成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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三十七話目 魔法少女は立ち向かいたい

 美羽さんについては、わかった。どうすればいいのかも。

 代わりに、大きな問題が一つ生まれちゃった。彩花さんを放っておいていいのかどうか。

 話をしてわかったのは、あの人は環さんが言ってた敵ではないってこと。

 でも、今は敵じゃないってだけで、きっといつかは戦うことになる。

 

 美羽さんの事は大好きだし、幸せになってほしい。

 いいや、幸せにしてみせる。覚悟はもう決まったんだから。

 そのために、彩花さんを止めることも考えておかないといけない。あの人は途中で生まれる犠牲を気にしない人だから。魔法少女として、見逃すわけにはいかない。

 美羽さんが、その犠牲を喜ぶとは思えない。

 

 施設から帰った後、今後どうすればいいのか一人で考えて、考えて考えて考えて――私一人だと全然考えがまとまらないってのが、よくわかった。無駄に一日を使ってしまった。

 わからないところを聞けば、答えを教えてくれる学校の先生はいない。

 気軽に愚痴を言い合える友達もいない。こんな愚痴、聞かせられないもん。

 そこまで考えて、私は飛び跳ねるように魔法少女アプリを開く。

 

 チャットの項目を開いて、はたりと手を止める。チャットじゃ駄目、通話したい。

 でも今の時間はもう遅いし、迷惑になるかもしれない。

 今の時間に起きてそうで、相談相手にできそうな人……。

 一人の顔が思い浮かんだ。

 迷わず、通話ボタンを押す。コールは二回で、出てくれた。

 

「もしもし?」

『――お嬢様ではなく、私に連絡が来るとは思いませんでしたよ、緋乃さん』

 

 通話の相手は、すぐに出てくれた。

 私が選んだ相手はトリムシスタ――千恵さん。

 足りない私の頭で考えて、多分、この人が一番この件について正しい判断を下せると思う。

 

「ごめんなさい。環さんは起きてるかどうか、わからなかったので」

『お嬢様はまだ書類とにらめっこなさってます。それで、何用でしょうか。お嬢様への取り次ぎがご入用ですか?』

「いいえ。千恵さんの意見を聞かせてほしいんです。環さんではなく」

 

 正直なところ、私は千恵さんとの交流はぜんっぜんない。

 環さんの側にいる人だって印象しかない。

 その印象が、私の悩みについて、この人が詳しいって言っている。

 

「千恵さん。もしも環さんが困っていたらどうしますか」

『もちろんお助けします。それが、私の生きる意味ですので』 

「では、そのために悪事を働く必要があるとして、どうしますか」

 

 少しだけ間が空く。千恵さんでも考える必要があるぐらいの問題ってことなんだ。

 

『……場合にもよりますが、お嬢様の沽券にかかわる問題であれば、私は喜んで泥を被りましょう』

「魔法少女として守るべき人々が犠牲になるとしたらどうしますか」

『お嬢様は間違いなく拒絶なさるでしょうね。そのうえで、私は喜んで身を捧げましょう』

 

 やっぱり、思った通りだ。千恵さんと、彩花さんは考えが近い。

 何か大切なものが一つあって、そのために他の全てを投げ捨ててしまえる。

 危うさと共に、強さを併せ持っている人たちなんだ。

 

「千恵さん。助けてください。今の私には、あなたの助けが必要です」

『私にですか? 申し訳ありませんが、お嬢様の補佐で既に手が回らなく――』

「環さんの思い描く未来に、必ず役に立ちます。なぜなら――このままいけば、最終的に彩花さんに全て台無しにされる可能性があるんです」

 

 通話の向こうで、千恵さんが息を呑んだのが分かった。

 詳しくお話しますと前置きを入れてから、私は今日見たこと、これまでの彩花さんの行為や発言を、丁寧に一つ一つ説明する。

 私たちよりも、多くの事を知っているであろう彩花さんは、明確に私たちとは違う未来を描いてる。

 

『……お嬢様が耳にしたら卒倒されそうなお話ですね』

「敵というなら、敵になると思います。新しい敵ですけど」

『想像しうる限り最悪の展開ですね。で、緋乃さんはどちらにつかれるんですか?』

 

 らしいなと思って、笑っちゃう。

 環さんならきっと文句を言いながらも、助けになろうとしてくれると思う。

 私が敵側に回るなんて、考えもせずに。

 あの人はそこらへん美羽さんに近いんだよなぁ、ちょっと羨ましい。

 

「どちらにもつきません。代わりに、千恵さんたちが私についてください」

『正気ですか? いえ、本気で仰ってますか?』

「はい、正気ですし本気です」

 

 わけがわからないことを言っていると思われてそう。私もそう思う。

 美羽さんのために。その思いだけで、今私は突き進んでる。

 

「前提を話します。私の望む未来は、環さんたちと大きく離れていません。環さんたちの望む未来の上に、ルミコーリアがいるだけです」

『なるほど。では、引き抜こうというのであれば、私たちへメリットを提示してください』

「今、世間に対して最も影響を出せる魔法少女、クリムセリアを自由に使えます」

 

 私が提示できる条件なんて、このぐらいしかない。

 正直どれだけこれが意味あるのかはわからないけれど、美羽さんや環さんは分かってる人たちだと思う。

 必要なのは、向こうに価値があると思ってもらえること。

 学校での付き合いと同じ。私はあんまりそういうの得意じゃないけど。

 

