成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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四十九話目 魔法少女は改めたい

 あの日を境に、色々なことが変わった。

 

 魔神と私たちが戦っている裏で、他にもいろいろな事件が起きていた。

 魔法庁の長官の失脚。海外の企業と繋がりが露見して、大変なことになってるみたい。

 辛うじて新橋さんが筆頭になって、内部の統制を取ってるんだって。

 ……ネットとかテレビとかで、魔法庁を非難する声はとてつもなく大きくなってるから、本当に大変そう。

 詳しいことは教えてもらえなかった。巻き込まないようにしてくれてるんだろうね。

 

 他にも、それまで環ちゃんたちを散々妨害していた人たちが、とんと現れなくなったそう。

 魔法庁の混乱でそれどころではない側面はあったけれど、おかげで魔法少女支援策に関しては前向きに動いているみたい。

 結局、誰が妨害していたのか。予測はできるけれども、本当にそうだったのかはわからないまま終わってしまった。

 

 最後に、姿を消した魔法少女たちがいると話題になった。

 主にネット上で騒ぎになってたことだけれど、あの日を境に魔法少女が一部いなくなったみたい。

 最近の魔法少女は国内でも結構な数だから、全員を覚えているわけじゃない。でも、魔法少女アプリを見て、全体を見れば減ったなって思えるぐらいには、いなくなっている。

 公には行方不明扱いになってるけれど、彼女たちの行く先を私は知っている気がする。

 どっちがいいのかと言われると……ううん、わからない。せめて、彼女たちの未来に幸あらんことを祈るばかり。

 

 そして、おそらく全てを裏から動かしてたであろう、彩花も姿を消した。

 あの子がこれらに関わってるって知ったのは、新橋さんから教えてもらった。

 元々は、魔法庁の上層部の腐敗をどうにかするために、外からの手助けとして協力関係にあったみたい。

 あの子の魔法は千里眼。情報を集めるのに、これ以上の人材はいなかったはず。

 

 新橋さんから連絡が取れないか確認してもらったけれど、完全に連絡がつかなくなってしまったって。

 大学にも姿を現さなくなった。というか、調べてたら中退していた。

 私にはあの子が何を考えているのか、さっぱりわからない。けど、あの子は今後もあの子の考えに従って動いていくんだろうって、それだけは分かる。

 

「……一発殴ったまま。それっきりだなんてさぁ」

 

 ぼやいても、誰も答えてはくれない。

 物語の中のように、魔人を倒してはいめでたしめでたしになってくれないのはとてもつらい。

 魔法少女なんて幻想では、現実の世知辛さは打ち消せないらしい。

 

「美羽さん!」

 

 部屋の扉を開けて、芹香ちゃんが入ってきた。

 正確には、今はクリムセリアの姿だ。とはいっても、戦うわけじゃない。

 魔法少女として、やるべきことがあるからだね。

 ここは、環ちゃんの所有してるマンションの一室。別の部屋では、環ちゃんが魔法少女関係の情報をネット配信で発信してる。

 

「ん、芹香ちゃん。そろそろ時間?」

「はい。その、大丈夫ですか?」

 

 思わず苦笑い。

 罪悪感を覚えさせちゃったかな。

 今回、芹香ちゃんは本当に悪い大人にいい様に扱われちゃったからね。

 

「そんな顔しないの。悪いのは彩花なんだから」

「でも……お友達だったんですよね?」

「ん、そうだね。あんな子だけれど……八年間も付き合いがあればね」

 

 友達だと、私は思ってた。向こうはどう思ってたんだろうか。

 わからない。何にもわからなくなっちゃった。

 あの子が残してくれたものもあるけれど、失ってしまったものの方が多い気がする。

 

 でも、後ろばかり見ていられない。

 私はようやく、自分の居場所を見つけたのだから。立ち位置を、理解したのだから。

 

