成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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三十四話目 魔法少女は救いたい

 ◇ ◇ ◇

 

 やばそう。

 ここ数週間、美羽さんと密接に関わってみた感想がこれ。

 

 事あるごとにぼーっとしてるし、時々発作みたいに顔色が悪くなる。

 でも、私が現れると、何事もなかったかのように取り繕う。

 笑わせようとしても、どうにも楽しんでもらいきれてなさそう。

 

 私は美羽さんみたいに、相手の気持ちを考えることが得意じゃないから、どんな気持ちでいるのかはわからない。

 わからない、のに、どんどん遠いところを見るようになっているのだけ分かる。

 このままだと、ふとした拍子に消えてしまいそうな気がする。

 本当に、本能的な漠然とした焦りばっかりが、私の胸の中で渦巻いてる。

 

 いてもたってもいられなくなって、気が付くと、私は自然と交換した連絡先に電話をかけてた。

 今が夜の何時だとか、相手の都合とかも考えるのも忘れてたぐらいに。

 運が良かったのか、電話には出てくれたけれど。

 

「どうすればいいですか」

『あっはっは、開口一番がそれ? 何を言いたいのかはわかるけどさ』

「すっごい嫌ですけど、美羽さんについて一番詳しいのはあなたです。教えてください」

 

 私が電話をしたのは、当然彩花さん。

 言われた通りに過ごして、よーくわかった。

 この人は、明確に私に何かをやらせようとしているって。

 

「最初から目論見通りなんですよね。美羽さんから魔法少女を奪って、私に美羽さんの日常を把握させて、何をさせようっていうんですか」

『……あの子は自分の話をあんまりしようとしないからねぇ。どうだった? 幻滅した?』

「するわけないじゃないですか!」

 

 むしろ、どうしてあんな状況で魔法少女を続けられたのか、不思議なぐらい。

 最初は、魔法少女として優しくて周りをよく見てる凄い人だって思ってた。それが、日常生活にも現れてるんだって。

 何もかもが違った。美羽さんは周りをよく見てるんじゃない。見てるところが他にないんだって。

 視界の中に、美羽さん自身が入ってそうで入ってない。

 

 この数日の、ぼーっとしてる美羽さんを見てると胸が苦しくなる。

 何かしたい、してあげたい。

 私にできる恩返しを、あの人に。

 

「どうして、あんな状態になってるんですか」

『それは違うよ。あれが素なんだ』

「あれが、素?」

 

 あんな、ぼーっとしてて、寂しそうで、でも話しかけるとすぐに全部隠してしまう。あの姿が?

 そんなの、どんな風に生きてきたら、そんな風になっちゃうの。

 なんでそんな状況なのに、あの人は私たちに優しくいられるの。

 

『美羽はね、ちょっと過去の出来事から自分の事を考えたくないって思ってる。そのくせ、居場所が欲しいとも願ってる。だから、何もすることがないと、自己矛盾に苛まれるんだ。自分で自分を認められないくせに、誰かには認めてほしいと願ってるんだから』

「それがわかってるなら、どうして!」

『どうしてもこうも、必要だからだよ。――ルミコーリアが輝くために』

 

 意味が分からない。

 この人は、本当に何がしたいの? 美羽さんを追い詰めて、必要だから?

 ぎゅっと拳を握りしめる。

 

「……あなたは、何がしたいんですか」

『私の目的は、昔から何一つして変わらない。あの子をポラリスに仕立て上げる。迷う人皆が仰ぎ見る、夜空に輝く象徴に』

「ポラリスって、なんですか?」

『中学生は知らないか。北極星の事だよ』

 

 北極星は夜空に輝く星々の中でも、唯一、一夜を通して動かない星。旅人たちは、古くから北極星の位置を見て、方角を知ってたんだって。

 そこまで言われれば、私にだってわかる。

 この人は美羽さんを、ルミコーリアを、魔法少女の象徴にしたいんだ。

 

『でも、残念ながら眩しすぎる星は人の目を潰してしまうみたいでね。あの子は国の手によって、存在を隠され続けてきた』

「それで、私があれだけ日夜アピールしても上手くいかなかったんですか!」

『そうだね』

 

 テレビとかで熱々ルミコーリア話を披露したりしたのに!

 インタビューでも絶対にルミコーリアを語る時間を設けてもらったりしたのに!

 全部カットされてたのってそういう事だったの!?

