成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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三十九話目 魔法少女は引き留めたい

 ステラフィクスは強い。

 魔法少女としての才能もそうだし、昔にちょっとした争いをしたときには見事に一杯食わされた。

 あの時は、そもそも事前準備の差が凄かったけれど。あそこまで徹底的に対策されたのは初めてだったよ。

 いや、対策されること自体がおかしいんだけれど。

 

「もう一度聞くよ、クリムセリアたちは今何をしてるの」

「教えない。って言ったら怒る?」

「すっごい怒る!」

 

 おかしな話に聞こえるかもしれないけれど、私とステラフィクスが正面から戦えば、まず間違いなく私が勝てる。

 純粋な相性が私と彼女の魔法の間にはある。圧倒的な私有利。

 それに、今見てる感じ、全盛期よりも弱くなってるように見える。魔力の質が落ちてるって言えばいいのかな。

 

「……しょうがない。じゃあ、私を倒したら教えてあげるよ」

「私は戦わずに、ここからすごい勢いで離れるって選択肢もあるんだよ?」

「あれ、ルミコーリアは私がそんな当たり前なことを想定してないって思うんだ」

 

 そういう言い方されるとさぁ! 無視できないんだよねぇ!

 あんまり無理に暴れて大学構内を壊したくもない。魔法で人払いがされてるっぽいとはいえ、これは本来不必要な戦いだから。

 物を壊さず、地面を砕かず、ステラフィクスを拘束する。

 うん、難しい!

 

 まずは真っすぐ突っ込んで、捕まえようと試みる。

 と、踏み出したところで、視界が白く光った。

 

「うわぁ!」

 

 びっくりして、咄嗟に避ける。

 避けた後に、これが魔力放射による、砲撃みたいな攻撃だって理解した。

 なにこれ! 昔はこんなの出来なかったよね!?

 魔法以外で魔力を外に出して攻撃に転用するなんて、異常だよ!?

 

 加えて、避けたところにも魔力砲が飛んできてるし。

 何とかぎりぎり避けられたけれど、私じゃなければ食らってたよ今の!

 

「ほんっとうに厄介だね、『星の目』!」

「あははは、今の避けるインチキスペックに言われたくない。タイミングも置き方も完璧だったのに」

 

 ステラフィクスの魔法は、本人が『星の目』って呼んでるから、私もそう呼んでる。

 その実態は千里眼のようなもの。ありとあらゆるものを見通す、異次元の視界だって、昔に教えてもらった。

 存分に物事を見通す目に、彩花自身の性格の悪さも加わって、物凄い嫌な先読み能力へと転じてる。

 今のも、私の動き出しに合わせて先んじて攻撃を置かれてた。

 

 ……今の攻撃が成立したってことは、魔法は失っているわけじゃない。

 魔力量は減ってるみたいだけれど、魔力制御のキレはむしろ上がってる。

 つまり、悪質さは昔よりも高いと考えるべき。

 

「しょうがない。怪我させたら、ごめんね」

「げっ。本気出すつもり?」

「ちょっとだけ、本気出す」

 

 ステラフィクスに対する対処法は単純で、見えてても問題ない速度で迫ればいい。

 見える予測できるってのは、敵にすれば驚異的だ。

 でも、本人の処理速度を底上げするような魔法じゃない。

 

 迫りくる魔力砲を見てから回避しつつ、とびかかるタイミングを計る。

 空中を蹴り、三次元的に飛び回る。閉所でないにも関わらず、空中を機敏に跳ねまわる動きは、対応しづらいでしょ。

 

 ステラフィクスは私の動きに合わせて細かく立ち位置を変えてはいるけれど、速度差は圧倒的だから、問題ない。いつか生まれる機を逃さなければいい。

 動いた瞬間に合わせてくるカウンターだけを警戒すればいい。

 油断はしない。確実に捕まえる。

 

「さっすが最速! 目で追うのもやっとだからもう少しゆっくりにしてくれない?」

「クリムセリアたちについて教える気になった?」

「そりゃ聞けない約束!」

「そう!」

 

 何のために彩花がこんなことしてるのかなんて、わからない。

 遠慮はしない。あの子たちを巻き込むっていうのなら、私が止めてみせる。

 

 ――後ろを取った。隙が見えた瞬間に、動く。

 彼女相手に視界外で狙うのは、あまり意味がない。意味があるのは、振り向きが発生するってところ。

 見えてても、反応できなければ意味がないよね?

