前世...若しくは...転生後の君へ・・・   作:赤道さとり

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~お知らせ~

本作のあらすじを、物語全体の流れをおおまかに要約する内容に変更しました。


~前話おさらい~

・夢の中にハンジが現れ、ハイドがライナーたちを操った可能性を示唆する
・探りを入れるためライナーたちの元へ行くと、怪しい手紙を持っていた
・その頃、クリスタの様子を怪しんでいたユミルがクリスタに殴られて…


↓それでは、本編へどうぞ↓



#09 前脳を捧げよ

 

___時は少々遡り。

___【ウォール・ローゼ南区:訓練兵団所有地】にて。

 

 

バッ…

 

 

焦りを顔に浮かべ俺の手元から便箋を強引に奪うライナー。

 

便箋の下部に描かれていた絵柄に気を取られていて内容までは確認できなかったが、まぁさっきまでのアニとの会話から見られたらマズイってのはわかる。

 

しかし、実物のライナーはこの頃からかなり体格もいいせいか、威圧感だけはあるんだよな。

 

 

「み、見ましたか…?」

 

 

声色から緊張感が伝わってくる。

 

そう睨んでくれるなよ…

 

 

「ごめんごめん、内容までは見えてないよ。だけど、その反応はもしかして…」

 

 

俺はそこまで言うと、ニヤッと少し悪い顔をして見せた。

 

 

「…恋文(ラブレター)とか?」

 

「ち、違います。これは、その…」

 

「同期の中でこの“遊び”が流行っていたんです」

 

 

言葉を詰まらせるライナーの代わりにそう答えたのはベルトルトだ。

 

一見ひょろっとしているが、ベルトルトは上背がある分かなり見上げなきゃならない。

 

俺は斜め上に目線を上げながら問いかける。

 

 

「遊びって?」

 

「と、()()()手紙を送りつけてその差出人を当てるという……訓練がない調整日の()()()()のようなものです」

 

 

なるほど。

 

『手紙の差出人が不明』という点を怪しまれぬよう先に打ち明け、さらには見られたくない“言い訳”まで上手いこと差し込んできた。

 

さすがはベルトルト__やる時はやる奴なんだよな。

 

 

「なるほどね。大丈夫、それぐらいのことで上からとやかく言われないよ。私が気になったのは、その便箋に描かれている“絵”だ」

 

「この絵をご存じですか!?」

 

 

やけに前のめりなライナー。ずいっと顔を近づけてくるのは癖なのか?

 

 

「…あ、あぁ。実は、その絵と同じ装飾のペンダントを人から貰ったんだけど、()()()()()()なんだ。もしかするとその手紙の差出人と同一人物かも……と思ってね」

 

 

一歩引きながらそう答えた俺は、巧妙に口が回ったことを我ながら称賛したいと思った。

 

『人から貰った』という点は多少話を盛ったが、探りを入れるには致し方あるまい。

 

この切り返し能力は、ハンジの頭脳の賜物だろう__今となってはそう断言できる。

 

そんなことを考えていると、俺の話に納得したのか、ライナーは身を引きながら再び便箋に目を向けた。

 

 

「そうだったんですね。じゃあ、この絵は差出人につながる何かしらのヒント…」

 

「その差出人、心当たりはないのかい? ほら……内容から当てるんだろ?」

 

「それが見当もつかないんです。筆跡からは女性らしさを感じます。それに…」

 

 

ライナーはそこまで話すと、突然手に持っていた便箋を顔に当てつけた。

 

 

スンスン…

 

「やっぱり、()()()()だ。差出人が女性であることは間違いないでしょう。俺の予想だと……クリスタ辺りが怪しい

 

「……」

 

 

あ、あーー…

 

すまん、ライナー。

 

 

…さすがにキモイわ!!

