成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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五十話目 魔法少女は復帰させたい

 使われていない廃倉庫。ちょっとばかり表には出せない品々を置くのに使われているここに、似つかわしくない齢二十少しの女性が四人。私を除けば、三人。

 夜にこんな場所にいればひと騒ぎ起きそうな面々だけれど、一つの目的のために集まっている。

 全員、私がここに呼んだ。

 

「それで? 私たちを集めてどうしたいっていうの。外患誘致の犯罪者」

「おっと? その情報はもう知れ渡ってるんだ」

「いいや、ニュースにはなってないよ。ただ、()()()が聞いて回ってたのさ。『お前の行方を知らないか』って。そこから考えれば、自然と分かる」

 

 あの子、ね。

 思わず口元が歪んでしまう。そっかそっか、美羽は私の事を聞いて回っているわけだね。

 つまり、政府側も私の動向を把握しきれていない。痕跡を消し切れたかが懸念点だったけれど、それが彼女たちのおかげで晴れたわけだ。

 

 だって、私――ステラフィクスに勝てる魔法少女は、美羽以外にいない。いるはずがない。

 伸びしろだけで見れば、クリムセリアはいいとこ行くかもね。後三年はかかりそうだけれども。

 

「……何ニヤニヤ笑ってるの。相変わらず気持ち悪いわね。”ステラフィクス”」

「いや? 懐かしいなって思ってただけだよ。本当に変わらないね、”クストイーラ”」

 

 魔法少女名でお互いに呼び合う。売り言葉に買い言葉ではあったけれど、望む流れだ。

 そう、彼女たちは三人とも私たちのかつての戦友。魔法少女だった女性だ。

 先ほどから不機嫌な表情で私に攻撃的なのはクストイーラ。最も被害を出さなかった魔法少女、とされている。

 私が魔法少女名で呼び返したことで、余計に不機嫌な顔になっちゃった。可愛い顔が台無しだね。

 

「お前、その呼び方は――」

「双方、一旦そこまで」

 

 今にも襲い掛かってきそうな形相の彼女を制止したのは、想定外な人物だった。

 ここで制止するのは、私の予定では魔法少女名"ルクスペリア"、目立ちたがりの葉山(はやま)だ。実際、いざ止めようと差し出した手が宙をさまよっている。

 そんな様子さえ、こいつは気にしていない。

 

 私が呼びだした三人のうち、二人は来てくれると思っていた。でも、こいつは来るかどうかがさっぱり読めなかった。

 昔からそうだ、宮奈(みやな)――魔法少女名”フェルカリア”の行動は、何一つとしてわからない。

 わかっているのは、『剣』に異常なこだわりを持っているということだけ。

 

 それこそ人を射殺しそうな眼光が、こちらへ向けられる。答えを間違えば、即座に殺す。嘘偽りないと分かる迫力だね。

 

「星乃。お前が理由や目的なく行動する人間でないことを、私たちは知っている」

「……そう思ってない人もそこにいたみたいだけれど?」

「そうやってはぐらかそうとする癖もよく知っている。結論から話せ、私たちの信頼を得たいのならば、な」

 

 ……本当に、こちらのテンポを乱してくれる。

 クストイーラ――(さち)は短気だ。だから、じれさせて話を誘導するつもりだった。

 そうして期待感を上げた方が、私の提案を飲み込みやすくなるとおもったから。

 

 そのお膳立てを、すぐさま薙ぎ払った。

 ていうか相変わらず木刀持ち歩いているのは何? 十五歳の時からずっと持ってるよねそれ。

 

「話す気がないならば私たちは帰る。ついでに、善良な市民として犯罪者の潜伏場所も通報しておくとしよう」

 

 他二人をまったく見ないで総意を語ってるし。

 他二人もこいつには絡まれたくないから様子見に回ってるし。

 ああ、本当に予定が狂う。

 クリムセリアはあんなに素直だったのに。本当にかわいげのない。

 

 まあいい。それならそれで軌道修正してやればいい。

 行き当たりばったりは、私の得意分野だ。

 

「つれないなぁ。じゃあ、本題から入ろうか。」

 

 きっと、今私は誰よりも胡散臭い笑顔を浮かべているのだろうね。彼女たちの表情がそれを教えてくれている。

 それでいい。信じてもらうよりも、疑ってもらった方が都合がいい。

 

「もう一度魔法少女に戻る気はない?」

 

 だって、この言葉に彼女たちは否を唱えられない。

 そういう人物を、選んで呼んだんだから。

 

 三者三様ではありながらも、きちんと驚いてくれている。

 宮奈ですら例外ではない。だって、私の提案は、これまで不可能だと思われてた内容なのだから。

 

「……は? あんた殺されたいの?」

「そうだね。質の悪い冗談はやめて欲しい。いくら、君がまだ魔法少女を続けられている側でも、いや、だからこそいうべきではない冗談だとは思わないかな?」

 

