成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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三十五話目 魔法少女は戻りたい

「やあやあ、ご機嫌斜めだね」

「……美羽さんのあの様子を見せられて、ご機嫌な方がおかしいと思います」

「あはは、そりゃそうだ。それじゃ、行こうか」

 

 待ち合わせ場所で彩花さんと合流しました。

 こんな時でもニコニコしてるだなんて、やっぱりこの人嫌い。

 美羽さん可哀そう。こんな頭おかしい人に付きまとわれて。

 

「少し歩くし、昔話でもしようか、せっかくだから」

「何の話ですか」

「魔法少女の昔について。興味あるでしょ?」

 

 興味はあるけど、あるけど!

 目的が分からないのがすっごい不気味。

 これを教えてくれるのも、きっと、思い通りに私を動かすためだと思うから。

 

 表情を見ても、本当にニコニコ笑ってて、凄い胡散臭い。詐欺師ってこういう人なんだろうなぁ。

 小学校の時に、不審者は笑顔で近づいてくるって言われてピンとこなかったけれど、今ならわかる気がする。

 この人は明らかに不審者側だよ。

 通報したら逮捕されてくれないかな。

 

 ああ、この人に従わないといけないってのが本当に悔しい。

 あと八年早く生まれてれば、私も同じ立場になれたのに……。

 

「魔人被害について知識はどのぐらいある?」

「私たちが負けたら、そういうことも起こるって」

「最近は魔法少女も増えたし、避難誘導も最適化されてきたからねぇ。今となっては、ネットもヒーローショー気分だ。寂しいよ。みんながみんな、魔人への恐怖を忘れかけてる」

 

 歩きながら、ちらりと顔色を見てみる。

 少しだけ、寂しそうな表情してる。

 美羽さんが時々する、どこか遠くを見る眼をこの人もしてる。

 少しだけ気まずい。

 

「昔は魔法少女が駆け付けるまでに時間がかかってたし、魔法庁もなかった。魔人による人死にが多かったんだよね」

「そう、なんですね」

「魔法少女が助けてくれるだなんて、信じてる人の方が少なかった時代もあったんだよ」

 

 聞かされても、今しか知らない私は想像もできない。

 みんな魔法少女を求めてくれてるし、私なんて写真集とかテレビとか雑誌で散々引っ張り回されているから。

 私が知ってる魔法少女は、凄く当たり前にあるもの。

 魔人が襲ってきた時に、魔法少女が助けてくれないなんて、想像もできない。

 

「十年前に魔法庁が作られて、国が魔法少女を承認したんだ。そこから、風向きが大きく変わったかな」

「昔は魔法少女への風当たりが強かったんですか?」

「一時期は酷かったね。私も幼かったから全部覚えてるわけじゃないけど、助けてくれた魔法少女への恐怖や偏見が凄かった。魔人被害に関しても、憶測が飛び交ってた」

 

 あれ、でも美羽さんも彩花さんも、魔法少女になったのは八年前だよね?

 十年前で変わったっていうのなら、どうしてその前の事を知ってるんだろう。

 彩花さんはどこか懐かしむように、大切な思い出を語ってる感じで、悪いことを思い出してる感じじゃなかった。

 余計に、わからない。

 

「美羽はその被害者なんだよね。そういった、時代の境目の」

「え?」

「ほら、あそこの角を曲がったところにある児童養護施設が、美羽が育った施設だよ」

 

 誤魔化された気がする。

 でも、これ以上は聞いても答えてくれなさそう。

 仕方がなく、視線を言われた方へ向けると、少し古びた感じの、いかにも予算が多くありませんって感じの施設があった。

 

 こうして目の前までくると、罪悪感が押し寄せてくる。ぐるぐると胸の奥でドロドロしたものが、心を覆い隠すみたい。

 ……美羽さん、ごめんなさい。

 今から私は、あなたが隠していたものを、教えないと決めたものを、無理やり暴きます。

 でも、この向こうにあなたが遠慮なく笑える未来があるのなら、私は進みます。

 

「どうもー! お久しぶりです」

「ちょ、ちょっと。勝手に入っていいんですか!」

「大丈夫大丈夫。事前連絡は入れてあるから」

 

 彩花さんは施設の入り口を開けて、平気で入っていく。

 こういうのって施設の人が開けてくれるまで待つんじゃないの!?

 施設の人かな? 声を聴いて、ひょっこりとお母さんぐらいの年の女の人が出てきてくれた。

 

「彩花ちゃんこんにちは! そっちの子が話にあった子?」

「そうそう。親戚の子」

「えっ」

 

 この人、何当然のことみたいに嘘ついてるの!?