 

 

イヤ、逆に()()()()()()()と褒めるべきか? 原作でも、よくあの空気の中*1であんなキモ発言ができたもんだ…(『肝』だけに)

 

ベルトルトも引いてるよ。うん、たぶんそんな顔してる。

 

とりあえず、話を逸らしてみるか…

 

 

「へ、へぇー。参考になるなー(棒)……他に思い当たる節はないかい? その絵がヒントなら、これまでに()()()()()()()()とか…」

 

「!?……えっと…」

 

「…ぼ、僕は特に見ていません。なっ…ライナーもそうだろ?」

 

「あ、あぁ…」

 

 

ん? 2人の様子がおかしい__この反応は明らかに何か知ってる風だ。

 

少し突っ込んでみるか…

 

 

「本当に? 今の反応、何か隠して…」

 

「あの!!」

 

「わっ…な、何!?」

 

 

何だよ、ベルトルト。急に大声を出すもんだから、ちょっとびびったじゃないか。

 

胸の内でそう文句を垂れていると、ベルトルトは少し躊躇いながらも、核心を突くような眼差しを向けてきた。

 

 

「話を遮ってすみません、その……“隠し事”なら、あなたにもあるのではありませんか?」

 

「え……わ、私に?」

 

「はい。襲撃事件があった前日の真夜中、僕らは少し外を出歩いていたんです。その時……あなたが調査兵団の馬を逃がしている所を目撃しました

 

「!?」

 

「見かけた当時は目的まで読めなかったので、特段気にしていませんでしたが……事件後、調査兵団の馬が脱走したことで『壁外調査が中止になった』と伺いました。あなたは何のためにそんなことをしたのですか!?」

 

「そ、それは…」

 

 

まさか、目撃者がいたとは__ダメだ。上手い言い訳が思いつかない!

 

おそらくは此方の弱みを握っておいてこれ以上自分たちのことを詮索をさせないための脅しなんだろうが、どう考えても俺の方が分が悪い。

 

仮にもし上に報告されでもすれば、深夜に兵舎を抜け出した程度の彼らは厳重注意で終わるだろうが、俺の場合は懲罰房送りにされかねない。

 

クソッ、こうなりゃ物は試しだ!命令を出すしかない。()()()()っ…

 

 

「私が馬を逃がしたことについて、だが…」

 

「は、はい…」

 

「ライナー、ベルトルト……2人とも忘れてくれ!!」

 

ピキーーン…

 

 

…あ!!

 

しまった、ペンダントを出し忘れた!

 

い、今からでも間に合うか? もう一回言って効くものなのか?

 

焦った俺は急いでズボンのポケットに手を突っ込むも、緊張で手が震えているせいか、ペンダントが引っかかって上手く取り出せない。

 

そうやってもたついてると…

 

 

「はい、わかりました」

 

「あれ? 僕たちはここで何をして…」

 

「!?」

 

 

まさか……効いた、のか?

 

口をポカンと開けて2人の様子を伺っていると、ライナーが便箋をポケットにしまいながらベルトルトを促した。

 

 

「行くぞ、ベルトルト。そろそろ消灯時刻だ」

 

「あ…あぁ」

 

 

ベルトルトが怪訝そうに返事をすると、今度は俺に目を向けるライナー。

 

 

「それじゃ、俺たちはこれで失礼します」

 

「へ? あ、うん……って、ちょっと待って!」

 

「…まだ何か?」

 

「その……便箋にあった絵だけど、心当たりが少しでもあるのならクリスタって子?…に、話を聞いてみて欲しい」

 

「それは構いませんが、直接聞いた方が早いのでは?」

 

「うん、そうしたいところは山々なんだけど……明日から私たち調査兵団は、王都へ移動しなければならないんだ。エレン・イェーガーの身柄引受について審判があるからね。だから…」

 

 

そう。俺は明朝、ここを発たなければならない。

 

これはつい先ほど事情聴取後にエルヴィンから聞いた話で、数日後にエレンの処分の意向を決める『臨時兵法会議』を執り行うと知らせがあったらしい。

 

