成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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二十五話目 魔法少女は戦いたい

 ◇ ◇ ◇

 

 ついに、魔人と実戦の時が来ましたわ。

 あの日の後、平日でさえ特訓に付き合ってくださったルミコーリアには感謝しかありません。それだけ詰め込まなければならないということだったのかもしれません。

 おかげで、とにかく体が動くという感覚は掴みましたわ。

 

「プリズシスタ……本当に、大丈夫ですか?」

「トリムシスタ。これまでの特訓をご覧になったでしょう?」

 

 本当に厳しい特訓でした。

 とにかく体に叩きこむというルミコーリアの方針に文句を言うつもりはございませんが、本当に厳しい特訓でしたわ。

 あれだけやって、なおできないなら正真正銘才能がないという事なのでしょう。

 

「これでダメなら、諦めもつくというものです」

「お嬢様……」

「今はプリズシスタですわ、トリムシスタ」

 

 魔人がいつ来るかわからないという中でしたので、本当に短期間の詰め込みになりました。

 これより、その成果が発揮されます。

 

「トリムシスタ。武器を」

「――ご武運を」

 

 今回は、トリムシスタに手を出さないように言いつけてあります。

 本日は私が私を認めるための戦いなのですから。

 

 トリムシスタから、“武器”を受け取ります。

 これこそが、魔法少女の中でも直接戦闘向けの魔法が使えない魔法少女が魔人と戦う方法です。

 武器に魔力を流し込み、己の一部の延長線上とみなして戦うこと。

 思えば、ルミコーリアもステッキで殴ってるだけって仰ってましたものね。見たところルミコーリアの魔法は身体強化、直接魔人を叩くようなものではございません。

 

 わたくしが選んだ武器は刀。普段は木刀に偽装しているので、粗末なものですが。

 ルミコーリアからは、昔の知人を思い出すと言われましたわ。つまり、実績のある武器ということです。

 魔人には既存の装備は効きませんが、魔力を通せば話は変わるのだと。魔力を介在する媒介となる物体があればいいので、極論木刀や竹刀でもよいのですが、イメージのしやすさで魔力制御の精度は変わります。

 木刀で魔人と戦えるイメージが湧かなかった。それだけの事ですわね。何とも情けない話ですが。

 

「では、行ってまいります」

 

 刀を引き抜き、魔力を纏わせます。ルミコーリアに唯一まともに褒めて頂いたのは、魔力制御技術でした。

 今なら自信を持てます。これで切れない魔人はいないと。

 倒せないならば、わたくしの実力が不十分なのだと、きっぱり認められますわ。

 

 トリムシスタに見送られて、わたくしは走ります。

 少し走ると、魔人の姿を発見いたしました。

 

「そこの魔人! わたくしと戦いなさい!」

「――あぁん、随分と弱っちそうなのが来たな」

 

 喋った!?

 喋る魔人は知能が高く、厄介な存在ですわ。

 

「わたくしはプリズシスタ、あなたを倒す魔法少女ですわ!」

「そうかい。わざわざありがとよ。こっちは名乗る必要があるか? これから死ぬ奴相手に」

 

 ――名持ち(ネームド)

 冗談きついですわね。わたくしの初戦が、ネームド?

 どういたします? 撤退して、助けを呼びにいきますか?

 ただの魔人にすら全戦全敗でしたのに、戦えますの?

 

 顔には出しませんが、内心では冷汗がダラダラですわ。

 ネームドの強さに関しては、噂で耳にしております。通常の魔人を複数同時に相手にするよりも遥かに厳しいだとか。

 

 そんな相手を野放しにできますの?

 できるはずが、ありませんわ!

 

「――名乗りなさい、魔人! その名を覚えておいて差し上げます」

「……へぇ、弱っちい癖に面白い奴だ。いいぜ、そこまで言うなら名乗ってやろう」

 

 魔人から発せられる圧が増していくのを感じます。

 これは……これまでわたくしが破れてきた魔人の何倍も強いですわね。

 ルミコーリアに鍛えられたからこそ、より正確にわかります。わたくしと、目の前の魔人との間にある、隔絶した実力差が。

 

「俺は三大極大魔人、グリーマスケリアだ。あの世でお仲間によろしく言っといてくれ」

「あの世に行くのは、そちらですわ!」

 

 先手必勝あるのみ、強者を相手にするならば、油断を刈り取るべきですわ!

