成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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三十話目 魔法少女は紛らわしたい

 とりあえず、出かけると決まったなら髪を乾かそう。さっきは面倒くさかったけど、理由があるならやらないとね。

 一緒に簡単に化粧もしてから、彩花に言わせれば、花がないと言われるようなシンプルな服装に身を包む。

 最後にいつもの肩掛けカバンの中に、変身ステッキを忍ばせて、準備は完了だ。

 これもまた、彩花に言わせれば、色々と足りてないって言われるんだろうけれど。

 

 スマホを開いて、時間を確認する。うん、約束の時間には余裕をもって間に合いそう。

 彩花は大体約束の時間の五分前には現場にいるから、それに合わせて動く予定で――。

 なんて、考えてたらインターホンが鳴らされる。誰だろう、宅配、なんて頼んでないよね。

 

 玄関の扉前から、ドアスコープを覗いてみれば、そこには彩花が手を振って立っていた。

 急いで扉を開ける。

 

「ちょ、ちょっと!」

「やっほ~。来ちゃった」

「来ちゃったって……」

「お邪魔しまーす、久しぶりだね、美羽の家に来るのは」

 

 入っていいとも言ってないのに、ずかずかと入り込んでくる。

 この辺りが彩花だよねぇ……。

 

「遊びに行くって話じゃなかったっけ? あれ、集合場所の指定あったよね?」

「うん。ただまあ、散歩してたら近くまできたから、せっかくだからさ」

 

 せっかくだからさって。まあ、いいけどさ。

 

「それよりも、また嫌な夢を見たの?」

「……なんで」

「シャワー、浴びてたでしょ。見れば分かるよ。前に教えてくれたじゃん、嫌なことがあると、シャワーで洗い流すんだって」

 

 目ざといなぁ。こうなると、来てくれたのも偶然とは思えなくなっちゃうのが、この子の怖いところ。

 流石に偶然だとは思うけどね? じゃないと、私は部屋の中に盗聴器や監視カメラが隠されてないか探す羽目になる。

 

「そんな調子で、すぐに遊びに行く気分にもならないでしょ?」

「ん、まあね」

「じゃあ、少しだけおしゃべりしてからにしようよー。歩くの疲れたし」

「そんなに歩いてないでしょ」

「あっ、バレた?」

 

 勝手に上がり込んで、勝手に床置きのテーブルの前に座り込むものだから、仕方がなく私も続く。

 きょろきょろと周囲を見回しては、相変わらず殺風景だねと言われる。ほっとけ!

 

「それで、どうしたの。最近はさっぱりだったのに」

「なんでわかるの」

「そんなの、美羽の顔色を見ればわかるよ。いい加減自分が顔に出るタイプって自覚しなー」

 

 うぅ、そんなに顔に出てるのかな。

 思わず頬に手を当ててぐにぐに動かしてみるけれど、よくわからなかった。

 そんな私の奇行に興味はないのか、彩花はスマホを弄ってる。ちょっと?

 

「んー、私で良ければ聞くけど?」

「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

「本当? それとも、私が来て少しだけ気分が和んだとか?」

「……ちょっとね」

 

 少し賑やかになって、気が紛れたのは本当。

 はぁーああ。かなわないなぁ。

 

「もうちょっと賑やかしてあげようか?」

「どういうこと。何をする気なの?」

 

 もう少し賑やかに、ってどういうことなの。

 疑問を明らかにすると、彩花はスマホの画面をぐいっとこちらへ見せつけてくる。

 何々。チャット履歴だね。相手は――。

 

「美羽さん! 具合が悪いって大丈夫ですか!」

 

 玄関の扉が、勢いよく開けられた。響いてくるのは芹香ちゃんの声。

 彩花はけらけら笑ってる。

 

「……彩花?」

「あっはっはっは! いやいや、ちょっと呼んでみただけだよ」

「呼んでみただけだよって、私芹香ちゃんに住所を教えたことないんだけど」

 

 暗に、勝手に住所教えたな? って責めると、彩花の笑いが凍り付く。

 

「え?」

「え?」

 

 え? なんでそんな顔してるの。

 

「私はただ、美羽が元気ないから、近くにいるなら来な~って連絡しただけだけど……」

 

 彩花からスマホを奪って、画面に映ってるチャット履歴を確認する。

 ……嘘は、言ってない。どこにも、私の住所の文面はなかった。

 

「美羽さん? 入っていいですかー?」

「え? あ、うん、どうぞ……」

 

 じゃあ、何で芹香ちゃんは私の家を知ってるの?

 ちょっとだけ背筋がぞっとした。確かに近所ではあるけどさ?

 どうやって、特定したの? 前もこんなことあった気がするけど?