「環ちゃんに任せっぱなしってのも、少し苦しく思ってたから、結果的には良かったよ」

「でも……」

 

 引退について、気にしているのかな。

 確かに、今回の一件で私は引退から大きく遠のいた。

 知名度は上がったし、何よりも魔神をクリムセリアたちでは倒せないんだから、引退を許してはもらえないだろうね。

 ポムムの言うことは、まあ、正しかった。

 結果論、元々私は引退できる土壌になかったわけだ。

 

「それに、悪いことばっかりでもなかったよ」

「……例えば?」

「本当にやりたいことが何か、分かったこととかかな」

 

 不思議そうにしてるね。

 これに関しては、教えてあげるつもりもあんまりない。

 恥ずかしいからね。威厳もない。私はお姉さんでいたいのだ。ただでさえ身長で負けかけてるんだから。

 

 このことを考えると、やっぱり彩花はもどかしかっただろうなぁって思う。

 そばからずっと問いかけてきてたわけなんだから。

 なのに、私はさっぱり気が付く様子もない。うん、かわいそうなことをしたかも。

 悪いとは思わない。

 

「さて、それじゃあ行こうか。出番なんだよね?」

「あっ! そうでした!」

「あはは。あんまり環ちゃんを困らせちゃかわいそうだね」

 

 そっとステッキを取り出して、その場で変身する。

 さて、ここからはルミコーリアとしての仕事だ。

 私が選んだ居場所、私が選んだ役割。その意味を、さっそく果たしに行こう。

 

「あっ、遅いですわよクリムセリア!」

 

 目的の部屋に入ると、なんか色々とごちゃごちゃした機器の前に環ちゃんがいる。

 うっかり壊したら、大変な金額請求されそう。高いんだろうなぁ~、こういうの。

 

「ごめんごめん。連れてきたよ」

「お待たせ。えーと、これはどうすればいいのかな?」

 

 環ちゃんの横に並ぶように、パソコンの前に身を乗り出すと、その瞬間に凄い勢いでチャット欄が流れていく。

 

「わっ」

「こらこら。ルミコーリアは配信慣れしてませんの。驚かせるんじゃありませんわ」

 

 環ちゃんと芹香ちゃんもといクリムセリアは何回か配信したことがあるんだっけ。

 ほえー。何かいっぱい画面に表示されてる。

 絶対に勝手に触ったら怒られる奴だよね。

 

「えー、それで、何を話せばいいのかな?」

「幾つか事前にピックアップしていますわ。配信のコメント欄はこの調子ですので……」

「最初のうちは読める速度だったんですけど、回数重ねるうちに、ですね」

「あ、今のは読めた。『クリムセリアの敬語助かる』だって」

「ちょっと! 普段のことばらさないで!!! 違いますからねルミコーリア!」

 

 クリムセリア、気にしてるんだ。ふふ、可愛いなぁ。

 ちょっとだけ和む。

 

「まずはこちらですわ。『化け物を倒してくれてありがとう』」

「えーと、どういたしまして?」

「それピックアップする意味ありましたか?」

「感謝の声があることを伝えるのは大事ですわよ!!!」

「あはは……」

 

 もしかすると、環ちゃんも気遣ってくれたのかな。

 少しでも元気が出るように。

 コメント欄を眺めていると、少なからず悪し様に行ってくるコメントもある。

 コメントした瞬間に消されてたりするけれど。

 モデレーター? によって削除されましたって出てるけれど、どういう仕組みなんだろう。

 あんまり詳しくないんだよね。

 

「次ですわ。『ルミコーリアはクリムセリアとプリズシスタの師匠って本当ですか』」

「うん。本当だね。残念ながら私の師匠としての能力が足りなくて今回みたいになったんだけれど……」

「そんなことありませんわ!」

「私たちが不甲斐ないだけです! ルミコーリアは悪くありません!」

「あはは、ありがとうね。ともかく、一応師匠をやらせてもらってるよ」

 

