳を握り直した。
まるで、己の無力さを悔いるように__
「こうして君と長く話ができるのは、夢の中だけだと思う。日中に何度か意識の覚醒を試みてみたんだけど、君の元まで通じたのは一言二言くらいであとはダメだった。だから…」
「俺がやるしかないってことだな」
「……コクッ」
小さく頭を動かすだけのハンジの姿が、俺の目に、胸に、痛く刺さる。
気づけば俺は立ち上がっていた。
そして、固めた決意を示すように、ハンジに向かって敬礼する。
「頼りないかもしれないが……任せてくれ!俺はこの世界を救いたい。このまま、
すると、ハンジは俺の気持ちに応えるように眼鏡をくいっと押し上げたのだった。
「あぁ、頼んだよ…!」
………
…
**
…パチッ。
目を覚ますと、すでに朝日が昇っていた。
俺は昨日の夕方から夜明けまですっかり寝過ごしてしまったらしい。
今日はエレンが巨人化したことから、その同期である104期訓練生たちへ事情聴取が行われる。
調査兵団もそれに立ち会うことになっているのだ。
『ライナーに接触するなら、事情聴取の後、辺りが薄暗くなってから人気のない所に誘い出そう』
頭の中でそう決めた俺は、寝相で着崩れしてしまった兵服を直すついでに、首から下げているペンダントを
それから朝食を済ませるため、食堂へと向かったのだった。
***
___襲撃事件から2日後の晩。
___【ウォール・ローゼ南区:訓練兵団所有地】にて。
「あれ、道間違えたか? こうも入り組んでいると迷うな…」
俺は訓練兵たちが寝泊まりしている兵舎に向かう筈が、いつの間にか少し開けた場所に出ていた。
そこには木箱や丸太などの資材などが積み上げられていて、これから何かを建設する場所のようだった。
辺りを見渡すと、その資材の山の向こうに建物が見えた。
「あっちか…」
ボソッとつぶやきながら、資材の山に近づいた時__
「すまなかった、アニ。お前が助けに来なければ俺は逃げられなかった…」
この声はライナー!?
資材の角からそっと裏を覗くと、そこにはマーレ組の3名がいた。
丸太の上にアニが一人で座り、その対面にライナーとベルトルトが立っていて、何やらヒソヒソ話をしている。
「別に……あんたに捕まられたらこっちが困るから。自分が助かりたかっただけ」
「そうだよな」
「言われた通り、人に見られないよう家屋の中で巨人化したけど……おかげで痛かった。鎧みたいに女型の皮膚は頑丈じゃないから」
「…そう、だよな」
「これで何度目だろうね。あんたの汚いケツを拭くのは…」
「……」
「…それで、あんたが
「確かに調査兵団がいたのは想定外だ。そのせいでトロスト区内に巨人が充満し切らなかった……だからいっそのこと、早い所内門も破って戦況を乱す必要があると判断したんだ」
「は? 答えになってないでしょ……私は中止するべきだったと言ってるんだけど」
「それは
「…何で」
「…コレだ」
そう言ってライナーはアニに何やら封筒のようなものを手渡した。
「手紙…?」
「あぁ、その差出人は俺たちの正体を知っているらしい。襲撃事件を起こそうとしていることも……だからやるしかなかった。仕方なかったんだ」
なっ…手紙? 彼らの正体を知っている差出人だと!?
おかしい__原作だとこの時点で彼らの正体に気づいている人物はいないはず。
今、アニが手紙を開いてるが……クソ!ここからだとよく見えん。
「…コレ、何であたしに教えてくれなかったの」
「その手紙が届いたのは事件前日の真夜中だ。朝、食堂で知らせようとしたんだが……お前、朝食抜いただろ」
「…これから再び大勢を虐殺しようって日に、呑気に朝食を摂っていられるほど冷酷非道な人間になりきれなくてね」
「そうか…」
「うん。……まぁでも、不幸中の幸いもある。おかげで私たちの“探し物”は偶然にも見つかった」
「あぁ、まさかエレンが
「そのまま連れ去ろうかとも思ったけど……場が悪すぎた。あの場にはミカサや調査兵もいたし、あんたは無様にもエレンに負けそうになっていたから」
ズバズバと人の傷口に塩を塗るアニのスタイルは原作と変わらないな。遠慮や配慮の欠片もない。
そして、気まずそうに2人の様子を見守るベルトルト__この『敵も一枚岩じゃない』ってところが進撃の面白い点でもあるんだよな。
あんないい方されたら普通の人間はかなりヘコたれるところだが、ライナーは違う。
ライナーはアニの目の前に跪くと、顔をずいっと近づけながら語りかけるように訴え始めた。
「とにかく、今は様子を見る他ないだろう。エレンは中央へ連れて行かれたが、居場所さえわかればまた立て直せる。あと一歩のところまで来たんだ!これで俺たちは、故郷に帰れっ…」
「吐きそう。それ以上顔を近づけないでくれる?」
グシャッ…
そう言ってアニはライナーを突き放すように手紙を肩に押し付けた。
ライナーが手紙を受け取ると、アニはスッと立ち上がりながら問いかける。
「その手紙……差出人は?」
「わからない」
「ふーん…」
ザッ…
アニは素っ気ない相槌を打ちながらその場を去ろうと足を踏み出した。
その後ろ姿に、今度はライナーが問いかける。
「どこへ行く?」
「今日は事情聴取で散々人に質問されて疲れた。もう寝る…」
「そうか。わかった…」
よし、アニがいなくなった。何か探るには今がチャンスだ!