 

『最初のが上手くいったのは、クリムセリアのイメージダウンがあまりにまずかったからだよ。残念だったね』

「うぐぐ……」

 

 こんなところで裏事情を教えてもらって悔しい。

 イメージ戦略もお国の人たちからの案内だし、そりゃ介入されたら無理ですよ!

 

「……でも、わかりました。改めて、何をすればいいですか」

『うん? 私を責めないんだ』

「責めても躱すつもりですよね?」

『まあそうだけど』

 

 あまりにもわかりきってる無駄なことはしない。

 どうせ、適当なことを言ってもこの人にからかわれるだけだから。

 そんなことよりも大事なことがある。

 

「それに、ルミコーリアに、有名になってもらいたい。その考えは、私も同じです」

 

 まだ、美羽さんは報われてない。報われて欲しい。

 居場所が欲しいのなら、作ってあげたい。これまであなたはこれだけのものを救ってきたんだって。

 自分を認められないのなら、称賛の声で埋め尽くして上げたい。あなたは本当の魔法少女なんだって。

 

『いい覚悟だね。じゃあ、さっそくやってもらいたいことがあるんだけど、いいかな?』

「それが、美羽さんのためになるのなら」

 

 この人のやり方は好きじゃない。

 美羽さんのためと言いながら、平気で美羽さんを傷つけてる。

 好きには絶対になれない。なんなら嫌いと言い張れる。そのうえで味方だとは言い切れる。

 美羽さんを幸せにするために、この人はすごい役に立つ。

 

 ああ、私、悪い子だ。わかってて悪いことをする、悪い子だ。

 この人に従えば、美羽さんはまた傷つくはず。なのに、それを受け入れてる。

 それが嫌だって思うのなら! 他の方法を思いつけ!

 思いつかないのなら! 背負う覚悟を決めるんだ! あの日、魔法少女として戦い続ける覚悟が決まった瞬間のように!

 

 言葉にはしませんでしたが、まるで聞こえていたかのように、上機嫌な声が聞こえてくる。

 

『いいね。それだけ熱量があるのなら、芹香ちゃんを信用して、私も隠してることを話そうと思う』

「信じませんよ」

『構わないよ。でも、環ちゃんは知りたがるんじゃないかな? ――予想の通り、私は非正規魔法少女だよ』

 

 ほんっとうにこの人は。どこまで私たちの事を知ってるの?

 予想はしてたから、驚かないけども。

 

『魔法の力を使って、ちょっとばかし、君たちよりも多くの事を私は知ってる。そのうえで結論を言うと、私たちの置かれてる状況はあんまりよくない』

「……どうすればいいんですか」

『やってほしいことはまだ幾つかあるけれど、前に頼んだことは引き続き守ってほしい』

「美羽さんの近くにいて、変身させないことですよね」

『そうだね。申し訳ないけれど、美羽には自分で気が付いてもらわないといけないことが多すぎる』

 

 手のかかる子だと、おどけてるけれど、声は全く笑ってない。

 ……ふと思ったけれど、この人は美羽さんの事を八年間見てきたんだよね。

 その時から、ずっと同じことを考えてたのなら、どんな気持ちだったんだろう。

 想像もできない。でも、堪えきれないぐらいのもどかしさだけは分かる気がした。

 

『芹香ちゃんは今度の土曜日の予定を空けられるかな? 付き合ってもらいたい場所があるんだ』

「どこかへ出かける予定なんですか?」

『うん。今後、美羽と付き合うなら、知っておくべきことが幾つかあってね。それを教えたいんだ』

 

 美羽さんと付き合うのに、必要なこと。

 この人がいうのなら、本当に必要なことだとは思う。

 

「……わかりました」

『すっごい嫌々って声だね』

「当たり前じゃないですか。美羽さんが苦しんでて、良い顔なんてできませんよ」

『幸せものだねぇ、美羽は』

 

 やっぱり、この人は美羽さんに興味があるわけじゃなさそう。

 この人にとって大事なのは、ルミコーリアなんだ。

 協力はする。でも、私は絶対に美羽さんを幸せにする。

 これはその過程、必要だから手を貸すだけ。

 

 ごめんなさい。美羽さん。

 待っててください。もう、そんな困った笑顔させませんから。

 

「で、どこなんですか?」

『児童養護施設。もうちょっと平たく言えば、美羽の育った場所かな』

 

 そのためならば、私は毒だって飲み込んでみせます。

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