 口早に怒気をぶつけてくるのは可愛いもので、宮奈に至っては今すぐこちらを殺しにかかってきそうな雰囲気を漂わせている。

 同時に、期待している。私が根拠もなく、こんな性質の悪い冗談を言うはずがないと、心のどこかで考えてしまっている。

 表面上は胡散臭い笑みを。それでも、心の底では満足な笑みを浮かべてしまう。

 

「ある日突然魔法少女になって、妖精と一緒に戦って、時間が経てば『もう君には戦う力が残っていない』だなんて妖精に一方的に打ち切られる。ああ、知っているよ。君たちがどれだけ失意に溢れたまま、引退していったのかを」

 

 魔法少女の引退には、二種類ある。

 一つは、魔法少女自身がこれ以上続ける自信がなかったり、続けるのが大変になって自発的にやめるケースだ。妖精たちはこれを了承し、魔法少女は普通の少女へと戻っていく。

 もう一つは、妖精側が唐突にこれ以上は戦わせられないと言い、魔法少女の力を使えなくされるケースだ。

 

 彼女たちは後者のケースだ。私も、後者のケースになるはずだった。

 

「異議を申し立てようにも妖精の姿はもう見えない、声も聞こえない。他の魔法少女に取り次ぎしてしまう? できるはずがない。その情報がどれだけ世の中の魔法少女たちを不安にするか、わからない年頃ではないからね」

 

 当時の事を思い出したのか、彼女たちは苦々しい表情になる。

 そうだ、まだまだ魔法少女を続けたい。続けたかった。

 だって、まだあの一等星を落とせていない。ルミコーリアという、最高級の輝きに並び立てていない。その思いを、私は誰よりも理解してあげられる。

 

「……なら、妖精の斡旋でもしてくれるって言うの? はは、無理よ。あいつらの話の聞かなさはよく知っているから」

「だね。ありもしない希望だ。どうやら、与太話を聞かされに呼ばれたらしい。私はこれで失礼させてもらうよ」

「――まあ、待て」

 

 今にも帰ろうとしていた二人を呼び止めたのは、驚くべきことに私ではなく宮奈だった。

 嬉しそうに、獰猛に、歯を見せて笑っている。狂気すら覚えるその姿だが、私からすれば見慣れた彼女が帰ってきたと確信させてくれる姿だ。

 

「星乃。いや、ステラフィクス。それは、お前がまだ魔法少女として活動できていることと関係しているんだな?」

 

 理解が早い。この戦闘狂は、スイッチが入ると途端にこれだ。

 

「――ご明察。私は、魔法少女のメカニズムをある程度解明した。そして、魔法少女に妖精は必要ないと、断定するに至っている」

「素晴らしい!」

 

 激しい金属音が鳴り響く。何が起きたかと思えば、彼女が振るった木刀が、そばにあったドラム缶を切り裂いていた。

 いや、それ木刀。しかも生身。数年見ない間にさらに人外染みてきてるなこいつ……。

 

「お前のことだ、とんだ条件を出すんだろうが、知ったことじゃあない。私はまだ、剣の先を見られていない。私をもう一度魔法少女にしろ、なんだろうと言うことは聞いてやる」

「……思い切りがいいね。本当にいいのかな?」

「くどい。問答は得意ではない。ならば、私は行動で己を示す」

 

 本当にこちらのペースで話を進めさせてくれない人だ。

 でも、好都合ではある。こういうのは、一人が乗れば自然と流れが生まれる。

 その流れに抗う二人ではなく、抗える内容ですらない。

 なら、答えは一つだ。

 

「……仕方がないわね。私も話にのってあげる」

「もう一度あの輝かしい舞台に戻れるというのならば、是非もない。いいだろう、その代わり、配役には口出しさせておくれよ?」

 

 ……ははっ。本当に、変わらない。

 五年前、どうにかしてルミコーリアを越えようと、切磋琢磨したあの頃から。

 それを、せいぜい利用させてもらうよ。

 彼女という極星が、全てを包み込めるように。

 

「オーケー。じゃあ、今から私たちは共犯者だ。表の世界とはバイバイすることになるけれど、未練はあるかな?」

 

 三人はお互いにお互いの表情を確認し合い――異口同音に発する。

 

「「「ない」」」

 

 ――この時を持って、私たちは新しい組織となった。

 魔法少女の使い方を魔獣や魔人を倒すだけに使う? ノンノン、そんなのナンセンスだ。

 魔法少女という武力は、世界を変えるためにある。

 変えられるだけの力と、素質がある彼女がいるのだから。そうでないとおかしいんだ。

 

「最高の答えだね。それじゃあ、私たちの組織名を発表しよう」

「何それ、本当に必要?」

「必要だよ。だって、私たちの悪行を世に広めるためには、キーワードが必要なんだから」

 

 いまいち納得してなさそうな幸を横目にして、ワクワクしている目立ちたがりとどうでも良さそうな剣狂いもきちんと把握できるように、声を張り上げて告げる。

 

「ピースメーカー。調停者だ。ちょうどいいだろう? 私たちはこれから、この世界を調停する」

 

 さあ、ここから始めよう。

 新しい魔法少女たちの物語を。

 そして、終わるまでの物語を。




こっちに投稿するの忘れてました。申し訳。
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