成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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一話目 魔法少女は引退したい

「魔法少女辞めたい」

「駄目だポム☆」

 

 私、久遠美羽は今年で二十歳になった。十二歳のころに始めた魔法少女活動も、既に八年目になる。すっかりベテランと呼ぶのに相応しい貫録を身に着けてしまった……非常に残念な事ながら。

 もう一度言わせてほしい。私は今年で二十歳になった。同期の魔法少女たちは、みんなもう引退して後継に席を譲っている。私だけが、未だに魔法少女を続ける羽目になっている。

 

「魔法少女、辞めるから」

「駄目だポム☆」

「なんで! この年齢で魔法少女やってるの私だけなんだけど!」

 

 もう何度目かもわからない辞めたいのコールも、いつも通りバディ妖精のポムムに却下される。もう辞めたいと言い始めてからそろそろ四年が経つのかな?

 同期が年齢的に辛くて……と言い始めていなくなり始めたのがそのころだった。

 私だけが、未だに魔法少女を続けさせられている。

 

「美羽ほどの魔法少女適性を持っている女の子は他にいないポム。今辞められるととってもとっても困るポム」

「だからってさあ! もう少女って年じゃないの! 分かる!?」

 

 ポムムをむんずと掴んで思いっきり揺さぶる。人の頭ぐらいの大きさしかないポムムは、それだけで頭ががくがくと前後に大きく揺れてしまう。

 

「同期だった子たちから、まだその年で魔法少女やってるの? みたいな目で見られる私の気持ちが分かる? 好きでやってるわけでもないのにさぁ!」

「魔法少女に変身すれば見た目は契約当時の姿になるポム。何も問題はないポム!」

「問題大ありなの! これは乙女の尊厳に関わる問題なの!」

 

 愛らしいフリフリの衣装を身にまとって! 年甲斐もなく決め台詞決めて! それで守れるものは市民の笑顔ですって! 私の表情筋は年々死んでいくのに!

 

「私がネットでなんて言われてるか知ってる? 合法魔法ロリよ合法魔法ロリ! そっちはまだ我慢できる。でも年“ま”法少女なんていう人すらいるの! 過去の私が年齢を話したせいで、そこから逆算で年バレしてるの! うわキツだの、よーやるだの、何も知らない他人に掲示板で好き勝手言われ続けてる私の気持ちが分かるっていうの!」

「け、掲示板を見なければいいポム!」

「知らなければ問題ないじゃないの! 好き勝手言われてる事実が良くないの!」

 

 現代日本に生きる女の子がネット断ちをするだなんて無理な話!

 挙句の果てに、ネット上では晒し者にされ続けてるのを知っている今はなおさら無理だって! 見てないところで何言われてるか考えたら、不安で不安で仕方がないんだから。

 

「訴えたら絶対に私勝てるから。自信あるから」

「魔法少女に現行法は適用されないポム。対魔法少女特例法第三条より、市民のために活動している魔法少女には一部の法適用が免除されてるポム」

「ほんっと最悪! それって人を守るために物を壊したりしても、魔法少女は罪に問われないって目的で作られた法律だからね!」

 

 法解釈の悪用もいいところじゃん、必死に文面考えた人たちに謝れ!

 

「実際問題、私一人いなくなっても変わらないでしょ。世界中飛び回って活躍してるってわけじゃないんだから」

「それは……そうポムけど」

「私個人で守れる範囲なんてたかが知れてるんだから、引退したって」

「でも、美羽が倒してる魔人は他の魔法少女じゃ対応できないような奴らばかりポム! 世界の危機ポム!」

 

 まったく、困ったらすぐそれなんだから。

 大げさに言えば私が引き下がると思われてるのなら、本当に心外って感じ。

 私にだって当然反論はあるよ。

 

「毎回ポムムやお偉いさんはそういうけどさ、本当に強いの? 大体の魔人は殴ったら倒せてるよ?」

「それは美羽が強すぎるだけポム! もっと自分の凄さを自覚したほうがいいポム!」

「ほんとかなぁ……」

 

 同期の子たちからも散々言われていたけれども、私は自分の事をそんなに凄いとは思ってないんだよね。

 だって、他の子たちみたいにキラキラした魔法なんて使えないし。私にできるのは近づいて殴るだけ。魔法少女じゃなくてもはや物理少女だよ。少女の方ですら怪しい年になってきてるけれど。

 

 クリムセリアみたいに炎で龍を模れないし、セレネシアみたいに人々の心を落ち着かせることもできない。

 私はただ目の前に現れた敵を倒すことしかできない魔法少女だ。

 どう考えても、他に色々できる彼女たちの方が凄いに決まっている。

 

「……むむ! 美羽、魔人の気配がするポム!」

「ええっ! このタイミングで? 話を逸らすために嘘言ってるわけじゃないよね……?」

「本当だポム! 嘘じゃないポム! 急いで現場に向かうポム!」

 

 地球の危機だなんだと騒ぎ立てるポムムを一旦投げ捨てて、私はもう一度周りの状況を確認する。

 人目、なし。現場までの距離、良し。

 

「変身! ルミコーリア!」

 

