成人済み魔法少女@引退したい   作:パンデュ郞

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五十二話目 魔法少女は改善したい

「滝崎さん……ですか?」

 

 目の前にいる女性は、はつらつとした方で、一見すると好感を持たせてくれる。

 としても、いきなりすぎて。魔法庁の人間っていうのは、多分間違いない。

 魔法庁で色々やってる時にお姿を拝見したことがある。新橋さんが少し気にかけてるみたいな話をしてた気がする。

 

「はい! 新橋さんから連絡きてないですか?」

「え?」

「事前に連絡として手紙とメールを送っていると新橋さんが仰っていましたけれど……」

 

 え? あっ、ちょっとここ数日携帯まともに見てなかったかも……。

 手紙、手紙? 手紙もアパートの方じゃないだろうし、だとするとあの資料の山の中に……。

 き、気まずい。

 

「……そんなこともあるかもしれないと思って、新橋さんからの連絡事項をお伝えしますね。『えー、まずは魔法庁のあれこれで必要なサポートを提供できておらず誠に申し訳ございません。信用できる職員を派遣しますので、こき使ってやってください』。だ、そうです。酷い人ですよね!」

「ぷっ、ふふっ」

 

 新橋さんの真似をしながら話されたものだから、思わず笑ってしまった。

 言うかどうかはともかくとして、確かに似てた。やっぱり魔法庁の人ってのは信用してよさそうだ。

 

「え、と。美羽、さん」

「ああ、放置してしまってごめんよ。久しぶり、芹香ちゃん」

「う、うぅ……美羽さーん! 会いたかったですぅ!」

 

 よほど寂しかったのか。涙ながらに抱き着かれる。

 本来なら、私の胸に飛び込んでくるっていう形になるはずなんだけれど……ああ、ついに微妙に身長抜かれちゃったなぁ。うん、健やかな成長は喜ぶべきだよね。うん。はい。

 少しだけ胸の奥が涼しくなったけれど。よしよしと背中を撫でてあげる。

 

「大変だったよね。うん、うん。よく頑張ってたよ」

「お仕事はどうでもいいんですが。美羽さんと会えなかったのが寂しくて……」

 

 本当にこの子はどこまでも。私としては、嬉しいけれども。

 今後成長したときの友達関係とかが不安になっちゃうよ。私にべったりで友達関係が疎かになって灰色の青春生活だなんて嫌だからね?

 もっとも、今の調子だと魔法少女業務が忙しすぎて、それ以前の問題に思えるけれど。

 

「申し訳ございません。我々魔法庁が至らないばかりに、クリムセリアやルミコーリアへ負担をかけてしまっていて……」

「滝崎さんが謝ることじゃないですよ。あれは……仕方がないことですから」

 

 不満がないわけではない。

 でも、みんな頑張っているのだ。頑張っているからこそまだ混乱は起きていないし、人々は日常を謳歌できている。

 新橋さんには後でお詫びの連絡入れておこう。

 

「……では、さっそく業務に取り掛からせてもらいますね」

「え?」

「一応、私は『魔法少女の現在の調子、体調管理の実地調査』という名目でここにきております。が、魔法少女の補佐をするのが本来のわたくしたちの務めですので。お手伝いしますよ」

 

 滝崎さんはそう言い切るなり、散らかった書類を拾い集めて、内容に目を通し始めた。

 別に見られて困る内容ではないし、そのうち魔法庁には共有しようと思っていたけれども……いや、読む速度はやっ。

 環ちゃんも目を丸くしちゃってるし。本当に読んでるのか疑わしいぐらいの速読だ。

 

「――はい、大体は分かりました。半年前のあの放送の一件から、魔法に関する情報をとにかく集めていた感じなのですね」

「は、はい」

「では、ちょっと残りは私に任せて頂いてもよろしいですか? 後で内容を分類分けして頻出の内容や別項目と相反する部分があればそういう注記をつけて資料にまとめますので」

 

 言いながら机の一スペースを作り出し、ノートパソコンを取り出して即座に作業に取り掛かってしまう。いや、タイピング速度も速い!