 

 部屋に入ってきた芹香ちゃんは全然なんて事ない表情で、普通に座ってる私を見てホッと胸を撫でおろしてくれた様子が、さらに恐怖心を煽る。

 聞け……ないよね。

 うん、気が付かなかったことにしよう。

 

「ちょっと、全然大丈夫そうじゃないですか」

「えー? そうかなぁ。ま、付き合いがまだまだ短いお弟子様にはそう見えるかぁ」

「は?」

 

 煽るな煽るな。そしてよくわからない煽りに芹香ちゃんも乗るな。

 明らかに不機嫌になった芹香ちゃんはずかずかと入ってきて、頬を膨らませながらもテーブル近くに座った。

 ううん、賑やかには、なったけど。

 ちらっと彩花を見たら満足そうに笑ってた。悪い子だぁ。

 

「二人はいつ連絡先交換したの?」

「ん? いや、この子が大学来て、美羽を探してたことがあったからさ」

「はい、その時にも散々からかわれました」

 

 余計にむすっとしちゃった。はい、そこ声出して笑うんじゃないの、中学生相手に大人げない。

 

「まあまあ。少しからかったら、すっかり不貞腐れちゃったからさ。お詫びとして、美羽の昔話をしてあげるって条件で和解したんだよ」

「ちょっと?」

「はい。私と同じころのルミコーリアのお話が聞けたのは良かったです」

「ちょっと???」

 

 確かに、魔法少女として活動し始めて、最初に接触したのは彩花だから、詳しいのは分かるよ?

 でもなんで人の許可なくそういう事話すのかなぁ! いや、まあ、別に何らかの法に触れるわけじゃないけどさ!

 住所の事といい、ひょっとして私のプライベート筒抜けか?

 怒りはしないけどさ???

 

「でも、これが美羽さんのお部屋なんですね……」

「君たちやること同じだねぇ……」

「えっ、じゃあ見るの止めます」

「その対抗意識燃やす余裕があるなら、もっとアピールするべきだと思うなお姉さんは」

「あなたがお姉さんぶらないでください!」

 

 ころりころりと表情が変わる芹香ちゃんを見ていると、不思議と段々と笑えてきた。

 少しだけ口もとが緩むのと同時に、こちらへウインクして見せる彩花と視線が合う。

 ……本当にこの子はさぁ。なんだかなぁ。

 

「それじゃあ、元気も戻ったみたいだし、遊びに行く?」

「そうだね。少しは気分も晴れたかな」

 

 立ち上がって、軽く体を動かす。彩花も同じことをしてる。

 お互いに見合って、軽く笑いあった。

 

「え? 美羽さんどこかに遊びに行っちゃうんですか?」

 

 あー、そっか。芹香ちゃんは私が元気ないって聞いて来てくれただけだもんね。

 置いてくのも気分が悪いなぁ。

 

「ねぇ、彩花」

「んー、美羽がそうしたいならいいんじゃない? 私は構わないよ」

「ありがと」

 

 せっかく来たのに……って、しゅんとしてる芹香ちゃんに手を差し伸べる。

 

「芹香ちゃんさえよければ、一緒に遊びに行かない?」

「――っ! 行きます行きます! ついていきます!」

 

 元気に飛び跳ねるようにして立ち上がる。その勢いのまま玄関に向かって早く早くと急かしてくる。

 その様子に、私はまた笑っちゃう。本当に元気で、いいことだと思う。

 

「ていうか、彩花ちゃんは休みの日なのに朝早いねぇ」

「え? 起きてると思ったから連絡くれたんじゃなかったんですか?」

「いや、寝てたら起きた後に、『あーあ、絶好の機会逃しちゃったね』って言ってあげようかと」

「酷い! 美羽さんこの人酷い人です!」

 

 一足先に玄関に向かった彩花と芹香ちゃんの楽し気なやり取りが聞こえてくる。

 ふと、気になって後ろを見る。そこには当然、誰もいない。

 窓の外からは、カーテンの隙間から朝日が部屋の中に注がれている。

 

 ……ずきりと胸の奥が痛む。一度見てしまった以上、しばらくは引きずりそうかな。

 でも、彩花と芹香ちゃんのおかげで、少しだけ元気になれた。

 なら、今はこの楽しい思いに身を任せてもいいよね。

 過去も魔法少女の事も、忘れてしまって。

 

「――二人とも、喧嘩しないの」

 

 えー、と文句を言う芹香ちゃんを窘めながら、私たちは玄関を出る。

 戸締りをしっかりと確認する。芹香ちゃんにはなぜか合いかぎを求められ、彩花がそれをからかって遊ぶ。

 人といるからか、思った以上に夢を見たショックは薄れてる。

 口に出すのは恥ずかしいから、心の底で二人に感謝の言葉を言いながら、私は二人の口論を終わらせて、どこへ遊びに行こうかと話題を提供することにした。

 

 きっと今日の夜にはまた見るであろう夢の事を、今だけは忘れよう。

 私は、きっと、悪くない。

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