成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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四十六話目 魔法少女は乗り越えたい

「クリム・フレア・バラッジ!」

 

 巨大な一本の炎の塊から分裂した無数の炎の矢が、流星のように魔神へと降り注ぐ。

 青の肌に赤い爆炎が散るが、意にも介されていない様子。

 一つ一つは弱くとも、どこか弱点のようなものを探し当てられればと思ったけれど、この分じゃそもそもの火力不足が濃厚かな。

 なら、次の手を考えないと。

 

「町への被害は一旦後回しで! 全員、攻撃を避けることに集中してくださいませ!」

 

 プリズシスタの号令と同時に、各々が散開する。

 ここまで叩いてみてわかったことは、真正面から無策に叩いても殆ど意味がないってこと。

 どうにかして突破口を探す必要があるよね。

 

「クリムセリア!」

「防御力がとんでもない! 攻撃するなら全力で魔力込めないと賑やかしにしかならないかも!」

「わかりましたわ! 早期討伐は断念します! まずは弱点がないか捜索し、行動を観察してくださいませ!」

 

 ここからは各自の判断で動くことになる。

 体が大きいからか、魔神の動きは非常にゆっくりで、驚異的には見えない。

 もちろん、家を容易く潰した膂力は化け物なんだけれど、動き回れば当たらないぐらいの速度だから。

 となると、やっぱり問題となるのは驚異的な防御力。

 

「『トリム』!」

 

 掛け声とともに、僅かに魔神の腕が僅かに裂けた。

 トリムシスタの魔法が通った。通った、けどあまりにも傷が浅い。瞬く間に塞がってしまった。

 今のでわかったことは、魔神は無敵ってわけじゃなくて、攻撃は通る。

 当たり前のことなんだけれど、目に見えて結果が出るのとそう考えるのとは違う。

 

 彼女の魔法の単純な攻撃力は私よりも高い。

 でも、出力の最大値は私の方が高い。その分消耗も私の方が激しいけど。

 トリムシスタの魔法でも決定打を与えられないのなら、私の全部をぶつけるしかない。

 勝てるとするなら、急所へ一撃で決める。

 やることは決まった。後は実現する方法だ。

 

「プリズシスタ!」

「やってます! ルミコーリアじゃないんですから! そうそう魔力の流れなんて見通せませんわ!」

 

 流石に、理解が速い。

 私たちの中で、プリズシスタが最も魔力の扱いに長けている。魔力感知の真似事ができるのも、彼女だけ。

 もしもこの馬鹿みたいな防御力が魔力由来なら、魔力の薄いところにぶち込めば倒せるかもしれない。そこが弱点である可能性もある。

 幾つもの幻影を出して、操りながらも魔力感知をしてるんだから、本当に器用で凄い。

 

 次にやるべきことは、行動パターンの観察。見てる感じ、この魔神は知性的に動いてる感じがしないから。

 動きも直線的だし、何か考えがあるとは思えない。

 本能で動いてるなら、誘導できるかも。

 

 私は一射二射、軽く炎を放つ。

 魔神は反応すらしない。効果がない攻撃は無視?

 

 距離を取って、動きを観察する。

 他の子たちが、弱点をあぶりだそうと攻撃してくれている。どの攻撃も有効打ではないけれど、魔神の行動パターンをあぶりだすのには役立ってくれる。

 

 家は次から次に破壊されている。狙って壊してる? いいや、動く先にあったから崩してるだけっぽいかも。

 他の子たちが狙われてる? 狙われてはいるっぽいけれど、幻影も巻き込まれてる。

 もっとよく見ると、幻影だけを狙って攻撃してる腕の振り回しもしてる。

 足の触手も、幻影を掴んでは、するりと霧散する様子に戸惑っているように見える。

 

 ……これは、ひょっとすると。

 視線でトリムシスタの方を見る。気づいた? 気づいたっぽい。

 攻撃に参加しながらだから、不確定っぽいけれど。

 頷き合って、私は観察に戻る。

 

「魔神は魔力に反応してます! 各自、注意してください!」

 

 気づいたことの情報共有は大事だよね。

 今は遅いから反応できているだけ。もしも動きが速くなれば、事前予測が……速くなれば?

 速く、なってない?

 

「危ない!」

 

 全力で駆けて、危うく触手に捕まりかけていた子を助ける。

 容易くコンクリート製の電柱が、細長い小枝のようにへし折られる。荒ぶる電線を避けて、一旦近くの屋根に着地することにした。

 

「あ、ありがとう……」

「全員注意して! 段々と動きが速くなってる!」

 

 嫌な可能性が頭の中に浮かぶ。

 この魔神は、もしかしたら、寝ぼけてる?