 資料を横目で見ながら、物凄い速度で、何というか、多分整理されて行ってる。パッと見だとよくわからないけれど。

 

「し、しごできですわ……」

「うちに欲しいぐらいの人材ですね。引き抜きかけますか?」

「国の人間を引き抜こうとするんじゃありませんわ!?」

 

 千恵ちゃんの目から見ても凄いらしい。

 それと、そろそろ芹香ちゃんは私から離れて欲しい。流石に苦しくなってきた。

 

「あっ。私の事はお構いなく。今後数日通わせていただくことになると思いますが、今後こちらのまとめ業務は私が引き継がせてもらいますので。――こんなことで、魔法少女の手を煩わせていたら、何のために私たちがいるのか分かりませんからね」

「――ありがとうございます」

「皆様は皆さまにしかできないことを。私たちにできることぐらいは、やらせてください」

 

 正直あの一件で魔法庁へは不信感があった。

 けれど、滝崎さんを見ているとこんな人も所属してくれているんだって気持ちになってくる。

 受け答えが真摯だし、何よりも真っすぐに目を見て話してくれる。尊重の気持ちを感じる。

 

 芹香ちゃんや環ちゃんもそれを感じているみたいで、最初は疑わしく見ていたのを、今はそこで作業しているのを許容してくれているのを感じる。

 ……新橋さんは、そういうのも狙ってたのかな? だ、なんて。

 

「それじゃあ、えーと、滝崎さんに任せて今日は遊びましょう! せっかくの私のお休みですから!」

 

 ようやく私を手放してくれた芹香ちゃん。

 本当にこれまでのうっ憤を晴らすかのように、元気よく声を張り上げている。

 これに答えないのは年長者としてはできないかな。

 

「……わかった。それで、何を――」

 

 しようかと聞こうとしたタイミングで、テロリンと、軽快な通知音が鳴る。

 一つだけなら聞こえなかったであろう音は、複数、別々の場所から鳴り響いていた。

 滝崎さんの表情が変わる。

 

「――気にするなと言った側から、真に申し訳ありません。皆さま、魔法少女用の端末をご確認ください。私のパソコンにも連絡がきました」

 

 言われた通りに、魔法少女用の携帯端末を取り出す。

 他の三人も同様に。

 表示されているのは緊急時を示す画面。これが表示されるのは、よほど強力な魔獣や魔人が現れた時ぐらいだ。

 けれども、今回はそうではないらしい。

 

「各地の魔法少女への危険勧告、ですの……?」

「魔法少女が襲われる事案? いえ、魔法少女に一般人が勝てるはずがありません。訓練されていようが、重火器ですら難しいでしょう」

「セレネシアみたいに裏方の子がってわけじゃなさそうだよね。これ」

 

 三人がそれぞれ表面上の感想を言い合う間に、私は全文を読み終える。

 要約するとこうだ。

 魔法少女が魔獣との交戦中に襲われた。より正確には、巻き込み事故のような状態ではあるが、非正規魔法少女が戦闘中に割って入るような形で登場したらしい。

 この事案は既に三件発生している。

 何よりの問題は――。

 

「“ルクスペリア”、“フェルカリア”、そして“クストイーラ”……?」

「はい。全員、魔法少女を引退したはずの方々です」

 

 魔法少女襲撃犯が、全員公式に引退を発表して引退した子たちであるということ。

 私からすれば、懐かしい名前。かつてともに戦った仲間たち。

 そして、苦悩しながらも魔法少女を辞めていった子たち。

 

「ポムム、妖精たちは何か知らないの」

「わ、わからないポム。少なくとも、僕らの仲間が再契約しただなんて情報は残されてないポムし、そもそも不可能だポム」

 

 呼びかければすぐに現れてくれるポムムは、何も知らない様子。

 なら、心当たりは一つしかない。

 

「半年間何をやってるのかと思ったけれど、動き出したってわけなんだね」

「美羽さん。つまり、あの人なんですか」

「うん、間違いないと思う」

 

 こんなことができるのは。何より、彼女たちを選ぶとしたらあの子しかいない。

 

「彩花が、また動き出したんだ」

 

 今度は何をするつもりなのか。魔法少女が被害を受けたってことは、またろくでもないことなのだと思う。

 止めなければ。

 

「ごめん、芹香ちゃん。せっかくのお休みなんだけれど――」

「はい。大丈夫です。わかっています、私たちは魔法少女なんですから」

 

 ……一刻も早く、こんなことを言わなくていいようにしてあげたい。

 道を切り開くのは、私の役目だ。

 そのために、彩花に会わなければ。

 

「すみません。この場にいる方々ならば大丈夫と自己判断し、情報を共有いたします」

 

 私たちの話を遮るように声を上げた滝崎さんの顔色は真っ青だ。

 思わず、こちらも身構えてしまう。

 

「混乱を避けるために、魔法少女には秘匿されて通達されているようですが――復活した魔法少女の方々と共に、魔人の姿が目撃されております。それも、魔獣を討伐するのに加担していた、と」

「「「――え?」」」

 

 全員の口から、困惑の声が出た。

 魔人が……魔法少女と一緒に行動している?

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