成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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三十八話目 魔法少女は気づかせたい

 ◇ ◇ ◇

 

 多分みんながなんかしてる。

 何かまではわからないけど、ここしばらくの間は、みんな忙しそうにしてたから。

 その最中で、私だけが何もせずに、ただただ怠惰な日々を過ごしていた。

 

 大学構内のいつものベンチで、ぼーっと空を見上げてる。

 太陽の日差しは眩しくて、時間の流れは私の事を待ってくれない。

 何かをしたいとは思うけれど、何をすればいいのかわからない。

 結果、何もせずに日々が過ぎ去っていく。

 

「……こんなに長い間、何もしてないのは初めてかな?」

 

 本当の意味で何もしてないわけじゃない。

 彩花のために、大学のノートを取ったりしてるし、勉強もきちんとしてる。

 でも、やっぱり、満たされない。

 私が求めていたものは、これじゃないって感じがしてる。

 

 魔法少女として動いてないのに、普段あれだけやかましいポムムもだんまりしてる。

 何かが動いてる。何かが。

 その動いている流れの中に、私がいないだけ。

 

 もちろん、助けになれればと思って、彩花や芹香ちゃんには連絡をした。

 何かしてあげたい。困ってるなら力になってあげたい。

 明らかに忙しそうだったし。環ちゃんは、その、下手に触ると危ないかなって、何かあったら言ってねとは伝えたけれど。

 どっちも、大丈夫だからって、拒否された。

 

「あー! もやもやする!」

 

 定期的に芹香ちゃんが顔を見せてくれるからか、あの夢はそこまで見てないのが救いかな。

 何をしてるのかは教えてくれないけれど、気をつかってくれてるのは、ちょっと、申し訳ない。

 

「でも、引退したらそのつながりもなくなるんだよね……」

 

 思えば、私の周りは魔法少女で繋がった人たちばっかりだ。

 魔法少女をやってなければ、私の周りにはきっと誰もいなかった。

 普通になりたくて引退したかった。普通に憧れて引退したかった。

 

 考えてしまうのは、魔法少女でない私は一体何なんだろうってこと。

 私はなんで魔法少女になったんだっけ?

 芹香ちゃんや環ちゃんを見ていると、忘れてしまったことを思い出さないといけない気がする。

 ……彩花は、どうだったんだろう?

 

「や、悩んでるね」

「彩花っ!?」

「久しぶり? 随分落ち込んでるね」

「今まで何してたの!」

「ちょっとお仕事で色々な場所回ってたんだよ~」

 

 数週間ぶりに顔を見せたと思えば、何でもない顔をしている。

 この子は、本当に……っ!

 

「まあまあ、言いたいことは色々ありそうな顔してるけどさ、美羽にいい話を持ってきたんだよ」

「まあまあって……。いい話って?」

「魔法少女、辞められるかもしれないよ」

 

 ――え?

 どういうこと? そんな話、ポムムからも新橋さんからも聞いてない。

 彩花の目を真っすぐ見る。いつも通りの表情だ。

 

「ちょ、ちょっと? 本当なの? ポムム、ポムム?」

 

 呼べばいつでも姿を現してくれるはずの妖精を呼ぶ。

 どういう原理かはわからないけど、本当にいつでも出てきてくれるんだよね。

 いつもなら。

 

「ポムム……?」

「あの妖精は今は来れないよ。聞かせたくない話だからね」

「どういうこと? 彩花、本当は何をしてたの?」

 

 彩花はニッコリと笑う。びっくりするぐらい、純粋な笑みだった。

 

「――彩花。この魔法はどういうこと」

「気が付いた? 流石だね」

「魔法少女を辞めたんじゃなかったの?」

「うん、辞めたよ。もう妖精と契約はしてない」

 

 空気中に漂う魔力の気配。

 彩花の魔法じゃない。ステラフィクスの魔法は、もっと地味なものだ。周りに影響を与えられるようなものじゃない。

 なら、考えられるのは別の魔法少女の魔法だってこと。

 少し考えて、この状況には覚えがあることを思い出した。

 

「彩花」

「うん」

「本気?」

 

 私が声を問いかけるのと同時に、彩花は勢いよくベンチから飛びのいた。

 そっか、本気なんだ。何をしてるのかと思えば、そういう事?