『……はぁ。そのような身売り染みたことはあまり言うものではありませんよ』

「ごめんなさい。でも、他に使えるものもないので」

『一つ年上として、そして先んじて道を間違ったものとして忠告します。行き過ぎた献身は、相手にとって毒となりますよ』

「うぐぅ」

 

 返す言葉もございません。

 一歳年上なだけなんだけどなぁ。環さんとはそんなに離れてる気がしないのに、千恵さんとは美羽さんぐらい離れてる気がする。

 でも、ダメかぁ。じゃあどうしよう。

 なんて考えてたから、次の一言は予想外だった。

 

『お嬢様には私の口から伝えておきます。無下にはなさらないでしょう』

「え?」

 

 どういうこと? 

 

『ただし、主な行動内容を考えるのはこちらでやります。いいですね?』

「え、いや、ちょっと」

『何か問題でも?』

 

 問題っていうか、その、あの。

 

「受け入れて、くれるんですか?」

 

 あっ、電話越しに凄い大きなため息が聞こえてきた。

 私、そんな変な事言った?

 

『美羽さんに恩義を感じているのは、私たちも同じなんですよ。恩師のそんな状況を聞かされて、黙っていられると思いますか』

「……ありがとうございます」

『お礼よりも、働きで返してください。お嬢様はそろそろパンク寸前ですので』

「ええっ!」

『それこそ、美羽さんを頼れればいいんですが』

 

 それでは本末転倒だと、またため息を漏らしてた。

 そんな反応が面白くて、口元が緩んで、自分がどれだけ焦ってたのか自覚する。

 ああ、ダメな癖だな。美羽さんに相談に乗ってもらう前も、結局自分だけで色々考えて、ダメな方向に転がっていった結果だったんだから。

 美羽さんだったら、もっといろんな考えを巡らせていたんだろうなぁ。

 

「多分、途中までは彩花さんの描いてる道筋と、私たちの辿るべき道筋は一緒だと思うんです」

『同意いたします。緋乃さんに声をかけたということは、そういうことのはずです』

「なので、最後の最後にどちらが出し抜くかの勝負です。千恵さん、もう一度言います。助けてください」

『……ええ、喜んで』

 

 大丈夫。私たちは一人じゃない。

 私たちは戦える。私たちは美羽さんを救える。

 魔法少女として、私たちは正しい道を歩めてる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――なんて、考えてるんだろうね」

 

 夜の公園で、一人ベンチに座りながら笑ってる。

 見られたら不審者として通報ものかな? されても構わないってぐらい、今の機嫌はいい。

 

 あの頃の子供が思い描くようなことなんて、すぐに分かる。

 特に、美羽の影響を大きく受けてる芹香ちゃんの事はよくわかる。

 あの子は私の事が嫌いだし、絶対に私の言うことに従いはしない。

 

「でも、話を聞いてしまう」

 

 中途半端に大人だから。大人の言うことを拒絶しきれない。

 若いっていいねぇ。悪いことにきちんと罪悪感を覚えられてるうちが花だよ。

 

「ま、悪い大人の食い物にされないといいけど」

 

 特に私みたいな、ロクデナシの食い物にされないように、もっと疑うことを覚えた方がいいね。

 純粋さに付け込んで、思い通りに動かそうとする悪い大人とは、関わった時点で失敗だったってね。

 

「あ、きたきた。どうもー」

 

 夜闇の向こうから、人影が近づいてきてるのが見えた。

 冷静さを保とうとしているけれども、歩幅や速度から焦りが漏れてるのが分かる。

 駄目だねぇ。魔法少女ってのが、どれだけ怖いものか、お仲間は教えてくれなかったのかな?

 たかが子供と見下してるから、こういう状況になる。

 魔法少女なんて、自分の意思で化け物と戦うことを決めた異常者の集団なんだよ?

 理解できてないなんて、覚悟が甘い、甘すぎる。

 

「……話とは何でしょうか。こう見えて忙しい身でして」

「あはは、そんな怯えないでよ。ジョンスミスさんだっけ? ばれっばれでこってこてな偽名名乗ってるぐらいなんだからさ、もっと胸を張らないと」

 

 やってきたのは、美羽を引き抜こうとしてる、海外の新規企業のエージェント。

 もちろん、私から呼び出した。

 

「でも分かるよぉ、辛いんだよねぇ。なぜか、行く先々で情報が洩れてて、困ってるんでしょ?」

 

 必死に隠そうとしてるけど、私には分かるよ。悔しがってるねぇ、苦しそうだねぇ。

 うんうん、それまでは上手くいってたんだもんね。

 途端に、全部が全部見透かされて失敗するだなんて――プライドが許せないんでしょ?

 何年も何年も準備してきたものが台無しにされてて、悔しいんでしょ? 許せないんでしょ?

 せいぜい、私の役に立って潰れて欲しいな。

 

「取引をしようよ。お互いに利のある話をしよう。チャンスが、欲しいんだよね?」

 

 さあ、芹香ちゃん、どっちの描く未来が強いか勝負しようか。

 私は手段を選ばない。そっちは散々選ぶといいよ。

 その先に、私たちの願いが集約されるんだから。

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