誘拐されたインクサンズ
「おい、馬鹿ども。いい加減その喧嘩をやめろ」
ナイトメアのうんざりした声が闇AUのアジトに響く。
「だってボス!コイツ〜!」
「ボス!ふざけんな!まずはコイツから…!」
まあナイトメアがキレている理由なんて勿論。
緊急会議を開始しようとしたらすぐにマーダーとキラーがいつも通り喧嘩を始めたのだ。
「……オい。本題ハイッてイいka?」
エラーは言いながら糸でマーダーとキラーを拘束しつつジト目でナイトメアを見た。
「ああ、頼む」
「単刀チョく入ニ言ウ。インくが攫ワれ他」
「は?小筆が?」
「……インクがか?」
拘束されているマーダーとキラーは同時にエラーを見た。
「……………オ前ラ本当ハ仲いイ堕ろ…」
エラーは更にジト目を濃くした。
「俺も一部始終を見てたんだが、エラーが詳しく調べていたらしい。エラーの調べから、分かったんだが、holoXっつー秘密結社が攫って行ったらしい」
ナイトメアの言葉にエラーがコクリと頷いた。
「……あ!分かった!戦うの?!」
キラーは顔をほこらばせながら言った。
「…いや、あのボスがインクを取り返す為だけに得体の知れない秘密結社と戦争なんかするか…?裏がありそうだな…」
そんなキラーと正反対にマーダーはナイトメアを訝しげな目で見た。
「ああ、結論から言っちまえばそこと殺りあう気だ」
「やったー!」
キラーは腕を上に上げながら叫んだ。
「でもどうするんだ?向こうの戦力も不明………。ラストサンズでも向こうのアジトに放り込むのか?」
大人しく話を聞いていたホラーはナイトメアに聞いた。
だが、この言葉には全員驚愕に目を見開き、物凄い見幕でホラーを見た。
「…正気か?ホラー。あの色欲野郎をアジトに放つなんて…………流石に同情の予知があるぞ…?」
とマーダー。
「だめだめ!exp入んないじゃん!それにアイツ満足できなかったらボク達襲おうんだよ?!絶対にイヤだ!」
とキラー。
「…ヤめ都ケ…」
とエラー。
「………それでネガティブ徴収もありか…?」
とナイトメア。
「やめてください!誰が事後処理すると思ってるんですか?!俺なんですよ!?絶対に!嫌!絶対に嫌です!だってアイツめちゃくちゃ派手にヤり散らかすんですもん!死ぬほど後処理大変なんですよ?!アレがどれだけハードなプレイで相手を犯すか分からないからそんな事言えるんですよホラー先輩!首は締めるわナカの締まり悪かったら攻撃だってするんです!相手だってめっちゃ叫んでうるさいんですよ!血も精液も…ああもう!あらゆる体液が壁に!天井に!死ぬ程へばりついてるんです!床なんて!全く足の踏み場もないんですよ!ヤられた相手は完全に自失状態!快楽で何にも考えられなくなってるんです!ソレの後処理だって大変だし自失状態から抜け出させるために上書き使って治さないといけないんです!疲れるんです!めちゃくちゃ!しかも満足できないと、背後から隙をつかれて襲われるんです!もう何度犯されたことか…」
クロスが肩を抱いて身を震わせながら言った。
「いや、どうするんだ?って聞いてるんだが…」
ホラーは団員たちのオーバーな反応に少し驚いている。
「…まあしょうがないだろうな。ん?ああ、分かってるよパピルス。expだろ?もうすぐ大量に手に入るから我慢しろ」
マーダーはホラーに言った。
「流石にラストは駄目だ。今回は俺たち闇AUだけで対処する」
「……ふ〜ん、それで?ボス。ボスがそういうことするなんてどうせ裏があるんでしょ?」
キラーは目を細めながらナイトメアを見た。
ナイトメアはニッと頬を吊り上げながら返事を返す。
「ああ、今回のは俺の独断じゃ無い。ポジティブからの依頼だ」
その言葉には、思わず団員全員が驚いた顔を作った。
「本当はアイツからの依頼なんて受けたくはなかったんだが…報酬が美味かったから受けることにした」
「……報酬…だと?一体なんだ?」