 

「見損なったよ」

 

 この魔法は、前に魔法少女を道具としてしか見てなかった、なんちゃらって会社の人の時と同じ魔法だ。

 ジョンスミスだっけ。全く同じ状況だからね、流石に分かるよ。

 

「まあまあ、一旦話を聞いてくれるかな? 確かに彼らは気に食わないし、最終的に潰す予定だよ。でも、利用価値がある」

「……どういうこと?」

「中身が残ってるペットボトルは見てて気分が悪いからね。使い切ってから捨てるべきだと思うんだ」

 

 考えても彩花の意図が分からない。

 昔っからそういうところはある子だった。私とはまったく違う思考をして、破天荒さを隠しもしない子だった。

 私がこの子と一緒にいたのは、一緒にいて楽しかったってのもあるけれど……見ていた未来が近いと思っていたから。

 

 八年前、唯一この子だけが、魔法少女についての未来を考えていた。

 この子だけは他の子とは違った。

 

「それが、私が魔法少女を引退することと何の関係が?」

「私は美羽の望みを叶えてあげたいだけだよ」

「ごめん、ほんっとうに意味が分からない。分かるように説明して」

 

 嘘は言ってない。この子は嘘は言わない。

 代わりに話す内容を綺麗に切り取って、言葉巧みに人を動かす。

 

「待った。一つだけ先に確認させて」

「何?」

「あのジョンスミスさん。あの人を最初にけしかけてきたのは、彩花なの?」

「それは違うよ。むしろ、私も最初は苦労させられたんだから」

 

 少しだけ安心した。彩花は魔法少女を裏切ったわけじゃない。

 なら、何のために。余計に気になってきた。

 こうやって話を聞く気にさせられてるのも、計算通りなんだろうけれど。

 

「美羽は魔法少女を引退したいと言い続けて、今の今まで引退できずにいたんだよね」

「……そうだね。みんなと同じ十六歳の時には、引退するつもりでいたから」

「じゃあ、なんで引退したかったのかな?」

 

 引退したかった、理由?

 

「ネットで散々言われたのは当然嫌だよね。でも、それは近年になってからの話。十六歳になる前には、特に話題になってることも少なかった」

「……そうだね」

「引退しようと思ったきっかけは何だったのかな?」

 

 この問答に一体何の意味があるんだろう。

 のらないで逃げるって選択肢もある。でも、それは問題の先延ばしでしかないよね。

 彩花の性格を考えるに……私に何かを気づかせようとしてる。

 何のために。ってのは、本当にわからないけれど。

 

「普通の魔法少女は、みんな十六歳には辞めるから。私もそうなんだろうなって思っただけだよ」

「なるほど、確かにそうだね。私もその年に表向きは魔法少女を引退したわけだし」

 

 表向きはって言ったよ。もう隠す気もないんだ。

 今まで隠してきたことを、隠さなくていいって判断したってことは、やっぱり悪だくみしてるね。

 

「じゃあ次の質問。魔法少女にはどうしてなったの?」

「彩花は知ってるでしょ? 施設が襲われたから、みんなを守るためになったんだよ」

 

 昔っからの仲だから、そういう話もしてる。

 施設の育ちだってのも、逆に彩花も生みの親と育ての親が別だとか。

 彩花が魔法少女になった理由も、教えてもらったことがある。凄い不純な動機だって、聞いた当時は思った。

 今となっては、そのためだけに命を賭けられるってすごいことだと思う。

 

「――本当に?」

「何が言いたいの」

「美羽はずっと私が何をしたいのか考えてるみたいだけど、私の目的は昔っから変わってないよ」

 

 彩花の目的?

 ひょっとして、ずっと冗談だと思ってたけれど、本気で言ってたの?

 なら、もしかすると、今こうしてこの問答をしている理由は――。

 

「彩花。一つだけ答えて」

 

 自然と冷たい声になってるのが分かる。

 いや、でも、と考えるけど、彩花ならやる。間違いなくやる。

 この子は、そういう子だってよく知っているから。

 

「いいよ。何でも聞いて」

「今、クリムセリアたちはどこにいるの」

 

 すぐに答えは返ってこなかった。

 この場合、即答されなかったことが、明確な意思表示だ。

 彩花が答えを選んだ。即ち、私にそのままを教えるのは憚られる状況ってことだ。

 

「――変身! ルミコーリア!」

「そうなっちゃうかぁ。仕方がないね」

 

 ステッキを手に、変身を叫ぶ。

 同時に、彩花が地面を強く踏みつける。足元の影が揺らめき、彩花の体を包みこむ。

 

「ここでこうなる予定はなかったんだけど――変身、ステラフィクス」

 

 丸く膨らんだ影が、地面に落ちた雫のようにはじけ、現れたのは純黒の魔法少女。

 夜空をモチーフにしたルミコーリアとは違い、闇そのものを表す衣装の魔法少女。

 ――私が唯一、負けたことがある相手が、寸分たがわずに立っていた。

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