 視線で話を合わせろって言われてる。うう、どんどん悪いことが積み重なってるよ……。

 

「学校の課題で調べものなんて、偉いねぇ」

「あははは、ありがとうございます」

 

 笑うしかないよ。

 まさか、クリムセリアとしてテレビとかに出てる経験がこんなところで活きるだなんて。

 困っても自然に笑えるようになってて良かった。

 騙してごめんなさい。ほんっとうにごめんなさい。

 この悪い人に大人しくついてきちゃって本当にごめんなさい。

 

「十年前ぐらい前のかな? 魔法少女についての歴史を調べてるみたいでさ」

「……あの子の話を聞きたいってこと?」

「そう。この孤児院では魔人被害で生まれた孤児を引き取ってたでしょ? その子たちについて話してほしいなって」

 

 明るく話している声が、途端に遠くなった気がした。

 施設の人も、どこか暗い表情をしてる。あんまり、話したい話題じゃなさそう。

 そっか、そうなんだ。魔人のせいで、お父さんお母さんがいなくなることも、あるんだ。

 

 魔法少女が辛いってなってた時に、想像したことはあったけれど。

 現実問題目の前に渡されるのとでは、やっぱり重みが違うや。

 ふと、廊下の奥からこっちを見てきてる子と目が合った。

 すぐに隠れちゃったけど、私よりもよっぽど幼い子がいた。

 

 胸の奥が痛い。私がどれだけ恵まれているのか、改めて見せつけられているみたい。

 

「ごめんなさい、あの子の事はまだ得意じゃなくて」

「もう施設を出たんでしょ? 連絡先も知らないし」

「でも、当時八歳の子だったのよ? 親が殺された直後だっていうのに、あんなに落ち着いてる子は見たことないわ」

 

 色々な考えでぐちゃぐちゃになりかけた頭の中で、辛うじて、耳だけは動いてくれてる。

 世間話に聞こえるそれは、多分私も知ってる人の話。彩花さんが話題にしたってことは、無駄話じゃないと思う。

 でも、私が知ってる人とは到底結びつかない内容で。

 いや、結びつけたくない話で。

 

「……本当は、あんまり話したくもないの。その、いっぱい寄付をしてくれてる彩花ちゃんだから」

「うん、無理を言ってごめんなさい。他のところには断られちゃって。受けてくれて、凄い助かってます」

「いいえ。そろそろ、私も整理しないといけないことだと思ってたから、ちょうど良かったわ」

 

 彩花さん、施設に寄付なんてしてるんだ。

 そういう人には見えないけど。

 

「今はいい時代だよね。魔法少女が認められて、魔人は消えてはくれてないけど、被害を受ける人も減った」

「そう、ね。ここが魔人に襲われたとき、もう駄目だと思ったもの」

「襲われたことが、あるんですか?」

 

 思わず口を挟んじゃった。しまったと思ったけれど、二人の視線が私の方へ向いて、遅いことを理解する。

 でも、魔人に施設が襲われたって。今より魔法少女が少ない時代だったって聞いたのに。

 子供たちに被害は、出なかったのかな。

 

「ええ、ちょうど八年前かしら。ここが魔人に襲われたことがあるの。運よく、魔法少女がすぐに来てくれたから被害は出なかったんだけど……」

 

 ほっと一息入れて、すぐに気が付く。

 八年前。当時、美羽さんは十二歳。魔法少女になれるのは、十二歳のとき。

 さっき話題に上がってた子が、この施設に入ったのは八歳のとき。

 もし、さっき話してた子が、美羽さんのことなら――。

 

「その、あの」

「ん? どうかしたかしら」

「その魔法少女が現れた時、さっき話してた、魔人に両親が殺されちゃった子って、どうしてましたか?」

 

 私は自分で選んで魔法少女になった。自分で選んだって、自覚がある。

 じゃあ、美羽さんはどうだったの?

 まだ確定じゃないけど、本当は信じたくないけど。この悪い人が、わざわざ私を呼びよせてまで、無意味なことはしないって信じてる。

 

「……子供を集めて避難しようとしてたところで、あの子がいないことに気が付いたの。施設の中を探してるうちに、魔人が敷地内に入ってきて、どうしようってなってた時に、魔法少女が来てくれたの」

 

 そして、一撃で魔人を倒して、そのまま魔法少女はそっと姿を消した。

 少し遅れて、部屋の一つで隠れてる子を見つけた、みたい。

 間違いなく、美羽さんが魔法少女になった時の話だ。

 

 よーく考えて、罪悪感に押しつぶされないで。

 この話は、間違いなく美羽さんの話だから。なら、どうして彩花さんは嘘をついてまで私のこの話を聞かせてるの?

 この話を聞いて、私はどうするべきなの? 考えないといけない。

 

 ――視界の端で、彩花さんが口元を大きく歪めてた。

 

 リビングに到着して、机の前まで来たところで、唐突に彩花さんが一歩私たちから離れた。

 

「これ以上の立ち話は何ですし、二人はゆっくりと話をしててください。私はいつも通り、外で施設の子供たちと遊んでますから」

「えっ」

「芹香ちゃん。このお姉さんの話をしっかり聞くんだよ」

「ええっ!」

 

 いや、ウインクされても。

 え、え、え。今放り出されても困る。すっごい、困る。

 呼び止めようとしても、あまりにも早く離れていくものだから、声をかけることもできなくて。

 

 えっ、えーっ!? 本当に何がしたいのあの人。

 話を聞かせるだけ聞かせて、どっか行くなんて。何か目的があるのなら、もうちょっと丁寧に面倒みてよ!

 

「……え、えーと」

「相変わらず酷い子ね。それじゃあ、座りましょうか。芹香ちゃんは飲み物はお茶でも大丈夫?」

「あ、はい。お願いします……」

 

 あの人の奇妙な行動はいつもの事みたいで、施設の人は落ち着いた様子だった。

 優しく微笑まれて、私はそっと椅子に座る。

 一瞬静かになったからか、施設の子供たちの声が響いてるのが聞こえてきた。

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