 カバンから変身ステッキを取り出して、高く掲げながら宣言する。

 するりするりと私を纏う衣服が剥がれていって、代わりに滑らかな煌びやかな夜空の星を散りばめたようなドレスが現れる。

 

「うっ、くぅ」

 

 同時に、私の体が小さく小さく縮んでいく。十二歳の時、初めて魔法少女になった時の体まで戻される。

 体に巻き付くドレスは滑らかに広がり、有り余る袖の大きさが空の広さを表しているよう。

 黒に近い青色のドレスが私の身を包み込みきるころには、すっかり私は『ルミコーリア』へと変わっている。

 

「変身完了……。あぁ、本当にこの感覚慣れないなぁ」

 

 体が縮むっていう感覚は、なんか、こう、すごい。視線が低くなるから違和感も凄いし。

 この辺が魔法少女は続いて四年っていう基本に深くかかわってるんだろうなって思う。

 何より、フリルの付いた服は恥ずかしい。……我ながら、似合ってないわけじゃないんだけれど。

 

「ルミコーリア! 急ぐポム!」

「はいはい。それじゃ、ナビよろしくね!」

 

 ポムムを肩の上に乗せて、私は勢いよく地面を蹴り飛ばす。

 それだけで、ふわりと何もない青い空へと身が放り出される。

 魔法少女になると、普通の人と比べて身体能力が劇的に上昇する。加えて、(私はなぜか使えないけれど)魔法少女それぞれ固有の魔法を使えるようになる。

 

「あっちだポム!」

「りょーかい!」

 

 私は宙を蹴り、導かれるがままに新しく現れた魔人の方向へ急ぐ。

 この瞬間だけは、他では味わえない爽快感が味わえる。魔法少女の特権だと思う。

 まあ、すぐに現実に戻されるんだけれど……。

 

「見つけた」

 

 壊れた道路の真ん中で、暴れまわる異形の人型。魔人だ。

 魔人ってのは、よくわからないところからやってきて、暴れまわる迷惑な存在。時々魔獣っていう手下もつれているけれど、今回は一人みたい。

 こっちにはまだ気が付いてないみたい? そっと、離れたところに着地する。

 

「ゲハハハハハ! 恐れおののけ! これこそが三大極大魔人ゲリフリーダ様の力だ!」

「うわぁ……久しぶりに見た。自分の事なんちゃらかんちゃらっていう人」

「誰だ!?」

 

 あっ、気づかれちゃった。

 はぁ、じゃあ仕方がないよね。

 ここからは誰の目が有ってもおかしくないから……魔法少女モード、入ります。

 

「悪事はそこまでよ! それ以上の悪事は、魔法少女ルミコーリアが許さないんだから!」

「魔法少女か! よくぞ、俺の前に現れた! だが、少し遅かったようだな!」

 

 遅かった? まさか、人質か何かを取られてる……?

 

「既にこの世界に来てから準備運動は済んだ! 今の俺は、お前らでは勝ち目がないほどに全力だ。……見ていろ」

 

 何か攻撃が来るっ!?

 三大うんちゃらかんちゃらみたいな強そうな称号名乗ってたし、実は凄い奴なのかもしれない。

 

「これが、俺の力だっ!」

 

 ゲリ何とかはその場で短くポージングして、力んでみせた。

 それだけで周辺のアスファルトは砕け、その下の地面も露出し、破裂した水道管から水飛沫が上がる。

 電柱はへし折れ、電線を巻き込んで転倒していく。

 勢いが収まったと思えば、ゲリ何とかがいるところを中心に爆発が起こったかのような地形に変わってしまっていた。

 

「なっ、なっ、なっ……」

「くっくっく、軽く力を入れてみせただけでこれだ。どうだ、降参するなら今のうちだぞ、魔法少女。見たところお前は上玉のようだから――」

「戦いに関係ないところで町を壊すなーっ!」

 

 怒りに身を任せて、魔法少女ロールプレイも忘れたまま、私は全力で魔人の頭をステッキで殴り飛ばす。

 するとどうなるか。ぱぁんと風船でも弾けるかのように、魔人の頭ははじけ飛んでしまいました。

 頭部を失った魔人はその場で倒れ、ピクリとも動かない。

 

 はい。いつものことです。魔人は口では色々と騒いでいますが、叩けばはじけ飛ぶような雑魚ばっかりなのです。

 

「ああぁぁぁぁ……ここら周辺に住んでる方々ごめんなさい。さっさと倒しておけばよかったのにぃ……」

 

 人質の危険性だとか、人命第一だとか、印象だとか色々考えてしまったせいで被害が大きくなっちゃった。

 毎回毎回、魔法少女らしくないだとか、評判がどうのとか余計な事考える癖何とかしないと。

 

「流石ポム! ルミコーリアならどんな強敵が来ても楽勝ポム!」

「ポムム、今反省会してるから後にして……」

「いつものようにこの場でやってる余裕はないポム。早くしないと、人に囲まれて変身どころじゃなくなるポムよ」

「そうだった! 急いで離脱、離脱するよー!」

 

 ポムムを回収して、私は再び宙を駆ける。

 本当にもうヤダ。絶対、ぜったいに今年中に魔法少女辞めてやるんだから!

 こんな気苦労から解放されて、大学生活を満喫するんだからぁ!

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