マーダーは顎に手を置きながら考える仕草を見せた。
「ああ、今回の依頼の報酬…それは、ポジティブが取り込んだ最後の感情の林檎を俺に譲渡する……という内容だ」
「「「「「?!」」」」」
団員達は目を見開いた。
「おいナイトメア。それは流石に罠なんじゃ…!」
ホラーが汗をかきながら少し大きい声でナイトメアに問った。
「ああ、俺も最初はその線を疑った。だが思考を読んでみるかぎり、アイツは本気らしい」
その言葉にマーダーは少し考える仕草をしてから言った。
「……自分が死んでもインクが戻ってくれば必ず自分を救ってくれる…あのポジティブのことだ。恐らくそう思ってるんじゃないか?」
マーダーがナイトメアの瞳をジッと見つめながら言う。
「確かにな。だが、アイツが妙な計画を立てているとしたら、それは全部俺に筒抜けだ。まあ流石に俺も疑問に思ってな。ここ最近。とはいってもポジティブから依頼を受けてからだが、アイツの動向を探ってた。5日間程な。見る限りアイツ。不眠不休でインクの居場所を探っているらしい。俺に林檎を取られることが分かっているからか、“幸福の力”を余すことなく使ってな」
「…じゃあ?」
「ああ、俺は今回の件でアイツを信じる方針で行くつもりだ。お前等はどう思う?」
ナイトメアは団員達をぐるりと見渡しながら問う。
「…はあ、どうせ拒否権なんて無いんだろ?」
「ね〜。今だけは幻覚野郎にさんせー」
「飯奢ってくれよ?それでチャラだ」
「世界ノ墓イに今日リョクしてクれルなラ…」
「キラー先輩に同意です」
マーダー、キラー、ホラー、エラー、クロスと、次々に言葉を紡ぐ団員達を見て、ナイトメアはニヤッと嗤うと、言った。
「じゃあ早速準備しろ。進行は半日後だ。急げ」
それを聞いた瞬間、団員達は弾かれた様に走り出した。
それから数時間後。闇AUのアジトは活気に満ちていた。
「ボス!ボス!!早く行こ!?もう行っていい?!」
キラーはさっさと戦いたい様で、先程からナイトメアに頻りに話しかけ。
「ああ、分かってるよパピルス。expだろ?…っていってぇ?!つねんなパピルス!」
とマーダーはファントムパピルスと話し。
「……!…………!」
ホラーは目を輝かせながら目の前に用意された食事の山を、まるで魚が水を啜るが如く、物凄い勢いで平らげていき。
「………………」
エラーはソファで一人裁縫に勤しみ。
「…ここを…こうして……ん?代わりたいって?せめて俺がダウンしたらにしてくれ」
クロスは双剣の手入れをしながらXキャラと会話する。
「……あと3時間くらい時間あるんだが…まあいい。行くか。…ああそうだ進行の前にポジティブんとこ行くからな」
ナイトメアは分かりきっていた様な表情でアジトのドアを開けた。
さて、場は変わってここはholoXのアジト。
闇AUが奪還を計画するインクサンズは大きな檻の中に放り込まれていた。
「ぅへぇ…めんどくさいな…この檻なんか対策されてるんだよねぇ……インクじゃ抜けらんないな…」
インクは、自らの大筆を手に取りながら顔を顰めつつ言った。
「ふっふっふ…貴方のような存在でもこよの科学力には敵わなかったみたいですね!」
ピンクの髪が特徴的な犬耳と尻尾を生やした少女がふふふ…と不敵に笑いながら檻の外からインクを眺めていた。
彼女はholoXの【研究部門代表】博衣こより。
インクを閉じ込めている檻は、彼女が自らの持てる科学力の全てをつぎ込み、文字通り心血を注ぎ作り上げた自慢の逸品だ。
普通に抜けられると思って興味本位に捕まったのは間違いだったな…とインクは頭を掻いた。
どうやって捕まったのか説明すると、まずルイのホークアイで動向を探られ、光AUアジトの自室にこよりの作った超強力催眠薬を放り込まれたのだ。微睡む意識の中戦おうとしたのだが、体が思い通りに動かず、どうせ抜けられるだろうしいっかぁ〜…と思い寝てしまったところこうなったのだ。