 そんな感じで、環ちゃんが選んだ質問は大体が私がどういう魔法少女なのかを伝えるものばかりだった。

 無名でなくなったからこそ、異常性が露になったからこそ、必要になったことだね。

 

 正直なところ、怖がられる可能性も全然あると思ってた。化け物を殺せるのは化け物って言うけれど、クリムセリアたちが手も足も出なかった魔神を倒しちゃったわけだから。しかも、それが放送されてたわけで。

 でも、ありがたいことに、好意的な意見は結構あるみたい。

 それを配信で示すことで、全体の意見がそうであるように錯覚させる。みたいな。

 少し邪悪なことを考えてしまった。

 

「では、次で一旦最後ですわ。『ルミコーリアは今後どういう活動をする予定なのですか』」

 

 この質問だけは、他の質問とは違ってこちら側で用意したものだね。

 他の質問は本当にネット上で募集したものだけれど。

 本当にこの配信で私が発信したかったのは、これについてだから。

 

 少しだけ、呼吸を深くして、今一度落ち着いてから言葉を吐きだし始める。

 

「……今回の一件でわかったように、魔法少女が負けるときも、当然あるんだ」

 

 コメントの流れが少しだけゆっくりになる。

 流れてる内容は、今後への不安であったり、でもルミコーリアが倒しただろと結果論だったり。

 やっぱり、私はこれについて話さなければならないんだ。

 

「今回は私があのデカい魔人を倒した。でもね、私がいなかったら? 私以外の子たちで対応できなかったら? ――私が、死んだら? その時には、どうなるのかな」

 

 必ず私が対応できるわけじゃない。

 現実問題、日本国内どこへでも飛んでいけるわけじゃないんだ。

 新橋さんも言っていた。私の存在を隠匿してた理由は、私へかかる負荷も考慮してたと。

 

「私がいつまでも守れるわけじゃない。次代の魔法少女が必要なんだ」

 

 コメントが一つ流れたのが見えた。『でも、クリムセリアたちは駄目だったじゃん』と。

 その通り。私が教えた二人は、私の代わりにはなれなかった。

 でもさ、私たちは本当にこれが限界なのかな。

 私という存在は、本当に特別なのかな?

 

 自分自身が強いという認知を得たからこそ、私はこの疑問に至ったんだ。

 ひょっとすると、魔法少女はみんな私ぐらい強くなれる素質があるんじゃないかって。

 方法がわからないだけで、ね。

 

「私たちはこれまで、魔法少女という存在についてあまりに無知だった。それもそのはず、誰も知らないんだから」

「――それを、わたくしたちは追求するんですわね」

 

 横から投げかけられた答えに、そっと頷く。

 

「魔力とは何なのか。妖精とは何なのか。魔人とは何なのか。あまりにも、私たちは私たちについて知らなさ過ぎるんだ」

「私たちは、全然これからだってことですよね」

 

 これまた頷く。今度は、画面の向こうに向かって、意識的に語り掛ける。

 

「今後、魔法少女には厳しい時代が来る。私たちは、それに備えたい」

「クリムセリアは、ルミコーリアに従って、魔法少女のさらなる可能性を追求するよ」

「プリズシスタは、ルミコーリアに従って、魔法少女たちの今後のために、基盤を作りますわ」

 

 打ち合わせしてた通りに、二人が合いの手を入れてくれる。

 本当に、できた弟子たちだよ。

 

「どうか、みんなも協力してほしい。私たちは、今後全国を巡ることになると思う。その時に、どうか、魔法少女たちを一緒に支えて欲しいんだ」

 

 この配信に、どれだけの意味があるのかはわからない。

 何の意味もないのかもしれない。

 けれども、流れる多くのコメントを見て、私は静かに、私が魔法少女であることを自覚した。

 これが、私のやるべきことだ。私が居場所を守るために、できることなんだ。

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