成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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四十話目 魔法少女は欺きたい

 ◇ ◇ ◇

 

「いつつ……。あー、やっぱ事前準備もなしに戦うのは無理があるって」

 

 ぐるぐると捕まれてた方の肩を回す。

 一歩間違えてたら多分平気でへし折られてたね。

 小手先で身に着けた技術なんかじゃあ、到底歯が立たない。

 あの子こそが、ハイエンドだ。

 

「……大丈夫ですか」

「あー、心配なんてしてくれるんだ。この国を裏切ったのに」

「……」

「泣かないでって。この程度の嫌味の一つや二つ耐えられないと、民間でやるのは厳しいよ? 特に、競争社会に身を投じるわけになるんだから」

 

 私をルミコーリアから助けてくれたのは、ヴォルシネス。転移の魔法を扱う魔法少女だね。

 この子は、スターライトセンチネルによって、この国から引き抜かれることが決まっている子。まあ、ジョンスミス(仮)を脅したときに、強制的に労力として徴収した感じかな。

 いやー、万が一のことを考えておいて本当に良かった。脅すだけ脅しておくもんだね。

 

「家族のためなんでしょ。弟がいるんだっけ」

「……はい」

「親権が強いからねぇ、この国は。よほどのことがない限り、親の庇護下からは逃げられない」

 

 この子が日本を捨てる決意をしたのは、親にいつ殺されるかわからないからなんだってさ。

 貧困家庭ではままあることだよ。子供だけ作って、親としての責務を放棄する。

 それでも、最低限今日まで生きてこられただけマシな方だっていうんだから、酷い話だね。

 

「国の庇護下に入ろうにも、弟を見捨てられない。そんな時に、弟君も一緒に保護してくれるっていう申し出が来たら断れないよね」

「私は、間違っているんでしょうか」

 

 ため息が漏れる。これだから魔法少女になるような子は、因果なものだよ。

 間違ってる間違ってないなんて段階の話じゃない。

 しいて言えば、間違っているのはこの国の制度の方だ。

 

「少なくとも、私はその決定を否定はしないよ。だからこうして、実績作りにも協力してるわけで」

「……」

「今後、ルミコーリアの名前は海を越えて響き渡る。その時に、やり合えたという実績は宝になるよ」

 

 結果論だけどね。こうでも言わないと、やってられないよ。

 何回対峙したって、二度とはごめんだって思わされてるんだからさ。

 

「その、えと、あの」

「うん? 私は彩花でいいよ。魔法少女名で無理に呼ばなくていいから」

「彩花さんは、私たちと一緒に来るんですか?」

 

 一緒にっていうのは、スターライトセンチネルの一員として海を渡るかってことかな。

 

「いいや。私はこの国でやることがあるからね」

「なら……どうして、私を気遣ってくれるんですか」

 

 気遣う、気遣うか。

 うーん、そう思われちゃったかぁ。別にそんなつもりはなかったんだけれども。

 せっかくだから、利益は最大化したいなって。

 正直にそう言う必要もないか。

 

「んー、残酷な言い方をするなら、関係なくなるからかな」

「関係、なくなるから?」

「そう。私はこの国に残って、現制度をひっくり返す。その最中にはこの国の他の魔法少女にも色々と自覚してもらわないと困るんだよね」

 

 でも、私がどうにかしたいのはこの国のことであり、他の国の事はどうでもいいと思ってる。

 極論、魔人によって滅ぼされたって、興味すら湧かない。ああ、そんなこともあるよねで忘れると思う。

 死んだとしてもどうでもいい相手には、成長してもらう必要すらない。それなら、その場その場で付き合う上で、ある程度気分が良くなってもらった方が良いよね。

 ヴォルシネスへの対応に関しては、それだけの話。クリムセリアたちとは違うんだよね。今後が必要ない。

 

 この子はおどおどして、でも好奇心が抑えきれないのか、質問を重ねてくる。

 

「なんというか、その、彩花さんって他の方と違いますよね」

「なあに? 魔法少女らしくないって?」

「それは、その、あのー……はい」

「ん、正直でよろしい」

 

 そりゃあ、他の子たちはみんな、何かを守りたかったり、明確な目的意識があって、魔法少女をしてるからね。

 何となくできるから。素質があったから。ただそれだけの理由で魔法少女をやってた私は、さぞかし異端だと思うよ。

 使命感もなく、目的意識もない。魔法少女としては、本当にやる気がない。

 危険に溢れてる? 負ければ命が危ない? わざわざやる必要がない?

