成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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あれ、三十六話? って思われたかもしれませんが、三章の構築がちょっと気に入らなくなったので昨日書き直しつつ調整してました。その際に一話丸々消し飛ばしたので話数がずれてます。
よって、ニ十九話から三十五話まで、話の大筋は変えずに、内容に調整加えてます。


三十六話目 魔法少女は考えたい

「彩花ちゃんは二年ぐらい前からこの施設に寄付してくれていてねぇ。その前々から子供たちの面倒を見に来てくれてたんだけれど」

「そうなんですね……」

 

 どうしよう。何をしよう。

 あわわわ。勝手がわからないところでほっぽりだすの本当に人の心ないよ。

 

「それで、あの子の話を聞きたいんだったわね」

「はい。その、昔は魔人被害がよくあることだったんですか?」

 

 取りあえず、話を繋げよう。

 うん。あの人は後で文句を言うとして、今は目の前のことに集中しなくちゃ。

 美羽さんについて、なるべく多くの事を知ろう。

 

「この施設にいた子で魔人被害で孤児になった子は、あの子だけね。でも、全国レベルで見れば、それなりの数はいたと思う」

「そう、なんですね。魔法少女は、いなかったんですか?」

「昔はそうね。十年前に魔法庁ができてから、少しずつ表舞台に出てこれたけれど、その前は魔法少女も表向きには噂話程度の存在でしかなかったもの。今みたいに真っ当に表で活動してくれるようになったのは、五年前ぐらいかしら」

 

 やっぱり、そうなんだ。彩花さんが話してたことと同じ内容だ。

 本当に、今みたいになったのは最近の事なんだ。

 

「ありがとうございます。それで、魔人被害に遭った子は、どんな子だったんですか」

「……あんまりこういうことは言いたくないのだけれど、本当にご両親を亡くしたのかと疑うぐらい明るい子だったわ」

「え?」

 

 一瞬だけ、何を言われたのかわからなかった。

 お父さんお母さんがいなくなったのに、明るかった? 美羽さんが?

 

「普通、ご両親がいなくなった子は、少なからず取り乱すものなの。それが、あの子は粛々と受け入れるようにふるまっていて、不気味な子だったわ」

 

 心臓の動きが激しくなってるのが、胸に手を当てなくても分かる。

 頭の中に思い浮かんでるのは、美羽さんの笑う顔。どんなにぼーっとしてる時でも、私が話しかけると何事もなかったかのように笑ってくれる。

 やっぱり、あの笑顔は、私に会えて嬉しいとかそういう笑顔じゃなくて、私に心配させないための笑顔だったんだ。

 

 口の中に溜まってた唾を飲み込む。

 ドロドロとした感情が、渦巻いてるのが分かる。

 一体、どれだけ。どんな気持ちで、私たちの面倒を見てくれていたんだろう。

 

「……その子は、施設に馴染めていたんですか?」

 

 そうだったのなら、せめて、なんて考えは甘いのかもしれない。

 でも、望まないでいられない。

 だって、だって、そんなのあまりにも酷すぎる。

 

「馴染めていたかというと、正直にいえば、いいえ、ね」

「~~っ!」

 

 声が出ない。

 私の声にならない悲鳴はどこへも響かず、目の前の職員さんはぽつりぽつりと続きを話す。

 

「今となってはそんなことないってわかるのだけれど。当時はまだ魔人やその被害に遭った子たちへの偏見が拭えてなくて。情けない話だけれど、私もその偏見に囚われてた一人だったの」

「その偏見と、いうのは」

 

 ゆっくりと職員さんの口が開く。

 視線が釘付けになる。

 放たれる言葉を、聞きたいけど聞きたくない。

 

「――魔人を呼ぶ忌み子。不幸を呼ぶ子として、あの子は孤立していたわ」

 

 咄嗟に下を向く。今の顔を、職員さんに見られたくなかったから。

 何それ。何それ何それ何それ。

 そんなのが許されるの? 許されていいの?

 

 あの人は、美羽さんは――ああ、だから、あんな顔を平気でするんだ。

 普通が、本当の意味でわかってないから。どうすればいいのか、わからないんだ。

 思えば、美羽さんから具体的に何がしたいって、聞いたことないかも。

 彼氏が欲しいとか、普通の青春を送りたいとは言ってたけど……何をするかまで、言ってたことあったっけ?