その会議が行われること自体は原作通りなんだが、何しろ襲撃事件の結果が原作とは大幅に異なる。現時点での壁内世界の情勢が審議の優劣にどう影響を与えて来ることやら…

 

とにかく、探りを入れるなら今しかない__とは言え、さっきの命令は何故か効いているみたいだし、これ以上彼らに下手に触ってまた馬の脱走のことを思い出されても困る。

 

今日のところはこの辺にしておいて、慎重な情報集めに徹するのが吉と踏んだ。

 

そこから得られたものが何かの“手掛かり”になってくれればいいんだが…

 

そう願いながら淡い期待を込めた視線を向けると、ライナーは静かに頷いてくれた。

 

 

「わかりました。俺たちも手紙の差出人は気になるので、クリスタを見かけたら話を聞いてみます」

 

「助かるよ!じゃあ、何かわかったら私まで一報送ってくれ」

 

「はい。では、失礼します」

 

「あぁ、頼んだよ!」

 

 

こうして、ライナーたちと別れた俺は、大人しく自分の宿舎へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___真夜中。

 

 

宿舎にこっそりと戻ってきた俺は、食堂に忍び込み、パンを一つと鍋に残っていたシチューをつまみ食いした。

 

その後、自分の部屋へ向かい、就寝前の身支度を済ませてベッドに倒れ込む。

 

 

………

 

 

 

「やぁ、一日振りだね」

 

 

ベッドに入ってしばらく熟睡していると、夢の中でハンジが再び姿を現した。

 

 

「ハンジ!すまない、俺ペンダントを見せ忘れて…」

 

「イヤ、むしろそのおかげで新たな発見があった」

 

「発見?」

 

「あぁ、これがまた2つも!」

 

 

そう言って少し声を弾ませるハンジの姿は、好奇心旺盛な子どものようにも見えた。

 

きっと、知識(情報)を得ることがハンジにとってこの上ない喜びなんだろうな…

 

 

「そうなんだ。得た情報から知識を積み上げていく作業こそ、私の生涯をかけた趣味とも言える」

 

「!……そうだった。筒抜けなんだな」

 

「そろそろ慣れてくれよぉ?」

 

「はは、すまんな。それで『発見』ってのは…」

 

「あぁ、順に説明するね」

 

 

ハンジはそう言いながら俺の隣に腰掛けると、『君もここに座れ』と言わんばかりに掌で暗闇をポンポンと叩いて見せた。

 

それを受け、俺も静かに腰掛ける。確かに仕切りも何もないこの空間では、立ったまま話すのは少しやりにくい。

 

ハンジなりに気を遣ってくれているんだろうな。原作では破天荒キャラのイメージが強いが、一つの隊の頭を任されている上、最終的には団長になるんだから…

 

 

「ソレソレ!昨日聞いたときは驚いたよ~」

 

「あ、すまん。また別ごとを…」

 

「いいんだ。それにしても私が団長なんて、想像もできない……今からでもエルヴィンに『考え直してくれ』って頼み込みに行きたいくらいだ」

 

「はは、大袈裟な。ハンジ、君は本当によくやっていたよ。普通の人間なら途中で投げ出していただろう」

 

「ハイド、君は私を買いかぶりすぎてないか? それほど強い人間じゃないんだよ、私は……全部パ――ッと投げ出したい!って思う瞬間は、これまでにも何度かあった」

 

「あ…」

 

 

この時、俺が思い浮かべたのは、原作で瀕死のリヴァイを森の中で懸命に看病していたハンジの姿だった。

 

そこでハンジが零した()()()()()()まで事細かに説明したわけじゃない。

 

脳裏に浮かべた映像までは“思考”としてハンジに伝わることがないのか、見ると、ハンジは心配そうな表情で小鼻を膨らませている。

 

 

「え、今の何!?『あ』って言ったよね、ねぇ? すっごい不安なんだけどっ…!」

 

「イヤ、何でも……ただ、君が背負った重責を想像すると、胸が痛い。ハンジは最期まで勇敢で……カッコ良かった」

 