言ってしまえばインクが悪い。
「それで?結局どうするんでござるか?今すぐにでも空間転移能力の抽出するんでござるか?」
椅子に腰掛けた少女がこよりに聞いた。
彼女は【戦闘斥候部門代表】風真いろは。
インクが抵抗した時の為に呼ばれていた雇われの用心棒だ。
「いえ、一旦は採取したインクの解析に努めます。ただ案外時間はかかりそうですけどね」
小瓶の中に詰められた赤いインクをちゃぽちゃぽと揺らしながらこよりは言った。
「…そんなの調べても何も出ないと思うよ。だってそれ僕の感情維持するためのインクだし」
インクは檻の外の地面に放られていた小瓶が収納されたインクショルダーを手を伸ばして回収しながら言った。
「まあでもさ。なんにせよ。覚悟したほうがいいよ」
インクは小瓶を片手に興奮した様子のこよりに言った。
「?どういうことですか?」
「うん?いや、そのままの意味だよ。多分もうそろそろかな。全く…5日も待たせるなんて……ナイトメアも嫌味な骨だねぇ。流石はサンズなだけあるかな!」
インクは両手を頭の横に持ってきて、やれやれ…と頭を振った。
「……こよちゃん。一応……一応。総帥とクロちゃん。あとルイ姉呼び戻すでござる。至急」
「ん、分かったよ。なんとなく嫌な予感もするしね」
こよりはいろはの命令に頷くと、ポケットから取り出したケータイで連絡するのだった。
「よう、ポジティブ。来てやったぞ。さっさと情報寄越せ」
光AUのアジトの玄関口にナイトメアは来ていた。
「ああ、うん。兄弟。これだよ。持ってって」
若干やつれた感があるドリームは、声に応じて2階から現れると、持っていた資料をドサッと音を立てながらナイトメアの腕の中の置いた。
「……………………………………なるほどな。大体は把握した」
ナイトメアは今渡された資料をざっと読み込み、資料を閉じた。
そのまま資料を触手に絡ませ、玄関奥にあるリビングの机の上に放ると、玄関の方を向いた。
「で?相手のアジトは何処だ?資料には書いてなかったから口頭で…ってことだろ?さっさと吐け」
「うん、場所は…此処だね」
ドリームは脳内にアジトのある世界と場所を思い浮かべた。
その瞬間、ナイトメアは顔を顰めた。
「…なに俺にいちいち読心使わせてるんだ?俺の手を煩わせるな馬鹿が」
ナイトメアは吐き捨てる様に言葉を溢した。
そのままナイトメアはドアの方向に向くと、
「行ってくる。…まあ塗料野郎は取り返してやるから、残り僅かな余生を堪能してるんだな」
と言いながらナイトメアはケラケラと笑いながら玄関から出ていった。
「…それで?急に呼び戻された訳だけど…なんかあったの?」
数分後。買い出しに出ていた【総帥】ラプラス・ダークネスと【暗殺部門代表】沙花叉クロヱ。それと情報収集に出ていた【大幹部】鷹嶺ルイがアジトに帰ってきていた。
それと…。
「…え、なんでシオンまで…?」
散歩中にルイに発見されてしまい、なぜか連れてこられたシオンも一緒だ。
「ああ、理由は後で話すから〜」
とルイはニコニコしながら紫咲に言う。
沙花叉が視界の端で目を輝かせて鼻息を荒くしているのを見て、シオンはブルっと肩を揺らす。
「あ〜…それでさ。なんで呼び戻されたか聞いていい?」
ラプラスは、沙花叉を蔑むような目で見てからこよりに話を振った。
「ああ、それがですね。先日捕まえたそこの方が何やら意味深なことを言ったんですよ」
「意味深〜?」
ルイに叩かれて漸く現実に帰ってきた沙花叉が首をコテンッと傾けながらこよりを見た。
「はい。先程、“多分もうそろそろかな”と言ったんですよ」
「……多分もうそろそろ?」
【総帥】ラプラス・ダークネスもインクの発言に対してオウム返しに聞いた。
「…恐らくもうそろそろ仲間が来る…ってことなんじゃないんでござるか?」
「まあ必然的に考えてそれしかないだろうね」
いろはとルイが言う。