 刀に魔力を纏わせ、全力で踏み込みます。必要なのはイメージ、相手を一刀両断する――。

 

「その程度か?」

 

 ピタリと、止まってしまいます。

 固い? いいえ、弾かれてはいません。ただ、皮膚に触れて、食い込んで、なお切れない。

 相手は、防御をしたわけでもないというのに。

 魔力を纏わせて、なお魔人を切れないというのであれば、結論は一つですわ。ルミコーリアに教えていただきました。

 単純に、魔力量が足りていない。それはつまり、純粋な才能の差で圧倒的に劣っているという事だと。

 

「じゃあ、こっちからな」

 

 魔人は足をわざと見せつけるかのようにゆっくりと振り被りました。

 しまっ、一瞬呆けてしまったせいで――。

 

「がっ……!」

「おお、よく吹き飛ぶな。面白いぐらいに」

 

 まるで見えませんでした。分かるのは、蹴りが私の胴体に打ち込まれたということだけ。振りぬく動作はまるで、一瞬たりとも、捉えることができませんでした。

 今のわたくしはどうなってます? 空が見えます。地面に横たわっているのでしょう。動けますか? 直前でかろうじて魔力を集中させたので、何とか。

 

 状況を理解いたしました。蹴りを貰って、地面にバウンドして転がった。そんなところですわね。

 ――勝てますの? 本当に?

 

「おっ、直撃したと思ったが、動くのか。案外丈夫だな」

「ぐっ、まだ、負けてませんわ」

「本当か? 俺にはもう決着がついたと思うんだが」

 

 こちらの攻撃は通らなくて、向こうの攻撃は一撃食らうだけで致命傷。

 なるほど、絶望的というものですわね。

 そんなもの! 最初っからずっと味わってるんですのよ!

 

 震える足を動かして、その場になんとか立ち上がる。

 息を吐いて、新鮮な空気を肺に取り入れる。

 視界は良好、覚悟もできました、何か不足はありますの? あるわけないでしょう!

 

「トリムシスタ! 手出しは無用ですわよ!」

 

 どこかで見ているはずのあの子へ、きっと気が気でないあの子へ向けて叫びます。

 きっとあの子は今どこかで魔法を構えているはず。わたくしを救うために。

 そんな勝利は必要ありませんわ。そんな勝利では、ダメなのです。これまでと何が違うというのですか。

 

「――おい、何笑ってんだよ」

「わかりませんか? わかりませんよね、魔人ですもの」

 

 口角を上げて、わたくしは必死に笑顔を作ります。

 さぞかし不気味でしょうね、一見勝機のない戦いに気が狂ったとでも思われたかもしれません。

 

『笑いなよ』

 

 これは、ルミコーリアの教え。

 

『戦って、苦しいなら、笑うんだ。絶望的であるほど、笑うんだ』

『どうしてですの?』

『だって――』

 

 聞いた時、思わず吹き出してしまいましたわ。

 あまりに暴論でしたもの。

 

『――勝つ人物ってのは、いつも最終的に笑ってるものだからね』

 

 勝てる。わたくしは、勝てますわ。

 だって今も笑えていますもの。

 さあ、逆算しましょう。わたくしの勝利までの道のりを。

 ルミコーリアの教えを最大限活かしましょう。わたくしにできることを全て行いましょう。

 

「もう一度名乗りましょう、魔人グリーマスケリア」

「…………」

「わたくしの名前は、プリズシスタ。幻影の! プリズシスタですわ!」

 

 さあ、戦いましょう。

 お互いに手の内を晒して、全力で、全霊で、わたくしはあなたを倒します。

 

「――そこまで覚悟決めてんなら、上等だ」

「ええ、覚悟はガンギマリでしてよ」

「ちょっくら他の二人を倒した連中見て帰る予定だったが、気が変わった」

 

 まだ全力ではなかったのですね。さらに、この周辺空間を覆いつくすかのような圧が広がっていきます。

 でも、ちっとも怖くはありません。

 負けるイメージが、湧いてきませんもの。

 

「俺は三大極大魔人グリーマスケリア! “強靭なる”グリーマスケリアだ! プリズシスタ!」

「いざ! その首いただきますわ!」

 

 どうか、見ててくださいトリムシスタ。

 これこそが、私の初勝利だと、大金星を打ち上げて見せましょう。

 その過程がどれほど苦難に満ち溢れていたとしても、恐ろしくありません。

 最も恐ろしいのは、何一つ認められないわたくしに戻ることなのですから!

 

「わたくしの、魔法少女としての全てを懸けて! お前を討ち果たします!」

「やってみろ! そしてかかってこい。俺を楽しませろ、幻影のプリズシスタァ!」

 

 魔人が咆哮し、わたくしは再び刀を構え――もう一度距離を詰めるべく踏み込むのでした。

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