「へ……あ、ありがとう。でもそっか……『カッコ()()()()』なんだよね」

 

 

声を沈ませながら膝の上に置いていた手にぐっと力を入れるハンジ。

 

その姿に、俺の目頭も熱くなる。

 

 

「ハンジ…」

 

「あーごめん、ごめん!湿っぽくするつもりはなかったんだ!……ほら、今度こそ説明するよ」

 

 

すぐに返事が出来なかった俺は、少し曇ったハンジの眼鏡を真っ直ぐ見つめながら、力強く頷き返したのだった。

 

 

 

**

 

 

 

「まず前提として、ハイドが持つ特殊な能力の正体を一言で表したい。多分、相手の思考を操作する“洗脳”のようなものだと思うんだけど…」

 

「洗脳、か……この世界でも通じる言葉なんだな」

 

「宗教団体があるくらいだからね。『始祖の叫び』というのもそれに近い現象だろう」

 

 

それを聞いた俺は、顎に手を添えた。

 

()()()()()()を思い出すために__

 

 

「それで言うと、その場で瞬時に相手を洗脳状態にする技がある。俺のいた世界では、それは……『催眠術』と呼ばれていた

 

「催眠術!?なんか、カッコいい響きだね……で、具体的にはどういったものなの?」

 

「確か、()()()()()()()()()()()()()()()ものだとか……俺もテレビとかでしか見たことないんだが」

 

「テレビ? 何それ!見るって、えっ……何を!?」

 

 

そう言ってハンジは目をキラキラと輝かせながら、鼻息が当たるほどに身を乗り出し顔を近づけてきた。

 

ハンジって普段は眼鏡やゴーグルを掛けてるからあまり注目されてなかった気がするが、目元が結構綺麗なんだよな…

 

俺は少し照れながら答える。

 

 

「あぁ、えっと……説明が難しいな。とにかく、催眠術というのは相手を意のままに操る魔術のようなものさ」

 

「意のままに操る、か……うん。君の言うそれで間違いなさそうだ」

 

「人に催眠をかけるような才能が俺にあったとは驚きだがな」

 

「とりあえず、君の能力に関しては『催眠をかけること』だと仮定して話を進めよう」

 

 

俺がコクコクと小さく頷きながら納得した表情を見せると、ハンジは指を3本立てながら話を続ける。

 

 

「いいかい? これまでの状況から、特定の人物に催眠をかけるにあたって必要な条件は少なくとも“3つ”ある」

 

「3つも…」

 

「一つは、そのペンダントと同じ『絵柄を見ていること』。これは昨日話した通り、エレンの反応からの推測だ。それから、『名前を呼ぶこと』と『命令を下すこと』……この2つを合わせて、3つ」

 

「絵柄と命令はわかるが……『名前を呼ぶ』ってのは、何か裏付けがあるのか?」

 

「それが顕著に表れていたのは、襲撃事件発生前の馬小屋でのことだ」

 

「馬小屋って、モブリットを含めた部下たちと調査をしていた時のことか…」

 

「あぁ。襲撃事件前までは、君はまだペンダントを胸の中にしまっていなかった。全員でないにしろ、多くの部下たちがその絵柄を目にしている可能性が高い。馬小屋で君は、ただ『探せ』と単純な命令を下したが、部下たちは()()()()()()()()()()だろ?」

 

「なるほど!あの時、確かにモブリットは『アバウトすぎる』と言って具体的な命令を要求してきた。もし絵柄と命令だけで催眠にかかるのであれば、『探せ』という命令のみでも部下たちは動いていたはず……ってことだな!」

 

「そういうこと。もしかすると、不特定多数の対象には催眠がかけられないなんてこともあるかもと思ったけど……さっき、ライナーとベルトルトの2人は同時に反応を示した。つまり、複数人にも洗脳は聞く。その時、君は彼らの名前を順に呼んでいたから、発動条件に名前が含まれてる可能性は極めて高い」