「それで、その後に、名前の様に”ナイトメア“と言ったんです」
「……ナイトメア…悪夢。多分…っていうかここまでのを踏まえて仲間の名前って考えるのが妥当だろうな」
ラプラスが腕を組みながら言う。
すると、突然彼女等の背後から声がかかった。
「うん、そうだね。ナイトメアは名前で合ってるよ。でも仲間ってのはちょっと…いや、全然違うねむしろ敵対関係にあるよ。どんな世界線。どんな場所。いかなる状況においても。ね」
檻に入れられているインクが檻に寄りかかりながら言った。
「…仲間じゃない…?どういうことでござるか?」
いろはが問う。
「……僕が入ってるのは光AU。ナイトメアは、ナイトメアをボスとして結成されている裏組織。通称“闇AU”のボスだよ。僕達とナイトメア達は敵対関係にあるんだよね。……馬鹿でも分かるように言うと、僕とナイトメアは所属しているチームが違うから敵対しているのだー」
インクが何処からか取り出した黒縁メガネを掛け、どこからか現れた壁掛けのホワイトボードにこれまたどこかから現れたペンで図を描きながら言った。
「じゃあどうして敵対関係にある組織のボスがお前の救出に来てるの?」
沙花叉はインクの方に視線を向けながら問う。
「…多分ドリームだね。僕の仲間だよ。あの子は優しいからなぁ…まあ僕があの子って言えるような年齢じゃ無いんだけど………多分自分の命を代償に僕を助けてくれって言ったんだろうね」
インクはインクショルダーに収納されていた小筆でペン回しをしながら言う。
「……つまり?」
ルイがインクを片目で睨みながら聞く。
「……無論、ドリームから依頼され以上、ナイトメア達闇AUは僕の救出にくるだろうね。…それでなんだけど、もしも…いや、君たちはナイトメア達と殺りあうことになる。絶対に。だから…うん。死ぬ覚悟をした方がいいよ」
瞬間、ドパンッ!と発砲音がした。
インクは刹那のスピードで反応し、大筆でもってガギャンッ!と音を立てながら跳ね返す。
と、同時に全員がその音の音源を見た。
ルイだった。
「全く…血気盛んだなぁ…これだから最近の若い子は…」
やれやれ、とインクが頭を振る。
シュゥゥゥゥ…と煙が上がる銃を持ったルイは、ツカツカと音を立てながらインクに歩み寄ると、檻の中に居るインクの顔面を掴み、ガンッと音を立てながら檻にぶつける。
「…死ぬ覚悟?お前は私達が死ぬと思ってるのか?」
インクは何でもないかの様な表情で、ルイの手から逃れるためにショートカットをする。
無論、檻のせいで檻の外には逃れられない為、檻の中にではあるが。
「思ってるよ?君たちは…甘く見すぎてる。ナイトメア率いる……闇AUを。闇AUの…残虐性を」
インクは言葉を紡ぐ。
「向こうと何回殺し合ったと思ってるの?こっち…光AUは人数不足なんだよ。本当に。向こうは6人に対してこっちは3人…戦うたびにほぼ全員意識不明の重症……それの矛先が今君たちに向けられてるんだよ。意味。分かるかな?生半可な覚悟と実力じゃ……簡単に殺されちゃうか…死にたくなる程の辱めを受けて終わるだろうね」
インクはケラケラと笑いながら言う。
「あはは!面白いね!僕を攫って先手を取ったつもりだったかい?駄目だよ。油断しちゃ」
インクが言った瞬間、アジトの地面に大量のインクを混ぜた様な綺麗なマーブル模様の円が浮かび上がる。
「?!」
「ちょっ!?何これぇっ!」
「ま、まだこんな能力を隠し持ってただなんて…!」
「はぁっ?!ねぇ待って聞いてないんだけど?!」
「いやぁぁあああ!」
「糞骨ぇ!」
「あっはっは!窮鼠猫を噛むって言葉知ってる?!」
ラプラス。沙花叉。こより。シオン、いろは、ルイの順番で声を上げながらマーブル模様の中に落下して行くのを見て、インクはケラケラと笑う。
そしてインクは大筆を地面に放ると、天を仰いだ。
「膳立てはしたよ。ナイトメア」
インクの声が空になったアジトに響いた。