 そんなもの、魔法少女だろうが何だろうが大して変わらないでしょ。

 少し道を外れれば、命なんて簡単に失われるものだよ。

 

「失望した?」

「失望というよりも、魔法少女としてどうなのかなって、思います」

「いいんだよ別に。こっちは危険な戦いをして、他の奴らは守られてるだけなんだから。何か文句を言われる筋合いはないね」

 

 魔法少女はヒロインで、市民を守るのが役目です? そんなわけがない。

 体のいいプロパガンダだよ。ふざけた話だと、理解してほしい。

 妖精と少し会話すれば分かるけれど、あいつらの目的は魔人を倒すこと、殲滅することに他ならない。

 つまり、魔法少女は魔人を倒すために生み出された戦士だ。人々を守るための正義の味方じゃない。

 

 周りは自分たちの都合のいいように好き勝手言って、行動を制限し、利権に組み込んだだけ。

 本当は、魔法少女たちはもっと自由であるべきなのに。

 

 この状況を変えるためには絶対的な象徴が必要なんだ。

 有無を言わさぬ、絶対的な英雄が。物語を動かす主人公が。

 

 あの子しかいない。絶対的な力の象徴、報われるべき構図の具現化、ありとあらゆる要素がルミコーリアこそが相応しいと指し示してる。

 私の憧れ。私の主人公。輝ける瞬間は、もう近い。八年間待ち望んだ瞬間は、実現に近づいている。

 

 そのためなら、私は何だってしよう。

 魔法少女たちは中学生だから? そんなものは気にしない。魔法少女になることを選んだのであれば、力がある。能力がある。

 無能が許されるのは、立場も能力もない奴だけだ。

 その気になれば、国家転覆だって夢じゃないって現実に、一体どれだけの魔法少女が気が付いているのかな。自分たちはそれだけの存在なんだって、理解しているのかな。

 

 気づく手助けはする。お膳立ても惜しまない。

 最終的に、魔法少女であることを自覚してくれるなら、それでいい。

 結果に繋がるのであれば、喜んで私は脅威であり続けよう。唾を吐きかけたいと思う相手と、一緒に仕事をしよう。

 私は過程に美学を求めない。在り方に美学を求めた魔法少女たちの姿を散々見てきたからね。

 

「みんな、魔法少女という存在を軽視しすぎている。魔法少女当人たちですらそうだ」

「怒ってる、んですか?」

「怒ってる? まさか。正されるべきだとは思っているけどね」

 

 怒りなんてとうに過ぎ去った。

 元々そんな真面目な人間でもないんだからさ、怒りで動くだなんて殊勝なことしないよ。

 今私が抱えてる感情を説明できる人はいるんだろうか。少なくとも、私はこの感情を形にできる言葉を知らない。

 

「……強い、ですね。彩花さんは」

「迷うことが無駄だと知っているだけだよ。やるか、やらないか。私はやるべきだと思って、行動しただけ」

 

 一種の割り切りだよね。

 生きていくうえで、それが効率が良かった。やりたいことを達成するために、それが効率が良かった。

 感情論で喚き散らす連中を見て、そいつらは何も成せなかったのを見たからこそ。

 

「ヴォルシネスちゃん。迷ってるみたいだから、お節介かもだけれど、先達からのアドバイスをあげるよ」 

「な、なんでしょうか」

 

 前置きをしたせいで、構えられちゃったかな。

 別にそんな大それたことを言うつもりはなかったのに。

 

「君は弟のために、慣れない異国の地に行く覚悟を決めた。なら、何があっても、弟を手放さないことだね」

 

 ピンと来てないみたい。何を当たり前のことをって顔してるね。

 まだまだ幼いから仕方がない。魔法少女って重みを理解しきれてないんだから。

 

「弟のために人を見殺しにする覚悟を決めるんだ。そうでなければ、君が決めた覚悟は極めて醜悪なものに成り下がる」

 

 これは優先順位の問題。

 中学生に選ばせるのは残酷だと人は言うだろうけれど、それをいうならこの子は親を切り捨てる覚悟を決めた子なんだ。

 一度選ばないという選択肢をしたならば、今後は選んだものを拾い続け、選ばなかったものを切り捨て続ける覚悟を決めないといけない。

 でないと、過去の亡霊に憑り殺される。

 

「魔法少女は人を助けるもの? 違うね、お金のために魔人を倒すのが今後の君の仕事だ。そして、君は弟と自分の境遇を変えるために、母親を切り捨てた。なら、母親を切り捨てた分、弟を大事にしなければならない」

 

 少しばかり情移ったかな、ここまで口にしちゃうだなんて。

 人ってのは、選択によって損失しか生まなくなったときに、簡単に耐えられるようにはできてない。

 しかも魔法少女の大半は多感なお年頃の女の子だ。

 割り切れなければ、壊れていく。

 

「……ま、詳しくは向こうに行ったときに先輩たちから教えてもらいな」

 

 誤魔化すつもりで、ポンと頭を軽く撫でる。

 さてさて、少し事態が動くまで潜らないとかな。

 あの子たちは賢いから、きっときちんと動いてくれる。

 その時まで、しばし落ち着くとしようか。

 手土産だけは、こさえておかないとね。

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