 ああ、やっぱり、わからないんだ。普通を求めてるのに、普通がわからない。歪な、人。

 

「頭がいい子だったんでしょうね。常に、一定の距離を保ちながら、立ち回る子だったわ。相手が何を欲しがっているか、どうするのか常に考えて、先回りするような子だった」

 

 今の美羽さんもそうだ。私の時はよくわからなかったけど、環さんの時の様子を見てると分かる。

 環さんがどうしたいのか考えて、そのうえで、次にどうするのかまで見通して、事前に話を通してた。

 聞いてた話と、今聞いている話が、綺麗に繋がってる。

 

「私たちはあの子に一定の距離を保ったまま、五年間この施設で一緒に暮らしたの。その後、突然あの子は姿を消したわ」

「――え?」

 

 顔を上げる。職員さんは、今にも罪悪感に押しつぶされそうなほど、顔色が悪かった。

 

「もちろん、捜索はしたわ。でも、お国からそれ以上の捜索は止めるように連絡が来て、それっきり」

 

 触れてはならないものだったんだと、自分を納得させて忘れることにしたんだって、職員さんは締めくくった。

 これを聞いて、私はどうすればいいの?

 美羽さんが辛い目にあってきたのは分かった。美羽さんがあんな顔をする理由もわかった。

 でも、私に何かできるの? 昔を知らない、ただの中学生が、何かしてあげられるの?

 

 きっと、美羽さんは魔法少女になってから、国の人と結びついて働いてきたんだ。

 誰かのために動いてきた美羽さんは、自分のために何をすればいいのかわからない。

 形にしてみると信じられないような言葉だけれど、不自然なぐらいしっくりときちゃう。

 

 重い沈黙。外から聞こえる子供の笑い声が、辛うじて私たちの呼吸を許してくれてる。

 

「……お話、ありがとうございました」

「いえ、私こそ、聞いてくれてありがとう。身勝手だとは思ってるのだけれど、少しだけ、軽くなった気分だわ」

 

 この人が、悪いわけじゃない。

 きっと、誰が悪いわけじゃない。

 時代が悪かった。本当に、そういう事になっちゃうんだと思う。

 それでいいの? 納得できるの?

 できる、はずがない。

 

 今すぐ、彩花さんと話さないと。

 向き合う覚悟を決めないと。

 

「彩花さんはどのあたりにいるんでしょう」

「彩花ちゃんなら、多分外で子供たちと遊んでくれてると思うわ。あの子は来てくれた時にはいつもそうしてくれてるから」

「ありがとうございます。では、お話ありがとうございました」

 

 椅子から降りて、一礼をしてからすぐに彩花さんを探しに行く。

 幸いにも、外に出て子供たちに囲まれてるところをすぐに見つけられた。

 あの人は目ざとくも建物から出てきた私をすぐに見つけて、笑顔を向けてくる。

 

「彩花さん!」

「よーしよーし。みんなちょっとごめんね。いったん中断」

「「「えー?」」」

「あはは。それで、どうかした? 芹香ちゃん」

 

 不自然なぐらい子供たちに好かれてる。私よりもちっちゃい、幼稚園から小学生ぐらいの子供たちが、彩花さんの周りに集まってた。

 きっと、本当に何度も何度も通ってるんだろうなってのが分かるぐらいの距離感してる。

 

 子供たちの前で聞く? 後にする?

 いいや、今聞かないと、この人は絶対にはぐらかす。今しかない。

 

「あなたは、何をしようとしてるんですか」

「へぇ、何がしたい。じゃなくて、何をしようとしてるかが聞きたいんだ」

「はい。答え次第では……私はあなたに牙を剥きます」

 

 私と彩花さんの間に走る緊張した雰囲気を感じ取ったのか、子供たちは互いに顔を見合わせてから、散り散りになった。

 残されたのは私たち二人。互いに顔を正面から見合わせて、視線を逸らそうともしない。

 ふっ、と彩花さんが笑った。少し寂しそうに。でも、初めて、心の底から満足そうに笑った彩花さんの表情を見た気がする。この人はよく笑顔を浮かべる人だけど、そんな気がした。

 

「いいよ教えてあげる。私が、何をしようとしているのか、具体的に」

「美羽さんのためになることなんですよね?」

「さあ、それはどうだろうね。あの子の望みを叶えることにはなるけれど、それがあの子のためになるかまでは、私には推し量れない」

 

 はぐらかしているように聞こえるけれども、これは多分この人なりにできる誠実な回答なんだ。

 わからないことはわからないという。答えをしっかり返してくれないことが多いからこそ、理解ができる遠回しな表現だ。

 思えば、この人は嘘をあまり言わない気がする。はぐらかしたり、誤魔化したりは多いけれど、積極的に嘘は言ってない。

 

 今、この瞬間だけは、この人の言葉を信じられる。

 

「――私の目的は、ルミコーリアが輝く世界を作ること。これは、前にも説明したね」

 

 黙って頷く。

 一拍おいて、続きが話される。

 聞かなければ良かったかもと一瞬後悔しちゃった、過激な内容が。

 

「そのために何をするかは単純。――この国の民意を、世論を、制度を、粉々に破壊する」

 

 手始めに、人々には魔人や魔獣への恐怖を思い出してもらうのだと、悪魔のようなことを、言い放った。

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