 空中に魔力が凝縮され、放たれるのを見た。見てから、余裕をもって避ける。

 向こうはその隙を使って振り向いて、対処しようとするけれど――私がさらに背後へと回り直す方が速い。

 

「捕まえた」

 

 背後から手首を掴み、捻り上げながら地面に組み倒す。

 これでもう動かせない。

 

「いったぁ! 容赦ないなぁ」

「一度痛い目を見てるからね。それで、何がしたいの。クリムセリアたちは?」

 

 この子を組み伏せても、人気が戻る気配はない。

 まだ何か続いてると考えるのが自然かな。

 

「何がしたいのって、目的は話した通りだよ。ずっと、ずっと昔から変わってない」

「――私は、そんなことを望んでない」

「美羽も変わらないね。八年前も同じこと言われた覚えがあるよ」

 

 組み伏せられているのに、ステラフィクスは何事もないかのように平然とした口調で話してる。

 この状況が予定調和で、特に焦る必要がないかのように。

 

「いい加減、美羽は問題を直視するべきだよ」

「何を言っているのか、わからないかな」

「わからないはずがない。美羽が、ルミコーリア自身が、一番わかっているはずだよ」

 

 頭の隅がずきりと痛む。

 うるさい、うるさい。

 

「もう一度聞くよ。何のために、美羽は魔法少女になったの」

「……」

「そこから目を逸らし続けていると……近いうちに、取り返しがつかないことになるよ」

 

 私が目を逸らしている?

 一体何を根拠にそんなことを言ってるの。

 私は、ただ、ただ……。

 違う、考えるべきは、そこじゃない。

 

「クリムセリアたちは、どうしてるの」

「……はぁ」

 

 危うく、話をまた逸らされるところだった。

 彩花相手だと、油断するとすぐにこうやって話を好きな方向に持っていかれちゃう。

 ちゃんと意識しておかないと、危ないところだった。

 

「安心していいよ。私は何もしてない。今頃、弟子繋がりの三人で私の悪だくみを打ち砕くための相談でもしてるんじゃないかな」

「私はって言ったね? じゃあ、他の人に手を回させてたり?」

「してないしてない! 流石に信用無さ過ぎでしょ」

「信用無くすような言動を普段からしてるのは一体誰かな?」

「私だね。うん」

 

 あっさり認めるあたり、本当に悪質だよね。

 自覚があるのが本当に悪質。改善しろって言っても聞く耳もたないし。

 

「彩花の悪だくみっていうのは、何」

「だから、目的達成のためのあれこれだよ。八年前からずっとそのために動いてるんだから」

「随分と素直に話してくれるんだね」

「隠す必要がないからね」

 

 隠す必要がない、か。

 てことは、裏を返せば隠すこともできたけど、隠さない方がいいって彩花は判断したわけだよね。

 また、気を逸らさせようとしてるな?

 ここで気を逸らすとしたら、元々の話題から遠ざけようとしてるってこと。

 

「クリムセリアたちに、何をさせるつもりなの」

「……あー、答えなくてもいい?」

 

 ほら、やっぱり。あの子たちを使って、何かしようとしている。

 それは、とてもじゃないけれど見過ごせない。

 

「質問を変えるね。クリムセリアたちが私の弟子になったのは、彩花が仕組んだの?」

「考えすぎだよ。それは偶然」

「良かった。もしもそうなら――絶対に許せないところだった」

 

 ステラフィクスの体が強張ったのが分かる。

 私も一瞬だけ頭に血が上ったのを自覚したから、自制する。

 危ない危ない。危うく、掴んでる腕をへし折るところだった。

 流石に、そこまではしたくない。

 

「あの二人に関しては、本当に偶然。都合が良かったから、色々と教えてあげてるだけ」

「悪だくみのために?」

「そう。そういう意味では、あの子は期待以上だったよ。凄いね、中学生なのに」

 

 芹香ちゃんの事だ。

 何かしてると思えば、そういうこと。

 私だけじゃなくて、あの子たちも唆してたんだ。

 

「今からでも諦めるつもりはない?」

「残念ながら、もう私の手を離れたよ。本当に、最後のピースが綺麗にはまってくれたおかげで」

 

 手を離れた?

 

「どういうこと」

「美羽が思ってる以上前から、私はしっかり準備をしてきたってこと。そして、運も良かった」

 

 準備。何をと聞こうとしたところで、不意に手の中の感覚がなくなる。

 何が起きたかと思えば、ステラフィクスの輪郭が陽炎のように歪んでいた。

 これは魔法? 幻影じゃない、転移系?

 

「保険を用意しといて助かった。やっぱ事前準備は大事だね」

「彩花!」

「詳しいことは、あの子たちに聞いて。それじゃ、また今度」

 

 風景に溶け込むように、歪み、実体がなくなり、姿が消える。

 残された私は、人の気配が戻ってくるのを感じて、そっと変身を解いた。

 詳しいことは芹香ちゃんたちに聞いてだって?

 本当に、何がしたいの。

 

「……彩花」

 

 正直、信じたくはない。あんな性格だけれど、確かに友人だと思っているから。

 もっと前に気づけなかったのか。何かできなかったのか。色々と考えて、心に残るのは何度も言われた一言だった。

 

『何のために、美羽は魔法少女になったの』

 

 目を逸らしてる? 私が?

 ……考えても、仕方がない。とりあえず、芹香ちゃんたちと合流しよう。

 もしも危ないことに首を突っ込んでいるのなら、止めないと。

 あの子たちは、まだ子供なんだから。

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