 寝ぼけてるって表現はあれだけれど、でも、他に考えられない。

 魔力に反応してるのも、反射的行動だとすれば、説明ができる。

 

 全身から汗が噴き出る。

 強くなったからこそ、分かるものがある。以前の私なら全く理解できなかった領域まで、理解ができるようになってる。

 ――もしもこれが本格的に動き出したら、どうなっちゃうの?

 

「プリズシスタ! 解析急いで!」

「どうしましたの!」

「こいつ、まだ本気じゃない!」

 

 戦場に走る緊張感が跳ね上がった。

 攻撃は通らないけれど、動きが遅いからこそ危機感は薄れていた。

 このまま時間が経てば、きっと、攻略できるだろうという雰囲気が打ち砕かれる。

 

 前にでてきた魔神はどうだったの?

 記録に残ってなかった。魔獣を無尽蔵に生み出してたらしいけど、こいつはそんな気配はない。

 本格的に動き出したら同じことしてくる? もしそうなら、今のうちに叩かないと絶対に勝てない。

 今の私たちには、魔獣を片端から倒す殲滅力がない。

 

 じゃあ焦って攻撃する? それも意味がない。

 でも、このままだと間に合う保証もない。

 どうすればいいの。どうしたらいいの。何が正解なの。

 悔しい。悔しい。悔しい。私がもっと強ければ、問題はもっとシンプルだったのに。

 

 ルミコーリア。私はどうすればいいですか?

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ぱあんと、勢いよく両頬を叩く。

 弱気になるな。私が弱気になれば、誰があれを倒す。

 私が倒すんだ。並ぶんだ、ルミコーリアに。

 

 助けた子が、ぎょっとした様子で見てきてるけど、気にしない。

 申し訳ないけれども、気にしてる余裕がない。

 

 大きく飛びのいて、魔神からさらに距離を置く。

 暴力的なまでの質量で破壊の限りを尽くすそれは、こちらには見向きもしない。

 他の子たちは、懸命に弱点を探るべく攻撃を繰り返してくれている。

 トリムシスタの攻撃で与えられる傷が、段々と浅くなっているのが分かる。

 みんなのおかげで、プリズシスタの分析も進んでいるはず。

 私にできることは、信じて待つことだから。

 

 深く、深く深呼吸をする。

 私の体内の熾り火に、新鮮な空気を吹き込むために。

 

 そっと、左腕を前に。体を半身に。

 精神を集中させる。

 いつもよりも澄んだ色の炎が、指先に灯る。

 魔力の通りがいつもよりもいい気がする。さっきは焦ったけれど、今の私はやっぱり過去最高だ。

 

 プリズシスタの合図を待つ。

 待つことが正解だとわかっていても、心は焦る。

 私の一撃を待つみんなが、動きが速くなってきた魔神に捕まるまいと必死に動き回っている。

 早く、一秒でも早く、こいつを倒してみんなを安心させてあげたい。

 

 でも、私は力不足だから。準備を整えてから戦うんだ。

 ルミコーリアみたいに、全てを正面からねじ伏せられないのだから、選ばないといけない。

 魔神を倒して並ぶつもりだったのに、結果的に差を余計に感じることになっちゃった。

 残念に思う。もう悔しがらない。ないものねだりしても意味がない。

 

 そっと、目を閉じて、心を落ち着かせる。

 

 ……少しだけ、彩花さんの気持ちが分かった気がする。

 憧れだけじゃない。輝きに心を焼かれただけじゃない。

 本当は、誰よりも悔しかったんじゃないかな。どれだけ頑張っても、どれだけ願っても、ルミコーリアは遠い存在だって分かるだけだから。

 自分も並び立ちたかったはずなのに。孤独を、埋めてあげたかったのに。

 理解者であろうとしたからこそ、理解できないことを理解してしまった。悲しい、歪んだ人。

 

「クリムセリア! 頭部分を狙ってください!」

 

 ゆっくりと目を開けば、先ほどまでよりも遥かにクリアな世界が広がっていた。

 指先に灯る炎は広がり、私に力を貸してくれる。

 今私が持てる全てを燃やす。番える右手に、誰よりも熱い思いを込める。

 

 狙うは魔神の頭部分。プリズシスタの魔力感知と、他のみんなの攻撃によって割り出された、魔神の急所。

 動きは大分速くなっている。関係ない。私は必ず射貫ける。

 

「クリム・フレア・コメットッ!」

 

 あの時よりも、どの時よりも、熱い思いを込めて。

 私が思い描いた流星は、正しく魔神の頭蓋を貫いた。

 ゆらりと、青の巨体が揺らめいた。

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