 

「まぁ確証はなくとも、名前を呼ぶ工程を付け加えるくらい何も支障はないもんな…」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

「イヤ、ハンジの説明が分かりやすいだけさ」

 

 

俺はただただ感心した。

 

原作でも、団長となったハンジが兵団上層部のお偉方たちに引けを取らず、冷静沈着に弁論を交わす姿には圧倒されたもんだ。

 

やはり、ハンジは頭の回転が速い__そう考えながら尊敬の眼差しを向けると、ハンジが『それほどでも~』と言わんばかりに後頭部をさすった。

 

 

「へへ、それはよかった。……あ、ちなみに今のが『発見の1つ』ね!」

 

「おっと、そうだった……もう一つは?」

 

「君がさっき()()()()()()()()()()()ことが関係している」

 

「それって、まさか…」

 

「その“まさか”だ……すでに絵柄を目にしたことがある者は、その場で絵柄を見せなくても催眠にかけることができる

 

「!?……それが本当だとすれば、この能力はかなり使えるぞ!」

 

 

そう言ってガキのようにガッツポーズを決めながら立ち上がる俺__その横で、ハンジは少し顔を曇らせていた。

 

 

「だけど……一つ、気にかかることがある」

 

「え、何?」

 

「君が催眠を掛けた時、ライナーとベルトルトで()()()()()()ことだ」

 

「あ……言われてみれば、確かに…」

 

 

早合点もいい所__勢いよく立ち上がったのが恥ずかしくなった俺は、また静かに腰を下ろす。

 

すると、ハンジがまたずいっと顔を近づけてきた。

 

 

「ライナーは君の命令に素直に従うような反応だったのに対し、ベルトルトはまるで()()()()()()()()()()()……これ、何か思い当たらない?」

 

「あ……モブリットとマルコのことか!?」

 

「そう、彼らも似たような反応を示した。もしかすると、何かしらの条件差で催眠のかかり方に違いが出るのかもしれない」

 

「命令を素直に聞いたエレンやライナーと、ただその場の記憶を失うベルトルトたち…」

 

「そこで気になるのが、君の“ある質問”に対するライナーの態度だ」

 

「ある質問って…?」

 

「『その絵柄を他の場所でも見たか』だ。それを聞いた時、ライナーは言葉を濁らせ、ベルトルトがフォローに入った。これは完全に推測でしかないんだけど……ライナーはその絵柄を別の場所でも見ているんじゃないか? 私たちに()()()()()()()()()で…

 

「!?……だから、ベルトルトがフォローを……だとすれば、彼らの違いはっ…」

 

「その絵柄を発見した“個数”だ」

 

「……」

 

 

凄い__その一言に尽きる。

 

ハンジの分析はどれも裏付けとなる根拠がしっかりと示されていた。エルヴィンがその頭脳を買っていたのも頷けるほどに。

 

その聡明さに言葉を失った俺は、返事の代わりに唾を大きく飲み込んで見せた。

 

俺の反応を受けてか、体を正面に向け直したハンジが真剣な眼差しを向けてくる。

 

 

「ただ、これも実際に試してみて仮説を事実に変える必要がある。催眠術の完全な攻略法を見出せば、この先の展開で役立てる瞬間があるかもしれない……ハイド、君に懸かってるんだ

 

 

光源など存在しないはずのこの暗闇で、二つのレンズが鋭く光る。

 

どこまで続いているかもわからない空間の中で、ハンジの言葉が反響して聞こえた気がした。

 

自分に自信なんてない__だが、それはハンジの期待に応えない理由にはならなかった。

 

そう踏ん切りをつけた俺は、堂々とハンジの瞳を見つめ返す。

 

 

「…わかった。明日以降、機会を伺って試してみよう」

 

「助かるよ」

 

「絶対に掴んでやる……未来を切り開く“力”を!!