そう意気込んだ俺は、アニの姿が見えなくなるのを待ち、思い切って物陰から飛び出す。
「あれれ、迷っちゃったなぁ~……あ!君たち!ちょっといいかい?」
ビクッ!
急な声掛けに肩を跳ね上げたライナーは手元が緩んだのか、手紙を離してしまう。
ヒラヒラと前後に揺れながら、その紙は俺の足元へ着地した。
文字は小さくて瞬時に読み解くことはできなかったが、それよりも俺は、便箋の下部に描かれていた絵に
「こ、これはっ…!?」
そこに描かれていた絵柄は、
俺が身につけている『ペンダントの紋章』と一致していたのだ。
=====
[ユミル視点]
___同時刻。
___【ウォール・ローゼ南区:訓練兵団所有の馬小屋】にて。
襲撃事件の
それまで『いい子ちゃん』を続けてたあいつが、急に
どこへ行ってたかは聞いても教えてくれなかったが、今日もまたこうして兵舎を抜け出している。
ここまでつけて来たのは、流石に引かれるか?……イヤ、私はあいつが心配なだけだ。何も変なことはない。
「オイ、そんなところで何してんだ。クリスタ……もう寝る時間だろ?」
「ちょうど良かった、ユミル!準備ができたから、あなたを呼びに行こうと思ってたところなの」
「準備…?」
「それは……行けばわかるよ」
背筋が凍った。
クリスタの声色はあまりにも冷淡で、口角は上がっているのに目が一ミリも笑っていない。
そんな表情は今まで見たことがなかった。確かにいい子ぶってはいたが、笑顔は本物だった……今、目の前にいるのは本当にクリスタなのか?
きな臭い__クリスタに対して抱いたことのない感情が、私の思考に警鐘を鳴らす。
頭を過る嫌な予感に鼓動が速まりながらも、それを認めたくないという邪心が先行した私は、とりあえず会話を続けてみることにした。
「行くって……どこにだよ」
「私の“故郷”に」
「!?……だが、お前の生まれた家はっ…」
「ふふ、きっとユミルは喜ぶよ」
「は? なんだそれ、私のためってのか…?」
「ううん、
そう答えると、クリスタは馬の柵に立てかけてあった太い棒のようなものを手に持った。
そして、此方へジリジリと歩み寄りながら、なじるような目で私を見つめる。
「だからユミル、私のために……
ヒュンッ………ガンッ!
…バタッ。
瞬時に背後に回ったクリスタに後頭部を思い切り殴られた私は、そのまま地面に倒れ込んだ。
遠のく意識の中で最後に見たのは、
不敵な笑みを浮かべながら私を見下ろす、愛しきクリスタの顔だった__
―【 続く 】―
〜後書き〜
ダーク・クリスタ、初登場!
ハンジとハイドの会話シーン、台詞考えるの難しかったけど超楽しかった・・・
アニの冷たい物言いも、かなり原作に寄せられた気がします(`・ω・´)(自負)
次回、『キモライナー』発動します。お楽しみに~!
※ライナーのことは大好きです。
■次回予告:『#09 前脳を捧げよ』
◼︎おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第5話『絶望の中で鈍く光る』
◎ハイドの能力について
ここではっきり言っておきますと、ハイドの能力は『巨人の力』に起因しません。
何故なら彼は転生者、あくまで“現世の人間”だからです。
ただ、ちょっとした超能力的なものに近いところはありますね・・・
詳細は今後の話で明らかになっていきます!