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌日。

 

 

早朝、ウォール・ローゼ南区を出発した調査兵団は、日暮れ頃になってウォール・シーナにある本部へ到着した。

 

そこから団長のエルヴィンはエレンとの対話を計るため、リヴァイを連れて兵団総統局へと出向いて行った。

 

2人の帰りを待つ間__俺は想像もしなかった。

 

 

この後、兵長に()()()姿()を晒させることになるなんて…

 

 

 

 

 

 

=====

 

[ユミル視点]

 

___同時刻。

___【ウォール・ローゼ北区:レイス卿領地】にて。

 

 

「ん…」

 

 

目を覚ますと、酷く眩しい場所にいた。

 

ここはどこだ? 何であの柱もこの崖も、()()()()()

 

 

ズキッ!

 

 

「うっ…」

 

 

痛い__突如として後頭部に走った痛みが、嫌な記憶を呼び覚ます。

 

そうだ、私はクリスタに殴られて…

 

 

ジャラッ…

 

「!?」

 

 

何だ、体を動かせないと思ったら……手錠か? これ。

 

一体、何が起こって…

 

 

「あ、起きたんだ!ユミル」

 

 

声がする方に目を向けると、クリスタがいた。

 

目鼻立ちがはっきりした品性のある顔に、華奢で小柄な体__間違いない、あれはクリスタだ。

 

だが、私はすぐに顔を強張らせる。

 

クリスタの服が()()()()染まっていたからだ。

 

 

「お前、その血は………っ!?

 

 

その時、崖の下に何人かの人間が血塗れで倒れているのに気づいた。

 

 

「そいつらは誰だ!まさか……お前が()ったのか、クリスタ!?」

 

「言ったでしょ? 私の故郷に行くって……えっと、この人が私のお父さん。他の人たちは一応、家族っていうのかな?」

 

「は……家族を殺しちまったのかよ!?」

 

「うん。でもほら、()()()()は私一人で十分だから…」

 

 

そう言ってクリスタは笑って見せた。

 

私にはわかる__もう、本物のクリスタは()()()()いない。

 

 

「お前、クリスタじゃないな」

 

「あれ、わかっちゃった? しょーがない……クリスタが大好きなユミルさんに、一つ“いいこと”を教えてあげるよ」

 

「いいこと…?」

 

「うん。クリスタの本当の名前は、『ヒストリア』って言うらしいよ。かなり重大な秘密だから()()()()()にでもと思ってね」

 

「はは、そりゃ笑える冗談だ。……で、アンタは誰なんだよ」

 

「安心して、クリスタは死んでない。()()()()()()()()

 

「オイ、答えになってねぇぞ!」

 

「残念。時間切れ…」

 

プスッ…

 

 

太い針が皮膚を貫通する音が嫌に響く。

 

クリスタの皮を被ったそいつは私の質問にまともに答えぬまま、手に持っていた注射薬を腕に突き刺したんだ。

 

そして、中身の液体を体内に注入しながら、冷ややかな瞳で私を睨み上げ__

 

 

「さようなら、私の()()()

 

 

ピカッ……ドォォォォン!!

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
最終話でパラディ島に和平交渉へ向かうシーンのこと





〜後書き〜

今回は、ハイドの特殊能力についてハンジと深堀していきました。

催眠術・・・体験したことはないですが、スパイ映画とかでたまに見かけると色んな催眠のかけ方があって、ちょっと真似したくなります(厨二病)

また、ダーク・クリスタが本格的に動き始めました。

次回、とうとう転生者と対面します!


■次回予告:『#10 怪しき影』

◼︎おまけ
◎サブタイトル参考元:原作第136話『心臓を捧げよ』

◎前脳につて
全く人体の構造に詳しいわけではないので、ネット情報になりますが・・・
前脳は脳の中でも思考や判断力に関わる領域のことを指すらしいです。
今回、ハンジとの会話でハイドの能力が催眠術による洗脳と触れられたため、「心臓」ではなく「前脳」を捧げるタイトルとしました。
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